ひっかかって。
2008.09.25 Thursday | category:投稿&頂き物SS
「にゃあっ!」
脇から突然上がった声に、思わず体をすくませてしまった。
「なのは?」
どうしたんだろう。
振り向くとなのはがその場にしゃがみこんで、両手で顔を必死に擦っている。
しゃがむと、その長いサイドポニーが地面についてしまうのに。なのははそれどころではないようだ。
「うぅ〜……ふぇいとちゃあん……」
涙声で名前を呼ばれて、焦りが増した。
まさか、私が何かしてしまったのだろうか。
「なのは、どうしたの?」
「く、クモの巣が……」
ハッとなのはの頭上を見やると――なるほど、通り過ぎようとした柱と柱の間……それもよりによって、なのはの側に巣を張っていたらしい。
「大丈夫? ハンカチ貸すよ?」
様子を窺おうと屈んで顔を覗き見たその時。私と目が合ったなのはの険しい表情が不意に笑み崩れた。
「えいっ」
「わっ! なのは!? ちょ――」
予測外のその行動にされるがままになってしまった。体をあずけてくるなのはを支えて、へたり込まないよう堪えるのがやっと。
その懸命に顔を拭う様ときたら。端から見たらなのはが私に抱き付いているようにも見えるのではないか。
けれど素直には喜べない私がいる。だって……
「ぷはっ。にゃは、すっきりしたぁ」
「……なのは」
「なぁに? フェイトちゃん」
きょとんと首を傾げるなのはに、静かに問う。
「どうして、ここで拭いたの」
指し示す先は、自分の胸元。なのはがここで拭いたせいで、目立ってはいないけれど、幾本ものクモの糸がこびり付いてしまった。
咎めるようにじろりと見つめたら、なのはが申し訳なさげに頭を掻きだした。
「えへへ。拭き心地が良さそうだったから、つい……」
この可愛い顔を本気で叱れる人は大した人だと思う。何だか悔しくてため息が出た。
「ついじゃないよ、もぉ。なのはのばか」
緩んだ顔を晒さないよう、顔を背けるので精一杯だ。
なのはがあわてた様子で正面に回り込んできた。
「ごめんごめん。ちゃんと洗って返すから、ウチに寄っていって」
「……ひょっとして」
「ひょっとして?」
「なんでもない」
問いかけてもし違っていたら、墓穴を掘ってしまう。またからかわれてしまう。
それが目的で私の制服をハンカチ代わりにした、と疑ってしまう私は、やはりひねくれているのだろうか。
「やっぱりやわらかかったなぁ」
「な、なのはっ」
頭を振って気を取り直す。熱を放出する。
なのはの肩に手を置いて、今はっきり確認しておかなければならない本題を切り出した。
「なのは、最近ぼーっとしてない?」
「ふぇ? そんなことないよ」
「だって、この間も何もないところでつまずいたよね?」
「う……」
バツが悪そうになのはの顔が引きつった。畳みかける。
「私が話してても聞いてなかったりとか、よくあるし」
「あわ……」
自覚はあるらしい。戸惑う様子が何よりの証拠。
「仕事、無理してない? 何か悩み事があるとか?」
思い当たるのは、小学生の時の、あの事故。
過去のこととはいってもまだ一、二年だ。最悪、その影響がまだあるのかもしれない。
「あはは、大丈夫だってば。心配性だなぁ、フェイトちゃんは」
乾いた笑いを返されても、説得力ないよ。
少しくらい弱味を漏らしてくれればこっちも、それこそ何事よりも優先してなのはに尽くすのに。頑張れるのに。
「心配にもなるよ、なのはのことなんだから……」
「むぅ〜……そんなに信用ないのかなぁ、わたし」
むくれるなのはに苦笑を返す、私。
「なのはは何をするにもいつも全力だから」
なのははみんながどれだけなのはのことを大切に思っているのか、解ってない。
口煩いとは解っていても、ついつい説教がましくなってしまう。
「なのははなんでもない格好してたって可愛いから、心配なんだ」
「え?」
「……ぁ」
そして、ついついが過ぎて。心配の意味がずれてしまった。
漏れてしまった本音を隠滅するべく、歩き出した。なのはが小走りでついてきて、横からじーっと私を覗き込んでくる。まるで「今、何て言ったの?」とでも言いたげだ。
無視しきれなくて、歩きながらやむなく口を開いた。
「こっちの話、だよ」
「こっちの話って?」
「なのはは気にしなくていい話」
