東方野球in熱スタ2007異聞「決戦前の三者会議」
2008.06.07 Saturday | category:東方SS(東方野球)
アリスと霊夢と阿求がCSと日シリの先発ローテについて話し合うだけの小話。およそヤマなしオチなしイミなし。実際のところでこるん氏がどういう考えであのローテを組んだのかは存じ上げませんが、俺はだいたいこういう理由だと思うね! という自己満足。あとあっきゅんのキャラは東方野球本編同様よくわかりません。稗田なめんな。
9月27日(木)、博麗神社社務所。
「お待たせ、ふたりとも」
「いらっしゃい。お茶あるわよ」
すっかり馴染んだ畳の部屋には、既に霊夢と阿求が揃っていた。座布団に腰を下ろし、霊夢が急須から注いでくれたお茶を口にする。染み渡る熱に、アリスはほっと一息ついた。
「それで、ふたりとも映姫様の件は聞いた?」
「うん、こっちにも直接来て『申し訳ありません』って」
阿求の答えに霊夢も頷く。さすが、マメな閻魔様だ。
――本業がかなり溜まってしまったため、CS以降は出場できないと思います。すみません。
昨日、直接マーガトロイド邸を訪ねて頭を下げた映姫の姿を思い出す。まあ、仕方ない話だ。元々本業の合間に無理をしてもらっていたのはこちらの方なのだし。引き続き小町を貸してもらえるだけでも、感謝するしかない。
「まあ、そんなわけだから。ここ最近の調子とかも考え合わせて、ポストシーズンの先発ローテを決めてしまいましょう」
「了解。――って言っても、まだどこが相手も解らないわけだけど」
霊夢が苦笑する。そもそも順位が確定したとはいえ、シーズンはまだ終わっていないのだ。
「どこが来ても一緒……ってわけにもいかないわよね。中日が来ても巨人が来ても、シーズンでは結局負け越してる相手なわけだし」
「CSで負けちゃ意味がないものね。とりあえず、先のCSから考える?」
阿求の問いに、しかしアリスは首を横に振った。
「日本シリーズから逆算で決めましょう。目指すべきは日本一だもの」
「へー、強気じゃない。魔理沙から伝染でもした?」
「魔理沙は関係無いでしょ」
半眼で睨むと、霊夢は苦笑するように肩を竦めた。
「それはさておき。シリーズは全7戦だけど、映姫様が使えないとして残りの4人で回すの? 4人だと5戦目と7戦目が中4日になっちゃうけど」
「霊夢、貴女はどう? 中4日、いける?」
「完投して中4日だと厳しいわね。6、7回まででいいならいけると思うわ」
「ありがとう。――それなら、霊夢、魔理沙、永琳、幽香の4人でいいと思うわ。最後の短期決戦だし、中継ぎ陣も大丈夫でしょう? 阿求」
「そこは任せて。しっかりみんな準備させるわよ。稗田なめんな」
「助かるわ。となると、問題は誰を何戦目に回すか、ね」
アリスの言葉に、霊夢と阿求も頷いた。
「霊夢、貴女ならどうする?」
「私? そうねえ、一応これ異変解決だし、私が決めてやる、ぐらい言えたらいいんだけど。私ひとりでどうにかなるわけでもないし。……ま、私だったら、魔理沙、永琳、私、幽香の順かしらね。阿求は?」
「私もほぼ同意見よ。幽香は良いときと悪いときの差が激しいし、1試合しか投げない4戦目に回すのが無難だと思う」
「1戦目は出来れば勝ちたいけど、7戦あるし必勝ってわけでもないわよね。それなら勝てば勢いがつくし、負けてもあまり引きずらない魔理沙が適任じゃないかと思うんだけど。……まあ、最後決めるのはあんたなわけだけど、アリスはどう考えてるわけ?」
「……そうね、私も1戦目魔理沙、4戦目幽香でいいと思うわ。それでね、日本シリーズで一番大事なのは2戦目だと思うの」
「その心は?」
「2戦目に勝てば、初戦に勝ってれば2連勝で文句なし、負けてても五分に戻して、いい形でホームに戻れるわ。短期決戦だし、そういう雰囲気が一番大事だと思うの。――だから、2戦目は絶対に落としたくない」
「一理あるわね。じゃ、やっぱり2戦目は安定感からしても永琳?」
「いいえ。私としては2戦目は霊夢、貴女にお願いしたいの」
その言葉に、きょとんと霊夢は目を見開く。
「へ? 私?」
「ええ。永琳は安定感は抜群だけど、今ひとつ勝ち運に恵まれない部分があるし。後半戦の安定感だったら霊夢、貴女の方が上だったと思うわ。それに大舞台に強いのは今までの実績で織り込み済みだしね」
「その実績って、今までの異変解決?」
