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魔法少女リリカルなのはCRUSADERS 第六章「吹け、祝福の風」(7)
 一ヶ月近くもお待たせして本当に申し訳ありませんでした。
 第六章、これにて終了です。次回、終章にて完結予定。今月中には。












      ◇


 少女の瞳から、最後の光が消えた。
 それはきっと、命の光だった。
 喉に食い込んだ指は、こわばっていた。
 それをゆっくりと引きはがして――アイシスは、ふらふらと立ち上がった。
 八神はやては、もう動かない。
 そして自分も、――もう。

 さあ、終わらせよう。
 全てを――終わらせよう。

 瞼を閉じる。そこに浮かぶのは笑顔。
 大切な妹の、失われた父の――優しい笑顔。
 それから……自分たちを育ててくれた義父の、ひどく哀しい微笑。
 悲劇を終わらせるために、彼は死ねと言った。
 私にこの役目を与えた。それを、恨みはしない。
 全てはこのために、復讐のためにあったのだ。
 だけど――ああ、だけど。

 お義父さん。
 ――貴方はきっと、私たちは、貴方を愛してなどいないと、そう思っていたのでしょう。
 だけど、それはきっと誤解。
 私もシエナも、私たちを引き取り、育ててくれた貴方に、本当に感謝していた。
 ――そのことを、伝えそびれたことだけが、最後の心残りだったかもしれない。

 いや、まだシエナが居る。
 シエナが、全ての終わった後に、義父を支えてくれるだろう。
 だから――これで終わりなのだ。
 何もかも、これで――。

「そない……お断りや……ッ!」
 声が、した。するはずのない、声が。
「こないなところで、終われるかいな……っ!」
 愕然と、アイシスは振り向く。
「そやろ――リインフォース!」
 そこに、少女が立ち上がっていた。
 その瞳に、確かな光を宿して。
 八神はやては――その両足で、立っていた。
「そ、んな……ッ」
 目を見開いた、アイシスの眼前で。
 さらに、信じがたい光景が続く。

 ――それは、奇跡ではなかった。
 彼女たちの仕込んだ、最後の切り札だった。

「シグナム!」
 はやての手のひらで、ミニチュアの魔剣が炎を帯びる。その炎は人の形を為して――そこに、紅紫の剣士は、刃を手に現れた。
「シャマル、ザフィーラ!」
 金色の指輪が煌めき、ペンデュラムが揺れる。
 ふわりとした風がどこからか吹き――そこに、翠緑の騎士と、蒼き狼が静かに佇み。
「――ヴィータ!」
 そして、最後の鉄槌が、宙を舞って。
 その描く軌跡に――少女の姿を、映し出す。

「夜天の王、八神はやてが名の元に――よみがえれ、雲の騎士!!」
 はやての胸元から、四色の魔力光が弾けた。
 その輝きは、佇んだ騎士たちの胸元に吸い込まれ――そして、彼女たちは瞼を開ける。

 自らのデバイスの空き容量に、自身のプログラムをコピーして保存する。あとは、主がリンカーコアを送還しプログラムを復元すれば、デバイスから守護騎士は甦る。
 ――それこそが、最後の切り札。
 たとえ全員が果てたとしても、主を取り戻すことさえ果たせば、再び立ち上がれる。
 そのための、切り札だった。

 そして、騎士たちは構える。
 アイシスを見据えて、――真っ直ぐに見据えて。
「い、嫌……」
 後じさり、アイシスは首を振って。
「嫌あああああああああああッ」
 そして、壁にすがりつくように、叫んだ。
 それは、はやてから聞き出した最後のパスワード。この機龍を自爆させるための――。

『――エラー。エラー。遺伝子認証、不適合』

 何を言われたのか、理解できなかった。
 ――機龍に、自壊のための機構は、確かに備わっていた。だが、それを作動しうるのは、かつてこの機龍を率いた、聖王の血統のみ。
 つまりは、それだけの話だった。

 そのまま、アイシス・ラウムは崩れ落ちる。
 呆然と、虚空を見上げて。


      ◇


 機龍は躍る。
 荒れ狂う風の中、雪の中、その翼を力強くはばたかせて舞い躍る。
 誰もがそれを、固唾を飲んで見守っている。
 不安を、その瞳に宿しながら。
 ――けれど。


      ◇


 それは、あたたかな光だった。
 蒼天に吹く風のような、涼やかであたたかい光。
 その光に包まれて、ヴィータは瞼を開けた。
 ――そこにあったのは。
 誰よりも大切な、たったひとりの主の。
 今にも泣き出しそうな――笑顔だった。
「……みん、な」
 はやてが、震える唇を開く。
「はや、て……」
 ヴィータは、恐る恐る、その名前を呟く。
 目の前にいるのは、確かにはやてだった。
 その瞳に光を宿した、八神はやてだった。
「はやてちゃん」
「……主」
「主はやて」
 シャマルが、ザフィーラが、シグナムが、大切な主の名を呼ぶ。
 その言葉に、はやては。
「――――みんな、ごめん、なさい……っ」
 そのまま、その場に膝をついた。
「はやてっ」
 思わず、4人とも駆け寄る。その中心で、主はただ、謝罪の言葉とともに、唇を噛み締める。
「あたしは……あたしは、みんなを、」
 ――ああ、はやては全てを覚えているのだ。
 そのことに思い至り、ヴィータは息を飲む。
 守護騎士たちを、一度自らその手にかけたこと。
 悲しみに心を閉ざして、自分が為した罪を。

