少し角度が違う分
2008.03.14 Friday | category:投稿&頂き物SS
「……むぅ〜……」
「…………」
「んん〜……」
「…………」
宝石でも埋め込んだの? それともそんなふうに見せるコンタクトレンズでも手に入れたのかな? 今更だけど、なのはの目は綺麗だね。
…………なんて言ったら怒られるよね、きっと。
どうしたんだろう。なのはの様子が変だ。
わたしと目が合うと、その度にこうやって敵を見るような目をして、低く唸ってくる。
きっとなのは本人は精一杯怖い顔をしているつもりなのだろうけれど、この可愛い顔で睨まれても迫力は感じないし、むしろ甘い意味でドキドキしてしまう。
そう言ったら言ったで機嫌を損ねてしまうのが解りきっているから、こうして見つめ返すことしかできないのだけど。
「うぅ〜…………」
とはいえ、さすがにこのままじゃ一体どうしてこんなことになっているのか見当がつかないし、埒も明きそうにない。
小さく息をついて、わたしはなのはに問いかけた。
「なのは。あの、どうかしたの?」
「…………どうもしないよ。気にしないで、フェイトちゃん」
素直には答えてくれないらしい。なら自分でどうにか推測するしかない。
そう。記憶をたどると、最初にこの不機嫌な顔を見せられたのは、午前中だったと思う。
午前中といえば、毎年恒例の健康診断があった。少なくとも測定の合間のやり取りは、特に変わったこともない、いつも通り楽しく過ごしていた記憶がある。
――そうだ、確かその結果を見せっこした時から、なのはの表情が一変した気がする。
わたしの記録表を覗いたなのはが、途端に険しい顔をしたんだ。
……あ。ひょっとして。
「なのは。大丈夫だよ、今のままでも」
「……何のこと? フェイトちゃん」
「だからその、太ったかどうかなんて言わなきゃ解らないくらい、なのはは十分綺麗だよって……」
「…………」
あぁ、言っちゃった。改まって、「綺麗だ」なんて。
ほら、なのはの顔がたちまち赤くなった。
けど本当のことだ。きっとなのはは去年と体重の変わらなかったわたしに対して焦っていたんだと思う。
でもいつだってそばにいるわたしから見てなのはは全くもって、むしろ一日につくため息の数も増えてしまうほど、日増しにその可愛らしさに磨きがかかっている。
だからなのはの不安は杞憂以外の何物でもない。というか、これ以上可愛くなられては困る。その、色々な意味で。
「太ってないもん」
「え?」
その声色と剣幕にはさすがにたじろいだ。
「体重変わってなかったもん。フェイトちゃんのバカ」
「あ…………あぅ」
やってしまった。顔が赤くなったのは恥ずかしかったからじゃなくて、怒ってたのか。
そっぽを向いて口を尖らすなのはを見て、わたしは無神経だった自分にかつてないほどの嫌気を覚えた。
逃げ出してしまいたい衝動を押さえつつ、どうにかなのはをなだめる言葉を探す。
あぁ、けどこの様子だとどうも今回は難しそうだ。
「フェイトちゃん、また背伸びたね」
なのはが突然、小さくぼそっと呟いたのを、わたしは聞き逃さなかった。
「う、うん。ほんのちょっとだけど」
けど本音は去年の身長と比べて、かなり伸びたと思ってる。背が高くなったと実感するようになったのは、本当に最近だけど。
数ヶ月前までなのはと目線の位置もさほど変わらなかったのに、と違和感を抱いたのがごく最近だ。
これまで身長だけはなのはに負けたことがない。いつも微妙な差でわたしの方が上だった。それが実は、ほんの少しだけ嬉しかったりする。
「…………はぁ」
なのはがじっとわたしを見て、淋しげに気の抜けるようなため息をついた。その様子が「フェイトちゃんには失望した」とでも言わんばかりで、わたしは泣きそうになった。
何がどうなってこんな状況に陥っているのか、理由の解らないわたしはただその様子に戸惑うしかない。今は何を喋っても事態を悪化させてしまいそうだ。
「なのは。わたしが知らないうちに何か気に障ることしたなら謝るよ。だからその、……ごめん」
最善の行動だと思った。だからまず、頭を下げた。
なのはの不機嫌の発端が何なのか、自分でも全く解ってないけれど。とにかく今のなのはを見るのはもう、我慢できそうもない。
ちらりとなのはを除き見ると、なのはが力なく笑って、首を振っていた。
「いいよ。どうにもならないことだし」
なのはにそんなことを口にされてしまうと悲しくなる。頭を上げて、わたしはなのはの華奢な肩に手をかけた。
「でも……やっぱり、わたしが何かしたんだよね? お願いだから、理由だけでも教えてくれないかな。本当に解らないんだ」
沈黙が落ちる。けどわたしはなのはが話してくれる気になるまで、いつまででも待つつもりだ。
やはりその内容が本人には話しづらいようなことなのだろうか。できれば取り返しのつかない失態でないことを願う。
数分の沈黙の後、なのはが一つ頷いて、口を開いた。
「……ふぇ、フェイトちゃんに、また身長で負けちゃったから……」
俯くなのはの顔が、……また赤くなった。
「…………え?」
思考がわずかな間、停止してしまった。
とても、とても意外なことだったから。あまりに意外で、へたり込んでしまいそうになった。
身長? わたしに負けた? ……そんなことで?
