はじめての××
2006.07.30 Sunday | category:なのはSS(アリサ×すずか)
ハラオウン家に集まったいつもの4人組。ところが出されたジュースが実はお酒で、酔ったなのはとすずかが……。
年齢制限のかからない範囲のギリギリを狙ってみました(ぇ)。最初はいつも通りのなのは×フェイトのつもりで書き始めたのに、終わってみたらアリサ×すずかになっている不思議。すずかは絶対策士だと思うのです。
年齢制限のかからない範囲のギリギリを狙ってみました(ぇ)。最初はいつも通りのなのは×フェイトのつもりで書き始めたのに、終わってみたらアリサ×すずかになっている不思議。すずかは絶対策士だと思うのです。
◇フェイト――SIDE:A◇
いつもの日曜日。私となのは、それにアリサとすずかの4人で、今日は私の家に集まっていた。
「はいはーい、お菓子とジュースお持ちいたしましたー、っと」
4人で談笑していると、そう言ってエイミィがお盆を手にやって来た。グレープジュースとクッキーが4人分。
「はい、フェイトちゃん」
「うん、ありがと、エイミィ」
「ん、じゃ、何かあったら呼んでね」
立ち去るエイミィに軽く手を振って、私はお盆をみんなの前に置く。
「そういえば、今日はリンディさんとクロノさんはいないの?」
「あ、うん。クロノは何だかザフィーラと出かけてる。リン……母さんは買い物。こっちの買い物が楽しいみたい」
……まだ、何だかちょっとくすぐったい。リンディさんを、母さん、と呼ぶこと。
けど、それもきっと、そのうち慣れて、普通のことになるんだろう。そうなるといいと、思う。
「? アリサちゃん、クロノくんに会いたかったの?」
「べっ、別にそんなつもりじゃ――」
頬を赤くして明らかに狼狽するアリサに、隣ですずかがくすくす笑う。
なのはと私も、アリサの可愛らしい反応に笑みをこぼしながら、グレープジュースに口をつけ、
「……?」
口に含んだ瞬間に覚えたのは、違和感。グレープジュースの酸味と甘みとは明らかに違う、この刺激は――
「どうしたの、フェイトちゃん?」
ストローを口に含んだまま、なのはが私を覗きこむ。なのはの方は、普通に美味しそうに飲んでいた。
――私の気のせいかな。見ればすずかも普通に飲んでいる。アリサは照れ隠しなのか、クッキーを囓るばかりでまだジュースには手をつけていない。
私ももう一度、ストローに口をつけようとして、
「……ひっく」
すぐ横で聞こえたしゃっくりに、手が止まった。
振り向くと――グラスを手にして、なのはがぼんやりと中空を見つめている。その頬が、なんだか風邪でも引いたみたいに赤い。
「な、なのは?」
「……フェイト、ちゃん?」
ゆっくりと、なのはがこちらを振り向く。――真っ赤になった顔で、その目を眠そうにとろんとさせて。
その顔は、まるでそう――たまに大人の人が騒いでるときに見せる、つまり……酔っぱらいの顔。
ということは、やっぱりこのグレープジュースは……!
