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ストラトスフィアの少女(2)
 お待たせしました、1ヶ月ぶりの第2回ですw 前回はこちら。全4回になりそうです(ry
 そういえば結末案は結局ひとつにまとまったので2パターン書くことはありません、ご了承を(ぇ











     ◆


 ある日のことです。
 ひとりぼっちな少女の目に、蒼以外のものが映りました。
 それは、この蒼に閉ざされた世界を、舞い踊るように翔ける、一羽のツバメでした。
 群れからはぐれたそのツバメは、空に浮かぶ少女の姿に驚いたようでした。
 そして少女も、生まれて初めて見る、自分以外の何かの姿に、とても驚きました。
 少女の周りを旋回するツバメに、少女は近付こうとしました。いつものように歌声を響かせながら。――けれども何故か、少女が近付こうとすると、ツバメは急に元気をなくし、だんだん少女から離れていってしまいました。そして、ツバメの姿は少女の視界から消えてしまったのです。
 ツバメがいなくなり、少女はどうしてか、ひどく悲しくなりました。悲しい、という感情を少女自身は知らなかったので、自分の中の気持ちを、少女はどうすることも出来ませんでした。
 だから少女は、歌い続けるしか出来ませんでした。
 誰も聴くもののない、ひどく悲しく寂しい歌を。

 歌いながら、少女はひとり。
 蒼一色の世界の中で、ずっと――悲しんでいたのです。


     ◇


 歌声はどこまでも、ただ響き続けていた。
 無限の蒼穹は、彼女のための舞台であるかのように。
 ひどく穏やかな風に、その髪をなびかせて。
 歌姫は、同じ旋律を繰り返し続ける。
 彼女の瞳は、舞台への闖入者を見ていなかった。彼女にとっては、そんなことは気に掛けるまでもないことなのかもしれない。――歌うことに比べれば。
 その歌声に、なのははただ、目を細めて。
「……レイジングハート?」
《――――》
 愛杖に呼びかけてみるが、返事は無かった。
「やっぱり――管制システムが沈黙しちゃってる」
 同じように沈黙したバルディッシュを手に、フェイトが呟く。レイジングハートもバルディッシュも、起動状態は保ったまま、しかしデバイスとしては、実質的にその機能を停止させていた。
「魔力構築に影響は無いし、デバイスのシステムそのものに何かが介入してるんだ。……たぶん、この歌声が」
「…………」
「なのは?」
 愛杖と同じように沈黙したままの親友に、フェイトが訝しげに呼びかけた。なのははレイジングハートをぎゅっと握り直すと、真剣な表情で振り返る。
「とにかく――歌声を止めないと、だよね」
「うん。言葉は……通じるのかな」
「やってみるよ。――お話、聞かせてもらえるかどうか」
 頷き合い、なのはは上昇する。虚空を見つめて、ただ歌い続ける少女の元へ。
「ええと……歌姫、さん」
 その視界の前に佇み、なのはは呼びかけた。
 ――少女は応えない。歌声は止むことはなく、その碧の瞳はなのはの姿を見てはいるが、映してはいなかった。
「歌姫さんっ」
 少し強く、なのはは呼びかける。
 そして、歌姫の元へ近付こうと宙を蹴り、

《Ласточка...》

 歌声が、透き通るように高く響いた。
「――――ッ!?」
 弾かれたように、なのはは距離をとる。――ぞくりと背筋を走り抜ける冷たい感触に、唾を飲んで。
 それは一瞬だった。一瞬のことだったが、なのはの本能が、その全てに対して警鐘を鳴らしていた。
 危険だ、と。
 この歌声は、危険だ――と。
「なのは、大丈夫!?」
 慌てて飛んでくるフェイトに、なのはは振り返って小さく頷く。そして、歌姫に向き直ると、ごくりと唾を飲みこんだ。
 ――悪寒が、まだ消えない。
 震える手でレイジングハートを握り直し、なのはは呼吸を落ち着ける。……大丈夫だ。この距離なら。
 だけど、これ以上近付いたら、

 あの歌声が、自分の中に入り込んでくる。

 それは、身体の中に異物をねじ込まれるような不快感。
 自我が攪拌され、入り込んできたナニカとぐちゃぐちゃに混ざり合い、溶け合い、自分でないナニカに変貌してしまう――そんな悪寒だった。
「なのは」
 青ざめたなのはの手を温めようとするように、伸ばされるフェイトの手。その手を、なのはは右手で握り返した。
 隣にいる、大切な人の温もり。――それが、乱れた心を落ち着かせてくれる。
「……お話は、ちょっと難しい、かも」
 なのはの言葉に、フェイトは険しい表情で歌姫を見据えながら、頷く。そして、バルディッシュを構え直した。
「力ずくで――止めるしか、無さそうだね」
 元々、そうなることを想定して来たのだ。デバイスが沈黙してしまってる今、あまり大規模な魔法の行使は難しいが――やるしかない。
 頷き合い、そしてなのはとフェイトは同時に宙を蹴る。

