りん×くう! 11/火焔猫燐
2010.05.10 Monday | category:東方SS(お燐×おくう)
ひどく寂しい場所だ、と橋の上でお燐は思う。
地上と地底を繋ぐ縦穴の下、細い川に架かる橋の上。
旧都の灯りも、地上の光も、ここからはあまりにも遠い。
どこにも辿り着けない、どこにも居場所の無い、忌み嫌われた――。
地上の光を見上げて、お燐は息をつく。
――誰かが、この橋の上にいたような、そんな気がした。
だけどそれが誰だったのかは、お燐には思い出せなかった。
「地上、か――」
自分の行き場など、果たしてどこにあるだろう。
地霊殿には、もう居られないのだ。親友を傷つけ、主に牙を剥いた。地底は狭い。地霊殿に居られないということは、地底には居られないということだ。
だけれど――地上にも、自分の居場所などあるのだろうか。
火焔猫。地獄の炎の中に生きる火車。それが自分だ。
それが、地獄に居られないのならば――消えてしまうのと、変わらない。
「あたいは……」
唇を噛んで、お燐は首を振る。
消えてしまうことすらも出来ず、こうしてひとりで、光を見上げているしかない自分。
いっそ、誰からも好かれなければ、誰も好きにならなければ。
ただひとりきりで、食って眠るだけの、獣の生き方を続けていれば――。
「……おく、う」
だけど自分は、彼女と出会ってしまった。
天真爛漫な地獄鴉に。彼女の無邪気な笑顔に、恋をしてしまった。
地獄に生きる者に与えられる罪は、罰は――地獄で苦しみ続けることだろうか?
それとも、地獄にすら居場所を失うことだろうか。
「……?」
と、不意に、そばを誰かが通り過ぎたような気がして、お燐は振り返った。
だが、そこには誰の姿もない。ただ、地底の冷たい風が吹き抜けているだけだ。
気のせいか? いや、誰かの気配がさっき、確かに――。
橋の上、誰かが、ここにいた。
――それは、誰だっただろう?
ため息をついて、軽い頭痛を堪えるようにお燐は目元を覆った。
ここに居続けたって、どうしようもない。ここはまだ地底だ。主やおくうが、自分を探しに来ないとも限らない。……そのとき、もうふたりに合わせる顔など無いのだから。
お燐は地を蹴り、縦穴へその身を躍らせた。
地上から吹き下ろしてくる冷たい風を切って、お燐は飛ぶ。
このまま――このまま誰も知らない場所へ消えてしまえればいいのに。
そんなことを、願いながら。
地上はあの日と変わらず、真っ白な雪に覆われていた。
けれど今は、あのとき自分の傍らではしゃいでいた、彼女の姿はない。
凛と凍りつく蒼天の下、静けさを吸い込む雪を踏みしめて、お燐はあてもなく歩く。
吐く息は白く、雪を踏む足は冷たい。
お燐の足跡だけが、純白の絨毯に跡を残して、消えることもなくその足取りを追いかける。
そうして――不意に顔を上げれば、あの建物が見えていた。
博麗神社。いつか、増長していたおくうを懲らしめたあの巫女の住む場所。
――自分は何にすがろうとしているのだろう。
そう自嘲しながらも、お燐はそちらへ向かう足を止めはしなかった。
いっそ、あの巫女に退治して――殺してもらえれば、楽になれるのかもしれない。
そんなことを思いながら見上げた視界に、樹氷がやけに眩く光を反射していた。
◇
主から与えられた仕事は、灼熱地獄の火力と、そこに封じられた怨霊の管理だった。
