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魔法少女リリカルなのはCRUSADERS 第三章「ファブニールの伝説」(4)
 第三章終了。第四章は夏コミ前後に開始予定です。
 あと入稿終わりました。上巻は無事夏コミで出せそうです。











      ◇


 その屋敷に足を踏み入れた瞬間、頭痛が酷くなった気がした。
 負った傷の痛みではない。脳の内側から響くような痛みに、ヴィータは顔をしかめる。
 じゃり、と足がガラスの破片を踏みしめた。いつから放置されているのか、荒れ果てた屋敷の中はひどく薄暗い。ひび割れた壁、埃の積もった床、そしてあちこちに染みこんだ黒ずんだ色は――おそらくは、血痕。
 ここで、かつていくつもの死があった。それがヴィータには解った。
 そう、そこで死んだのは――
「…………ッ」
 頭が痛い。耳の奥に針を通されたような痛み。ふらつきながら、しかしヴィータは何かに導かれるように足を進める。
 導いているのは、かつての記憶だ。
 身体が記憶していた。この屋敷の構造を。部屋の位置を。頭では覚えていないはずなのに、ヴィータにはなぜか、解っていた。
 そう、彼女の部屋は、三階の――
 吐き気がする。痛い。頭が痛い。何かが自分に訴えている。これ以上進むなと言っているのか、進めと言っているのか、解らない。
 荒く息を吐き出しながら、ヴィータは崩れかけた階段を上る。軋む足元。絡みつく埃は過去の残骸か。ああ――ひどくべったりと、あちこちに血が、
 殺した。そして、殺された。
 終わりの場所。何もかもが終わった場所。
 ここで、自分は、自分たちは――

 そしてヴィータは、その部屋に辿り着く。

 ドアは凍りついたように閉ざされていた。ノブに手を掛ける。錆び付いた金属が軋みをあげて、埃を舞い上げて、閉ざされていた扉が開く。
 あの日から13年間、誰も足を踏み入れることのなかったその部屋は、
 ――かつての闇の書の主、ノア・クルーガーの部屋。
「ここ……は」
 呻きながら、ヴィータは足を踏み入れる。ひどく殺風景な部屋。小さな机と、小さなベッドと、小さな戸棚があるだけの、あまりにも簡素なその部屋は、時を止めたように静まりかえっていて、
 ――ヴィータは、ベッドの上に、それを見つけた。
 見つけてしまった。
「……え?」
 ここにあるはずのないもの。こんな場所にあるはずのないものが、そこに。
 何もない部屋の、小さなベッドの上に、埃を被って、ぽつんと置かれている。
 まるで、誰かの帰りを待つように。
 ――ボロボロの、うさぎのぬいぐるみが、そこにあった。
「なん……で」
 ふらふらと、ヴィータはそのぬいぐるみに歩み寄る。
 何故だ? 何故このぬいぐるみがここにある?
 のろいうさぎ。はやてが買ってくれたもの。そう、はやてが買ってくれたのだ。おもちゃ売場で足をとめて見入ってしまった自分に、『なんやヴィータ、気に入ったんか?』と笑いかけて。――はやてがくれた、ヴィータの宝物。それは今も、海鳴の家に置いてあるはずなのに、
 同じぬいぐるみが、ひどくボロボロになったぬいぐるみが、そこにある。
 ヴィータはそのぬいぐるみを手に取る。脆くなった腕がとれて、綿がのぞいた。くたりと腕の中に垂れ下がる、やる気の無さそうなその姿に――

