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魔法少女リリカルなのはCRUSADERS 第六章「吹け、祝福の風」(2)
 最終章その2。












      ◇


 ――現在へと、時間は戻る。

「なんだ、ありゃあ……」
 ヴィータは、通信回線に映し出された粗い映像を覗きこみ――その姿に呻き声をあげる。
 ドームに設置された外部カメラの映像に、それは映し出されていた。あまりにも巨大な、あまりにも暴力的な、その竜の姿。
 蒐集中の大物しかり、闇の書の闇しかり、デカブツとの戦いは数多くこなしてきたが――今度ばかりは桁が違った。
 ビジョン越しでは遠近感が狂うばかりで実感は伴わないが、それがとてつもなく巨大な、機械の竜であるということだけは、ヴィータにも理解できた。
「あれが、コルサの言ってた――ファブニールってやつなのか……?」
「どうやら、そのようだな」
 傍らでクロノも、苦々しくそれを見上げて呟いた。クロノが何故この事件に首を突っ込んでいるのか、聞きたいことはヴィータには色々あったが、ともかく今はそれどころではない。
『――事態は、おおよそ最悪です』
 通信回線の向こうで、金髪の女性騎士――カリムが顔を覆った。
『機龍に対抗しうるドーム外部用の兵器など、アースガルドにはありません。――管理局の艦隊の到着を待つまでもない。機龍がその力をドームに向けて振るえば、この世界は一瞬で滅びます』
 無力を嘆くように、カリムは机の上で拳を握りしめる。その姿に、ヴィータは眉を寄せた。
 ビジョンを振り仰ぐ。ドームが揺れた。映像の中の機龍が咆吼をあげるように首を持ち上げる。
 ――上等だ、馬鹿野郎。
「クロノ。……はやては、あの中に居るのか?」
「……ああ、おそらくは」
 それだけ聞ければ、充分だった。
「ヴィータ、まさか――」
 クロノが顔色を変える。ヴィータは親指を立てて、にっとクロノに向けて笑った。
「ここに居るぜ、ドーム外部で戦える騎士が」
「馬鹿な――あんなものを相手に、何をどうするっていうんだ」
「なあ、そこのアンタ」
 クロノの呻きに構わず、ヴィータは通信回線の向こうのカリムへ声をかける。
『貴女は、闇の書の――』
「自己紹介してる余裕なんざねーだろ。ひとつだけ確認させろ。あのデカブツ、要はひたすらデカイ乗り物だろ? 中に突っ込んで動力ぶっ潰せば止まる、違うか?」
『……機龍の内部構造は全く不明です。断言はできません』
「オッケーだ。できるかもしんねーんなら、やるしかねーだろ」
 ギガントでも、あの機龍そのものを破壊するのは不可能だろう。だが、中の動力炉か何か程度ならば――この鉄槌に、撃ち抜けない理由はない。
「ヴィータ、君は――」
「生身の人間はすっこんでな、クロノ。――あんたは別にやることあんだろ。はやてをひでえ目に遭わせた、その黒幕をふんづかまえてきやがれ」
「――――」
 息を飲んだクロノに、ヴィータはもう一度笑ってみせた。
「主ある限り、ベルカの騎士に、負けはねえ」
 そしてヴィータは、グラーフアイゼンを握り直し。呆然とその会話を回線越しに聞いていたカリムに、もう一度向き直る。
「そうだ、そこのあんた。――ひとつだけ、訂正しておくぜ」
『……何を?』
「あたしは、闇の書の守護騎士じゃねえ」

