最近の翠屋において甘い物が売れない理由、それは――
2008.11.24 Monday | category:投稿&頂き物SS
「えと、えと、……あぅ」
普段じゃとても見ることのできない、なのはのなよなよした態度。
あぁ、こういうなのはも可愛い。気づかれたかな、唾飲んだの。
慌てて周りを見渡したら、アリサたちの視線は私ではなく、そのなのはの方へ向けられていた。ボックス席に陣取る、私を除く観客三人からたちまち拍手が起きた。
「にゃはは、どう? 似てた?」
照れくさそうに頬を染めたなのはが人差し指を立てて、沈静を促した。なのはの視線を追うと、その先でカウンター越しにこちらへウインクを送る桃子さんを見つけた。優しいたしなめを受けたなのはが小さく舌を出す。
いいな……私もなのはとこんなやりとりがしてみたい。家に帰ったらウインクの練習、してみようかな……。
「すごいね、なのはちゃん」
拍手していた手を組み合わせて、すずかが目を輝かせた。はやても、うんうん、相づちを打つ。
「なのはちゃんにも意外な特技があったんやね」
「ほんと、そっくりじゃない。フェイトもそう思うでしょ?」
明らかに皮肉めいた、アリサの微笑を目の当たりにして。自然と口を尖らして、呟いた。
「……似てない」
「え?」
きょとんと目をまん丸にしたなのはをじろりと見つめ返す。
「私はそんな、おどおどしてないよ」
するとなのはも私と同じ表情をした。
ただ私と違って、その不満顔が可愛い以外の何物でもないというのが、とてもずるい。抱き込んでしまいたくなる。
「えー、してるもん」
「してないよ」
「してるよぉっ」
「まあまあ二人とも。せっかくデザート頼んだのに食べる前からお腹一杯にされたら困るわ」
脇から飛び込んできたその言葉に、なのは同様、たじろいだ。急に顔が熱くなる。
あぁ、なのはが絡むとついムキになってしまうのはどうしてだろう。いつも二人きりでない時は気を配っているつもりなのに……。
そのなのはが悔しげにそっぽを向いた。
「だって、フェイトちゃんが……」
「ほら、ほどほどにしとかんとセンセーが噴火してしまうから」
「あ」
苦笑するはやての、あごで示したその先に気づいて。そろそろと、アリサの方に目を向けると。
さっきまでとは打って変わって露骨にふて腐れた様子のアリサが――すごい流し目を私に放ってきた。
「…………何よ、その間抜けな顔は」
やっぱり。怒っていた。
声は落ち着いているけれど、何と言うか。
その、直視し難いオーラを、体中から放っているような、気がする……。
「あ、あぅ……何でも、ない」
理不尽だ。どうして私が睨まれなきゃいけないんだろう。悪いのは私に似つかない私を演じた、なのはの方じゃないか。
「フェイトちゃん、人のマネをするのってそのマネする人のことが好きじゃないとなかなかできないって聞いたことあるよ?」
「にゃはは。すずかちゃん、ナイスフォロー」
にやけそうになる顔を必死で押し隠す。
……なのはが、私を好き。
それは……嬉しい。悔しいけど。やっぱり、嬉しくなってしまう。
だけどどうしても認めたくない自分がいる。あんな情けない姿をそっくりと言われて喜ぶなんて、できるわけがない。
これが他人なら、まあ許せる。でも、相手はなのはだから。大切な人だからこそ、断固譲れない。
「わ、私だって。マネくらいできるよ」
すっかり熱くなった頭が、思いもよらないことを口走ってしまった。
言ってしまってから、四人の引き攣った顔を見てから後悔した。
不自然過ぎる間があって。まず視界で捉えた動きは、はやての、肩をすくめて「やれやれ……」といった仕草。
「フェイトちゃん、見栄なんか張らんでええって」
「ふぇ、フェイトが、モノマネ?」
そんな、呆れたような表情を四方から向けられては引こうにも引けない。
心とは裏腹に体は自信満々に胸を張る。
「できるよ。なのはのマネなら」
「嘘だぁ。じゃあやってみせてよ」
あぁ、困った。やっぱりできないなんて言えないし。
なのはのことは好きどころか、大好きなのだから。
落ち着け、フェイト。皆の……なのはのことだ。誠意を込めて演じれば似てなくてもきっと許してくれる。
心を決めて、立ち上がった。目を閉じて、一呼吸して。目を開ける刹那、頭に浮かんだなのはの姿をそのまま自分の体に宿して――
「だ、だめだよフェイトちゃん……こんな所で」
「っ! けほっごほ――っ」
――まず、アリサが、咳き込んだ。
きっと口に含んだコーヒーが熱かったからだろう。