 重なるのは、真っ白な少女の笑顔と、差し出されたもの。

「あ……あ、あ、ぁ」
 声が震えた。何かが、ヴィータの中から津波のように押し寄せてきていた。
 それは、記憶。封じられた過去の残影。失われたはずの追憶の濁流。

『これ、あげる』
 声を失った主の、唇の動きが、ひどく鮮明に瞼に浮かんで。

 その瞬間、風船が弾けるような感覚と共に――全てが、甦った。

「あ、ぁぁ、ぁ、うぁ、ぁぁぁぁぁっ……」
 ヴィータは膝をつく。震えが止まらない。何かがこみあげてくる。
「の、あ……ノア、ノア、ノアっ――」
 そうだ、ノアだ。このぬいぐるみをくれたのは――ノアだ。
 無力な、脆弱な、仕えるに価しない主だと思っていた。父の言いなりで、声も失い、持ち得た資質も扱えずに、ただ蒐集を命じるだけの。
 だけど、だけど。
 ――本当は、知っていたのだ。気付いていたのだ。
 ノアがずっと、自分たちを想ってくれていたことに。
 もっと触れあいたいと、一緒にいたいと、笑い合いたいと――そう願っていたことを。
 知っていたのに、見て見ぬふりをしていた。目を背けていた。
 その優しさが、温もりが、悲しみに繋がることを、どこかで理解していたから――
「ノア……ノアぁっ、ノアぁぁぁっ……」
 だけどノアは、自分がどれだけ拒絶しても、手を差し伸べてくれた。
 その小さな柔らかい手で触れようとしてくれた。
 あたたかなものを、届けようとしてくれた。
 ――そして、このぬいぐるみをくれたのだ。

 だから護ると誓ったのだ。
 ノアを護ると、誓ったのだ。
 守護騎士として。闇の書の主ではなく、ノア・クルーガーを護ると。
 あのとき、そう誓ったのだ。

 だけど、護れなかった。
 ノアを護れなかった。
 覚えている。自分が、ノアの目の前で殺された瞬間を。
 無数の刃が自分の身体を貫き、蹂躙した熱を。
 その刃は、ノアの命も奪ったのだ。
 そして――悲劇は、繰り返されて、

 自分たちは全てを忘れて、はやての元に辿り着いて。
 ――そこで、幸せを手にした。

 自分たちを幸せにしようとしてくれた、小さな主のことを忘れ去ったまま。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
 悲鳴のように、嗚咽のように、ヴィータは絶叫した。
 それが罪だ。それが業だ。それこそが、悲劇だ。
 甦るのはあの悪夢。はやてを忘れ去った夢。
 あの悪夢は、所詮あり得た現実でしかないのだということ。
 もし闇の書の輪廻が断ち切られず、はやてを救えずに、次の主の元へ転生していたら。
 きっと自分たちは、あんな風に笑っていたのだろう。
 はやてのことを忘れて――笑っていたのだろう。
 そして今も、自分たちは忘れている。忘れたままでいる。
 ノアの前にも、いたはずなのだ。自分たちに幸せをくれた、温もりをくれた主が。
 それを忘れて、無かったことにして、何を護ろうというのだ。
 幾度となく、何度となく、自分たちは大切なものを護れずに。
 護れなかったことすら忘れて。忘れたことすら忘れ去って。
 闇より深い泥の中で、小さな宝石をなくすまいと手を握りしめる。
 その手からは、もうとっくに無数の宝石がこぼれ落ちているのに。

 何という喜劇。何という道化。
 あまりに滑稽。あまりにも、無惨。

「ごめ、んなさ……っ、ごめん、なさい……」
 抱きしめたぬいぐるみに、無数の雫がこぼれ落ちた。
 それが涙だと気付くのに、ヴィータはしばしの時間を要して。
 気付いても、こぼれ落ちるものは止められなかった。
 泣くことで何も取り戻せなどしないと解っていても。
 ヴィータにはただ、その場にうずくまって泣くことしか出来ず。
「ノア……ノアぁぁっ……」
 ただ、虚ろに主の名を呼びかけて、謝罪を繰り返すしか出来なかった。

 記憶は、堰を切ったように溢れだしていく。
 ノアの元での起動。声を失った主との対面。サイノスと名乗る男。主の望み。サイノスの狂気。振るわれる暴力。淡々と続く蒐集。そして――そして。
 偽りの空の下で、この世界の騎士たちと戦った。
「……え?」
 不意に、甦る記憶の中に違和感を覚えて、ヴィータは腫れぼったい目を上げる。
 何か、今、そこにあるべきでない顔が、あった気がした。
 記憶の中に、あるべきでない顔――。それは、何だ?
 ヴィータは記憶を手繰る。終盤にさしかかった蒐集。命じられたのは教会の施設の襲撃。そして自分たちは、そこの騎士たちを蹴散らして蒐集し、
 その前に、立ちはだかった騎士がいた。
「え、え……え?」
 何だ、この違和感は?
 それはまるで、見知った顔が、いるべきでない場所にいるような。
『――貴女は、闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターのひとりですか?』
 そう問うた、古代ベルカの騎士がいた。
 眼鏡のレンズの奥から鋭い視線を細め、手にした槍を構えた、女顔の騎士。
 その顔を、ヴィータは知っている。
『私は《教会騎士団》第五師団副長、ビュート・グラウン。――騎士団員に対する襲撃行為の現行犯で、貴女を拘束します』
 甦った記憶の中だけではない。それ以外の場所で――はやての元に来てからの記憶の中に、その顔の覚えが、確かにある。
 はやて? ……そうだ、はやてだ。
 その騎士の顔は――どこか、はやてに似ているのだ。
 そう、はやてが眼鏡をかければ、きっとそんな雰囲気に、