「フェイトちゃ〜ん♪」
突然、がばっとなのはが抱きついてくる。わ、わわわっ。全く唐突なスキンシップに、一瞬で頭はパニックに陥った。
胸元にすり寄せられるなのはの顔、髪の毛から漂ってくるシャンプーの匂い。背中に回された腕、押し当てられる頬の柔らかさ。
な、なななのは、え、えと、えとえと、嬉し、うう嬉しいけど、けどけど、ア、アリサもすずかも見てるよ――
と言おうとした口は、だけど金魚みたいにぱくぱくと動くだけで、声にならない。
「にゅふふ〜、きもちい〜♪」
すりすり。小動物みたいに頬をすり寄せてくるなのはは、何ていうか、その……すごく、
――かぷ。
「ひぁっ!?」
突然、耳からくすぐったいような、痺れるような奇妙な感覚が走り抜ける。
「な、なのは……?」
胸元にあったなのはの顔は、いつの間にか顔のすぐ横にあって。
――あむあむ、と、なのはが私の耳たぶを噛んでいた。
「ひぅっ……な、なの、ひゃっ」
ふっ、と耳に息を吹きかけられて、ぞくぞくと背筋を寒気にも似た感覚が走る。
「んー、フェイトちゃん可愛い〜♪」
ぷに。なのはの指が私の頬をつつく。アルコールに赤く染まった顔で、いたずらっぽく笑うなのは。
ぺろり。
「……ふぁっ」
鼻の頭を舐められて、くすぐったさに私はまた吐息を漏らしてしまう。
――あうううう、恥ずかしくてたまらない。アリサやすずかがすぐそこにいるのに……。
けど、密着したなのはの身体の柔らかさとか、目の前にあるなのはの唇とか、いろんなものが、私の理性をだんだん蝕んでいく。
――なのは、いいにおい……。
「フェイトちゃんの、弱点はどこなの〜?」
また耳たぶを噛まれ、息を吹きかけられる。全身に震えが走り、目尻に涙が浮いてくる。
最初に一口だけ含んだアルコールのせいだろうか――身体がなんだか熱い。
なのはの唇が、目元から頬をなぞる。顎のあたりを舐められて、ますます火照りが強くなってくる。鎖骨をなぞる指先がくすぐったい。首筋に当たる吐息が、熱い。
「なの、は……」
「フェイトちゃんってば、どこも敏感なんだね……んふふー」
てろ。温かく湿った舌が、顎から首筋を這い、鎖骨に至る。くぼみに息を吹きかけられて、また全身が震えた。
ちゅ、ちゅ。わざと音をたてて、なのはが鎖骨から首筋へとキスをしていく。
「ひんっ……ひ、ぁ」
うなじを吸われるくすぐったさは、痺れるみたいに身体を突き抜けていく。
――もう、アリサが見てるとか、そんな意識はすっかりなのはのキスに溶かされてしまっていた。
「なのは……なのはぁ」
首筋を、まるで吸血鬼みたいに甘く噛むなのはの頬に、私は手を伸ばす。
されるばっかりじゃなくて、私もなのはにキスしたかった。なのはの柔らかい頬とか、形のいい鼻とか、耳たぶとか鎖骨とか――その、甘い唇とかに。
――ねえ、いいよね、なのは……キスしていいよね。
これだけキスの雨を降らされて、まだ唇にはキスしてもらってないなんて、いじわる以外の何物でもない。
なのはがしてくれないなら……私からしちゃうよ?
首筋から顔を上げたなのはの唇に、私は有無を言わさず、自分の唇を――
「……?」
唇に当たったのは、なのはの唇とは別の感触。遮るように押し当てられたそれは――なのはの指だった。
「だーめ、今日のフェイトちゃんは、わたしのおもちゃなんだからぁ」
そしてそのまま、私はなのはに押し倒される。カーペットの柔らかさが背中を受け止めて……目の前には、いじわるな笑みを浮かべるなのは。
――なのはの唇があんなに近くにあるのに、押さえる指を跳ね返せないのが、どうしようもなくもどかしい。
「勝手にキスしちゃだーめ、だよ?」
唇を指でふさがれたまま、またなのはにあちこちキスされる。ちゅ、ちゅぱ、ちゅ……。おでこ、ほっぺた、耳たぶ……こめかみ、うなじ、鎖骨……