 それは、ただひとつの。
 誇りに満ちた――彼女の言葉。

「夜天の王、八神はやての守護騎士。鉄槌の騎士、ヴィータだ! 覚えとけ!」

 そして、ヴィータは宙を蹴る。
 真紅の輝きが、第一ドームの空を翔けていく。


      ◇


 大地が激しく鳴動していた。
 よろめきながらも、崩れ始める地下通路を、シグナムは走る。
 行き先のあてなどない。だが、辿り着けるはずだ。必ず、主の元へ――そんな確信があって。
「レヴァンティン!」
 振るう白皙の刃で、目の前の道を塞ぐ瓦礫を吹き飛ばす。これ以上進むのは危険だ、と本能が告げていたが、構いはしない。
 ――と。
「ぁぁぁっ!」
 小さな悲鳴が、大地の唸り声の合間に聞こえた。
 主はやてか? シグナムは足を止め、そちらを振り返り――そこにあった影に、顔をしかめた。
 それは、つい先ほどまで、シグナムが怒りを込めて見上げていた顔。――主を奪った騎士。ヴォルツ・ラウムの娘だった。
 向こうも顔を上げ、こちらに気付いたか目を見開く。シグナムは唇を噛み――そこへ駆け寄った。このままでは崩れる岩盤の下敷きになりかねない。甚だ不本意だが、見捨てるわけにもいかなかった。そもそも、主をまだ取り返してはいないのだ――。
「…………?」
 だが、その顔がはっきりと確認できる距離まで駆け寄って、シグナムは違和感に眉を寄せる。
 違う。よく似ているが――違う。
 主はやての傍らにいた、あの騎士では、ない。
 同じ顔、同じ騎士服――だが、瞳に宿る気配が明確に違っていた。憎しみではない、深い悲しみと絶望の色。
 そして、その騎士はシグナムに、すがるように手を伸ばして。
 地下通路が崩れる轟音の中で、はっきりと叫んだ。ただひとつの、願いを。

「姉さんを、助けて――」と。


      ◇


 モニターに映し出されるのは、ただ白銀の世界。
 吹き荒れる吹雪の中に、その巨大な翼をはためかせて、機龍はゆっくりと浮き上がる。
 ――その内部。街がひとつ収まりそうなほど広大な、機龍の体内の一角。
「目覚めたわ……ゆりかごの守護者が」
 モニターに映る白銀を見つめて、アイシスは絶望のように呟いた。
 これが、サイノス・クルーガーが、コルサ・ディストラーが求めた力。全ての運命を狂わせた、破壊の暴風――。
「ふ、ふふ……はははっ、あはははははっ――」
 堪えきれぬように、アイシスは笑った。
「は、はは、は……」
 その笑いで、しかし何も誤魔化せるものなど無かった。――あとはただ、現実があるだけ。
「さあ、闇の書の主――ともに、いきましょう」
 そう、あとはただ。
 為すべき事を、果たすだけだ。
「それが、全ての悲劇を終わらせる為の、たったひとつの冴えたやり方なのだから――」
 ――姉さん。
 妹の泣き顔が、瞼に浮かんで。
 アイシスはそれを、振り払った。
 もう、別れは告げたのだから。
 あとは――。