 ああ、だけど、そんなことは。
 今ここにある温もりに比べれば――きっと。

「はやて」
 だから、ヴィータは。
 震える主の前で、同じように膝をついて。
 その小さな身体で精一杯に、はやてをきつく、抱きしめた。
「……良かった。はやてが無事で、良かった」
 その言葉に、はやてが目を見開く。
「間に合って良かった――はやてが、生きていてくれて、本当に良かった……っ」
 それは、心からのヴィータの言葉。
 それ以外の感情など、浮かぶはずも無かった。

 たとえどれだけ傷つけられても、拒絶されても。
 自分たちは、八神はやての騎士だから。

「ヴィー、タ……」
「ごめんなさい、はやて」
 それに、謝らなければいけないのは自分たちの方だった。間違いなく。
「あたしら……また、はやてを守れなかった。はやてを悲しませて、はやてにこんなに辛い思いをさせて――また、はやてに助けられた」
「……ヴィータ」
「ごめんなさい、はやて。……弱いあたしらでごめんなさい。はやてを守れなくて――」
「違う!」
 はやての声が、ヴィータの言葉を遮る。
 そしてその手が、ヴィータの頬に触れた。
「違う……みんな、弱くなんかあらへん」
 泣き出しそうな顔で、だけど涙をこらえて。
 はやては――笑った。
「みんなが、あたしを助けてくれたんや。みんなが、あないボロボロになっても、あたしのところまで来てくれたから――あたしは、」
 そしてはやては顔を上げる。
 シグナムと、シャマルと、ザフィーラを見上げ。
「ありがとう。――みんな、ありがとう……」
 ああ、そうだ。
 今この場に、ごめんなさいなんて、似合わない。
 はやてがここにいて、自分たちがここにいる。
 だから――ありがとう、なのだ。
「はやて、ちゃん……っ」
 最初に泣き崩れたのはシャマルだった。それでヴィータの糸も切れて、ふたりではやてにすがって泣いた。思い切り泣いた。
 それを見下ろして、シグナムとザフィーラは顔を見合わせて、やれやれと苦笑し合い。
 はやてはヴィータとシャマルの髪を、優しく撫でていた。


      ◇


 抱きしめた騎士たちの温もりに、いつまでもこうしていたい、とはやては思った。
 だけど、そのままではいられない。
 この機龍という力、そして――向こうに座り込んだまま動かない、ひとりの少女。
 まだ、全てが終わったわけではないのだ。
 だから、シャマルとヴィータを宥めて、はやてはそれから立ち上がった。
「はやて?」
 見上げるヴィータに笑い返して、はやてはそのままゆっくりと、アイシス・ラウムに歩み寄る。
 13年前の悲劇の遺族。
 自分と守護騎士を殺そうとし、自らも悲劇の終焉の碑となそうとした――悲愴の騎士。
 はやてはその眼前に歩み寄ると、――手にしていたシュベルトクロイツを、差し出した。
「……謝って許してもらえるなんて、思ってない」
 呟くようなはやての言葉に、アイシスが微かに顔を上げた。
「闇の書の罪。奪ってきた命の数。あたしひとりが背負いきれるようなもんやない。――それを受け継いだあたしが生きとる限り、奪われた人たちの悲しみが終わらないのも、わかってる」
「はやてちゃん……!?」
 シャマルが声をあげるが、はやては構わず言葉を続けた。
「何をどうするのが償いなのか、そもそも償える罪なのか、そないなことも、頭の悪いあたしには解らん。――きっと、誰も納得なんてしてくれんやろ。あたしが死ねば、きっとみんな気が済むんやろう。それならそれでええ」
 その手から剣十字が落ちて、床に硬い音をたてる。その刃を、アイシスは静かに見下ろして。
「せやけど――あたしの幸せを願ってくれる人がおる。確かにおるから、あたしはそれを知ってるから――せめてあたしは、その人たちを裏切りたくは、ないんや」
 そしてはやては、その言葉を告げる。
「あたしは聖人君子やない。泥にまみれた罪人で構わん。――せやから、あたしは生きる。あたしを憎む、あたしを殺したいと願う総ての呪いを受けても、あたしは生きる。それが、あたしの幸せを願ってくれた人たちに、あたしができる、たったひとつのことやから」
 アイシスの手が、震える手が、剣十字に触れた。
「――あたしを殺したいなら、殺しにくればええ。逃げも隠れもせん。――だけど、あたしはあたしのために、黙って殺されはせえへん」
 剣十字を握りしめて――アイシスは。
 立ち上がり、血に汚れたその刃で、

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 その切っ先は。
 アイシスの喉元に突きつけられたまま。
 ――鮮血をしたたらせて、止まっていた。