そのひとつひとつが与える快感に、だけど押さえられた唇は声を漏らすことも許してくれない。もどかしさに身をよじる。
「……でも、あんまりいじわるしても可哀想だからぁ」
と、その指が、私の唇をなぞるように這った。そして――するりと。唇を割って、なのはの指が私の口内に侵入してくる。
――あ……なのはの、指……
たまらず、私はその指を吸った。自分からキスもできないもどかしさを、全部ぶつけるみたいに……みっともなく唾液の音をたてて。
ちゅぱ、ちゅ……ちゅぷ……。
「にゃは、フェイトちゃん、赤ちゃんみたいでか〜わいい〜♪」
一心になのはの指をしゃぶる私の頬を、なのはが空いた指でつつく。
たぶん本当に、今の私の姿を傍から見たら、大きな赤ん坊以外の何物でも無いんだろう。
ただ、なのはの指を舐めて、噛んで、吸って――それだけに夢中になっている、大きな赤ん坊。
――なのはに、そんな恥ずかしい姿を見られている事実に、ますます身体が火照ってしまって。
本当に、私、変な子になってしまったみたいだ……
「ねえフェイトちゃん……わたしの指、おいし?」
――うん……美味しいよ……なのはの、指……
答えようとしたけど、今指を口から離したら、またなのはにいじわるされそうな気がして――私はそれに、頷くだけで答える。
口に含んだなのはの人差し指は、もうすっかりふやけてしまっていた。
「わたしも……フェイトちゃんの指……ほしいな……」
なのはの空いた方の手が、私の手と重なる。
――私の指を、赤ん坊みたいにちゅぱちゅぱとしゃぶるなのはが、脳裏に浮かんだ。
そ、それは……すごく、すごく、見たい。
躊躇うことは何も無かった。私が人差し指を差し出すと――なのははすごく幸せそうに、ぱくりとそれをくわえた。
ちゅる、となのはの舌が、私の指先に絡まる感触。こそばゆさに思わず、指を動かしてしまう。と、なのはの舌がそれを押さえようとするみたいに絡んできて――
んぷ……ちゅぱ。ちゅ、ちゅぷ……。私の指先から、なのはの唾液の音がたつ。
……さっきまで私、こんなことしてたんだ……
自分が今までなのはにしていたことを、目の前で見せつけられる恥ずかしさに、顔が真っ赤になるのを感じる。
と、薄目を開けたなのはと目が合った。
――ねえ、なのは。私の指……おいしいかな。
声に出さなくても、私が何を言いたいのか、なのはは察してくれたみたいで。――こくりと、頷いてくれた。
――ああ、もう今日はずっとこのまんまでもいいかな……
暖かい日射しにまどろみながら、床に寝転び、丸くなって。お互いに、赤ん坊みたいに指をしゃぶりあって。
そんな日曜日の午後もいいなぁ、なんて思った。
◇アリサ――SIDE:A◇
だから、別にあたしはクロノさんに会いたかったとか、そういうつもりで来たわけじゃないんだってば……。
そんなことを口にしてしまわないように、あたしは黙々とクッキーを口に運ぶ。
下手なことを言ったらまた墓穴を掘るだけだ。沈黙は金、雄弁は銀。さっさと話題が次に移るのを待つに限る。
――ついでに、この勝手に火照ってる顔もなんとかしないと……
そんなことを考えているうちに、いい加減口の中が渇いてきて、あたしは自分の分のグレープジュースを手に取り、
「フェイトちゃ〜ん♪」
突然なのはが甘ったるい声をあげたのに驚いて、あたしは顔を上げた。
目の前にあったのは、ある意味予想通りというかなんというか――フェイトに抱きつくなのはの図。
いやちょっとあんたら、ラブラブなのは前から解ってたけど、いきなり人前で見せつけるっ!?
あたしが突然の展開に眼を白黒させるのにも構わず、なのはは甘えるようにフェイトにすり寄り、――それからおもむろに、フェイトのあちこちにキスをしだした。
わ、わ、わ……ちょ、ちょっとなのは、人前だってこと解ってんの?