確かに、わたしの方がなのはより背が高い。それは以前から、ずっと。
けどこうしてわたしがさらに背が高くなった今でも、ほんの数センチの差じゃないか。小指一本分すらない。
どうしてそんなことでなのはは怒っていたのか。悲しそうにしてたのか。
……ああ、けど気持ちは何となく解るかもしれない。
「同じ、背丈になりたかったの? なのは」
だってわたしは今そうなりたいと思った。そうなったら素敵だなって。
だって寸分違わぬ同じ目線で大切な人と見つめ合うなんて、その時を想像しただけで幸せになれそうじゃないか。
「ううん。フェイトちゃんより高くなりたいの」
…………幸せは、もろくも崩れ去った。
「ど、どうして……」
「だってわたし今までフェイトちゃんに身長で勝ったことないから、どんな感じか気になるんだもん」
なのはが不満げに頬を膨らませる。とっさにわたしは唇を引き結んで、堪えた。思いきり抱きしめたい衝動を。
「け、けどなのはとわたし、今でもそんなに差はないと思うけど」
怒った様子のまま黙り込んでしまったなのはに、慌てて話題を振る。
「えと、なのははもしわたしより背が高くなったら、どうしたいの?」
「ふぇ? ……えへへ」
先ほどまでとは別人のように、なのはが幸福そうに微笑む。ようやく見せてくれた本当の笑顔に、つられてわたしまで口元が緩んでしまう。
「いっぱいあって言いきれないなぁ」
もったいぶってこちらの反応を横目で窺ってくるなのはの様子が何ともくすぐったくて、いじらしい。
「たとえば、どんなのがあるの?」
「…………こ、こめかみに、……き、キス、とか」
照れ隠しのようにぼそぼそとなのはが呟く。けどわたしにはちゃんと聞き取れていた。耳に馴染んだ声だから。
「こう、自然に頭撫でたり――きゃっ」
無防備すぎだよ、なのは。
早速そのなのはがしてみたいという願望を、実際背の高いわたしが行動に移してみた。
なるほど。確かにこうしてちょっと角度が違うだけで、色んな特典がついてくる。
なのはの場合、背伸びをしないとわたしのこめかみには届かないし、何よりわたしが先に気づいてしまうだろう。
――あ。けど見てみたいかもしれない。
かかとを上げて、背伸びしてプルプルしながらわたしに不意打ちを狙うなのは、とか。
「フェイト、ちゃん?」
訝しげに目を瞬かせてこちらを覗き見るなのはを見下ろして、感情のままににっこり笑ってみせる。
「なのは。悪いけど、やっぱりわたしは負けたくないよ。なのはに」
「ふぇ?」
「これからは気をつけてね。なのはがよそ見したら、今みたいなことになるから」
一本取った。困り顔のなのはを見てそう確信した。
わたしだってたまには優位に立ちたいんだ。相手がなのはだから、なおのこと。
「……むぅ〜……困ったなあ」
なのはが腕組みして、――けど困っていたはずのその表情はいつのまにやら、いやらしく笑っていて。
直感でまずいと感じていた。
「それじゃあ当分フェイトちゃんの顔は見れないね」
「え?」
「だって、ずっとよそ見してればいっぱいしてくれるんでしょ?」
撫でるように頬に触れてくる、その手。満足したような顔に、わたしはわざと呆れたように小さくため息をついてみせて。その手首をそっと掴んだ。
「…………よそ見なんか、しなくたって」
言いきる前に腕を引き、その体を引き寄せる。やや屈んで目の前に飛び込んでくるその顔を、――唇を、流れるように自分のそれで受け止めた。
そう。こうしてわたしが屈めば、同じ高さになる。大は小をなんとやら、だ。
大好きな感触に胸が高鳴りつつも、ほんの少しばかり罪悪感がまとわりついている。強引に唇を奪われて、なのはは怒るだろうか、と。
――その不安はすぐさま消し飛んだ。見つめる先の、見開いた目が身じろぎもせず、ゆっくりと閉じられて。掴んでいたその腕がわたしの首に回されて。