『はやてちゃん、眼鏡をかければきっと、お父さんそっくりになりますね』

 シャマルがそう言った。
 アルバムを見ながらそう言った。
 ――赤ん坊の頃のはやてを抱いた、はやての父親の顔を見ながら、そう言った。

「……嘘、だろ?」
 呟いた声は、淀んだ空気に流されていく。
 嘘だ。そんなことが、そんなことが――あるはずがない。
 あるはずがないのに、記憶はあまりにも、確かに過ぎた。

 アルバムの中に、仏間に飾られた遺影の中にある、はやての父親の顔が。
 ――13年前、自分の戦った古代ベルカの騎士と、重なる。
 ビュート・グラウン、とその騎士は名乗った。
 はやての父親の名前は。幼い頃に亡くなったはずの、父親の名前は――
 八神優人と、いったはずだ。

「嘘だ……嘘だ、そんなの……嘘だ」
 理解できなかった。ヴィータの脳が、全ての理解を拒絶していた。
 13年前、このアースガルドで自分たちが戦った騎士が――はやての父親?
 だとしたら、だとしたら――まさか、そんな、まさか、
 はやての元に、闇の書が来た理由は――、

『憎しみには相応の理由があるということよ』
 あの男は、13年前の真実を知る男は、はやての顔を見て――そう言った。
 父親によく似た、はやての顔を、

「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だ――――ッ!!」

 絡みつく記憶を振り払おうとするように、ヴィータはただ、絶叫した。


      ◇


「ようこそいらっしゃいました」
 紅茶のカップを置き、その部屋の主は優雅に来客を出迎えた。
 カリム・グラシア。教会騎士団第三師団騎士。――ふたりをこの地に招いた人物。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンです」
「同じく執務官補佐、エイミィ・リミエッタです」
 敬礼するクロノとエイミィに、カリムは微笑み「どうぞ」と椅子を引いた。
 案内人を務めたシスター、シャッハ・ヌエラに一礼して、クロノとエイミィはカリムの示した椅子に腰を下ろす。対面に座したカリムは、ポットから湯気をたてる紅茶を新たに注ぎ、ふたりに差し出した。
「さて――まずはおふたりに確認したいことがあります」
 クロノとエイミィが紅茶を口にすると、その顔を不意に引き締め、カリムは口を開いた。
「13年前の、第六次闇の書事件について、どの程度のことをご存じですか?」
 その問いに、クロノはひとつ鼻を鳴らして、紅茶をソーサに置く。
「……事件の概要をここで滔々と述べろというなら、そうしますが」
「それでは紅茶が冷めてしまいますね。――ではもう少し、具体的に」
 ひとつ苦笑し、カリムは顔の前で腕を組む。
「第六次闇の書事件の首謀者について、どの程度をご存じですか?」
 ――首謀者、か。クロノは息を吐き出す。
「主犯は2名。闇の書の主、ノア・クルーガーと、その父、サイノス・クルーガー。両名とも騎士団との戦闘において死亡。――それから、サイノスと内通していた教会の要人がいたと聞いていますが、それ以上のことは」
 第六次闇の書事件に関しては、隠された部分が多すぎる。改めて父の事件を調べ直して、クロノはそう感じた。内通者のことも、グレアムから聞かされて初めて知ったのだ。父の死は、事件の終局後に起こった不幸な事故だと聞かされていたが、今となってはそれすらも陰謀めいたものを感じさせる。
「なるほど」
 納得したように、カリムは頷く。その表情から、感情は読み取れない。
「騎士カリム。お互いの持つ情報の共有のために、こちらからもひとつ確認したいことが」
「――それは、八神はやて捜査官の両親の件でしょうか?」
 クロノの言葉に、カリムは静かにそう答えた。クロノとエイミィは同時に息を飲む。
「あの顔を見れば、13年前この教会にいた者ならば誰でも解ります。――失踪したビュート・グラウンとセリカ・ヘンリットの娘に相違ない、と」