「……え?」

 そしてアイシスは、それを見た。
 ファブニールの視界を映す、モニター上。
 生けるものの無いはずの、死の大気の中。
 ――三つの光芒が、舞い上がるのを。


      ◇


 そのとき、舞い上がる機龍の姿を肉眼で見上げていたのは、おそらくただひとり。
「これ、は……」
 ザフィーラは、遠近感を狂わせるその巨大すぎる影を、ただ呆然と見上げていた。
 まるで手が届きそうなほど目の前にある気がするのに、それは遥かドームの天頂より高くへと浮き上がっている。
 暗い影を大地に落とし、機龍が吼えた。
 その音に顔をしかめながら、血の味のする唾を吐き捨てて、ザフィーラは軋む身体を押さえた。
 主に叩きのめされた傷も治らないうちに、無理をしすぎた。身体が限界に近いことを、痛みとして意識へ伝達している。
 ――だが、まだここで倒れるわけにはいかない。
『ザフィーラ、聞こえっか!?』
 その意識へ、不意に思念通話が割り込んだ。
『ヴィータ、どうした』
『まだドームの外か? あのデカブツ、今見てっか?』
 僅かな安堵のこもったザフィーラの問いに構わず、ヴィータは早口で問いを重ねてくる。
『見てるも何も――すぐ近くで見上げている。何だ、あれは』
『説明できるほど詳しかねー! でも、いいかザフィーラ、あの中にはやてが居るはずだ!』
『――何だと!?』
 頭上の巨大すぎる質量を、ザフィーラは振り仰ぐ。あの中に、主が。
『まだ戦えっか? 無理なら無理って言えよ!』
『――盾の守護獣に、随分な言いぐさだなヴィータ。主ある限り、ベルカの騎士に、』
『応、負けはねえ!』
 吹雪の中、ヴィータの翔ける真紅の光芒がザフィーラの視界にも入る。ザフィーラもそれに合わせて、雪原を飛び立ち、
『……全く、お前たち。将を差し置いて、どこへ突撃する気だ?』
 そこへさらに、第三の思念通話が割り込む。
『シグナム!』
『状況は把握した。――主はやてはあの中だ、間違いない』
『――大丈夫か、シグナム?』
『お前がそれを聞くか、ザフィーラ。答えは同じだ。この刃、まだ折れぬ!』
 ザフィーラの問いに、力強くそう応え、そして紅紫の光芒も、ザフィーラの視界に舞い。
 三人の騎士が、その地に邂逅した。
「……やれやれ、結局こうなんのか」
 ヴィータが肩を竦め、シグナムが小さく頷く。
 その片目が塞がれていることに、ヴィータは眉を寄せた。
「シグナム、お前、その目……」
「大したことは、ない」
 シグナムは短く、それだけ応える。
 そして、その場にひとり分の空白があることに気付いて、ヴィータとザフィーラは顔を歪めた。
「……シャマルは?」
 四人のはずの守護騎士は、しかしひとりが欠落している。彼女とともに居たはずの烈火の将は、僅かに目を伏せて――首を横に振った。
「シャマル、が……?」
「……すまない」
「謝るな、シグナム」
 唇を噛んだシグナムに、ザフィーラはただそう応えるしかなく。ヴィータは奥歯を噛み締めて、血が滲むほど強く拳を握った。
「……だが、シャマルはひとつ、切り札を遺してくれた」
「切り札?」
「これだ」
 そう言って、シグナムはその手のひらに載せたものを差し出す。
 それは、見慣れた対のリング。シャマルのアームドデバイス、クラールヴィントだ。
「クラールヴィントが……何だってんだ?」
 顔を上げたヴィータに、シグナムはそれを語る。もしも――万が一の場合に、最後に主に全てを託すための、切り札を。
「……なるほど、そりゃ切り札だ」
「最後に全てを決めるのは、主か。……そうだな、我ららしい在り方だろう」
 聞き終えて、ザフィーラとヴィータは頷いた。
「自分たちがプログラムだってことに、感謝しねーといけねーか」
「人間かプログラムかなど、些細なことだ。この意志は紛れもなく、私達のものなのだから」
「――そうだな」
 シグナムの言葉に、三人首肯し合う。
 その意志は、同一にして唯一。
 全ては、かけがえのないもののために。
「主はやてを、取り戻すぞ」
「応ッ!!」
 そして、吹雪の中に三条の光芒が舞った。



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| 浅木原忍 | 22:54 | comments(0) | trackbacks(0) |
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長編
【妖夢×鈴仙】
うみょんげ!(創想話・完結)
 第1話「半人半霊、半熟者」
 第2話「あの月のこちらがわ」
 第3話「今夜月の見える庭で」
 第4話「儚い月の残照」
 第5話「君に降る雨」
 第6話「月からきたもの」
 第7話「月下白刃」
 第8話「永遠エスケープ」
 第9話「黄昏と月の迷路」
 第10話「穢れ」
 第11話「さよなら」
 最終話「半熟剣士と地上の兎」

【お燐×おくう】
りん×くう!(完結)
 ※スピンオフなので、できれば先に『ゆう×ぱる!』をどうぞ。
 1 / 火焔猫燐
 2 / 霊烏路空
 3 / 火焔猫燐
 4 / 霊烏路空
 5 / 古明地さとり
 6 / 火焔猫燐
 7 / 霊烏路空
 8 / 火焔猫燐
 9 / 古明地さとり
 10 / 霊烏路空
 11 / 火焔猫燐
 12 / 古明地さとり
 13 / 霊烏路空
 14 / 火焔猫燐
 15 / 古明地さとり
 16 / 霊烏路空
 17 / 古明地こいし
 18 / そして、地底の恋物語

