一番守りたいもの、それは――
2008.08.30 Saturday | category:投稿&頂き物SS
ひょっとするとこれは、互いに引かれ合った、という事象なのだろうか。
だとしたら、ちょっと嬉しい、けど。
――それにしても、迂闊だった。でもこのミッドチルダでも特に広大な、クラナガンのこんな小さなコンビニの前をなのはが通りかかるなんて、予想できるわけがない。
その考えが、甘すぎた。
「フェイトちゃん」
困った。なのはになんて返事を……いや、言い訳すればいいのか解らない。
別に悪いことをしたわけでもないのに。ただちょっと、立ち読みしてただけなのに。この後ろめたい気持ちはなんだろうか。
「フェイトちゃあん……」
ほら、なのはが困ってる。しっかりしろ、フェイト。この際何でもいい、返事をしないと。
……できれば全く関係のない話題を持ち出して、さっきのことをなかったようにして……。
「えと。きょ、今日のなのはは、……か、可愛いね」
とっさに口から飛び出したのは、なんとも味気のない褒め言葉。自分で自分に呆れ返った。
「ふぇ? それって、いつもは可愛くないってこと?」
「あぅ。いつも可愛い、けど」
「でも先月受けた取材の時は写真写りが悪くて良くないって言われたよ?」
あまりに聞き捨てならないことを言われて思わず眉を顰めた。
「な――そんなことないよ! あんなに可愛く写ってるのに……誰がそんなこと言ったのっ」
許せない。なのはを侮辱するなんて、相当ひねくれた人か、なのはの飛びぬけた魅力に嫉妬してる人のどちらかに違いない。
――と。言ってしまってから、なのはの苦笑を目の当たりにしてから、なのはの策略にはまってしまったことに気づいた。
「あ、あはは。やっぱり、さっきフェイトちゃんが読んでたのって、わたしの記事が載った雑誌だったんだ」
……バレた。ずるいよ、誘導尋問なんて。ただでさえ私は引っかかりやすいというのに。
あぁ、そうか。なのはの記事を、なのはに内緒で読んでる自分を、他でもないなのはに見られたから。だからこんなに気が滅入ってるんだ。
……ひとまず、これだけは確認しておかなければならない。
「なのはのこと、悪く言った人がいるっていうのは、本当?」
「にゃはは、ううん。みんな褒めてくれたよ、笑うとすごくいいって。撮った写真焼き増しして欲しいってカメラマンの人に頼んでた人とかいたし」
「…………そう」
羨ましい、もとい、なんてずるい人たちだ。そこにはきっと、雑誌に載らなかった写真もたくさんあるに違いない。どうせ焼き増しするなら読者の分も数に入れて欲しい。だって職権乱用じゃないか。
ふと、閃いた。エイミィなら何とか入手してくれるのでは。家に帰ったらそれとなくお願いしてみよう。
……これは、職権乱用じゃない。…………多分。
「フェイトちゃんは必要ないでしょ。わたし、いるんだから」
「え……」
思わず振り向くと、知ってるよ、とばかりにニッと笑うなのはと目が合った。
あぁ、また顔に出てしまったのか……それともなのはの勘がいいのか。
「えへへ。でもびっくりしたなぁ、フェイトちゃんがコンビニで立ち読みなんて」
「あぅ」
仕方ないじゃないか。その場で読まずにはいられなかったのだから。
「わたしが外から手振っても全然気づかないし」
「あぅ」
仕方ないじゃないか。写真のなのはに釘付けだったのだから。
「しかもすっごいニヤニヤしてたし」
「え、えぇ!? そんなこと、ないよっ!」
それは、納得いかない。確かに夢中で読み耽っていたことは認めるけど。そんなニヤニヤするような内容があっただろうか。
あぁ、でもニヤニヤはともかく、私のことを言ってるんだ、と推理できる、なのはの受け答えの部分では思わず頬が緩んでしまっていたような気もする……。
「ショックだなぁ、真面目な記事をあんないやらしい顔で読まれてたなんて」
なのはがくたびれたようにため息をついた。これはいつもの、私を困らせるための演技だろうか、それとも……。
もう、どこまでが本心なのか、なのはのことが読めない自分が悲しい。
「ごごごご、ごめん! でも変な気持ちで読んでたわけじゃないんだよっ? ほんとだよっ?」
「実はそのいやらしい顔、ケータイで撮ってあるんだ。後で皆にメールしておくからね」
「そ、そんな……」
考えただけで身震いする。それはもう、極刑を言い渡されたのも同然だから。というか、自分のいやらしい顔がどれだけ酷いものなのか、よく想像がつかない。
「にゃは。取引する?」
「え?」
にんまりと笑うなのはが、ぽん、と自分の制服のポケットを叩いた。