本当はして欲しいのだけれど。こんな照れくさいこと、改まって言えるわけもない。
「そう言われちゃうと気になるなぁ……教えて?」
盛んに目を瞬いて。なのはは本当におねだり上手だ。そういつもなのはの思うように事は運ばないと、私が教えてあげなければならない。
「だめ」
途端になのはが膨れる。まったく、笑顔だけでなく無愛想な顔まで愛らしいなんて。神様は不公平だ。
顔を背けて足を速めたら、なのはも負けじと歩調を合わせてついてきた。
「ケチー」
「ケチだよ」
「ばーか」
「無視、無視」
「あ、クモの巣」
「無視、む――」
メリ、と眼前で嫌な音がした。悪寒がして歩みも止まる。
あぁ、どうも立派な巣に捕らわれた、というか、突き破ってしまったらしい。
「く――ふふっ。にゃははははっ。フェイトちゃんてば、っあははははは!」
「…………あぅ」
なのはのばか。人を指差して笑うなんて。
糸も払わず立ち尽くして。私の脇で、お腹を抱えて存分に笑い続けるなのはを眺めていたら、少しムッとした。
ようやく笑い終え――きれずに、顔がにやけたままのなのはが私と向き合ってきた。
「フェイトちゃん、拭くもの欲しい?」
「……要らない」
「あれ? 聞こえなかったなぁ」
白々しい。また私の様子を面白がってる。
自分のハンカチで十分だ。なのはのハンカチなんて必要ない。
「要らないよ」
「ふーん、欲しいんだ?」
要らないって言ってるのに。何かを企んでいるのが見え見えなそのにやけ顔がなんともくすぐったい。
「じゃあ屈んで」
「こ、こう?」
つい言われるがまま屈んでしまったと気づいたときにはもう。後ろ頭をつかまれて……
「ぎゅーっ」
「……あぅ」
……なのはの『ハンカチ』は。その、えと、何と言うか。
やわらかい。あぁ、それしか頭に浮かばない。
込み上げてくる温かいものが、あっという間に胸をいっぱいにしていく。
仕方がない。今日のなのはは、何をしてもいいことにしておこう。
とりあえずクモには感謝の気持ちでいっぱいだ。それだけは確かだ。
「わたしがぼーっとしちゃうのはね、誰かさんのせいなんだよ」
思わず喉が鳴ってしまった。
それは、本当に小さな声で。でもその甘い声音を聞き取れないはずもなくて。
「……今、なんて?」
けど、もう一度聞きたくて。耳元で囁き返したら、返ってきたのは頬への軽い口付け。
「にゃは。フェイトちゃんは気にしなくていいよ」
なのはが意地悪く笑った。喜び一転、不安がよぎる。
気にしなくていいって。まさか、私のことではないのだろうか。
悩んでると、なのはが背を向けて跳ねるように駆けていく。その横顔が赤く見えたのはそうあって欲しいと願う私の都合いい思い込みなのだろうか。
ふと、ひらりと軽やかに身を翻したなのはが、舌を見せて笑った。
「気にしてくれたら、嬉しいけどねっ」
……と、いうことは…………そう、つまり。
頭の中で今の言葉を何度も繰り返していたら、なのははとぼけたようにそっぽを向いて先へと歩いていく。何もなかったかのように。歩調はどう見ても機嫌が良さそうだけど。
一つ大きな息をついて、苦笑をかみ殺して、私はなのはを追った。
まったく。いつか絶対捕まえて、そうしたらずっと離してやらないんだ。
無邪気に飛び回る、この蝶だけは。
Comment
あー…もうね、言葉も無いやね、こーのバカップルさん達わっ!
もーどーぞどーぞ、人前だろうがなんだろうがeverytime&everyplaceでイチャイチャベタベタきゃっきゃうふふしていて下さいませ。
渋めのアールグレイの用意は出来てますんで。
しかしながら好きな相手には微塵にも自重しないのは、『いつでも全力全開』が信条のなのはさんの真骨頂なんでしょうね(笑)
もーどーぞどーぞ、人前だろうがなんだろうがeverytime&everyplaceでイチャイチャベタベタきゃっきゃうふふしていて下さいませ。
渋めのアールグレイの用意は出来てますんで。
しかしながら好きな相手には微塵にも自重しないのは、『いつでも全力全開』が信条のなのはさんの真骨頂なんでしょうね(笑)
Posted by: LNF |at: 2008/09/27 11:27 AM
ばかっぽー♪ばばばばかっぽー♪
なんですか!このキュンキュンしちゃうSSわっ!?けしからん!真にけしからん!おかわりください!!
