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ゆう×ぱる! 16 / 「星熊勇儀の応談」
 ちゅっちゅばかりもしていられないとか何とかそういう話。









 扉を誰かが叩く物音で、勇儀は目を覚ました。
 瞼を擦り、それから身体を起こそうとして、左腕にかかる重みに気付く。
 すぅ、とパルスィが、自分の腕を枕に静かな寝息をたてていた、
 その柔らかな髪を撫でて、それから再びの物音に勇儀は振り向く。
 こんなところに来客か? さりとて、このままでは起きあがれないし――。
「……んぅ」
 パルスィが身じろいで、薄くその瞼を開けた。勇儀は苦笑して、「おはよう」と囁く。
「ゆうぎ……?」
「すまないけど、ちょっと来客のようだね。見てくるよ」
 勇儀が起きあがろうとすると、パルスィがぎゅっとその服を掴んだ。
「誰も来ないわよ、こんなところ……」
「いや、でもね」
 ――ドンドン、と扉を叩く音が強まった。ほらね、と勇儀がその音の方を指し示すと、パルスィは訝しげに目を細める。
「勇儀」
「ちょいと見てくるだけさ。すぐ戻るよ」
「……解ったわよ」
 頬を膨らませたパルスィの額にひとつキスをして、勇儀は寝床から這い出した。
 寝癖がついたままだったが、構っている余裕もない。足早にあばら屋の扉を開く。
「はいよ、どちらさんだい?」
 声をあげた勇儀は、次の瞬間、そこにあった姿に目を見開いた。
「や、姐さん」
 人なつっこい笑みを浮かべて片手を上げたのは、顔なじみの土蜘蛛。黒谷ヤマメだ。
「ヤマメ? どうしたんだい、こんなところに」
「いや、ちょいとね――」
 珍しく歯切れの悪い調子で、ヤマメは勇儀を見上げて目を細める。
「姐さんが、旧都を出ていったなんて聞いたもんだからさ」
「――――」
 ヤマメの言葉に、勇儀は眉を寄せる。
 確かに、あれ以来数日、旧都には戻っていない。パルスィが離してくれなかったというのもあるし、勇儀自身もパルスィと離れがたかったのは事実だ。――それに、パルスィに『旧都の暮らしも棄ててやるさ』と言ったのは自分だ。しかし、
「それで、ちょいと様子を見に来たわけだよ」
「……そうかい。いやすまない、心配をかけちまったかね」
「ううん、元気そうで一安心だよ」
 頭を掻く勇儀に、ヤマメは笑う。けれどその笑みは、どこか上滑りしていた。
 ――狂骨の言葉を思い出す。旧都に橋姫を連れ戻さないでくれ、と懇願した狂骨。その翌日に星熊勇儀が旧都から姿を消したとなれば、自分がパルスィのところに転がり込んでいるのはおそらく、旧都の上役の間では既に周知なのだろう。
「勇儀?」
 声。振り向くと、パルスィが目を細めてこちらを覗いていた。
 ――その姿を認めて、ヤマメの表情がさっと険しくなる。
「ねえ、姐さん」
「うん?」
「それで、いつ頃旧都に戻ってくるのさ?」
「――――」
 表情を消したヤマメの問いに、勇儀は息を飲んだ。
 背後のパルスィの表情は、今の勇儀からは見えない。
「いつ頃って――」
 あの日、パルスィに自分が囁いた言葉が、ふっと脳裏をよぎった。
『嘘じゃない。旧都の家も、暮らしも、酒だって――パルスィ、お前さんが笑ってくれる、泣かないでいてくれることに比べたら、価値なんてない』
 そう、自分はパルスィに言ったのだ。
 そして今、自分は旧都を離れ、パルスィのところに居る。
 ならばそれが――星熊勇儀の決断だった。揺るぎない、鬼の決断なのだ。
「……いや、旧都に戻るつもりは無いよ」
 勇儀の言葉に、ヤマメは眉を寄せる。
 背後のパルスィがどんな表情をしているのか、勇儀には見えない。
「これからの私は、ここで暮らすつもりだ」
 はっきりと言い切った勇儀に、ヤマメが何かを言いかけて、口をつぐんだ。