仕事とはいっても、やるべきことは多くない。火力が強まれば天窓を開けて熱を逃がし、弱まれば死体を投げ込んで燃料にする。あとは燃えさかる炎を見守っているだけでいい。怨霊の管理も同様で、基本的に怨霊――要するに灼熱地獄に焼かれた亡者の魂だが、こいつらは灼熱地獄の一角に結界を張って、その中に封じ込んでいる。あとはその結界が緩んだりほつれたりしていないか見張るだけの、これも単純な仕事だった。
火力調節は空、死体回収と怨霊の管理はお燐という分担になったのは必然の成り行きだった。空を外にひとりで出歩かせたら何をしでかすか解らないし、結界の修復だってできっこない。灼熱地獄の中で大人しくしていてもらえる方が、お燐も安心だった。
――なのだけれども。
『……あのさ、おくう』
はっし、とスカートを掴む空を、お燐は肩を竦めて振り返る。
『放してくんなきゃ、あたい外に出られないじゃん』
肩を竦めてみせるけれど、空はどこか不安げにお燐のスカートを掴んだまま放さない。
『別に、おくうを置いてどっかに行くわけじゃないんだからさ』
『ほんとに?』
『そうそう、ちょちょいと死体を萃めに行ってくるだけだから』
そう言い聞かせても、空は『うにゅ』と眉を寄せるばかりで、お燐を放そうとはしなかった。困り切ってお燐は、空の手を取って向き直る。
『死体を萃めたら、すぐ戻ってくるから、おくうはおくうの仕事して、待っててよ』
『すぐって、どのくらい、すぐ?』
『……そう言われてもなぁ』
頭を掻く。お燐を見つめる空の顔は、何にそんなに怯えているのか、不安に満ちている。
『あのさ、寂しいなら、さとり様にここに居てもらおうか?』
これは名案、とお燐は手を叩くけれど、空はまたふるふると首を横に振った。
『お燐じゃなきゃ、やだ』
『ちょ、おくう――』
そんなことを言われてしがみつかれ、お燐は思わず赤面した。
ため息をひとつついて、空の長い黒髪を撫でる。さらさらとした手触りが、指に心地良い。
とくん、とくんと伝わる空の鼓動に、お燐は目を細める。
――灼熱地獄が棄てられたとき。自分たちがこの地獄から見捨てられたあの時間。
ほとんどの火焔猫や地獄鴉が姿を消していく中、今の主に拾われるまで生きていられたのは、きっとこの温もりが、いつもそばにあったからだった。
空を残しては死ねない。空をひとりにしてしまうわけにはいかない。
慢性的な空腹に身体が弱っていく中で、それだけがお燐を支えていたのだ。
そして――空もあるいは、一緒だったのかもしれない。
『……おくう』
その頬に手を添えて、お燐は目の前の温もりに微笑みかけた。
『大丈夫だよ。あたいはおくうのそばにいる』
『……うにゅ』
『あたいは、おくうの友達だから。ちゃんとおくうのところに、帰ってくるよ』
言い聞かせるようにそう囁くと、空は不思議そうに首をひとつ傾げた。
『ともだち?』
『――ああ、友達だよ。おくうは、あたいの』
聞き返された言葉に、お燐は頷く。――友達。そう、友達だ。
おくうと一緒にいたい。おくうが大切だ。それは確かな、お燐の中の真実。
目の前のこの地獄鴉の少女は、紛れもなくお燐の大切な、友達だった。
『ともだちって、なに?』
――だから、その言葉にお燐は盛大につんのめった。
馬鹿だとは常々思っているけれど、本当に空には色々な意味で驚かされる。
『友達っていうのは、さ』
『うにゅ』
――友達っていうのは、どういうものだろう?
ふと、お燐は考える。友達、という言葉。何気なく口にしたその単語。
だけれど、その意味を改めて問われれば、――空に解るように説明するには、何と答えるべきなのだろう。今の自分の気持ちは、どんな風に説明すればいいのだろう?