 ふたりの失踪は騒がれましたから、と付け加えるように言い、カリムは紅茶を口にした。
「まあ、その件は少なくとも私たちにとっては、さほど重要なことではありません」
 カリムの言葉に、クロノとエイミィは目を見合わせ、眉を寄せる。
「クロノ執務官。エイミィ補佐官。――あなた方を呼び出したのは、無論八神捜査官の救出のためではありますが、それだけでもありません」
「――――」
 やはりか、とクロノは心の中だけで頷いた。不自然だとは思ったのだ。はやてとは面識らしい面識もないだろうアースガルドの騎士が、はやてを救うためにわざわざ半ば秘密裡に管理局に接近してくる、など。
「と、いうと?」
「――古代ベルカのお伽話をご存じですか?」
 唐突に飛んだ話題に、クロノは眉を寄せる。――お伽話?
「あ……友達から聞いたことが。聖王のゆりかご、ですよね」
 と、声をあげたのはエイミィだった。ゆりかご? その単語に覚えのなかったクロノは腕を組んで首を傾げる。
「簡単に語れば、このようなお伽話です。かつて古代ベルカの地を平定した聖王は、大きな大きな方舟の中で生まれ、育ち、死んでいった。その方舟――聖王のゆりかごは、古代ベルカの地をあまねく見通し、聖王は方舟から世界を治めたという」
 淡々と、カリムは語る。そのお伽話に何の意味があるのか、とクロノは訝しむが、話はとりあえず最後まで聞いてみないことには解らないので、黙って続きを促す。
「偉大なる聖王を亡き者にせんと、ゆりかごに刃を向ける者もいた。しかしそれらは、守護者である飛竜ファブニールの劫火に焼き尽くされたという。そしてベルカの地は、ゆりかごと守護者によって永劫の平和と繁栄を約束された――というお話です」
「……しかし、現実には古代ベルカは滅亡している」
「ええ、仰る通りです。だからこそこれはあくまでお伽話なわけですが――しかし、確かなことは、聖王のゆりかごと守護者ファブニールが確かに存在するということです」
「存在の証拠が、あるとでも?」
「もちろん。今貴方の目の前に」
 カリムの言葉に、クロノは眉を寄せ――そしてその意味に思い至り、唸った。
 古代ベルカは滅亡した。しかし、古代ベルカの民が様々の世界に散ったことにより、ベルカ式の魔法体系は今なお細々とながら、いくつかの世界で受け継がれている。
「――滅亡する古代ベルカから人々を脱出させたのが、ゆりかごと守護者だと?」
「その通り。そしてこのアースガルドは、飛竜ファブニールに導かれた民の住まう地」
 そしてカリムは、胸元に光る紋章を示した。
 象られているのは――炎を吐く飛竜の姿。
「グラシアの血統は飛竜の血統。守護者ファブニールがこの地に舞い降りてより、連綿と続く一族です。――今となっては、ファブニールの眠る地も歴史の彼方に埋もれ、定かではありませんが」
「……ファブニールの眠る地?」
 エイミィがふと声をあげた。そう、そうだ。古代ベルカから人々を脱出させたのがゆりかごとファブニールだというなら――それらはどこへ消えたのだ?
「そして13年前、闇の書の主の父であったサイノス・クルーガーは、この地に奇妙な信仰を広めていました。天上の楽園におわす聖王は、やがて守護者を従えゆりかごに乗って再臨する。そのとき我らは真なる楽園へと導かれるであろう――」
「――まさか」
 ごくりと唾を飲んだクロノに、カリムは静かに頷いた。
「おそらくは、彼は見つけていたのだと思います。――飛竜ファブニールの眠る地を。そして、眠る飛竜の起動のために、古代ベルカの記憶を求めたとすれば」
 ――古代ベルカの記憶。あらゆる魔法を蒐集する巨大ストレージ。闇の書。
 そして今、闇の書をその内に宿した少女は、このアースガルドで行方不明となった。
「だからこそ、あなた方をここにお呼びしたのです。クロノ執務官、エイミィ補佐官」
 カリムは静かにふたりを見据え、強い眼差しで、その言葉を告げる。