 勇儀の背後のパルスィから視線を逸らすように、ヤマメは顔を俯けて。
「……旧都の上役があたふたしてるよ。星熊の姐さんが居なくなったって」
「そいつは、すまないと伝えておいちゃくれないか」
「まとめ役が不在で、旧都は今、ちょっとゴタゴタ続きなんだ」
 ヤマメの静かな訴えに、勇儀は目を細める。
 解っている。自分が居なくなれば、鬼の力という戒めが旧都から失われる。平穏だった旧都は、おそらく騒然となるだろう。そんなことは解っているのだ。
 ――けれど。
「すまないね。……だけど、私は旧都には戻らないよ」
 鬼は、嘘をつかない。
 鬼は、約定を違えない。
 ――生涯をかけて、水橋パルスィにこの心を証明すると誓ったのだ。
 愚かな選択かもしれない。けれど、その選択を勇儀は悔いてはいない。
「どうしても?」
「ああ」
「……そう」
 頷いた勇儀に、ヤマメはゆるゆると首を振って、ひとつ息を吐き出した。
「姐さんがそこまで言うなら、今日は退散するよ」
 くるりと勇儀に背中を向けて、ヤマメはひらひらと手を振り歩き出す。
「気を付けて帰りなよ」
 そんな声をかけた勇儀に、ヤマメは一度立ち止まって、振り返った。
「だけど、姐さん」
 目を細め、ヤマメは短く、最後の言葉を言い残す。
「――それでも旧都は、姐さんが作った街なんだよ」
 そして、ヤマメの姿は地底の薄闇の中に消えた。
 それを見送って――勇儀は大きく息をつく。
「……勇儀」
 と、背中を掴む手の感触。勇儀が振り返ろうとすると、とす、と背中に重みがかかった。
「パルスィ?」
「……すぐ戻るって言ったじゃない」
 拗ねたような、愛おしい声。
「すまないね」
 苦笑して、勇儀は振り返る。睨むように自分を見つめたパルスィに、ふっと微笑んで。
「大丈夫だよ。……私はどこにも行きやしないさ」
 その髪をくしゃりと撫でて、細い身体を抱き寄せた。
 腕の中で身じろぐパルスィは、胸元に顔を埋めて、「……ほんとう?」と囁く。
「本当だよ。なんたって私は、こうしてるのが一番幸せなんだからさ」
 そう、こうやってパルスィを抱きしめて、その温もりを感じることで。
 どうしようもないほどに、今の勇儀は満たされてしまうのだ。
「……勇儀」
「なんだい?」
「妬ましいわ」
「またそれかい」
 苦笑した勇儀を、パルスィはまたその緑の目を細めて睨む。
「私以外の誰かと親しそうにしてるなんて……妬ましいわ」
「ヤマメは、ただの顔なじみだよ」
 それに彼女には、あの釣瓶落としの少女がいる。
「――私とふたりのときに、他の誰かの名前を出すなんて、妬ましいのよ」
「おっと、こりゃ失礼致しました、お姫様」
 全く、我が侭なお姫様である。
 それに心底骨抜きにされてしまっている自分こそ、きっと処置なしなのだろうが。
「それじゃあ――パルスィ、お前さんが妬ましく思った分だけ、言うことを聞いてあげるよ」
「……何でも?」
「あんまり無茶なことじゃない限りはね」
 笑う勇儀に、パルスィは目を細めて。
「だったら、……好きって、言って」
「ん、そんなのでいいのかい?」
「私の、気が済むまでよ」
「解ったよ。――好きだよ、パルスィ」
「……もっと」
「愛してるよ。……今もこうしてるだけで、好きすぎてどうにかなっちまいそうだよ」
「……どうにかなって、いいわよ」
「パルスィ?」
 覗きこんだ勇儀に、パルスィは真っ赤になって顔を逸らして。
「……私のこと、好きにしていいって、言ったの」
 全く――そんなことを言われて、理性を保っていられる者はいないだろう。
 覆い被さるように、その場にパルスィを押し倒して、首筋に唇を這わせて。
 切なげに身をよじるパルスィの耳元に、「愛してる」と何度も囁いて。
 深みへと、勇儀は沈んでいく。