目の前にある、空のあどけない顔を見つめる。
この子に、自分がしてあげられること。してあげたいこと――友達として。
『……寂しいときとか、悲しいときに、そばにいてくれる誰かのことだよ』
ああ、そうだ。
自分が弱っていたとき、彼女はそばにいて、あたためてくれたから。
空が寂しいとき、悲しいときに、今度は自分がそばにいてあげたいんだ。
『さみしいときとか、かなしいとき……』
『そうだよ。――だから、おくうがどうしても寂しくなったり、悲しくなったりしたら、あたいのこと呼んでくれれば、地底のどこに居たってすぐ戻ってくるよ』
『ほんとに?』
『ああ、ほんと。約束するよ』
小指を差し出す。おくうがきょとんと見つめる。ああ、指切りも知らないか、空は。
『指切り。小指をほら、こうやって――指切りげんまん、嘘ついたら針千本のます』
空の小指を、自分の小指と絡める。空は目をしばたたかせた。
『はりせんぼん?』
『そう、針千本』
『いたそう……』
『痛いよそりゃ。だから、嘘はなし。あたいは出掛けてても、いつでもおくうのこと考えてるし、おくうが呼べばすぐ帰ってくる。おくうが寂しいとき、悲しいときは絶対、おくうのそばにいる。――友達だから、ね』
――ああ、きっと、この瞬間だった。
自分の中で、本当の意味で、霊烏路空という少女が、かけがえのない存在になったのは。
だとすれば、そのときにはもう、自分は嘘をついていたのかもしれない。
自分のこの気持ちを、空に『友達』という言葉で教えたけれど。
きっと――きっと、その感情は、このときには既に、恋になってしまっていたのだ。
空のそばにいたい。空を守りたい。この地獄の、辛いことや悲しいことの全てから。
そうして――。
『うんっ』
空は、満面の笑みで頷いた。
『――指切った』
絡まっていた小指が、離れた。
この笑顔を、ずっと、ずっと見続けていたかった。
空が自分に向けてくれる、曇りのない笑顔を。
それだけが――火焔猫燐という存在が、ここに在り続ける意義だったのだ。
◇
「気がついたかい?」
そんな声と、酒臭い匂いの吐息に、お燐は瞼を薄く開いた。
ぼやけた視界に、赤ら顔の笑みが映る。頭には大きな二本の角。星熊勇儀? ――いや違う。勇儀の角は額の一本だ。二本の角の鬼――地底でいつか、見た記憶が……。
それに、この声はどこかで聴いた覚えがある。それはいつだったか――確か、
「……伊吹萃香?」
「うん? お前さんに地底で会ったとき、名乗ったっけね?」
何度か瞬きすると、視界が輪郭を取り戻す。どこかの和室に敷かれた布団の上に、お燐は寝かされていた。そしてその傍らで、小さな鬼が赤ら顔で杯を傾けている。
その顔は、お燐にも覚えがあった。伊吹萃香。かつて星熊勇儀とともに地上から地底へ移り住んだ鬼たちのひとりで、勇儀と並ぶ実力者だった。ただ、積極的に地底をまとめていた勇儀とは違って、萃香は旧都の運営には関わらずにぶらぶらしていたはずだ。そうして何年か前に、そのままふらりと地底から姿を消した、そう聞いている。
萃香が博麗神社に身を寄せていることは、神社のあたりをうろついているうちに見かけて知っていた。――ということは、ここは博麗神社か。どうやら神社にたどり着いたところで、意識を失ったらしい。お燐は何度か首を振る。
「あんたは地底の有名人じゃないさ」
「もう地底は棄てた身の上なんだけどねえ」
肩を竦める萃香に、身を起こしてお燐は向き直る。
「あたいを拾ってくれたの?」
「境内で行き倒れてたからね。そのままにしとくのも気分が悪いからさ」
「――ありがとね」
「感謝されるようなことじゃないさ」
呑むかい? と杯を差し出された。そんな気分でもないので丁重にお断りしておく。
「あの巫女のお姉さんは?」
「霊夢なら出掛けてるよ。レティと一緒に人里で買い物さ」
レティ。あの冬妖怪だ。巫女――博麗霊夢の、恋人の。
そのことを思って、お燐は目の前の鬼に目を細める。
伊吹萃香は、どうしてこの博麗神社に身を寄せているのだろう。霊夢とレティ、ふたりが恋人同士であるなら、関係はそこで完結している。伊吹萃香がそこに入り込む余地はないはずではないか?