「今また、守護者ファブニールの力を求める何者かの野望を、阻止するために」


      ◇


 闇は深く深く、地の底まで続くように沈んでいく。
 いや、確かにここは地の底だ。地下深く、どれほど下ったのかも定かでないほどの闇の底。その静寂の中に、ふたりぶんの足音が響いていた。
 ほのかに灯る魔力の光を頼りに、その影はしかし確かな足取りで進んでいく。
 ふたつの影の間に、交わされる言葉はない。
「……貴女にはお似合いの闇だと思わない?」
 いや、不意に先を歩く影が口を開いた。後ろを歩く影は、何も答えはしないが。
 前を歩くのは、若い女。後ろに従うのは、それよりも小さな、幼い少女。
 少女は虚ろな瞳で、ただ足だけを前に動かしていた。焦点を結ばない視線。闇の中、少女の瞳はどこも見てはいない。その唇は微かに震えている。耳を寄せれば、少女がずっと何事かを呟き続けているのが聞き取れるだろう。
 ――ごめんなさい、と。
 ただそれだけを、少女は壊れたレコーダーのように繰り返している。
 そんな少女の様子を、しかし女はただ冷たく一瞥するだけで、歩む足を速めた。
 ――この闇の中、あの少女の細い首を絞めてしまおうか。
 不意にそんな妄想が浮かび、彼女は暗い笑みをその顔に浮かべる。少女の細い首は、自分の手で容易く折れるだろう。ただの死体となった少女は、この闇の奥底で誰にも見つかることなく朽ちて骨になる。
 ああ、駄目だ、そんなのは美しすぎる。彼女はかぶりを振った。
 咎人に与えられるのは、もっともっと無惨で無慈悲な最期でなければならない。それは例えば、自らの愛した者をその手で無惨に、残虐に、非道の限りを尽くして殺めるという絶望を。この咎人が奪ってきた命の数に比べれば、それでもなお生温いが。
 咎人は自らの罪に絶望し、苦悶し、反吐と罵声と汚泥にまみれて死ぬべきである。
 それこそが断罪。それこそが咎人に与えられた贖罪。
 もっと残酷な絶望を、味わわせなければならない――
 そんな妄想に耽っていた彼女は、しかし不意に足を止めた。
 そこは、延々と闇の中に続く通路の一角。冷たい石造りの壁を、彼女はその手で探る。――ほどなく手が何かに触れ、壁の一部が音もなくスライドした。
「言われた通りね……」
 開いた隠し扉の先は、皎々と明かりの灯った無機質な通路だった。その眩しさに目を細めながらも、彼女は少女を従えて、白い通路の中をゆっくりと進んでいく。
 そしてほどなく、視界は音もなく開けた。

「……見つけた」

 その声音を喜色に染めて、彼女はそこに鎮座するものを見上げた。
 地下とは思えないほど、あまりにも広大な空間に、それはただ静かに座している。
「見なさい、闇の書の主。これが、十三年前の悲劇の発端」
 背後に控えた少女を振り向いて、彼女は語る。
「サイノス・クルーガーが求めたもの。コルサ・ディストラーが奪おうとしたもの」
 両手を広げて語る彼女の背後で、それは沈黙を守っている。
 翠緑の瞳は、果たしてどこを見つめているのか。

 流線型を描きつつもひどく無機質な、銀の胴体。雄大に広がる鋼の翼。長い尾は無機でありながらしなやかに、鬣はなびくかのごとく、牙と爪は暴力的に鋭く巨大。
 あまりにも巨大なその姿は、遠近感を狂わせる。
 見上げる者は、口を揃えて言うだろう。――ドラゴンだ、と。

 ゆりかごの守護者、飛竜ファブニールは。
 永遠のごとき沈黙を守って、そこに在った。



Chapter 3 "Legend of Fevnir" closed.
to be continued on Chapter 4 "Chevalier of Asgard"...