【勇儀×パルスィ】
ゆう×ぱる!(完結)
 0 / そして、星熊勇儀の孤独
 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
 (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13)
 14 / 「星熊勇儀の微睡」
 15 / 「水橋パルスィの恋心」
 16 / 「星熊勇儀の応談」
 17 / 「黒谷ヤマメの懸念」
 18 / 「星熊勇儀の懊悩」
 19 / 「キスメの不安」
 20 / 「火焔猫燐の憂鬱」
 21 / 「黒谷ヤマメの奮闘」
 22 / 「古明地さとりの場合」
 23 / 「水橋パルスィの狂気」
 24 / 「古明地さとりの思案」
 25 / 「星熊勇儀の煩悶」
 26 / 「水橋パルスィの意識」
 27 / 「星熊勇儀の虚言」
 28 / 「水橋パルスィの嫉妬」
 29 / 「星熊勇儀の決断」
 30 / 「キスメの幸福」
 31 / 「水橋パルスィの戸惑」
 32 / 「黒谷ヤマメの嫉妬」
 33 / 「古明地さとりの思惟」
 34 / 「キスメの献身」
 35 / 「星熊勇儀の愛情」
 36 / 「水橋パルスィの変化」
 37 / 「火焔猫燐の懸案」
 38 / 「星熊勇儀の失態」
 39 / 「水橋パルスィの存在」
 40 / 「星熊勇儀の審判」
 41 / 「水橋パルスィの幸福」
 42 / 「星熊勇儀の願い」
 43 / 「地底への闖入者」
 44 / 「水橋パルスィの真実」
 45 / 「星熊勇儀の幸福」
 46 / 「星熊勇儀と、水橋パルスィ」
 47 / 「地底の恋物語」

【にとり×雛】
にと×ひな!(完結)
 Stage1「人恋し河童と厄神と」
  SIDE:A SIDE:B
 Stage2「厄神様へ続く道」
  SIDE:A SIDE:B
 Stage3「神々も恋せよ幻想の片隅で」
  SIDE:A SIDE:B(前編)(後編)
 Stage4「秋めく恋」
  SIDE:A SIDE:B SIDE:C
 Stage5「少女が見た幻想の恋物語」
  (1) (2) (3) (4)
 Stage6「明日晴れたら、雨は昨日へ」
  (1) (2) (3) (4)

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【少女秘封録】
 真昼の虹を追いかけて
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【自警団上白沢班の日常】
 折れた傘骨
 おおかみおんなと人魚姫

【探偵ナズーリンシリーズ】
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 「天界の桃のタルトと天ぷら定食」
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 「白玉楼のすき焼きと卵かけご飯」
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 ある日の八神さんち(ホラー編)
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 少し角度が違う分
 大胆はほどほどに
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  ―前夜なの―
  ―臨戦なの―
  ―結末なの―
 桜〜なのは〜の舞う季節―Prince of ・・・―
  予告編 本編
 天使に誓うラブレター
  予告編 本編
 「アツい日」シリーズ
  アリサ先生のアツい一日
  それぞれのアツい午後
  アツかった日の後日。
  アツくない場所で
  アツい日は季節を越えて
  アツみの増した写生会
  アツ力のかかった一日
 木の葉が紅く染まる頃
  (1) (2) (3)

【ぴーちゃんさん】(P'sぷろじぇくと
 ワガママのススメ
 おとぎ話は目覚めた後で

【鴇さん】(It flows.
 
 遠くない未来
 贈り物〜blessing happily〜

【伊織さん】(伊織の詞認筆
 ハラオウン家家族会議
 ケーキより甘い思い出
 八神家家族相談室

【maisyuさん】(ぐったり裏日記
 キミの呼びかた
 素直なキモチ
 この星空の下、貴女と二人

【隅田さん】(NooK
 四つ葉のクローバーを、君に。

【沈月 影さん】(影ラボ
 Pleasure, into the Rain

【クロガネさん】(クロガネの間
 理想な人は?

【フィールドさん】
 The honey holiday
 Dangerous Shower Time

【霧崎和也さん】(Kの趣味部屋
 祝福の花

【HALさん】(交差幻想
 コイメツ

【月翼さん】
 秘密のrouge

【tukasaさん】
 名前を呼んだ日

【フェルゼさん】(Empty Dumpty
 夜長の行き先
 Their party's never over.
 彼女たちのフーガ

【シン・アスカさん】
 メリッサの葉に…

【結さん】
 青い空の下で

【tanakaさん】部屋の隅っこで小説なんかをやってみる
 君が見てくれているから/新年
 知らぬ間に
 なのはさん争奪戦
 いたずらなお姫様
 お願い
 海と水着と……
 何年経っても変わらぬ関係
 越えられない壁
 小さくてもなのはさん
 思春期なんです
 手相占い?
 暗闇の中で
 フェイトちゃんは変態さんなの?
 手を繋いで
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