大胆はほどほどに
2008.05.04 Sunday | category:投稿&頂き物SS
わざとそうしてるのか、それとも無意識なのか。もうおよそ六年にもなる長い付き合いだというのに、未だ彼女を見極められない自分が歯がゆい。
なのはの全部が知りたいのに。なのはのことで知らないことがあるなんて、認めたくないのに。
なのははそんなわたしの気も知らず、無邪気にわたしを振り回す。それでこのとびきり魅力的な笑顔を見れるなら、まんざらでもないと感じてしまっているわたしは、何かがずれてしまっているのかもしれない。
大きく深呼吸をして、改めて横のなのはを覗き見る。
……うん。やっぱり不自然だ。どう見ても無意識とは言い難い。この教室中で、間違いなく一番目を引いている。『あの』なのはが『それ』をしていることで。
反則だ。『あの』なのはが第二ボタンまで外したまま、学校に登校してくるなんて許されることだろうか。だってここにはわたしだけじゃない。アリサも、すずかも、はやても、たくさんの人がいるのに。みんなが見てるのに。
わたしは絶対に認めない。わたしとの身長差も考慮した上での暴挙なのだろう。現に今日は朝からやけになのはの寄り添ってくる率が高い。
もう限界だ。わざとであろうが、そうでなかろうが、注意しなければ。これ以上なのはを野放しにしていたら、わたしの中のどうしようもない獣が檻から飛び出てしまう。
苦い気持ちをかみ締めつつも、意を決して、わたしは唇を開いた。
「なのは。なのはの気持ちはすごく嬉しいよ。でもなるべくそういうのは、ここではして欲しくないよ、わたしは」
「――っ」
予想通りの反応を、なのはがした。つまりその大胆な装いは意図的なものだったということ。
にこにこ、満足げに笑っていた顔が強張り、頬が撲たれたように赤くなり、綺麗な瞳が驚いたように見開かれた。
もう、今になって確信した。最悪の、できればそうなって欲しくなかった展開が起こると。
「なのは」
俯きがちのその顔を覗き込もうとしたところで、なのはが突然駆け出した、教室の出口に向かって。なのはに触れようと伸ばした手がむなしく空を切る。
「フェイト」
呼ばれてふと振り向くと、アリサが細めた目でわたしを見据えて肩をすくめていた。同情してくれているのだろうか、なかなかなのはの気持ちを掴めなくて、苦戦してばかりのわたしに。
「KY」
アリサがそう低く呟いた。どういう意味だろう。誰かのイニシャル? ……ではなさそうだ。
ひとまずけなされたのは、その表情で何となく解る。酷く落ち込まされた。
わたしは悩む間も惜しんで、今の最優先事項、『仲直り』をするべく、教室を後にした。
× × ×
「なのは……」
意外となのははすぐに見つかった。というか、逃げ込みそうな場所なんて、屋上以外に思いつかない。振り返る様子のないなのはに困惑しつつも、ゆっくりと距離を詰める。
「嫌だった?」
「え?」
突然発せられた言葉の意味が解らなかった。
「わたしがこんなことしても、フェイトちゃんは全然ドキドキしないんだ」
なのはが胸元に手を当てた。ああ、やはりそのことを褒めるでもなく、『指摘』してしまったことがわたしの落ち度らしい。
「そんなこと」
「だってフェイトちゃん朝からずっといつもと変わらなかったもん」
なのはが息つく間もなくまくし立てた。
それは、どうしていいか、解らなかっただけで。色んなものが緩んでしまいそうなのを、必死で堪えていただけで。
「なのは、好きとか嫌いとかは問題じゃなくて、なのはにちゃんと自覚して欲しいだけなんだよ、わたしは」
「うん、自覚した。わたしじゃどんな格好したってフェイトちゃんは何とも思わないんだって」
悩む心そのままに、髪に指をうずめる。一度拗ねてしまったなのはをなだめるのは本当に難しい。何年もの付き合いなのに、未だにこれの解決法は浮かばない。
なのはの全てを理解できれば、他は何もいらないとさえ思っているのに。その唯一が、どうしても手に入らない。……悔しい。
「そういう意味じゃなくて。だからその……わたし以外に、なのはのそういうところを見られるのが嫌だって言ってるんだよ」
上手く事が運んでくれない苛立ちから、つい感情的にそう言い放ってしまっていた。けどなのはは身じろぎ一つしない。
「どうして?」
「だって、……辛いから」
呟いた刹那、ぴくりとなのはの体が微かに揺れたように見えた。相変わらずこちらに背を向けたままだから、どんな顔をしてるかは解らない。
「……………………ふーん」
物思うような奇妙な間があって、ようやく返ってきたのは、そっけない反応。とても居心地が悪い。
あったかくて心地良いはずの陽気だというのに、わたしの手は緊張のせいですっかり湿ってしまっている。
「独り占めしたい、とか?」
「そう、かも」
「ふうん」
沈黙が落ちる。また何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか。言葉を重ねるだけ状況を悪化させてしまいそうで、ひたすら立ち尽くす以外にない。
「フェイトちゃんて、意外と欲張りなんだ」
「…………なのはのことだけだよ」
吐き出すように、正直な気持ちを呟いた。再び沈黙が続く。
けど心なしか、なのはの雰囲気が和らいだ気がした。もしかすると今の回答は上々だったのかもしれない。
なのはが顔だけこちらを向いて、疑るような視線をわたしにぶつけてきた。
「それ、ホント?」
「ホントだよ」
「あやしいなぁ」
なのはにとって、わたしはそんなに信用がないのだろうか。少しばかり落胆する。
「じゃあどうすれば信じてくれるの」
なのはがようやく向き合ってくれた。その顔はわたしの反応を面白がっているかのように、上機嫌に微笑んでいる。やっと見ることのできたその笑顔に、ついつられて笑み崩れてしまった。
「その欲張りを見せてくれたら、信じちゃおうかな」
――欲張りを……見せる?