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このサイトはくろまくみこ(霊夢×レティ)の普及を目論んでいます。

東方SSインデックス

長編
【妖夢×鈴仙】
うみょんげ!(創想話・完結)
 第1話「半人半霊、半熟者」
 第2話「あの月のこちらがわ」
 第3話「今夜月の見える庭で」
 第4話「儚い月の残照」
 第5話「君に降る雨」
 第6話「月からきたもの」
 第7話「月下白刃」
 第8話「永遠エスケープ」
 第9話「黄昏と月の迷路」
 第10話「穢れ」
 第11話「さよなら」
 最終話「半熟剣士と地上の兎」

【お燐×おくう】
りん×くう!(完結)
 ※スピンオフなので、できれば先に『ゆう×ぱる!』をどうぞ。
 1 / 火焔猫燐
 2 / 霊烏路空
 3 / 火焔猫燐
 4 / 霊烏路空
 5 / 古明地さとり
 6 / 火焔猫燐
 7 / 霊烏路空
 8 / 火焔猫燐
 9 / 古明地さとり
 10 / 霊烏路空
 11 / 火焔猫燐
 12 / 古明地さとり
 13 / 霊烏路空
 14 / 火焔猫燐
 15 / 古明地さとり
 16 / 霊烏路空
 17 / 古明地こいし
 18 / そして、地底の恋物語

【勇儀×パルスィ】
ゆう×ぱる!(完結)
 0 / そして、星熊勇儀の孤独
 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
 (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13)
 14 / 「星熊勇儀の微睡」
 15 / 「水橋パルスィの恋心」
 16 / 「星熊勇儀の応談」
 17 / 「黒谷ヤマメの懸念」
 18 / 「星熊勇儀の懊悩」
 19 / 「キスメの不安」
 20 / 「火焔猫燐の憂鬱」
 21 / 「黒谷ヤマメの奮闘」
 22 / 「古明地さとりの場合」
 23 / 「水橋パルスィの狂気」
 24 / 「古明地さとりの思案」
 25 / 「星熊勇儀の煩悶」
 26 / 「水橋パルスィの意識」
 27 / 「星熊勇儀の虚言」
 28 / 「水橋パルスィの嫉妬」
 29 / 「星熊勇儀の決断」
 30 / 「キスメの幸福」
 31 / 「水橋パルスィの戸惑」
 32 / 「黒谷ヤマメの嫉妬」
 33 / 「古明地さとりの思惟」
 34 / 「キスメの献身」
 35 / 「星熊勇儀の愛情」
 36 / 「水橋パルスィの変化」
 37 / 「火焔猫燐の懸案」
 38 / 「星熊勇儀の失態」
 39 / 「水橋パルスィの存在」
 40 / 「星熊勇儀の審判」
 41 / 「水橋パルスィの幸福」
 42 / 「星熊勇儀の願い」
 43 / 「地底への闖入者」
 44 / 「水橋パルスィの真実」
 45 / 「星熊勇儀の幸福」
 46 / 「星熊勇儀と、水橋パルスィ」
 47 / 「地底の恋物語」

【にとり×雛】
にと×ひな!(完結)
 Stage1「人恋し河童と厄神と」
  SIDE:A SIDE:B
 Stage2「厄神様へ続く道」
  SIDE:A SIDE:B
 Stage3「神々も恋せよ幻想の片隅で」
  SIDE:A SIDE:B(前編)(後編)
 Stage4「秋めく恋」
  SIDE:A SIDE:B SIDE:C
 Stage5「少女が見た幻想の恋物語」
  (1) (2) (3) (4)
 Stage6「明日晴れたら、雨は昨日へ」
  (1) (2) (3) (4)

東方創想話・SSこんぺ投稿作

【少女秘封録】
 真昼の虹を追いかけて
 ヒマワリの咲かない季節
 闇色メモリー
 2085年のベース・ボール
 スタンド・バイ・ユー
 睡蓮の底
 遠回りする傘

【自警団上白沢班の日常】
 折れた傘骨
 おおかみおんなと人魚姫

【探偵ナズーリンシリーズ】
 説法の時は出たくない
 腹の中

【星ナズ】
 貴方のための探し物
 性別とかどうでもいいじゃない
 ナズーリンを縛って目の前にチーズをぶら下げたらどうなるの?

