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魔法少女リリカルなのはCRUSADERS 第四章「アースガルドの義勇騎士団」(5)
 第四章終了。それぞれがそれぞれのために、戦いの火蓋は切って落とされます。












      ◇


そしてまた、世界は白銀に覆い尽くされていた。
 吹雪の中、ひどく遠くにシルエットだけがぽつんと見えるドームを振り返って、ヴィータはぎゅっと手にした鉄槌を握り直す。
「……なあ、ザフィーラ」
「何だ?」
 傍らに、いつものように寡黙に佇む蒼き狼に、ふとヴィータは問いかける。
「あたしについてきて、本当に良かったのか? だって今から、あたしは――」
「らしくないな、ヴィータ」
 ――死にに行くんだぞ。
 そう続くはずだったヴィータの言葉は、しかしザフィーラの声に遮られた。
「我の務めは、主とその守護者の盾となること。我の願いは、ただ主の幸福。――お前が主を救い、主に仇なす者を退ける刃になるなら、我はそれを護る盾になる。――それだけだ」
 珍しく饒舌な守護の獣に、ヴィータはふっと微笑んで、目を細めた。
「そうだな。――それで、みんなではやてを助けて、みんなではやてに、謝ろう。許してなんか、もらえないだろうけど。――ごめんなさいを、ちゃんと、言わないとな」
 それはあるいは、今まで自分たちが奪ってきた全ての命と――破滅へと追いやってきた全ての主に対して。
 決して許されない罪だとしても。
 出来ることは、それしかないから。
「決めるのは、主だ」
 静かに、ザフィーラがヴィータの言葉を継ぐ。
「もし……もし、主が我らを許すとしても。許されず、我らの罪がその死をもって贖うことになるとしても。――それは我らが決めることではない。主の意志をはっきりと確かめるまでは、我らにそれを勝手に判断することは出来ない」
「ザフィーラ」
「つまりだ、ヴィータ。――主を救い出すまで、我らは死ぬわけにはいかない、ということだ」
 きょとん、とヴィータは目を見開いて。
 そして、ひとつ不敵に笑った。
「ったりめーだ。はやて以外の誰にも、殺されてやるもんか」
 そう。騎士たる者、その命は自分だけのものではない。――この命も全て、主に捧げたのだから。
 生きて、はやてを救い出す。
「あたしらが死ねるのは――それでも、はやてが笑っていられるとき、それだけだ」
 それこそが、ベルカの騎士たる意志。
 全てを主に捧ぐ、騎士としての在り方――。
「行くぜ、ザフィーラ」
「応ッ」
 そして、ふたつの影は白銀の最中を翔けていく。
 向かう先は、ただ一点。
 アースガルド第一ドーム、聖王教会中央聖堂。

 その軌跡を見送る者は、どこにも居ない。


      ◇


 灰色に沈む街並みの中を、その一団が闊歩する。
 遠巻きにそれを眺める人々の目に、生気は無い。闖入者に突っかかっていくような気力のある者など、この街には存在しない。
 滅びゆく街の民は、ただ全てを受け流すだけ。
 13年前も、そして今も。
 死に至る街に相応しからぬ、騎士服を纏い聖槍を手にした騎士たちは、ゆっくりとその建物に向かっていく。
 コルサ・ディストラー。
 13年前、楽園を追われた枢機卿の住む屋敷へ。