「ふぇ、いとちゃん」
間近で声がして、ハッと我に返ったときには、もう抱きしめてしまっていた。
ふと焦点が重なった刹那、計ったような同じタイミングで互いにぱっちり、目を見開く。
やっとおとずれた、仲直りのチャンス。失敗は許されないというのに。
あまりに魅惑な要求に、考えるよりも先に体が動いてしまっていた。
今更突き放して言い訳を並べるのも気が引けて、そのままなのはの肩に頭を乗せる。
――あぁ、どうしてこう。なのははわたしの心をとろかす、危険人物だ。
だっていい匂いがするし、やわらかいし、あったかいし、――とにかく、どうにかしてしまいたいくらいなんだ。
「五十点」
「…………あぅ」
甘いひとときが、その短い言葉であっさり砕け散った。抱きしめるだけではお気に召さないらしい。
――そうなると。やっぱり、『あれ』だろうか。じ〜っと、体を離すことなく見上げてくるなのはを見つめ返して、決心する。
その吐息を感じた瞬間、目の前の瞳がそっとまぶたに隠された。それは正しい答えを示すまでの、おあずけのようで。
だからわたしは、答えを行動に移す。…………その、甘やかな唇に。
あぁ……やっぱり、反則だ。緊張も、不安も、嫌なもの全てを、一瞬にして吹き飛ばすのだから。なのはの口付けは。
だからわたしが欲張りになってしまうのは、当然のことなんだ。……だから、こんななのはを他人に見せたくない。
薄目を開けて、その魔法の瞳が開いたのを確認して、わたしは唇を離す。
「……にゃは。満点」
「――――良かった」
その笑顔に満足して笑い返すわたしに、なのはがちろっと舌を出して、胸元をかき合わせた。
「今度からは気をつけるから」
「ありがとう、なのは」
「その代わり、フェイトちゃんといる時は遠慮しないからね。それならフェイトちゃん、大歓迎なんでしょ?」
「…………あぅ」
向けられたその極上の笑顔に何も言い返せないのは、図星だからかもしれない。
Comment
やっぱりなのは嬢は「誘い攻め」で。
ええ、もう確信しましたよ。
で、天然暴走スキル持ちなので無意識にフラグ立てまくりになるわけですな。
この場合は聖祥学園内に。
フェイト嬢は基本「ヘタレ属性」なので自分から行く時=暴走寸前と言う方程式しかないのでどうしようもないですね…
でも個人的には、フェイト嬢はもっと己の欲望に素直になった方がいいですな。
どんなことでもなのは嬢は受け止めてくれるでしょう。
むしろどんと来い状態で(ぇ
ええ、もう確信しましたよ。
で、天然暴走スキル持ちなので無意識にフラグ立てまくりになるわけですな。
この場合は聖祥学園内に。
フェイト嬢は基本「ヘタレ属性」なので自分から行く時=暴走寸前と言う方程式しかないのでどうしようもないですね…
でも個人的には、フェイト嬢はもっと己の欲望に素直になった方がいいですな。
どんなことでもなのは嬢は受け止めてくれるでしょう。
むしろどんと来い状態で(ぇ
Posted by: LNF |at: 2008/05/06 2:36 AM
>LNFさん
個人的には誘い受けななのはさんが好きなのですけど(結構そっちが好みだって方、割と多い気がします)たまにはこういうのもいいかなあと思って書いてみましたー。
>フェイト嬢は基本「ヘタレ属性」〜
ひょっとしたら近いうちに攻めなフェイトさんが見られるかもしれませんw その時は暴走とはまた違った形で、ですけどねー(何
個人的には誘い受けななのはさんが好きなのですけど(結構そっちが好みだって方、割と多い気がします)たまにはこういうのもいいかなあと思って書いてみましたー。
>フェイト嬢は基本「ヘタレ属性」〜
ひょっとしたら近いうちに攻めなフェイトさんが見られるかもしれませんw その時は暴走とはまた違った形で、ですけどねー(何
Posted by: mattio |at: 2008/05/07 10:19 PM
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