君がここに生まれた日
2006.08.02 Wednesday | category:なのはSS(フェイト×なのは)
お昼休み、星占いの話題になり、誕生日を訊ねられたフェイト。人造生命であるフェイトの誕生日は、フェイト本人も知らないはずだった。けれど、フェイトはしっかりと自分の誕生日を答える。その日付は、忘れられないあの日だった――。
というわけで、初のなのはさん視点SS。なのはたちは公式に誕生日が設定されていないので、こんな話を妄想してみましたよ。告白後の甘々らぶらぶもいいけど、たまには告白一歩手前のもどかしいドギマギ(滅)も良いものです。
というわけで、初のなのはさん視点SS。なのはたちは公式に誕生日が設定されていないので、こんな話を妄想してみましたよ。告白後の甘々らぶらぶもいいけど、たまには告白一歩手前のもどかしいドギマギ(滅)も良いものです。
「あ、すずかちゃん、新しいストラップだね」
「うん、今朝の占いで、今日のラッキーアイテムは白いストラップって言ってたから」
お昼休み。教室でお弁当を食べながら、いつものように4人でお話し中。
すずかちゃんのストラップは、白い猫さんだ。可愛いなぁ。
「占い?」
「フェイトは見てないの? 朝の占い。テレビでやってるじゃない」
「あ……私はあんまり、朝、テレビとか見ないから……」
フェイトちゃんはそう言って、それからわたしに念話を飛ばしてくる。
『ねえ、なのは。占いって、どんなの?』
『あ、そっか、ミッドチルダには星占いとかって無いんだっけ』
『星占い?』
『そう、その人の誕生日を、12個の星座に当てはめて、それで運勢を占うの』
『そうなんだ……こっちの世界の魔法技術みたいなものなのかな』
『……そ、そんな大したものじゃないと思うけど……にゃはは』
実際、別の占いでは全然違うこと言ってたりするしね。
わたしが苦笑いしていると、ふと気付いたみたいにアリサちゃんが声をあげる。
「そういえば、フェイトって何座だっけ?」
「え? わ、私、そういうのよく解らなくて……」
「誕生日が解れば、星座もすぐ解るわよ。って、そもそもフェイトの誕生日っていつだっけ?」
「あ、えと……」
フェイトちゃんが少しうつむく。その仕草に、わたしはフェイトちゃんが前に言っていたことを思い出した。
――私、自分が生まれたのがいつなのか、本当はよく知らないんだ。
プレシアさんが、亡くした娘のクローンとして生み出したフェイトちゃん。
その誕生の正確な日付を知っているのはプレシアさんだけで……そのプレシアさんは、今はもういない。
だから、実際のところフェイトちゃんがいつ生まれて、実際は何歳なのかは、よく解っていないのだ。
……そのあたりのことは、アリサちゃんとすずかちゃんには話していなかった。だから――
「5月、29日」
――え?