「わたしのお願い聞いてくれたら画像消してあげる」
……なるほど、最初からそれが目的だったわけか。さすがはなのは。先のことまで計算済みということか。
「……お願いって、どんな?」
「えへへ。――」
なのはが目を閉じた。若干背が高めな私に合わせて、顎を上げて。頬のみならず耳まで赤くして。
あぁ、やっぱり、キスか。お安い御用だ、それで周りに醜態を晒さずに済むのなら。
「ん、……ふ」
こんなお願いなら、言ってくれればわざわざ悪戯なんかしなくたって聞いてあげるのに。
そんなところが可愛いのだけれど。
「っ。……にゃは。じゃあ早速お願い聞いてもらうね」
「…………え?」
ぺろっと舌で唇を小さく舐め回すなり、ふふん、とばかりに可愛い威張り顔を見せてくれる、なのは。
「え、じゃないよ。わたしまだお願いしてないでしょ。言ってないもん」
……そう、きたか。さすがはなのは。
いつも私の想像の上をいく、困った小悪魔天使だ。言い返せるわけもない。
「じゃあ、なのはのお願いって、何?」
「もう一回、して」
そう言って、なのはが再び目を閉じた。
軽く突き出された唇が、そろそろと私のそれに近づいてきて、そして、私は――
――――――パシャリ。
「ふぇ? ……フェイト、ちゃん?」
「……撮った、よ? なのはの、」
とても人には見せることのできない、可愛い顔を。真正面から。手早く携帯電話を操作して、画像保存。
「………………あ、あああああぁ〜っ!!」
数拍おいて、なのはが地団駄、足踏みして悔しがりだした。
「ずるい! ずるいずるい!! ずるいずるいずるいずるいずるい〜」
「なのはに言われたくないよ」
元はというと、なのはが勝手に私の顔を撮ったりなんかしたのが悪いんだ。
「なのは、これ消して欲しかったら、……そっちの画像も消して」
やりすぎな気もするけれど、こうでもしないと、いつきちんと画像を消してくれるのか解らない。
それを引き合いに、なのはに好き放題されては困る。
……それも、ちょっと興味を引くけれど。なのはのためにならないから。
「…………うぅ〜」
そんなに消したくないのだろうか。なかなか携帯電話を取り出そうとしない。
「……撮ってないもん」
「え?」
なのはがぼそりと呟いた。それが思いがけない返事で、頭が真っ白になってしまった。
「勝手に撮ったりなんか、ほんとはしてないもん」
「嘘……」
「ほんとだもん。フェイトちゃんのばか」
なのはがつん、といった具合に顔を背けた。
これは、きっと演技じゃない、よね。
あぁ、けどどうもなのはの意にそぐわない行動をとってしまった。それだけは解った。
「何したら消してくれるの? フェイトちゃん」
じろり、恨めしそうに見つめられるとまるで私がなのはをいじめたみたいじゃないか。
「……えと」
どうしよう。思いがけず逆転して、優位な立場になってしまった。
「変なお願いはダメだよ?」
心外だ、なのはじゃあるまいし。
と、これ以上の言い争いはするべきではないから、そこは口に出さないことにする。
「――じゃあ、」
真っ先に浮かんだ、今一番欲しいものを要求することにしよう。
「ふぇ――っ」
急に距離を詰められて目を見開く、なのは。その驚く顔が可愛くて、つい目を伏せるタイミングを逃してしまった。
不意を衝いたはずの私までどきりとしてしまった。唇に触れる柔らかさよりも、あまりに近い距離で交錯した瞳が、私の心を砂糖菓子のように甘く、とろかしていく。
息が苦しくなってきて、唇を離して。
改めて、早速手札の権利を行使することにする。私の望みは、キスではないのだから。
「笑って、なのは」
――ほら、やっぱりそうだ。口付けた後の顔が、一番素敵だ。なのはは。
ふと。雑誌に載ってた、ある質問に対するなのはの答えと、私のそれが同じであったことに今更気づいて、思わず笑みがこぼれてしまった。
私が一番守りたいもの。それは――
Comment
大手の雑誌とは言え、嫁であるなのはさんの写真を見て脳内で「なのはかわいいよかわいいよなのは」を繰り返しつつ妻の可愛さを次元通信の大音声で叫びたい衝動に駆られて居るであろう、顔が緩みっぱなしで仕方がない夫なフェイトさんと、無視されたけどその相手が自分の写真で、写真でも自分の夢中になってくれるのは嬉しいけど、でもちょっとその写真の自分に出さえ嫉妬を抱いてしまう妻ななのはさん…
あのぉこれ一体何処のバカップルなんでしょう(爆)微笑ましいんですけど…
あれ?ちょっと待って?フェイトさん立ち読みって事はこれコンビニの中ですよね?
店員さんや他のお客さん居ますよね?