 それを、歌姫は見つめることもなく。
《Ласточка...》
 聞く者のない歌声だけが、繰り返されていた。


     ◆


 少女はずっとずっと、ひとりぼっちで歌っていました。
 寂しい、という感情は、彼女にはありません。
 悲しい、という感情も、彼女にはありません。
 だけど、その歌声はとても寂しく、悲しいものでした。

 少女が歌うのは、いなくなってしまったツバメのこと。
 ひとりきりの世界にやってきた、そのツバメ。
 まるで愛おしむように、彼女は歌います。
 ――ラースタチュカ、と。
 その呼び名をどこで知ったのかも解らないまま。
 少女は悲しく、寂しく――歌い続けていました。

 ラースタチュカ。
 はてのない蒼の世界を舞うツバメ。
 いなくなってしまったその幻影を、少女は追い求めていたのです。無限の蒼の彼方に。

 そんな日々が、どれだけ続いたのか。
 ――再び、少女の世界に、少女以外のモノが現れました。
 少女は嬉しくなって、歌いました。あのツバメが帰ってきたのだと。嬉しい、という感情を知らなかったので、ただ彼女はそれを歌に乗せて――紡ぎました。
 ラースタチュカ、と。

 けれど、そこにいたのはツバメではありませんでした。
 それは、何羽ものハヤブサだったのです。

 ハヤブサたちは、少女の周りを訝しむように飛び回りました。――そして、ツバメと同じように、次々と力を失って落ちていきました。
 少女はそれを見つめながら――ただ、ハヤブサたちの中に、あのツバメの姿を探していました。
 けれど、あのツバメはどこにいません。
 だから少女は、強く強く、呼びかけました。

 ――ラースタチュカ。

 それと共に――ハヤブサは皆、蒼の底に消えていき。
 そしてまた、少女はひとりぼっちになりました。

 悲しくて、寂しくて、少女はただ歌いました。
 どこにもいないツバメの名を、呼び続けました。

 ラースタチュカ。
 ラースタチュカ。
 ――愛しき、一羽のツバメ。


     ◇


 フェイト・T・ハラオウンは、歌が好きだ。
 それは例えば、大切な師の歌ってくれた子守唄や。
 大切な親友への想いを込めた、歌。
 上手い、と人に褒められたことも多いが、人前で歌うのはあまり得意ではない。歌は誰かに聴いてもらうためのものだけれど、そんなに大勢の人に聴いてもらわなくてもいい、とフェイトは思っている。
 ただ――リニスが自分に歌ってくれた子守唄のように。
 大切な人へ、想いを届ける言葉のカタチであればいい。
 時に歌は、旋律と共に紡がれる言葉は、他のどんなカタチの言葉よりも雄弁だ。
 だからフェイトは、歌が好きだ。
 ――大切な人のために歌うことが、好きだ。

「……バルディッシュ」
《――――》
 手にした閃光の戦斧は、沈黙から目覚めることはない。
 その柄を握り直し、フェイトは顔を上げて、蒼穹の中に佇むその姿を見据える。
 ただ、同じ旋律を繰り返し続ける、歌姫の姿を。
 その歌声は、ここからでは遠く――けれど、フェイトには解る。あの歌声の持つ意味が。
 ――あれは、歌と呼ぶべきものじゃない。
 あの歌声は――凶器だ。
 手にしたバルディッシュは、沈黙を続ける。
 これが、あの歌声の影響なのは間違いない。
 ――どんな原理かなど解らない。ロストロギアの動作原理など大抵は謎なのだから、考えるだけ無駄だ。ただ、確かなことは――あの歌声は、デバイスのシステムに介入している。
 そしてあるいは、さっきのなのはの反応からすれば、ヒトの意識にすら、介入するのかもしれない。
 青ざめたなのはの顔を思い出し、フェイトは唇を噛む。
「なのは……」
 親友の様子が、少しおかしい。そのことにフェイトは気付いていた。この任務の詳細を聞いてから――なのははずっと、何かを求めているような気がする。この任務に。
 それが何なのか解らない自分が、歯がゆかった。
 大切な人の笑顔が曇っているのに、その理由が解らないのが、悲しくて、寂しくて――
「……そうじゃない、今は」
 口に出し、フェイトは首を振って思考を振り払う。
 ――今は、歌姫をどうにかするのが先だ。
 顔を上げる。中空に悠然と、碧色の髪をなびかせて佇む、その姿。震える唇が紡ぐ音は、ひどく単調で。
 その歌声は、誰かを呼んでいる。
 愛おしい誰かへと向けられた歌だと――解る。
 けれど、だからこそ。