「――これはまた、懐かしいな」
 挨拶もなく乗り込んだ闖入者たちを出迎えたのは、薄暗がりから姿を現した白髪の男。
 騎士たちの先頭に立つ壮年の男が、一歩前に出る。その姿に、コルサは目を細めた。
「一言の挨拶も無しに、人の家に上がり込むのが今の騎士団の流儀かね? 騎士クレスタ」
「事件捜査の一環としてご理解とご協力をお願いしたいものです、コルサ・ディストラー殿」
 クレスタと呼ばれた騎士は、表情を動かすこともなく静かにそう答えた。コルサは鼻を鳴らす。
「ほう、事件とな? 教会騎士団が、原則不可侵の廃棄区画にわざわざ乗り込んでくるほど重大な事件が起こっていたとは、楽園も物騒になったものだな」
「ええ全く、その通りですよ」
 そして、音もなく。
 クレスタの手にした聖槍が、コルサの眼前に突きつけられた。
「コルサ・ディストラー。聖王の御名の下、貴様の身柄を拘束する」
 ざ、と後方の騎士たちが、一糸乱れぬ足並みでコルサを取り囲んだ。
 しかしコルサはその状況にも表情を歪めるでもなく、小さく肩を竦めてみせる。
「理由を聞かせてほしいものだな」
「とぼけるか。――闇の書の主、八神はやてとその守護騎士4名。その居所を吐いて貰おう」
 クレスタの言葉に、コルサは。
「くっ――かかかっ、くくっ」
 堪えきれぬという様子で、笑い出す。その反応に、クレスタが微かに眉を寄せた。
「何が可笑しい」
「何もかもだ、騎士クレスタ」
「貴様に呼ばせる名など無い。――闇の書の主と守護騎士を、貴様が匿っていることは解っている。今更、何を企んでいるというのだ」
 ああ、実に滑稽。
 コルサは空疎な笑いを抑えきれない。
 道化の舞台は、新たな道化を舞台に押し上げて、再び幕を開けた。聖王陛下の導き? 違う。このような不出来な舞台――演じるのも馬鹿馬鹿しい。
「ブレビスの差し金か」
 クレスタは答えない。だがその沈黙は、あまりにも雄弁に過ぎた。
 良かろう、ブレビス・ヘンリット。貴様が新たな道化の舞台をこの楽園に築くというならば――かつて踊った道化が、その舞台を壊してみせよう。
「愚かだな。そして滑稽だ。――どこまでも、信じる者は救われぬ。それがこの楽園の摂理か」
 慨嘆するように、コルサは呟き。
 ――そして、その右手を振るった。
「ジークフリート」
《Jawhol》
 次の瞬間、その右手に顕現するのは、大柄なコルサの体躯ほどもある、無骨な大剣。黒光りする刀身が、薄闇の中に鈍く輝いた。
 取り囲む騎士たちが色めきたつ中、コルサは手にした大剣を軽々と振り上げ、眼前に構える。
「何十年ぶりかな。――いけるか、相棒」
《Lass das nur meine Sorge sein!!》
 心配無用。愛剣の答えにコルサは僅かに微笑して、担ぎ上げるようにその大剣を構えた。
「貴様ッ――」
 その顔を歪め叫ぶクレスタに、コルサは不敵に笑って、叫んだ。
「さあ、暴れるぞ、相棒!」


      ◇


 薄闇の路地裏を駆ける、ふたつの影がある。
 片方は右腕の無い紅紫の女。もう片方はそれを支えながら走る翠緑の女。
 ――追い出されるようにコルサの屋敷を飛び出して、シグナムとシャマルは廃棄区画の奥へと向かっていた。
『北東部最奥に、地下通路への入口がある。――貴様らの主を攫った者も、あるいはそちらに居るかもしれんな?』
 コルサはただそれだけを言い残した。今のシグナムとシャマルには、主を追う手がかりはただそれだけ。ヴィータとザフィーラがどこへ向かったのすら解らないのではどうしようもなかった。思念通話も、雑音がひどくて通じる気配が無い。
「シグナム、大丈夫?」
「ああ――どうということはない」
 正直に言えば、無くした右腕の痛みはまだ疼き続けている。それでもシグナムはつとめて表情を変えることなく、走り続けていた。
 右腕よりも、取り戻すべき大事なものが、自分たちにはあるのだから。
「なあ、シャマル」
「なに?」
「――もうすぐ、クリスマスだったな」
 全く唐突なシグナムの言葉に、シャマルはきょとんと目を見開いた。
「どうしたの? 急に」
「いや――主はやてへのプレゼントをまだ買っていなかったのを、思い出したんだ」
 シグナムの言葉に、シャマルは目を細めた。
「――そうね。早く向こうに戻って、はやてちゃんへのクリスマスプレゼント、買っておかなきゃいけないわね」
「ああ。――クリスマスまでに、必ず」
 必ず、帰る。
 主の元へ。主とともに、あの場所へ、
 ――そのために、戦うのだ。