恋人同士の暮らす場所に、ひとり加わる居候。その三角形は、何かいびつに思える。
「なんだい?」
「あ、いや――」
お燐の視線に気付いたか、萃香が軽く眉を寄せて振り返る。お燐は慌てて首を振った。
萃香は相変わらず、ひとりで杯を傾け続けている。お燐の存在など特に意識していないようだった。赤らんだ横顔は笑みを浮かべているけれど、その姿はどこか――寂しげに見えて、お燐は目を細める。
仲間の、勇儀のいる地底を棄てて、地上に移り住んだ伊吹萃香。
萃香に、地底を棄てさせるだけの何かが地上にあったのだとしたら、それは彼女が身を寄せているこの博麗神社――即ち、博麗霊夢ではないか?
しかし、だとすれば。
「……あのさ、つかぬことを聞くけど」
「うん?」
下衆の勘ぐりだという自覚はある。けれど、聞かずにはいられなかった。
自分の想像通りだとすれば、彼女はどうして、そんな辛い立ち位置に、自身を置くのか。
伊吹萃香がこの博麗神社に身を寄せているその理由、それは――。
「あんたが地底を棄てたのって――あの巫女のお姉さんのため?」
杯に酒を注ぐ萃香の手が、止まった。
「なにさ、ぶしつけに」
振り向くことなく、萃香は呟くようにそう聞き返す。
図星なのだ、とお燐は悟った。伊吹萃香が、仲間のいる地底を棄てて地上に出て来たのは、ただ――あの博麗霊夢のためだ。そう、いつか星熊勇儀が――のために旧都を、
勇儀が? 勇儀が旧都を……どうしたって?
不意に頭痛を覚え、お燐は顔をしかめる。何だ。何か――何かを忘れている気がする。
星熊勇儀が、そう、誰かのために――だけど、それは一体、誰のためだった?
解らない、解らないけれど――。
「呑みなよ」
不意に萃香が、どこからかもうひとつ杯を取り出し、酒を注いでお燐に差し出す。
「いや、あたいは――」
「いいから呑みなって。……素面で話すようなことじゃないさ」
そっちはいつだって酔っぱらっているだろう、という反駁を飲みこんで、お燐は杯を受け取ると喉に注ぎこんだ。アルコールの熱が、灼けるように身体の中を通り過ぎていく。
「あの怨霊騒ぎの主犯、お前さんだろう?」
「……そうだけど」
「暇潰し以外の目的で異変を起こすなんて、健気な話だね」
――どうしてこう、周りの連中は自分のことをこうも見透かしているのだろう。
そんなに自分は分かりやすいのだろうか、とお燐はため息をつきたくなる。
「あたいの勝手じゃないさ、そんなのは」
「全くだ。――ああ、全くね」
お燐の杯に酒を注ぎ足して、萃香は赤ら顔で笑ってみせる。
「――辛くないの?」
その笑顔が、どこか痛々しく見えて、お燐は思わず、そう口にしていた。
刹那、萃香の笑みが微かに引きつり――その声が、暗く沈む。
「何が、だい?」
「だって、あの巫女のお姉さん――冬妖怪のお姉さんと」
そう、伊吹萃香が地底を棄てたのが、博麗霊夢のためだったのだとしたら。
今、この博麗神社に、レティ・ホワイトロックが住み着いていること。
そのレティが、霊夢の恋人という立場にいることは――萃香にとっては。
「何を、馬鹿なこと言ってんのさ」
萃香は笑った。くるりとお燐に背を向けて、顔を見せずに笑っていた。
「鬼が――人間を好きになんか、なるわけないじゃないか」
嘘だ。咄嗟にお燐はそう悟って、萃香の背中に目を細めた。
鬼は、嘘を何よりも嫌う生き物ではなかったのか?