なのはと同じように目を瞑って、心地良いひとときに全てを委ねる。
せめてこれだけは負けない。なのはの方から唇を離すまで、絶対に離すもんか。
――と。固く心に誓いつつ。
Comment
mattioさんのSSは段々糖度が増していると思う今日この頃…
身長差は萌えます!(><)
この二人はずっとキスしてればいいと思うよw
なのはも負けず嫌いだろうしwww
身長差は萌えます!(><)
この二人はずっとキスしてればいいと思うよw
なのはも負けず嫌いだろうしwww
Posted by: なのはな |at: 2008/03/16 1:53 PM
>なのはなさん
>段々糖度が〜
まあ、多分同人原稿も含めて好みのちゅーなのフェイを書き続けてるからではないでしょうか(笑)
青春モノやらせるにはやっぱり中学生が最適(ry
そうですね、アリサとかに止められるまで二人はこのままでしょうね、休み時間終わっても(笑)
>段々糖度が〜
まあ、多分同人原稿も含めて好みのちゅーなのフェイを書き続けてるからではないでしょうか(笑)
青春モノやらせるにはやっぱり中学生が最適(ry
そうですね、アリサとかに止められるまで二人はこのままでしょうね、休み時間終わっても(笑)
Posted by: mattio |at: 2008/03/17 8:25 PM
まずは一言。
「バカップル万歳!!!!」
個人的になのははフェイトよりもすこしちっさい方が好み。
だってそのほうが不意打ちでキスできるもん♪(←切腹)
でもでもベッドで組み敷かれるのは何故かいつもフェイト(←SLB&PZB)
>アリサとかに止められるまで二人はこのままで
でもすずかさんと付き合うようになったアリサさんでは止まる所か更なる暴走状態に…あ、でも楽しそうだからいいや(ぇ
にしても甘いなぁ…mattioさんのSS読んで糖尿病になるならいっそ本望だけどな。
「バカップル万歳!!!!」
個人的になのははフェイトよりもすこしちっさい方が好み。
だってそのほうが不意打ちでキスできるもん♪(←切腹)
でもでもベッドで組み敷かれるのは何故かいつもフェイト(←SLB&PZB)
>アリサとかに止められるまで二人はこのままで
でもすずかさんと付き合うようになったアリサさんでは止まる所か更なる暴走状態に…あ、でも楽しそうだからいいや(ぇ
にしても甘いなぁ…mattioさんのSS読んで糖尿病になるならいっそ本望だけどな。
Posted by: LNF |at: 2008/03/18 12:02 AM
>LNFさん
その不意打ちも嬉々として待ち構えてるなのはちゃんに乾杯☆
そういやこの頃はアリすずもできあがってるはずでしたね。じゃあ、
「またあの二人は……(怒)」
「アリサちゃん」
「何よ、すず――ひゃっ」
「ふふ。アリサちゃんは背の変わらない私でも不意打ちが効くんだね」
「……すずか限定で、よ」
「えへへ。良かった」
「当然でしょ」
「で、結局ツッコミ役は私になるんか」
こんなんでいかがでしょ(ry
その不意打ちも嬉々として待ち構えてるなのはちゃんに乾杯☆
そういやこの頃はアリすずもできあがってるはずでしたね。じゃあ、
「またあの二人は……(怒)」
「アリサちゃん」
「何よ、すず――ひゃっ」
「ふふ。アリサちゃんは背の変わらない私でも不意打ちが効くんだね」
「……すずか限定で、よ」
「えへへ。良かった」
「当然でしょ」
「で、結局ツッコミ役は私になるんか」
こんなんでいかがでしょ(ry
Posted by: mattio |at: 2008/03/18 8:02 PM
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