「わっ! 汚っ」
そして向かいのはやてが飛びのく。
おぼつかない動きでいつまでもテーブルを拭くのを止めないのは、きっと私の演技が予想以上に上手かったから、動揺しているからに違いない。
「だ、大丈夫? アリサちゃん」
すずかが不安げにアリサの背中をさすって。
やっぱりすずかは過保護なほどアリサに優しい。拍手どころではないのだろう。気持ちはよく解る。
だって私も、そんなすずかに負けないくらい、なのはに優しくしてあげたいから。
「うぅ〜。酷いよぉ、フェイトちゃん!」
ぷるぷる震えて、感動していたはずのなのはが。
褒めてくれるどころか、肩を怒らせて立ち上がった。
「どうして? そっくりだったよ」
「そんなの言ったことないもん!」
自分の怒鳴り声にハッとしたなのはが慌てて腰を下ろす。それを見て私も座ることにした。
「フェイトちゃんの願望なんとちゃう?」
「違うよ。今なのはのことを思い浮かべたら、はっきり出てきたんだから」
「それって、やっぱり願望なんじゃ……」
「フェイトちゃんのえっち」
「な、何で……」
期待していた反応と、全然違う。やっぱり無理があったのだろうか。
そう思ったらさっきまでの威勢が、メッキが剥がれ落ちてしまった。
「お、おかしいよ、皆。だだ、だって、私はっ」
「ふぇーいーとーちゃん」
戸惑い、声高に言う私の言葉を切ったのは、やっぱり、なのはで。
め! とばかりになのはが人差し指を私の口元に立ててきた。思わず黙ると、にっこり微笑むなのはがそのままその手を自分の口元へと寄せて――。
「それは、二人きりの時に言ってあげるから。ね?」
片目を閉じて、ウインクしてきた。それはまるで、さっきの桃子さんとうりふたつで。
「…………うん」
なのはにたしなめられた。素直に頷いてみせる。
何だか、とんでもないことを言われたような。気のせいかな。
……思い描いてたのとは、立場が逆になっちゃったけど。でも、思いのほか嫌じゃない。
「にゃは。ちょっと嬉しかったよ」
それは、大切な秘密を囁くように。頬を赤らめて、なのはが笑った。
待ち焦がれていた賛辞に、驚く間も与えてはくれなかった。唇を唇で塞がれて頭の中を真っ白にされてしまったからだ。
ついばむような口付け。まるで幸せ以外の気持ちが全てとろかされてしまいそうだ。
「いい加減にしてよ……ったく……」
アリサの呟きは、聞こえなかったことにしておこう。
どんな甘い物にも勝る、この『お菓子』がそばにあっては、加減なんてできそうもないから。
Comment
フェイトさぁぁぁぁぁぁぁぁん!なんっちゅぅことを!・・・あぁ今飲んでるのがブラックでよかった。 真似なのに可愛すぎるよフェイトさん!いつかこのセリフを私の名前でいったもらいたいっ!
Posted by: |at: 2008/11/25 6:57 PM
ほぎぁあああぁーーー!!!mattio様の新作きてるぅーーー!!!ちょっと奥さんっ!こっちよ、こっち!!ここにすんばらすぃ〜なのフェイがあるんだからっ!!!…すいません、取り乱しました。
まさか、こんなに早くmattio様の新作にお会いできるなんて本当に嬉しいです!!ありがとうございます!これからも頑張ってください!!
まさか、こんなに早くmattio様の新作にお会いできるなんて本当に嬉しいです!!ありがとうございます!これからも頑張ってください!!
Posted by: neko |at: 2008/11/25 7:17 PM
な、なんと! まさかこんなに早くmattioさんの新作が読めるとはッ!
しかも今回の話は、仲良し五人組が勢ぞろい。
そりゃもう盛り上がること必至ですよ。
フェイトのモノマネ――フェイトの無意識の願望――も、天上天下唯我独尊だし。
アリサじゃなくてもコーヒー噴き出しますって。
それにしてもフェイトとなのは。
二人の睦言じみたやりとりは、中学生とは思えないほど頽廃的だ〜。
しかも今回の話は、仲良し五人組が勢ぞろい。
そりゃもう盛り上がること必至ですよ。
フェイトのモノマネ――フェイトの無意識の願望――も、天上天下唯我独尊だし。
アリサじゃなくてもコーヒー噴き出しますって。
それにしてもフェイトとなのは。
二人の睦言じみたやりとりは、中学生とは思えないほど頽廃的だ〜。
Posted by: イヒダリ彰人 |at: 2008/11/25 11:16 PM
素晴らしい速さの執筆能力にただただ敬服。
そしてフェイトさん?貴女って娘は真っ昼間から何を想像してますか?