【稗田文芸賞シリーズ】
 霧雨書店業務日誌
 第7回稗田文芸賞
 第6回稗田文芸賞
 第8回稗田文芸賞・候補作予想メッタ斬り!
 第8回稗田文芸賞
 第9回稗田文芸賞
第10回稗田文芸賞

【狐独のグルメ】
<Season 1>
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 「中有の道出店のモダン焼き」
 「博麗神社の温泉卵かけご飯」
 「魔法の森のキノコスパゲッティ弁当」
 「旧地獄街道の一人焼肉」
 「夜雀の屋台の串焼きとおでん」
 「人間の里のきつねうどんといなり寿司」
 「八雲紫の牛丼と焼き餃子」
<Season 2>
 「河童の里の冷やし中華と串きゅうり」
 「迷いの竹林の焼き鳥と目玉親子丼」
 「太陽の畑の五目あんかけ焼きそば」
 「紅魔館のカレーライスとバーベキュー」
 「天狗の里の醤油ラーメンとライス」
 「天界の桃のタルトと天ぷら定食」
 「守矢神社のソースカツ丼」
 「白玉楼のすき焼きと卵かけご飯」
 「外の世界のけつねうどんとおにぎり」
 「橙のねこまんまとイワナの塩焼き」
<番外編>
 「新地獄のチーズ焼きカレーと豚トロひとくちカツ」 NEW!!

【その他(そそわ無印・こんぺ)】
 記憶の花
 帽子の下に愛をこめて
 レイニーデイズ/レインボウデイズ
 或る人形の話
 インビジブル・ハート
 流れ星の消えない夜に
 或る男の懺悔
 天の川の見えない森で
 花の記憶
 時間のかかる念写

同人誌全文公開(pixiv)

 『流れ星の消えない夜に』
  (1) (2) (3)

 『るな×だい!』
  (前編) (後編)

東方野球in熱スタ2007異聞
 「六十日目の閻魔と死神」
 「グラウンドの大妖精」
  (前編) (中編) (後編)
 「神奈子様の初恋」
 「May I Help You?」
 「決戦前の三者会議」
 「夏に忘れた無何有の球を」
  (前編) (後編)
 「月まで届け、蓬莱の想い」
 「届く声と届けるものと」
 「魔法使いを見守るもの」
 「夏に雪桜は咲かないけれど」
  (1) (2)
 「星の光はすべて君」
 「さよならの代わりに」
  (前編) (後編)
 「野球の国、向日葵の妖精」
  (1) (2) (3) (4)
 「わりと憂鬱な霊夢の一日」
 「猫はどこだ」
 「あなたの人生の物語」
  (1) (2) (3) (4)
  (5) (6) (7) (8)
 「完全なアナタと不完全なワタシ」
 「伝えること届けること」
 『東方野球異聞拾遺 弐』
  (1) (2) (3)


艦これSSインデックス(pixiv)

【第六戦隊】
 ワレアオバ、ワレアオバ。
 衣笠さんは任されたい
 刻まれない過去
 古き鷹は光で語りき NEW!!

【響×電】
 Мой кошмар, нежность из вас

なのはSSインデックス

長編
魔法少女リリカルなのはBURNING

【BURNING AFTER】
 祝福の風と永遠の炎
 フェイトさんのお悩み相談室
 それは絆という名の――
 王子様とお姫様と黄昏の騎士のわりと平和な一日
  (前編) (中編) (後編)

魔法少女リリカルなのはCHRONICLE
魔法少女リリカルなのはCRUSADERS

中編
 ストラトスフィアの少女(完結)
  (1) (2) (3) (4)

 プラネタリウムの少女(完結)
  (1) (2) (3) (4)

短編
【フェイト×なのは】
 キミがくれる魔法
 たまに雨が降った日は
 キミが歌うボクの歌
 お嫁さんはどっち?
 願い事はひとつだけ
 君がここに生まれた日
 stay with me
 私がここに生まれた日
 ハラオウン家の家庭の事情「エイミィさんのお悩み相談室」
 WHITE SWEET SNOW
 冬、吐息、こたつにて。

【アリサ×すずか】
 はじめての××
 TALK to TALK
 少し歩幅が違う分
 好きな人が、できました。
 おとぎ話は目覚めた後にも after
 DOG×CAT?(プレ版)
 第97管理外世界における、とあるロストロギア関連事件に付随した何か(仮)
 9×19=171...?
 Feline days
 貴方の花の名前
 超短編シリーズ