 そして、響いた別の足音。
 それは、どうしようもないほどに、戦いの合図でしかなかった。

 息を飲み、シグナムは足を止める。気配が近い。5つ――いや7つ。相応の手練れの気配。
「シャマル、先に行け」
「シグナムっ」
「露払いは私の役目だ。――早く!」
 シグナムの言葉に、シャマルは僅かに躊躇するように拳を握って――けれど静かに頷くと、シグナムから離れ、走りだす。
 その背中を見送って、それからシグナムは自分を取り囲む気配へと振り返った。
「隠れていないで、出てきたらどうだ。私はこれ以上、逃げも隠れもしないぞ」
 言い放ち、そしてシグナムは首から下げたミニチュアの剣を、左手にとる。
「レヴァンティン!」
《Jah!!》
 白皙の魔剣は、普段刃を握ることのない左手に、炎を纏って顕現した。
 それを合図にするかのように、気配が薄闇の中から姿を現す。――それは、騎士服を身に纏い、槍を手にした教会騎士たち。13年前の咎人たちを断罪すべく遣わされた、聖王教会の刺客だ。
 騎士たちが、その手の槍を構える。シグナムも息を吐き出し、左手の刃を振りかざした。
「闇の書の守護騎士、剣の騎士シグナムだな」
 騎士のひとりが、静かに問うた。
 シグナムは、ただ静かに――首を振った。
「否。――我、闇の書の守護騎士にあらず」
 その言葉に、騎士たちが表情を変えたのかどうかは、シグナムには解らなかったが。
「我が名はシグナム。夜天の王、八神はやてが騎士、烈火の将シグナム!」
 その名乗りは、自らの意志を確かめるように。
「――何も違わぬ。13年前の咎人よ、聖王の御名のもと、その罪を血で贖え!」
 そして、騎士のひとりがその聖槍を振りかざし、シグナムの元へ飛び込んだ――。


      ◇


 教会騎士とは、何のためにある。
 楽園の民を、守るためにある。
 ――それは全ての教会騎士の、存在の大前提。
 その腕は、正義の刃を振るうために。
 その足は、守るべき者の元へ駆けるために。
 その目は、民を見守り敵を見破るために。
 五体の全ては、楽園を守るためにある。
 それはまるで、機械のように。歯車のように。
 このアースガルドという楽園を守り続けるための、自分たちは部品のひとつなのだと。

 彼女は想う。
 だとしても。ただの部品なのだとしても。
 悲しみという感情は、無くすことができない。
 憎しみという感情も、無くすことができない。
 ――だからこそ、悲劇は繰り返される。

 これもまた悲劇のひとつなのだろう。
 けれどそれは、終わりのための悲劇だ。
 いくつかの命が失われるとしても。
 その喪失により、悲劇は終わる。
 繰り返される輪廻の物語は、終わるはずだ。

 だから、今。
 自分はただの、部品にならねばならない。

 心を殺せ。
 悲しみなど不要。涙など無意味。
 為すべきことは、悲劇の輪廻を断ち切るために。
『その憎しみで、僕以外の誰も傷つけないでくれ』
 甦るのは、いつかかけられた言葉。
 けれどそれも、振り払わねばならない。
 何ひとつ犠牲にすることなき大団円など、所詮は夢物語でしかないのだから。

 ――そんな思索の果てに。
 彼女は、その影と巡り会う。
 廃棄区画。聖王に見捨てられた土地で。
 彼女が見つけたのは、たったひとり、逃げるように走り続ける、翠の騎士。

「貴女、は――」
 目の前の守護騎士が、愕然と目を見開いた。
 金色の髪と翠緑の法衣。湖の騎士シャマルだ。
 後衛であり、戦闘能力はほぼ無いに等しい騎士。
「第五師団騎士、アイシス・ヘンリットです」
 彼女はただ、その名を名乗る。
「――闇の書の主、八神はやてはどこに?」
 突きつけるのは、聖槍の切っ先。
 その問いに、湖の騎士は答えない。
 答えなど、最初から期待していなかった。
「黙秘ならば、それで構いません」
 そして彼女は、断ち切るように告げる。

 さあ、罪を犯そう。
 全ての悲しみと、全ての憎しみの清算のために。
 犯さねばならぬ、罪をこの手に。

 ――それしか、今の自分には出来ないから。

「湖の騎士シャマル。貴女を殺します」



Chapter 4 "Chevalier of Asgard" closed.
to be continued on Chapter 5 "Freiheitsglocke"...