…すみません。取り乱しました。
最高ななのフェイ成分ありがとうございました!!
なんですか!このキュンキュンしちゃうSSわっ!?けしからん!真にけしからん!おかわりください!!
…すみません。取り乱しました。
最高ななのフェイ成分ありがとうございました!!
Posted by: neko |at: 2008/09/27 8:15 PM
こんななのはさんがいたら、フェイトさんはもう……
mattioさん=甘々製造機ですな。
あいかわらずのクオリティに口許が弛んでしかたない。
ニヤニヤが治らなかったら訴えてやる(笑)
MASSIVE WONDERSを聴きながら読んでいたんですが、曲とSSの雰囲気がビックリするほどに合わない。
BGMは大切だと思った今日この頃。
mattioさん=甘々製造機ですな。
あいかわらずのクオリティに口許が弛んでしかたない。
ニヤニヤが治らなかったら訴えてやる(笑)
MASSIVE WONDERSを聴きながら読んでいたんですが、曲とSSの雰囲気がビックリするほどに合わない。
BGMは大切だと思った今日この頃。
Posted by: イヒダリ彰人 |at: 2008/09/27 9:55 PM
>LNFさん
この二人だからできる桃色結界、突っ込むなんて無粋、というか無駄ですよね(笑)。
顔真っ赤にして照れつつも抑えきれない愛を全力で行動に移すタイプだと思うのですよ、なのはさんは。
SLB!!(*∩ω<)っ≡≡≡≡≡☆(*>U<*)ナノハノバカーッ
↑みたいな(マテ
>nekoさん
おかわりはまた来月にー☆ダセルカナ(´-ω-`;)ゞ
最高の癒しコメントありがとうございましたー!
>イヒダリ彰人さん
フェイトさんがなのはさんをこんなふうにしてしまったのです(笑)。
割と自分の周囲で起きてるなんでもない事象をネタにしてるのですけどねー。なのフェイがやるとたちまちバカップルにいやほんと二人は素晴らしい(ry
>MASSIVE WONDERS〜
Σ(゜ロ゜)ダンナそいつはカオス極まりないz(ry
この二人だからできる桃色結界、突っ込むなんて無粋、というか無駄ですよね(笑)。
顔真っ赤にして照れつつも抑えきれない愛を全力で行動に移すタイプだと思うのですよ、なのはさんは。
SLB!!(*∩ω<)っ≡≡≡≡≡☆(*>U<*)ナノハノバカーッ
↑みたいな(マテ
>nekoさん
おかわりはまた来月にー☆ダセルカナ(´-ω-`;)ゞ
最高の癒しコメントありがとうございましたー!
>イヒダリ彰人さん
フェイトさんがなのはさんをこんなふうにしてしまったのです(笑)。
割と自分の周囲で起きてるなんでもない事象をネタにしてるのですけどねー。なのフェイがやるとたちまちバカップルにいやほんと二人は素晴らしい(ry
>MASSIVE WONDERS〜
Σ(゜ロ゜)ダンナそいつはカオス極まりないz(ry
Posted by: mattio |at: 2008/09/29 11:51 AM
くあ〜なんだろ、見てて照れくさくなるというか、顔がめっちゃにやける(マジです)
バカップル過ぎて照れ通り越して、ニヤニヤになってしまった。次はにゃんにゃんに、なったらダメですが期待してしまう俺がいるw
バカップル過ぎて照れ通り越して、ニヤニヤになってしまった。次はにゃんにゃんに、なったらダメですが期待してしまう俺がいるw
Posted by: コウ |at: 2008/10/11 3:25 PM
>コウさん
嬉しいコメントありがとうございますー(*´ω`)
>にゃんにゃん
てか、何だか最近各所でにゃんこやわんこな二人がよく見られるようになったような気がしてるのは私だけなのでしょうかー(´・ω・`)
嬉しいコメントありがとうございますー(*´ω`)
>にゃんにゃん
てか、何だか最近各所でにゃんこやわんこな二人がよく見られるようになったような気がしてるのは私だけなのでしょうかー(´・ω・`)
Posted by: mattio |at: 2008/10/12 10:04 PM
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