「そうよ。これだって異変解決なんだから、最後は博麗の巫女の仕事でしょう?」
「……そう言われちゃ、引き下がるわけにはいかないわねぇ」
苦笑混じりに霊夢は肩を竦めた。「阿求もそれでいいかしら?」とアリスが問うと「監督の決定を尊重するわよ。稗田なめんな」と阿求は頷く。
「じゃあ、日本シリーズのローテは魔理沙→霊夢→永琳→幽香、ね。ここから逆算すると……CSの3戦目が、丁度日本シリーズ初戦の一週間前ね」
「じゃあ、シリーズを考えるとCSは3戦目魔理沙、4戦目私、5戦目永琳、か。……4人じゃ足りないわね?」
首を傾げる霊夢に、アリスはお茶を飲み干して答える。
「まあ、順位通り中日が来たら、初戦は中日戦無敗の幽香がいいと思うわ。負け越してる相手だし、相性は大事にしたいところね」
「そうね、私も賛成。ま、そんなこと言ってると案外ボコボコにされるかもしんないけど、あの花屋の場合」
「それ、巫女の勘?」
「ううん、むしろサクッと完封しそうな気がするわ」
「なら安心ね。それで、2戦目はメディに任せようかと思うの」
「メディスンに? ……大丈夫?」
「メルランは中日と相性悪いみたいだし。私としては、メディの勝ち運に賭けてもいいと思うわ。阿求が投げてくれるなら、そっちでも構わないんだけど」
「あー、まあ、投げろって言われれば投げるけど。私もメディでいいと思う。メディが投げてると、何か打線も『点取ってあげよう』って雰囲気になる気がするし」
「その雰囲気、私や永琳が投げてるときにも欲しかったわねぇ」
3人、苦笑し合う。まあ、今更言っても詮無い話だ。
「じゃあ、巨人が来た場合は?」
「巨人も幽香が2戦無敗だし、初戦は幽香に任せていいと思うわ。2戦目はメディでもいいんだけど、対戦経験が無いのが少し怖いのよね……。阿求、巨人が来たら2戦目は貴女にお願いしてもいい?」
「私?」
「抑えた実績もあるしね。……あのときは私のミスで無茶させる形になっちゃってごめんなさい」
「いつの話よそれ。ま、やれと言われればやるわよ。稗田なめんな」
「ありがとう」
やれやれと肩を竦める阿求に、アリスはひとつ頭を下げた。
「あと、シリーズまでに何か先発4人にトラブルがあった場合の代役は、とりあえずメディスンってことでいいかしら?」
「そーね。メルランは中継ぎ待機でもいいんじゃない?」
「そこは状況次第ね。リリカをセットアッパーで使えればルナサ、ルナチャイルドで左は3枚揃うし」
「右はアリス、あんたとミスティア、パチュリー、穣子ね。ま、あとは紫がこの土壇場で巫山戯たことしないことを祈りましょ」
「それも、大丈夫よ」
「そんな言い切って平気なの?」
「何だかんだ言って、紫だってこの異変解決には真剣だもの」
「――ま、それもそうね」
そこで、おおよそ議論は終わりだった。霊夢が湯飲みと急須を片付け、アリスと阿求は席を立つ。シーズンは残り3試合、そしてCSと日本シリーズ。本当の戦いはこれからだ。
「じゃあ、今日はお疲れ様。霊夢、消化試合だけど明日の先発、しっかりよろしくね」
「まぁ、CS前の調整程度に頑張るわよ」
「私は帰って記録のまとめでもするわ。今月は連戦続きで遅れ気味だし」
「阿求もご苦労様。――それじゃ、御機嫌よう」
軽く手を振って、アリスは社務所を後にする。既に外は日が傾いていた。夏も終わり、季節はすっかり秋だ。そして、半年近くも続いたこの宴のような異変も、もうすぐ終わろうとしている。
「――――」
アリスは境内からも見える幻想郷スタジアムを見やる。――自分を苦しめた、忌まわしい存在のはずの、その野球場。しかし今は、夕陽に照らされたその古びた佇まいが、どこか寂寥を帯びて見えた。
――あるいは、この異変の終わりをどこか名残惜しんでいる自分が、いるのかもしれない。
幻想郷タートルズ。種族も何もかも違うくせ者ばかりが集まった、奇妙な集団。いつの間にその集まりは、チームとして同じ目標を共有して戦う仲間になったのだろう。
――そして、そのチームの中心には、自分が居る。
それはまるで幻想のような、半年間という刹那の宴――。
「まだ、思い出に浸ってる場合じゃないわ」
言い聞かせるように呟き、アリスは境内の階段を下りていく。
最後まで、この異変を闘い抜こう。このチームで。
その意志をこめた足取りで、アリスは小走りに夕陽の中へ駆けていった。
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