思わず手で視界を隠してしまう……が、結局指の隙間から見てるあたし。ああもう。
というか、さすがになのはも、ここまで人目をはばからない行為に及んだことは今まで無いのに、なんでいきなり――
「…………」
手元のグレープジュースに目を落とす。なのはの赤い顔と脳が溶けたような行動……これってまさか。
一口含んでみて確信する。――お酒じゃないのこれっ! エイミィさん、何考えて――
「……アリサちゃん」
背後から声。なぜかたらりと冷や汗が流れた。そういえば、すずかも美味しそうにこのジュース、もといお酒を飲んでいたわけで、
「アリサちゃんっ」
おそるおそる振り向くと――そこにいたすずかの顔は、なのはのようにだらしない表情ではなく。
……でも、その頬はやっぱり、なのはと同じく、赤い。
ああもう、すずかまでっ……
「アリサ、ちゃん……」
と――不意に、全く唐突に、すずかがぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「す、すずか?」
あたしは驚いて、涙が幾筋もこぼれるすずかの頬に手を伸ばし、
――その手をいきなり、ぐいと引っぱられる。
え、と声をあげる間もなく、すずかの顔が間近に迫って。
唇に――柔らかいものが触れた。
「んっ……」
何が起こっているのか理解できず、咄嗟に離れようとしたあたしを、首筋に回されたすずかの腕が阻む。
そこでようやくあたしは、すずかにキスされているのだということを理解した。
――す、すすすすっ、すずかっ!?
慌てるあたしを押さえ込むみたいに、すずかの唇はいっそう強く押し当てられる。
柔らかな唇の感触。目の前で震える、すずかの閉じた瞼。目元に溜まった涙と、頬に残る跡。
肩に手を当てると、小さく震えているのが解った。まるで、何かに怯えているみたいに――
……なんだか、急に力が抜けた。そしてそれを見計らったように……すずかがあたしを軽く押して。
唇が離れ、あたしはそのまま、床に押し倒されるような格好になっていた。
「すず、か」
唇にまだ、痺れたように感触が残っている。ひどく動悸が速い。起きあがる力が、沸いてこない。
ああもう、あたしまで酔ってしまったみたいだ。頭がぼうっとして、上手く思考が回らない。頬が熱くなる。
「アリサちゃん……好き」
見上げたすずかの唇が、不意に震えて、その言葉を紡ぐ。
解っていたけど――その言葉が来るのはなんとなく解っていたけど、やっぱり、面と向かって言われると、心臓が跳ねた。
甘く響く声。首筋に当たるカーペットの毛。すずかの長い髪が袖口をくすぐる。そのひとつひとつが、ぶるりと全身を震わせるような、不思議な感覚を走らせる。
――その瞳が潤んでいるのは、さっきの涙のせいだけじゃないのだろうか。
「アリサちゃんのこと、大好き……」
すずかの指先が、あたしの頬に触れた。くすぐったさに思わずあたしが目を閉じると――
その隙を狙い澄ましたように、もう一度すずかの唇が重ねられる。
「ん……む」
今度はもう、離れようとする気も起きなかった。だいいち完全に押し倒されていて、身動きがとれない。
あたたかい、すずかの唇。その熱が、バターを溶かすみたいに、あたしの脳のどこかも溶かしていってしまう。
すずかが身じろぎするたびに、唇どうしが擦れ、微かに漏れた吐息が頬を、鼻をくすぐる。髪からは、シャンプーのいい匂いがして。
「………はぁ」
唇が離れる。……それを名残惜しく感じてしまった自分がすごく恥ずかしい。
頭の中は相変わらずぐるぐるで、すずかに何と声をかけたらいいのかも解らない。
ただ、目の前にある赤らんだすずかの顔を直視できなくて、あたしがちょっと目を逸らすと――
ぽたり、と。頬にあたたかな、雫が落ちる。
「すずか……?」
見上げたすずかの瞳からは、また幾粒も、幾粒も、涙が溢れて。
――な、なんで、泣くのよ……。泣かないでよ、すずか……。
あたしはその目元に、指を這わせる。涙の跡を拭って、すずかの柔らかい頬を撫でる。
すずかが泣いていると、あたしまで泣きたくなるから。
何がそんなに悲しいのか……言ってくれなきゃ、解らないじゃない。
だからせめて……泣かないでよ。
「アリサ……ちゃん」
掠れた声で、すずかがあたしの名前を呼ぶ。
そしてまた、ゆっくりと、すずかの唇が近づいてきて――