 ――それはあるいは、ヤマメの言葉からの、逃避だったのかもしれない。



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| 浅木原忍 | 22:54 | comments(1) | - |
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Comment

あれ…最後のこれは賢者タイムですかな?(自重
というかアレですな、姐さん今すぐかわっ(ry


ふぅ…まぁあれですな、パルスィ食べたい?
Posted by: 紳士と言う名の(ry… |at: 2009/08/30 1:24 AM








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意見感想ツッコミなどありましたら
こちらかコメント欄にてー。

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長編
【妖夢×鈴仙】
うみょんげ!(創想話・完結)
 第1話「半人半霊、半熟者」
 第2話「あの月のこちらがわ」
 第3話「今夜月の見える庭で」
 第4話「儚い月の残照」
 第5話「君に降る雨」
 第6話「月からきたもの」
 第7話「月下白刃」
 第8話「永遠エスケープ」
 第9話「黄昏と月の迷路」
 第10話「穢れ」
 第11話「さよなら」
 最終話「半熟剣士と地上の兎」

【お燐×おくう】
りん×くう!(完結)
 ※スピンオフなので、できれば先に『ゆう×ぱる!』をどうぞ。
 1 / 火焔猫燐
 2 / 霊烏路空
 3 / 火焔猫燐
 4 / 霊烏路空
 5 / 古明地さとり
 6 / 火焔猫燐
 7 / 霊烏路空
 8 / 火焔猫燐
 9 / 古明地さとり
 10 / 霊烏路空
 11 / 火焔猫燐
 12 / 古明地さとり
 13 / 霊烏路空
 14 / 火焔猫燐
 15 / 古明地さとり
 16 / 霊烏路空
 17 / 古明地こいし
 18 / そして、地底の恋物語

【勇儀×パルスィ】
ゆう×ぱる!(完結)
 0 / そして、星熊勇儀の孤独
 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
 (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13)
 14 / 「星熊勇儀の微睡」
 15 / 「水橋パルスィの恋心」
 16 / 「星熊勇儀の応談」
 17 / 「黒谷ヤマメの懸念」
 18 / 「星熊勇儀の懊悩」
 19 / 「キスメの不安」
 20 / 「火焔猫燐の憂鬱」
 21 / 「黒谷ヤマメの奮闘」
 22 / 「古明地さとりの場合」
 23 / 「水橋パルスィの狂気」
 24 / 「古明地さとりの思案」
 25 / 「星熊勇儀の煩悶」
 26 / 「水橋パルスィの意識」
 27 / 「星熊勇儀の虚言」
 28 / 「水橋パルスィの嫉妬」
 29 / 「星熊勇儀の決断」
 30 / 「キスメの幸福」
 31 / 「水橋パルスィの戸惑」
 32 / 「黒谷ヤマメの嫉妬」
 33 / 「古明地さとりの思惟」
 34 / 「キスメの献身」
 35 / 「星熊勇儀の愛情」
 36 / 「水橋パルスィの変化」
 37 / 「火焔猫燐の懸案」
 38 / 「星熊勇儀の失態」
 39 / 「水橋パルスィの存在」
 40 / 「星熊勇儀の審判」
 41 / 「水橋パルスィの幸福」
 42 / 「星熊勇儀の願い」
 43 / 「地底への闖入者」
 44 / 「水橋パルスィの真実」
 45 / 「星熊勇儀の幸福」
 46 / 「星熊勇儀と、水橋パルスィ」
 47 / 「地底の恋物語」

【にとり×雛】
にと×ひな!(完結)
 Stage1「人恋し河童と厄神と」
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 Stage2「厄神様へ続く道」
  SIDE:A SIDE:B
 Stage3「神々も恋せよ幻想の片隅で」
  SIDE:A SIDE:B(前編)(後編)
 Stage4「秋めく恋」
  SIDE:A SIDE:B SIDE:C
 Stage5「少女が見た幻想の恋物語」
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  (1) (2) (3) (4)

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