 ――それが、凶器であってはいけないのだ。

 歌姫を挟み、向かい合うようにフェイトとなのはは位置する。その中心で、しかしどちらにも視線を向けることもなく、歌姫はただ虚空を見つめて歌い続ける。
 ――無抵抗の相手を撃ち落とすのか?
 不意に、そんな問いかけが頭をよぎるが、フェイトはそれを振り払った。……たとえこちらに無抵抗であったとしても、歌声という凶器を放っているものを、放っておくわけにはいかないのだ。
 向こうは、こちらに関心を払っていない。――双方向からの砲撃で、落とせる。
『一撃で、決めよう。なのは』
『――うん』
 破壊までは至らなくとも、魔力ダメージで機能を停止させてしまえればいいのだ。レイジングハートの補助無しではなのはの砲撃の威力も落ちるが、こちらはバルディッシュ抜きでもほぼ全力のプラズマスマッシャーが撃てる。合わせれば、充分にお釣りがくるだけの威力だ。
『いくよ』
 バルディッシュを振るい、フェイトは足元に金色の魔法陣を展開。その左手に、雷光を顕現させる。
 なのはもまた、足元に桜色の魔法陣を展開。今はただの砲身であるレイジングハートを構え、そこに環状魔法陣が形成される。――砲撃準備、完了。
『せー、のっ』
 呼吸を合わせ――そして、放つ。
「プラズマスマッシャー!」
「ディバインバスターッ!」
 轟、と唸りを上げて、金色の閃光と桜色の奔流が放たれた。それは蒼い空気を切り裂いて、ただ歌い続ける少女の元へ真っ直ぐに伸びていき――

 碧色が、虚空へ舞い上がる。

「――ッ!?」
 閃光の軌道上から、歌姫の姿が消えた。
 それは、フェイトですら見切れないほどの、神速と呼ぶべき速度での機動。中空に静止した状態から、一切の予備動作もなく――歌姫の姿は蒼の中に舞った。
 そして。

 愕然とその目を見開いた、高町なのはの眼前に。
 その少女が、舞い降りる。
 ――泣き出しそうな微笑を、浮かべて。

 そして、歌姫の唇が、また同じ音を――紡ぐ。
 凶器の歌声を、なのはの目の前で。

《Ласточка...》

「――なのはあああああああああああああっ!!」
 その歌声をかき消そうとするかのような、フェイトの悲鳴が――虚空に吸い込まれて消えていった。



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| 浅木原忍 | 23:27 | comments(5) | trackbacks(0) |
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Comment
折り返し地点っぽいですが謎が謎を呼ぶ展開になってまいりましたな。最初はミクとなのはのファン小説的クロスかと思っておりましたが、随分と真面目で楽しげな内容になってまいりましたね。クロニクル共々続きを非常に楽しみにしておりますです
Posted by: 緑平和 |at: 2008/01/20 11:33 PM
読ませて頂きました。フェイトの重いが通じるといいなぁ・・・
くぅ、続きが非常に気になりますw
Posted by: らさ |at: 2008/01/21 6:44 PM
>緑平和さん
 浅木原は基本的にガチ話でないと書けない人間です(ぇー
 本作も何とか今月中には目処を立ててしまいたいなぁ……。

>らささん
 歌姫との戦いの結末は、どうぞお楽しみにw うふふふ(ry
Posted by: 浅木原忍 |at: 2008/01/21 11:57 PM
mixiでお邪魔した者です、こちらでは初めまして。

今回も面白かったです! 歌がある為迂闊に近寄れない構図となった訳ですが……SLBって、RHが沈黙してても撃てるんですかね。気になります。

Ласточка、辞書で調べてみたら「つばめ」という意味の他に「少女・女性に対するやさしい呼びかけ」という意味もあるみたいですね。あまり関係ない話ですが。

続き、楽しみにしてます!
Posted by: なかざわ |at: 2008/01/24 9:02 PM
>なかざわさん
 あ、どうもー。mixiではありがとうございましたw
 とりあえず今言えるのは、SLBぶっ放して解決、という話にはならないとだけw
 ラースタチュカのその意味は微妙に意識して書いてますが、対象が「少女・女性」で無いんだよなぁ(ry
 続きもなるべく早めにお届けします。お楽しみにー。
Posted by: 浅木原忍 |at: 2008/01/25 12:09 AM








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【maisyuさん】(ぐったり裏日記
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【沈月 影さん】(影ラボ
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【クロガネさん】(クロガネの間
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【フィールドさん】
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【フェルゼさん】(Empty Dumpty
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 君が見てくれているから/新年
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