ある日の八神さんち(メロドラマ編)
2006.08.03 Thursday | category:なのはSS(八神家)
気分転換に初・八神家SS。泣かせ系の映画を見た夜の八神家のお話。
久々の三人称SS+初めて書いた八神家+久々の非百合ってことでいろいろぎこちない感じの出来ですが、まぁたまにはこういうのも……。あ、映画の内容に関してはあまり気にしないでください、はい。
久々の三人称SS+初めて書いた八神家+久々の非百合ってことでいろいろぎこちない感じの出来ですが、まぁたまにはこういうのも……。あ、映画の内容に関してはあまり気にしないでください、はい。
『幸せは、時間の長さではないんです……たとえ一瞬でも、私は、幸せだったんです……』
『……つば、き』
『あなたから、幸せをもらったんです……。だから、そんな悲しいことは、言わないでください……』
泣きそうな顔で、少女は微笑む。少年の手をぎゅっと握って。
少年も、蒼白な顔で、だけど必死に、笑い返す。
『……ありが、とう……』
そして――
◇
夕食後の、八神家のリビング。テレビには、今まで流れていた映画のエンドロールが映し出されている。
見ていたのは数年前の邦画。陳腐と言えばあまりに陳腐な、輪廻転生と不老不死ネタのラブストーリーだった。
4人並んでソファーに腰掛けた八神家一同の様子はと言えば、四者四様である。
「……ひっく、ぐすっ……うぅっ」
感極まってボロ泣きのシャマル。
「ベタやけど、ええ話やったなー、うん」
満足げに頷くはやて。
「すー、かー……」
途中で寝てしまったヴィータ。
「………………」
そして、顔を伏せて沈黙するシグナム。
「シャマル、ほら、これで顔拭き」
「は、はい……」
シャマルは差し出されたハンカチで目元を拭い、それからティッシュで鼻をかむ。
「そない感動したか?」
「はい……ちょっと悲しいお話でしたけど、とっても」
「そか、借りてきて良かったな」
と、シグナムがソファーを立った。「すみません、お手洗いに」と言い残し、足早にリビングを立ち去る。
それで目を覚ましたか、寝ていたヴィータも目を擦りながらむくりと起きあがった。
「……あれ、もう終わったの……?」
「終わったよ。ヴィータには、恋愛モノは退屈だったかな?」
「んー……ねむい」
「ほら、こんなとこで寝たら風邪引いてまうで?」
「……ん、おやすみ……」
欠伸をしながら部屋に戻っていくヴィータを見送る。
次はヴィータも楽しめるようなアニメでも借りてこよ、と思いながら、はやても小さく欠伸した。
「あかん、あたしもそろそろおやすみや……」
「はい、それじゃあお部屋までお連れしますね」
「よろしくやー」
◇
洗面所で、シグナムはばしゃばしゃと顔を洗っていた。
水気を拭い、鏡で顔をチェックする。……よし、痕跡は残っていない。
リビングに戻ろうと、洗面所のドアに手をかけたところで、不意に思念通話が届いた。
『シグナム、あたしも今日はもう寝るわ。おやすみ』
『そうですか、おやすみなさいませ、主はやて』
主の言葉に、シグナムはほっと一息つく。さすがに、それならもうバレることは――
『しかし、シグナムがあの手の話に弱いなんて、ちょっと意外やなー』
『っ!?』
『泣きそうなの必死でこらえとったやろ? バレバレや』
一気に顔が熱くなる。そんな反応も見透かされているかのように、はやては笑った。
『あ、主はやて、私は――』
『武将たる者が人前で涙を見せるなど、末代までの恥ー、とか思とるんやろ?』
『……………………はい』
『ええやん別に。お話に感動して泣くのは、ちっとも恥ずかしいことやあらへんよ』
『も……申し訳、ありません』
『別に申し訳んでもええって。まぁ、ヴィータには内緒にしといたるな。じゃ、おやすみー』
通話が途切れる。……ひとつ溜息をついて、シグナムは洗面所を出た。
……全く、我が主には敵わない。
◇
はやての部屋。ベッドに下ろされて、はやてはもうひとつ欠伸をする。
「それじゃあ、おやすみなさい、はやてちゃん」
「ん……な、シャマル」
「何ですか?」
「さっきの映画……ちょっと、あたしとみんなに似てるなーと、思わへんかった?」
長い時を生きる不老不死の少女が、数百年前の恋人を前世に持つ少年と出会い、また恋に落ちるというのが、映画の簡単なあらすじだった。
物語の終わりで、少年は死んでしまう。不老不死の少女を幸せにするには短すぎた2人の時間。けれど少女は言う。幸せは時間の長さではない、と――
「シャマルたちは、長い長い間、いろんなご主人様のもとで過ごしてきたんやろ?」
「ええ……」
「その長い時間の中だと、今のあたしとの時間なんて、みんなにとってはあっという間の出来事なんかなー、って」
「そんな……!」
悲しげな声をあげるシャマルに、わかってるよ、とはやては微笑む。
「ヒロインも言ってたやん、幸せは時間の長さやない、って」
「はい……私たちは、幸福ですよ、はやてちゃん」
「ん……あたしも幸せや」
頬に触れるシャマルの手に、はやてはくすぐったそうに目を細める。
「それに……はやてちゃんと一緒の時間は、短くなんてありませんよ。これからもずっと、私たちはあなたの側にいるんですから……」
「うん……ありがとな、シャマル」
「はい、それじゃ……おやすみなさい」
「うん、おやすみや」
灯りが消され、ドアが閉じる。心地よい闇に、はやての意識はすぐに溶けていった。
Comment
えー、今更ながらコメントですw時間があったので読んでみました。
「幸せは時間の長さではない」ですか。確かに、僕もそう思います。ですが、僕の場合、この後の言葉が表現できないんですよねw強いて言うなら・・・「時間」そのものではないかと、僕は思います。大切な人と過ごせる時間。たとえ、それがどんなに短くても、その人と過ごした時間は自分の中で「思い出」として残り、それも含めて「幸せ」を感じられると、僕は思いますから。だから、生きていくことを大事にしたいです。
「幸せは時間の長さではない」ですか。確かに、僕もそう思います。ですが、僕の場合、この後の言葉が表現できないんですよねw強いて言うなら・・・「時間」そのものではないかと、僕は思います。大切な人と過ごせる時間。たとえ、それがどんなに短くても、その人と過ごした時間は自分の中で「思い出」として残り、それも含めて「幸せ」を感じられると、僕は思いますから。だから、生きていくことを大事にしたいです。
Posted by: スズメバチ |at: 2007/02/11 12:51 AM
>スズメバチさん
冒頭の映画は実は随分昔に自分が書いた小説(一次)のラスト近くの場面なんですが、「幸せは、時間の長さではないんです」というヒロインの台詞の前に、「君を幸せにすることができなくてごめん」という主人公の少年の台詞があったのですよ。とかとか。
「幸せ」というテーマはひとつウチのSSの根幹かもしれませぬ。BURNINGもそういう話ですしね。
冒頭の映画は実は随分昔に自分が書いた小説(一次)のラスト近くの場面なんですが、「幸せは、時間の長さではないんです」というヒロインの台詞の前に、「君を幸せにすることができなくてごめん」という主人公の少年の台詞があったのですよ。とかとか。
「幸せ」というテーマはひとつウチのSSの根幹かもしれませぬ。BURNINGもそういう話ですしね。
Posted by: 浅木原忍 |at: 2007/02/12 4:06 PM
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