またキスされてしまうことを、半ば期待するみたいにして、あたしも目を閉じて。
「……………………あれ?」
だけど、いつまで経っても唇にあたたかな感触は触れてこない。
代わりに……全身にのしかかるような重みを感じて、あたしは目を開ける。
「す、すずか?」
すずかの顔は目の前ではなく、すぐ横にあった。
――あたしの上に倒れ込むようにして、すずかは眠っていた。アルコールが回ったせいなんだろう。静かな寝息を立てて……だけどその頬に、涙の跡を残して。
ああもう……結局何も言わずに寝ちゃうなんてっ。
呆れたようにあたしはひとつ息をつき、それからすずかの髪を優しく撫でた。
「ねえすずか……なんで泣いたの? ただの泣き上戸? それとも……」
『アリサちゃんのこと、大好き……』
すずかの震えた声がよみがえる。あれは……たぶん、きっと。
「……まったく、もう」
ひとつ苦笑して……それからあたしは、天井を仰いだ。
いつの間にか、なのはとフェイトの声も聞こえなくなっている。2人とも眠ってしまったんだろうか。この体勢では確認できない。
――どうしよう、この状況。エイミィさんが来たら、何て説明すればいいのよ……
しばし考えて、結局結論はひとつだけだった。
……あたしも、寝ちゃお。
窓から差し込む午後の日射しは、ぽかぽか暖かいし。
……すずかにキスされたときに、アルコールまで移されたみたいで、なんだか、眠い……し……
……おやすみなさい……
◇フェイト――SIDE:B◇
目が覚めたのは、夕陽が瞼の隙間から眩しく差し込んできたからだった。
「……あれ? 私……」
眼を擦りながら、私は身体を起こす。場所は自分の部屋の、ベッドの上。……いつの間に眠ってしまったんだろう。
記憶を掘り起こしてみる。そう……昼過ぎにアリサとすずかが来て、エイミィが飲み物とお菓子を持ってきて……
そうだ、確かそのグレープジュースが……
「んにゅ……ん、ふ」
もぞり。手元で何かが声をあげて動いた。
「……っ!」
なのはだった。同じベッドで寝ていたのだ。き、気が付かなかった……。
なのはを起こさないようにそっとベッドを降りる。部屋はいつの間にか片付けられていて、アリサとすずかの姿もなかった。
記憶がどんどんよみがえる。そう……なのはがいきなり私に抱きついてきて、それから……それから……
ぼんっ、と爆発したみたいに顔が熱くなった。
――わ、私……な、なのはと、あんな……アリサたちがいる前で……
噛まれた耳たぶ、首筋、鼻の頭を舐める湿った舌、頬に触れる指、鎖骨を這ったなのはの唇――
その感触のひとつひとつが思い出されて、恥ずかしさに身もだえしてしまう。
そして、それから……
「…………あ」
赤ちゃんみたいに、お互いの指をしゃぶりっこして……
自分の手を見下ろす。左手の人差し指。……なのはがしゃぶった、指。
……まだ、なのはの舌の感触が残っている気がして。
気が付いたら……自分でその指をくわえていた。
「ん……」
気のせいかもしれないけど……なのはの味がする、気がする……
まだアルコールが残っていたのかもしれない。また赤ちゃんみたいに、自分の指をしゃぶり始めた私は……すぐ後ろでなのはがすやすやと眠っていることも、すっかり忘れていて。
「なのは……なのはの……ん……」
ああ、だんだん思考がぼんやりとしてくる。全身に、なのはにキスされた感触がよみがえって……くすぐったくて……
「……んん……んに、あれ……? フェイトちゃん……?」
びくっ!
背後からかけられた声に、驚いてむせてしまった。けほけほと咳き込んでいると、そっと背中に手が触れる。
優しく背中をさすってくれるその手は……なのはの手だ。
「フェ、フェイトちゃん、大丈夫……?」
「あ……う、うん、ちょっとびっくりしただけ……」
振り向き、えへへ、と私は何かをごまかすように笑った。……主に、ついさっきまで自分がしていたことについて。
なんとなく両手を背中で組んで隠す。寝ていたなのはは、私が何をしていたか気付いてないとは思うけど……恥ずかしい。
「な、なのはこそ、大丈夫……?」
「え? ……あれ、そういえば、なんでわたし、寝ちゃったんだっけ……?」
なのはは首を傾げる。しばらく考え込んでいたが、結論が出る様子は無かった。
……なのは、ひょっとして、何も、覚えてない?