公開プレイ?(プレイ言うな)
スイマセン、自分これからミッドチルダ速攻行ってこのコンビニ探して防犯ビデオのコピー頼んできます。ブルーレイに焼きますよ?マヂで
あのぉこれ一体何処のバカップルなんでしょう(爆)微笑ましいんですけど…
あれ?ちょっと待って?フェイトさん立ち読みって事はこれコンビニの中ですよね?
店員さんや他のお客さん居ますよね?
公開プレイ?(プレイ言うな)
スイマセン、自分これからミッドチルダ速攻行ってこのコンビニ探して防犯ビデオのコピー頼んできます。ブルーレイに焼きますよ?マヂで
Posted by: LNF |at: 2008/09/02 12:28 AM
はじめまして、イヒダリ彰人です。
なんだろう……みんなから言われてウンザリしてるとは思いますが、自分からも一言。
『甘ぁぁぁい!』
ここまで前人未踏の甘さを表現した小説を、自分はいまだかつて見たことがない。
しかも、そんな甘い物語を十以上も生み出している。
mattioさんの脳味噌は砂糖菓子で構成されているのか!?
それと局通vol.13を見ました。
合同誌ならではの試みに感動しました。とてもとても素晴らしい!
これは自分も負けていられない。
こうなったら辛い話を書いてやる!(辛い話ってなんだろう? ハバネロ食べながら考えよう)
なんだろう……みんなから言われてウンザリしてるとは思いますが、自分からも一言。
『甘ぁぁぁい!』
ここまで前人未踏の甘さを表現した小説を、自分はいまだかつて見たことがない。
しかも、そんな甘い物語を十以上も生み出している。
mattioさんの脳味噌は砂糖菓子で構成されているのか!?
それと局通vol.13を見ました。
合同誌ならではの試みに感動しました。とてもとても素晴らしい!
これは自分も負けていられない。
こうなったら辛い話を書いてやる!(辛い話ってなんだろう? ハバネロ食べながら考えよう)
Posted by: イヒダリ彰人 |at: 2008/09/02 10:17 PM
>LNFさん
すみません、その防犯ビデオは管理局の制服を着た謎のタヌキによって強奪されたようです(ぇ
ちなみに雑誌閲覧中のフェイトさんは周りには雑誌を聖母のような甘い微笑で眺める美少女、としか映ってません。罪なコですね(ry
>無視されたけどその相手が自分の写真で〜
ていうかその乙女なのはさんいいですね、私のツボです。ネタ浮かんだらぜひそんな感じのなのはさんが書きたいものです。
>イヒダリ彰人さん
はじめましてー。こちらこそ、局通でのご活躍はよく目にしておりました。
ウンザリなんてしてませんよーw私には最高の癒しです、ありがとうございます。
元からこんなだったわけじゃないんですよ? いつからでしょう……なのフェイSS3へ寄稿した辺りからこういう妄想がぽんすか湧いて出てきて止まらなくなった気がします(ぇ
きっとあの作品で自分の甘以外の要素を使い果たしてしまったんではないかと(笑)。
局通の方も読んで頂けたようで、ありがとうございます。
私なんぞがこんな取り組みするのは厚かましいとは思いましたが、高ぶる気持ちを抑えきれなくてつい……。
そんなそんな。辛い話とか言わずに甘いの書きましょう? 皆なのフェイで糖尿になっちゃえばいいんだ(ヲイ
すみません、その防犯ビデオは管理局の制服を着た謎のタヌキによって強奪されたようです(ぇ
ちなみに雑誌閲覧中のフェイトさんは周りには雑誌を聖母のような甘い微笑で眺める美少女、としか映ってません。罪なコですね(ry
>無視されたけどその相手が自分の写真で〜
ていうかその乙女なのはさんいいですね、私のツボです。ネタ浮かんだらぜひそんな感じのなのはさんが書きたいものです。
>イヒダリ彰人さん
はじめましてー。こちらこそ、局通でのご活躍はよく目にしておりました。
ウンザリなんてしてませんよーw私には最高の癒しです、ありがとうございます。
元からこんなだったわけじゃないんですよ? いつからでしょう……なのフェイSS3へ寄稿した辺りからこういう妄想がぽんすか湧いて出てきて止まらなくなった気がします(ぇ
きっとあの作品で自分の甘以外の要素を使い果たしてしまったんではないかと(笑)。
局通の方も読んで頂けたようで、ありがとうございます。
私なんぞがこんな取り組みするのは厚かましいとは思いましたが、高ぶる気持ちを抑えきれなくてつい……。
そんなそんな。辛い話とか言わずに甘いの書きましょう? 皆なのフェイで糖尿になっちゃえばいいんだ(ヲイ
Posted by: mattio |at: 2008/09/03 5:42 PM
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