【八神家】
 ある日の八神さんち(メロドラマ編)
 ある日の八神さんち(家族計画編)
 ある日の八神さんち(ホラー編)
 You are my family
 魔導探偵八神はやて「アイスはどこへ消えた?」
 届け、あなたがくれた空に。
 朧月夜の銀色に

【クロノ×エイミィ】
 ハラオウン家の家庭の事情「クロノ・ハラオウンはロリコンなのか?」

らき☆すた

【かがみ×つかさ】
 Sleeping Beauty?
 夢見てた、夢

投稿SSインデックス

投稿規定

「なのはBURNING」三次創作

【沈月 影さん】(影ラボ
 魔法少女リリカルなのはFROZEN
 予告編
 第1話「流転 -Returning End-」
  (1) (2) (3) (4)

【てるさん】(HEAVEN
 ユグドラシルの枝(完結)
  (1) (2) (3) (4) (5)

【緑平和さん】(PEACE KEEPER
 その右手に永遠を

短編

【kitさん】(pure heart
 好き、だから

【mattioさん】
 The parting of the ways
 みんなで奏でるボクの歌
 ボクは親友に恋をする
 白い悪魔事件―なのはは罪な女のコ?なの―
 か け お ち
 約束の桜〜ダイヤ〜
 月剣〜つるぎ〜のち陽盾〜たて〜
 青に魅せられた私―Moondust…―
 ハート オブ エース―AMBITION―
 わたしの日溜り
 春の日、とあるカップルのとある時間のつぶし方
 少し角度が違う分
 大胆はほどほどに
 そして二人は時を忘れる
 注意報「あま風に御用心」
 一番守りたいもの、それは――
 ひっかかって。
 キミのいない平日は
 最近の翠屋において甘い物が売れない理由、それは――
 バカップル法第○条第×項「うっかりは無罪なり」
 正月、とある五人のとある年明けの過ごし方
 スキー大好き! って大好きななのはが言ったのでつい私も好きだし得意だと言ってしまいました。
 親友>恋人・・・?
  ―前夜なの―
  ―臨戦なの―
  ―結末なの―
 桜〜なのは〜の舞う季節―Prince of ・・・―
  予告編 本編
 天使に誓うラブレター
  予告編 本編
 「アツい日」シリーズ
  アリサ先生のアツい一日
  それぞれのアツい午後
  アツかった日の後日。
  アツくない場所で
  アツい日は季節を越えて
  アツみの増した写生会
  アツ力のかかった一日
 木の葉が紅く染まる頃
  (1) (2) (3)

【ぴーちゃんさん】(P'sぷろじぇくと
 ワガママのススメ
 おとぎ話は目覚めた後で

【鴇さん】(It flows.
 
 遠くない未来
 贈り物〜blessing happily〜

【伊織さん】(伊織の詞認筆
 ハラオウン家家族会議
 ケーキより甘い思い出
 八神家家族相談室

【maisyuさん】(ぐったり裏日記
 キミの呼びかた
 素直なキモチ
 この星空の下、貴女と二人

【隅田さん】(NooK
 四つ葉のクローバーを、君に。

【沈月 影さん】(影ラボ
 Pleasure, into the Rain

【クロガネさん】(クロガネの間
 理想な人は?

【フィールドさん】
 The honey holiday
 Dangerous Shower Time

【霧崎和也さん】(Kの趣味部屋
 祝福の花

【HALさん】(交差幻想
 コイメツ

【月翼さん】
 秘密のrouge

【tukasaさん】
 名前を呼んだ日

【フェルゼさん】(Empty Dumpty
 夜長の行き先
 Their party's never over.
 彼女たちのフーガ

【シン・アスカさん】
 メリッサの葉に…

【結さん】
 青い空の下で

【tanakaさん】部屋の隅っこで小説なんかをやってみる
 君が見てくれているから/新年
 知らぬ間に
 なのはさん争奪戦
 いたずらなお姫様
 お願い
 海と水着と……
 何年経っても変わらぬ関係
 越えられない壁
 小さくてもなのはさん
 思春期なんです
 手相占い?
 暗闇の中で
 フェイトちゃんは変態さんなの?
 手を繋いで
 王子様とお姫様のお祭り
 想いと想い

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