「んー……ジュース飲んだところまでは覚えてるんだけど……ねえフェイトちゃん、わたしどうして寝ちゃったの?」
「え、ええと、ああと……その、」
い、言えない……。あのジュースがお酒で、酔ったなのはに押し倒されちゃったなんて……恥ずかしくて言えるはずがない。
私がまごついていると、不意に部屋のドアがノックされた。顔を出したのは……エイミィ。
「あ、2人とも起きた? やーごめんね、ジュースとワイン間違えちゃって」
頭を掻きながら、エイミィはそんなことを言う。
「ワイン? ……え、あれ、お酒だったんですか?」
「そうなの、ごめんね。そのせいでみんな寝ちゃったみたいで」
「そうだったんですか……」
……そう、それだけ説明すれば良かったんだね。わざわざ酔ったなのはが何をしたかまで言う必要は無いわけで。
と、そこで私は他の2人のことに思い至る。
「エイミィ、アリサとすずかは?」
「あー、あの2人ならまだあたしの部屋で寝てるけど……どうする? 起こそっか?」
私となのはは顔を見合わせる。時計を見るともう夕方、そろそろ晩ご飯の時間だ。いつもだったら2人ももう帰ってる時間だけど……
「一応、2人の家には連絡してあるけど……とりあえず様子見に行く?」
◇アリサ――SIDE:B◇
「……えーと」
「………………」
ベッドの上に座り込んで、あたしとすずかは向き合っていた。
すずかは顔を真っ赤にして俯いていたし、あたしもその様子を直視できていなかったんだけど……。
……どうにも気恥ずかしくて、言いたいことはたくさんあるはずなのに、言葉が上手く出てこない。
『アリサちゃんのこと、大好き……』
頭の中でリフレインするのは、酔ったすずかが口にした言葉。
それから……二度重なった、唇の柔らかい感触……。
お酒を口にしていなかったあたしの記憶は鮮明だったし、すずかも様子からすれば、たぶん全部覚えている。
……つまるところ、問題は、あの言葉とキスが……そういう意味なのかどうかという話で。
「ねえ、すずか」
「え……あ、と、その、……あぅ」
あたしが名前を呼んだだけで、すずかは煙を吹きそうなぐらい赤くなって、目を白黒させる。
――ああ、何だろう。今まで散々、なのはとフェイトのラブラブっぷりには呆れてきたけど……
今なら、2人がどんな気持ちであんなにイチャイチャしてたのかが解るような気もする。
……あの2人と同レベルって、だいぶ重症な気もするけど。
「あのさ、すずか……さっきのこと、なんだけど」
「……!」
びくっ、とすずかの肩が震える。シーツを握りしめる手に力がこもって、ますます深くすずかは俯き――
「ごっ……ごめんなさいっ」
と、いきなり叫ぶようにして、深く頭を下げた。
「す、すずか?」
面食らって、あたしは目をしばたたく。まさかそんな、勢いよく謝られるとは思いもしなかった。
というか、別に何も謝ることなんて――
「ごめんね、アリサちゃん……いきなり、あんなことして……嫌、だったよね……?」
震える声で、すずかが言葉を紡ぐ。泣きそうな声。震える身体。――それは、あのときのすずかと一緒だ。
「アリサちゃん、クロノさんのこと好きだって解ってたけど……だけど……ごめんね……本当に……ごめんね……」
――ああもう、すずかの馬鹿っ。
あたしは、シーツを握るすずかの手を掴んだ。はっと、すずかが顔を上げる。また涙の伝う頬。濡れた瞳。真っ赤になった、その顔。
可愛かった。どうしようもなく、目の前にいる女の子が可愛くてしょうがかなかった。
だから、震える唇が、これ以上謝罪の言葉を積み重ねる前に――あたしはその唇を、自分のそれで塞いだ。
「んっ……」
驚いたように身を縮こまらせたすずかを、包み込むようにして背中に手を回す。
離さないように、きつく抱き寄せて。これ以上何も言わせないように、唇を強く押し当てて。
……すずかのキスが、あたしの気持ちを溶かしたみたいに、このキスが、すずかを気持ちを溶かせたらいいな。