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| 浅木原忍 | 01:42 | comments(1) | trackbacks(0) |
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Comment
熱い展開になってきましたね。
それにしてもザッフィー兄貴の貫禄ある言葉といったらないですな。
Posted by: T |at: 2008/11/21 7:21 PM








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【妖夢×鈴仙】
うみょんげ!(創想話・完結)
 第1話「半人半霊、半熟者」
 第2話「あの月のこちらがわ」
 第3話「今夜月の見える庭で」
 第4話「儚い月の残照」
 第5話「君に降る雨」
 第6話「月からきたもの」
 第7話「月下白刃」
 第8話「永遠エスケープ」
 第9話「黄昏と月の迷路」
 第10話「穢れ」
 第11話「さよなら」
 最終話「半熟剣士と地上の兎」

【お燐×おくう】
りん×くう!(完結)
 ※スピンオフなので、できれば先に『ゆう×ぱる!』をどうぞ。
 1 / 火焔猫燐
 2 / 霊烏路空
 3 / 火焔猫燐
 4 / 霊烏路空
 5 / 古明地さとり
 6 / 火焔猫燐
 7 / 霊烏路空
 8 / 火焔猫燐
 9 / 古明地さとり
 10 / 霊烏路空
 11 / 火焔猫燐
 12 / 古明地さとり
 13 / 霊烏路空
 14 / 火焔猫燐
 15 / 古明地さとり
 16 / 霊烏路空
 17 / 古明地こいし
 18 / そして、地底の恋物語

【勇儀×パルスィ】
ゆう×ぱる!(完結)
 0 / そして、星熊勇儀の孤独
 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
 (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13)
 14 / 「星熊勇儀の微睡」
 15 / 「水橋パルスィの恋心」
 16 / 「星熊勇儀の応談」
 17 / 「黒谷ヤマメの懸念」
 18 / 「星熊勇儀の懊悩」
 19 / 「キスメの不安」
 20 / 「火焔猫燐の憂鬱」
 21 / 「黒谷ヤマメの奮闘」
 22 / 「古明地さとりの場合」
 23 / 「水橋パルスィの狂気」
 24 / 「古明地さとりの思案」
 25 / 「星熊勇儀の煩悶」
 26 / 「水橋パルスィの意識」
 27 / 「星熊勇儀の虚言」
 28 / 「水橋パルスィの嫉妬」
 29 / 「星熊勇儀の決断」
 30 / 「キスメの幸福」
 31 / 「水橋パルスィの戸惑」
 32 / 「黒谷ヤマメの嫉妬」
 33 / 「古明地さとりの思惟」
 34 / 「キスメの献身」
 35 / 「星熊勇儀の愛情」
 36 / 「水橋パルスィの変化」
 37 / 「火焔猫燐の懸案」
 38 / 「星熊勇儀の失態」
 39 / 「水橋パルスィの存在」
 40 / 「星熊勇儀の審判」
 41 / 「水橋パルスィの幸福」
 42 / 「星熊勇儀の願い」
 43 / 「地底への闖入者」
 44 / 「水橋パルスィの真実」
 45 / 「星熊勇儀の幸福」
 46 / 「星熊勇儀と、水橋パルスィ」
 47 / 「地底の恋物語」

【にとり×雛】
にと×ひな!(完結)
 Stage1「人恋し河童と厄神と」
  SIDE:A SIDE:B
 Stage2「厄神様へ続く道」
  SIDE:A SIDE:B
 Stage3「神々も恋せよ幻想の片隅で」
  SIDE:A SIDE:B(前編)(後編)
 Stage4「秋めく恋」
  SIDE:A SIDE:B SIDE:C
 Stage5「少女が見た幻想の恋物語」
  (1) (2) (3) (4)
 Stage6「明日晴れたら、雨は昨日へ」
  (1) (2) (3) (4)

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【少女秘封録】
 真昼の虹を追いかけて
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 2085年のベース・ボール
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【自警団上白沢班の日常】
 折れた傘骨
 おおかみおんなと人魚姫

【探偵ナズーリンシリーズ】
 説法の時は出たくない
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 貴方のための探し物
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 第8回稗田文芸賞・候補作予想メッタ斬り!
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 「八雲紫の牛丼と焼き餃子」
<Season 2>
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【沈月 影さん】(影ラボ
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【結さん】
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【tanakaさん】部屋の隅っこで小説なんかをやってみる
 君が見てくれているから/新年
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