 自ら喉を突こうとした、その切っ先を。
 はやての手が握りしめて、止めていた。

「そして、あたしはあたしのために――これ以上、悲しみを背負う人を、増やさせは、せえへん」

 刃の食い込んだ右手から、鮮血をこぼしたまま。
 八神はやては、笑った。
 その笑顔に、アイシス・ラウムは。

「……とう、さま」
 ただそれだけを、呟いて。
 もう一度、その場に崩れ落ちて。
 ――大声をあげて、泣いた。

 それが、復讐劇の終焉だった。


      ◇


 機龍が舞う。
 吹き荒れる風を切り、空を覆い尽くす分厚い雲に向かって、機龍は真っ直ぐに舞い上がる。
 そして――その巨大な姿は。
 この世界を覆う、灰色の雲を突き抜けて。

 機龍の突き破った雲の隙間から。
 失われたはずの蒼天が、決して届くことの無かった光を、死に絶えた雪原に、照らし出した――。



Chapter 6 "Blow the wind in the Elysion" closed.
to be continued on Final Chapter...




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| 浅木原忍 | 05:05 | comments(3) | trackbacks(0) |
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Comment
待ってましたあああ!!
Posted by: hiten |at: 2009/04/25 6:56 AM
某所のフェイトさんじゃないけど。

はやてはやてはやてはやてはやてはやてはやてはやてはやてーーーーーーーッ!!!

ええもう、はやて分補充です。
Posted by: クリューゲル |at: 2009/04/25 9:30 AM
今回の話を考えると、3期での糾弾された時への冷静さも頷けるなぁと思ってしまったり。
やっぱりリリカルはこうでなくては!
Posted by: T |at: 2009/04/26 12:40 AM








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 第2話「あの月のこちらがわ」
 第3話「今夜月の見える庭で」
 第4話「儚い月の残照」
 第5話「君に降る雨」
 第6話「月からきたもの」
 第7話「月下白刃」
 第8話「永遠エスケープ」
 第9話「黄昏と月の迷路」
 第10話「穢れ」
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 3 / 火焔猫燐
 4 / 霊烏路空
 5 / 古明地さとり
 6 / 火焔猫燐
 7 / 霊烏路空
 8 / 火焔猫燐
 9 / 古明地さとり
 10 / 霊烏路空
 11 / 火焔猫燐
 12 / 古明地さとり
 13 / 霊烏路空
 14 / 火焔猫燐
 15 / 古明地さとり
 16 / 霊烏路空
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 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
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 15 / 「水橋パルスィの恋心」
 16 / 「星熊勇儀の応談」
 17 / 「黒谷ヤマメの懸念」
 18 / 「星熊勇儀の懊悩」
 19 / 「キスメの不安」
 20 / 「火焔猫燐の憂鬱」
 21 / 「黒谷ヤマメの奮闘」
 22 / 「古明地さとりの場合」
 23 / 「水橋パルスィの狂気」
 24 / 「古明地さとりの思案」
 25 / 「星熊勇儀の煩悶」
 26 / 「水橋パルスィの意識」
 27 / 「星熊勇儀の虚言」
 28 / 「水橋パルスィの嫉妬」
 29 / 「星熊勇儀の決断」
 30 / 「キスメの幸福」
 31 / 「水橋パルスィの戸惑」
 32 / 「黒谷ヤマメの嫉妬」
 33 / 「古明地さとりの思惟」
 34 / 「キスメの献身」
 35 / 「星熊勇儀の愛情」
 36 / 「水橋パルスィの変化」
 37 / 「火焔猫燐の懸案」
 38 / 「星熊勇儀の失態」
 39 / 「水橋パルスィの存在」
 40 / 「星熊勇儀の審判」
 41 / 「水橋パルスィの幸福」
 42 / 「星熊勇儀の願い」
 43 / 「地底への闖入者」
 44 / 「水橋パルスィの真実」
 45 / 「星熊勇儀の幸福」
 46 / 「星熊勇儀と、水橋パルスィ」
 47 / 「地底の恋物語」

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にと×ひな!(完結)
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 Stage2「厄神様へ続く道」
  SIDE:A SIDE:B
 Stage3「神々も恋せよ幻想の片隅で」
  SIDE:A SIDE:B(前編)(後編)
 Stage4「秋めく恋」
  SIDE:A SIDE:B SIDE:C
 Stage5「少女が見た幻想の恋物語」
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 Stage6「明日晴れたら、雨は昨日へ」
  (1) (2) (3) (4)

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 ケーキより甘い思い出
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【maisyuさん】(ぐったり裏日記
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 素直なキモチ
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【隅田さん】(NooK
 四つ葉のクローバーを、君に。

【沈月 影さん】(影ラボ
 Pleasure, into the Rain

【クロガネさん】(クロガネの間
 理想な人は?

【フィールドさん】
 The honey holiday
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【霧崎和也さん】(Kの趣味部屋
 祝福の花

【HALさん】(交差幻想
 コイメツ

【月翼さん】
 秘密のrouge

【tukasaさん】
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【フェルゼさん】(Empty Dumpty
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【結さん】
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【tanakaさん】部屋の隅っこで小説なんかをやってみる
 君が見てくれているから/新年
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