主婦の井戸端会議か野郎共の酔ったときの猥談ぢゃないんですから、そう言うことは時間を選びましょうね?
それとなのはさん?そこはやっぱそう言っておかないとねぇ(ニヤリング)いえいえ、そんな真っ赤になって言い訳せんでもかの「不屈の心」さんから色々聞いておりますから、御二方の睦事の激しさは(爆)
それにアリサ女史のツッコミが妙に弱かったのはきっとすずかさんとの睦言を思い出されたのでしょう。
うん、みんなラヴラヴで良いですなぁ…
(ピンポーン)あれ?こんな深夜に一体誰g(ry
そしてフェイトさん?貴女って娘は真っ昼間から何を想像してますか?
主婦の井戸端会議か野郎共の酔ったときの猥談ぢゃないんですから、そう言うことは時間を選びましょうね?
それとなのはさん?そこはやっぱそう言っておかないとねぇ(ニヤリング)いえいえ、そんな真っ赤になって言い訳せんでもかの「不屈の心」さんから色々聞いておりますから、御二方の睦事の激しさは(爆)
それにアリサ女史のツッコミが妙に弱かったのはきっとすずかさんとの睦言を思い出されたのでしょう。
うん、みんなラヴラヴで良いですなぁ…
(ピンポーン)あれ?こんな深夜に一体誰g(ry
Posted by: LNF |at: 2008/11/27 1:44 AM
>名無しさん
申し訳ない誰が何と言おうとフェイトさんがこんなこと言う相手はたった一人だけなんです(オイ
私が言うのも変ですがウチのなのフェイ読まれる時は甘い物厳禁ですド苦い物を用意しておいてください(ぇ
>nekoさん
こちらこそいつも嬉しいコメントありがとうございますー。
来月忙しくなりそうなので書ける時に書いてしまおうかな、と。
まあまあ、こんなぺらい駄作よりすんばらすぃ〜なのフェイはネットの海にたくさんあるはずですよ。でも時折思い出してチェックに来てくれると嬉しいです(笑)。
>イヒダリ彰人さん
ぶっちゃけパワプロタイムをなくせば三日に一度は投稿できるのですけど(おい
ちょっと来月は投稿できないかもしれないので、その分です(笑)。
五人全員登場させると破壊力が減ると認識してるので最近はあまり出さないでいたのですけど、たまにはいいかなあ、なんて。
もうこの二人は見事に高町夫妻から「いつまでも新婚オーラ」を受け継いでますので(ぇ
>LNFさん
話の流れとか強弱はともかく、あまり文章を素敵にしようとかは考えない性分ですから、書き出してから仕上がるまでは早いんです(笑)。
実はフェイトさんはなのはさんを襲いたくて仕方がないんですね!(おい
>きっとすずかさんとの睦言を思い出されたのでしょう
それってつまりこういうことですか?ww↓
「だ、だめだよアリサちゃん……こんな所で」
あ、それともこっちですかねwww↓
「だ、だめよすずか……こんな所で」
申し訳ない誰が何と言おうとフェイトさんがこんなこと言う相手はたった一人だけなんです(オイ
私が言うのも変ですがウチのなのフェイ読まれる時は甘い物厳禁ですド苦い物を用意しておいてください(ぇ
>nekoさん
こちらこそいつも嬉しいコメントありがとうございますー。
来月忙しくなりそうなので書ける時に書いてしまおうかな、と。
まあまあ、こんなぺらい駄作よりすんばらすぃ〜なのフェイはネットの海にたくさんあるはずですよ。でも時折思い出してチェックに来てくれると嬉しいです(笑)。
>イヒダリ彰人さん
ぶっちゃけパワプロタイムをなくせば三日に一度は投稿できるのですけど(おい
ちょっと来月は投稿できないかもしれないので、その分です(笑)。
五人全員登場させると破壊力が減ると認識してるので最近はあまり出さないでいたのですけど、たまにはいいかなあ、なんて。
もうこの二人は見事に高町夫妻から「いつまでも新婚オーラ」を受け継いでますので(ぇ
>LNFさん
話の流れとか強弱はともかく、あまり文章を素敵にしようとかは考えない性分ですから、書き出してから仕上がるまでは早いんです(笑)。
実はフェイトさんはなのはさんを襲いたくて仕方がないんですね!(おい
>きっとすずかさんとの睦言を思い出されたのでしょう
それってつまりこういうことですか?ww↓
「だ、だめだよアリサちゃん……こんな所で」
あ、それともこっちですかねwww↓
「だ、だめよすずか……こんな所で」
Posted by: mattio |at: 2008/11/30 1:07 PM
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