フェイトちゃんのはっきりとした言葉に、わたしは顔を上げた。
「私の誕生日は、5月29日だよ」
フェイトちゃんは、少しはにかんで、そう言う。――知らないはずの、自分の誕生日を。
「てことは、双子座ね。……あ、ほら、今日は恋愛運が好調だって。ラッキーアイテムは青いボールペン」
「そうなんだ……残念、青いボールペンは持ってないや」
アリサちゃんが携帯で占いの結果を出す。そんな様子を見ながら、わたしはふと思い出していた。
5月29日。……その日は、そうだ。忘れられない、あの思い出の日だ――
◇
放課後。習い事があるアリサちゃん、すずかちゃんと別れ、わたしとフェイトちゃんは一緒に帰り道を歩いていた。
「ねえ、なのは」
「うん?」
「ちょっと寄りたいところがあるんだけど……いいかな?」
なんとなく、それは予想していた言葉で。たぶん、行き先も解っていた。
「ん、いいよ。……あの場所でしょ?」
わたしがその場所を答えると、フェイトちゃんは目を丸くする。
「ど、どうして解ったの?」
「解るよ。フェイトちゃんのことだもん」
「…………ぅ」
フェイトちゃんは、わたしの答えに真っ赤になって俯いた。……わたしまで照れくさくて、ちょっと顔が熱いよ。
そんなわけで、足を向けた先は、あの場所。気持ちの良い風が吹く、橋の上。
「あれから、もう一年も経つんだね……」
「うん……」
足元を流れる川を見下ろして、あの日のように二人、並んで橋の上に立つ。
「5月29日……何の日だか、覚えててくれたんだね、なのは」
「当たり前だよ。大事な、大事な記念日だもん」
そう、5月29日は、忘れられない大切な思い出の日。
フェイトちゃんと出逢ったあの事件が終わって……裁判の前に、この場所でフェイトちゃんとお話をした。
友達になって、リボンを交換した、あの日だ。
「……母さんに、誕生日を自分で決めていいって言われたんだ」
誕生日が解らないと、いろいろ不便なこともあるんだって。そんなことをフェイトちゃんは言う。
「それで……いろいろ迷ったんだけど、この日に決めたの。なのはと、友達になった日に」
フェイトちゃんの手が、わたしの髪を結んだ黒いリボンにそっと触れる。
「プレシア母さんに言われるまま、従ってるだけだった私が……自分で、なのはと友達になろうって決めた日だから。そこから、今の私が始まったから」
「フェイトちゃん……」
「だから……あの日が、私の誕生日。なのはのことを大好きになって、一緒に頑張ろうって決めた日が、私の生まれた日なんだ」
目を細めて笑うフェイトちゃんの髪を、吹き抜けた風がふわりと揺らす。
結ばれたピンクのリボンは、わたしからのプレゼント。友達になったあの日から、ずっと……
――――なのはのことを大好きになって。
不意に、フェイトちゃんの今の言葉が頭の中でリフレインした。
……ふぇ? え、えと、それって……
「な、なのは? どうしたの? 顔、真っ赤だよ?」
慌てたようなフェイトちゃんの声。はっと気付くと、フェイトちゃんの顔がすごく近くにあって、
わ、わわわわわっ!
「ふぇ、フェイトちゃ、え、えあ、その、あ、と」
思考が空回りして、舌が上手く言葉を紡いでくれない。
お、落ちついて、落ちついて深呼吸ー。すー、はー。すー、はー。
……よ、よし、落ちついた。……たぶん。
「だ、大丈夫?」
「う、うん……い、いきなり言われたから、び、びっくりしちゃって」
「え、いきなりって………………」
フェイトちゃんは何のことかと小さく首を傾げて……すぐに、今度はその顔が爆発したみたいに真っ赤になった。
……え、つまり、さっきのって、告白とかじゃなくて……
「あ、あああ、えと、えとえと、その……大好きっていうのは、その、友達として、ってことで……」
「そ、そそそうだよね、そういう意味だよね、あ、あはははは……」
真っ赤になって俯いてしまうフェイトちゃん。や、やっぱりわたしの早とちりだったんだね……ああ、びっくりした。
一年前、友達になった場所で、今度は告白だなんて、あまりにドラマチックすぎて。まだドキドキが収まらない。
「……ちょっと、残念」
ぽつりと呟いた言葉は、目の前のフェイトちゃんにも届かないほど小さな声。
「え? なのは……何か言った?」
「なんでもなーいっ」
えへへと笑って、わたしはくるりと踵を返す。それからフェイトちゃんに、右手を差し出した。
「帰ろっか、フェイトちゃん」
「あ……う、うん」
フェイトちゃんのあったかい手が、わたしの右手をそっと掴む。
「……わたしもね、フェイトちゃんのこと、大好きだよ」
「え……」
「友達として、ね」
わたしがいたずらっぽく言うと、フェイトちゃんは目を白黒させて、すごく困ったような表情になる。
……だから今度は、それ以上の意味の、「大好き」を聞かせてね。フェイトちゃん。
その日はきっと……もっと忘れられない、2人の記念日に、なるはずだから。
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