だけど、鬼である萃香の今の言葉は――明らかに、嘘だ。
そうでなければ、その背中がこんなに、寂しげであるはずがない。
伊吹萃香は、博麗霊夢が好きだった。
けれど、博麗霊夢は、レティ・ホワイトロックと恋に落ちた。
霊夢が萃香の気持ちに応えなかったのか、それとも萃香が伝えられなかったのか――おそらく後者だろう。前者なら、霊夢の方も相応に気まずいはずなのだ。
だとすれば、ここにいるのは。
伝え損ねた宙ぶらりんの想いを抱えたまま、あったはずの居場所にしがみつく鬼。
――気持ちが伝わらない。
好きだと、どんなに想っても、想う相手に心が届かない。
恋をした相手は、別の誰かを見つめているから。
それが解っていて、けれどその想いを棄てられないまま。
届かない、言えない想いを抱えて、その相手のそばに居続けるという。
恋をした相手が、自分以外の誰かと好き会う様を見続けるという。
それは――地獄ではないのか?
灼熱の炎に身を焼かれるような、苦しみではないのか?
解らない。自分に、伊吹萃香の気持ちも考えも、解るはずがない。
けれど――そんな苦しみを抱えても、恋をした相手から離れられないのが、罰ならば。
恋をしてしまうということは、どれだけ罪深いというのだろう?
「……なんだい、その顔。同情でもしてるつもりかい? 間抜けな鬼にさ」
不意に、萃香がこちらを振り向いて。――その赤ら顔に、獰猛な笑みを浮かべた。
「そんなもんは要らないよ。――その首、へし折ってやろうか?」
凶暴な声に、お燐は慌てて首を振る。
萃香はすぐに、ふっと相好を崩し、またぐびりと杯を傾けた。
「ほれ、ゆで卵もつまみにどうだい?」
ごそごそと懐から取り出した卵を、萃香はお燐に向けて放る。
受け取って、ざらりとした殻に包まれた卵を見下ろし、お燐は息を吐き出した。
瞼を閉じると、幸せそうにゆで卵を頬張っていた空の笑顔が浮かんで――。
自分は、どうすべきだというのだろう?
あのまま、伝わらない空への想いを抱えて、苦しみながら暮らしていくべきだったのか?
だけど、今目の前にいる鬼のような生き方を出来るほど――自分は強くない。
そう、強くないから、汚してしまった。壊してしまった。大切なものを。
ただ、欲望に身を任せて、おくうの好意を踏みにじって――。
「ただいま」
「ただいま〜」
声がして、萃香が顔を上げた。巫女と冬妖怪の声だった。
その声に、鬼の表情がほころんだのを、お燐は見てしまう。
――それでも、たとえ伝わらないと知っていっても、伊吹萃香は博麗霊夢が好きなのだ。
どうしようもないほどに。その気持ちを消し去ることなど、出来はしないのだ。
お燐が、こうして逃げ出してきた今も――空のことばかり、考えているように。
好きになったことが間違いだったのだとしても。
好きになってしまった、この心だけは、どうしようもない真実なのだ。
――だからこそ、伊吹萃香も自分も、絶望するしかないのかもしれない。
伊吹萃香は自分を傷つけて、火焔猫燐は大切なものを傷つけて。
それでも、好きでいることを止められないという――どうしようもない、絶望。
「……なんだ、あんたまた来てたの?」
不意に襖ががらりと開き、博麗霊夢がそこに佇んでいた。
お燐は顔を上げる。萃香が開いた襖から、外に出て行くのが見えた。
「ゆで卵ならあげるから、さっさと地底に帰りなさいよ」
そう言い放つ霊夢の顔を見上げて、お燐は思う。
――この巫女は、知っているのだろうか?
伊吹萃香が自分を好いていること。その絶望的な想いを抱えてここにいることを。
知っていた上で、レティと好き合っているのなら――それはあまりにも、残酷だ。
この人間は、それほど残酷になれる存在だったのだろうか?
それもまた――恋という感情の生む罪深さなのだろうか?
「……何よ?」
見つめるお燐の視線に、霊夢は訝しげに眉を寄せる。
お燐はただ、ゆっくりと首を振って――口を開いた。
「お姉さん――あの冬妖怪さんのこと、好きなのかい?」
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