そんなことを一瞬考えて――照れくささに、抱きしめる手にいっそう力をこめた。
「んむ…………ん、ぷ」
まぁでも、いつまでもキスを続けられるわけじゃない。唇を離し、あたしはすずかと向き直った。
恥ずかしいのは変わらないけど……今度はちゃんと、正面からすずかの顔を見つめて。
「……アリサ、ちゃん……?」
今まで触れあっていた唇に手を当てて、戸惑ったようにすずかが声をあげる。
……そんなに予想外なの? ちょっと傷つくんですけど。
「いい? これから、謝るの禁止だからね。謝ったら、またキスするから」
「え……」
目をしばたたかせるすずかに、あたしは言葉を積み重ねる。……気恥ずかしさが勝る前に。
「すずか……さっき言ったこと、もう一回言って。あたしにキスしたときに、言ってくれた言葉」
お酒に酔ったから、なんて、そんな理由付けはいらないから。
いつものすずかに、ちゃんと言って欲しい。もう一度、その気持ちを、きちんと言葉にして。
「そうしたら……あたしもちゃんと答えるから。すずかの気持ちに、ちゃんと……答えるから」
「アリサ、ちゃん……」
ずっと泣きそうだったすずかの顔が……その瞬間、少しだけほころんだ。
そうよ、何も泣くことも、怯えることもないんだから。
素直に、気持ちをまっすぐに、投げてくれれば。あたしはそれを受け止められる。
それが伝わったか……すずかはこくりと、小さく頷いて。
そして、決心した顔つきで、その言葉を――口にする。
「アリサちゃん……わたし、アリサちゃんが好き」
二度目……いや、三度目、かな。けれど、きっとこれが、最初。
最初の、すずかからの、心からの、告白。
「友達としてじゃなく……ひとりの女の子として、わたし、月村すずかは……アリサちゃんのとこが、好きです」
真っ直ぐな言葉。真っ直ぐな視線。だからあたしも、真っ直ぐにそれを見つめ返して。
「うん……あたしも。あたしも……すずかのことが好き。……大好き」
「……アリサ、ちゃん……!」
胸に飛び込んできたすずかを、あたしはしっかりと受け止める。
その瞳から、またぽろぽろとこぼれる涙は、だけど今までの涙とは違う。
「全く、すずかったら泣き虫なんだから……」
そんな泣き虫さんの側には、あたしがちゃんといてあげなきゃダメなんだ。
泣いているすずかを、いつでも抱きしめて、キスしてあげられるように。
あたしはその涙を舐め取って、それからまた、すずかに優しくキスをする。
四度目の……だけど初めての、想いを重ね合ってからのキスは、ほんの少しだけ、しょっぱかった。
◇おまけ◇
「わぁ……」
「……すずか、良かったね」
「あ、フェイトちゃんも気付いてたんだ、すずかちゃんの気持ち」
「うん……私も、前はすずかと一緒だったから。女の子同士で、好きって言うの……勇気がいるよね」
「わたしは、嬉しかったよ? フェイトちゃんに好きって言ってもらえたとき」
「うん、解ってる……でもやっぱり、女の子同士だと、怖いんだ。お互いの“好き”が、食い違ってるんじゃないかって……」
「そっか……そうだよね」
「けどアリサ、クロノのことはいいのかな……?」
「にゃはは……どうなんだろうね」
「ところでエイミィ」
「ん、なに?」
「ジュースとワイン間違えたのって、ひょっとしてわざと?」
「……あちゃー、バレてたかー」
「ええっ、そうなんですか!?」
「んーと、実はね、すずかちゃんから前に相談されててね……」
「え、つまりこれって……すずかちゃんの作戦勝ち?」
「……そういうことになるのかな」
「………………」
「………………」
「ま、まぁ、2人とも幸せそうだから、いいんじゃないかな?(あ、またキスしてる……)」
「そ、そうだね……(すずか……侮れないね……)」
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