魔法少女リリカルなのはCHRONICLE 第三章「聖王の福音」(2)
2008.01.14 Monday | category:なのはSS(CHRONICLE)
◇
扉の前で足を止め、セリカはひとつ息をついた。
プレートを確かめる。うん、この部屋で間違っていない。
手にしたトレイの上で、紅茶が微かに波打った。……深呼吸ひとつ。
片手でトレイを支え、右手を上げ、――数秒、心を落ち着けて。コンコン、とノック。
ほどなく、聞き覚えのある声で『開いてます』と返事があった。
「失礼します」
確かめるようにその言葉を口にしつつ、セリカはドアノブを捻る。微かに軋んだ音をたててドアが開き――鼻をついたのは、本の発する独特の匂いだった。
「し、シスター・セリカ?」
中央聖堂地下書庫の一室。そこでモニターを見つめていたビュートは、ドアの軋む音に振り返り――セリカの顔を見て、慌てたような声をあげる。
「お疲れ様です、ビュートさん。お茶、どうですか?」
後ろ手にドアを閉め、セリカはにっこりと微笑んで、声をかける。ビュートはわたわたと意味もなく手を動かし、ずれた眼鏡を直すと、こほんと咳払いひとつ。
「あ、ありがとうございます……シスター・セリカ」
差し出したカップを、おそるおそるといった手つきで受け取るビュート。視線を逸らして口をつける様子を見つめていると、彼はどこか居心地悪そうに振り返った。
「あ、と……紅茶、美味しいです、はい」
「いえ、それはいいんですけど……えと、マッサージとか要ります? お疲れじゃ」
「い、いや、け、結構です、大丈夫ですっ」
ぶんぶんと手を振って、ビュートはまだ熱いはずの紅茶を一息に飲み干し、空になったカップをこっちに突き出す。――舌とか口の中とか、大丈夫だろうか。
「ご、ごちそうさまでした」
「あ……はい。えと、それじゃ、お仕事、頑張ってくださいね。でも無理はダメですよ?」
カップを受け取り、セリカは念を押すように指をひとつ立てて言う。ビュートが頷いたのを確かめて、もう一度にっこり笑うと、「それじゃあ」とその部屋を辞した。
――後ろ手にドアを閉めて、漏れるのは盛大な溜息ばかり。
何やってるんだろう、自分……。
軽く自己嫌悪しながら、空のカップが載ったトレイを持って階段を上がる。全く、全然上手くいかない。どうしてこうなんだろう――。
「っと、ぁぅっ」
考え事をしながら階段を上っていたら、十五段しか無い階段の十六段目を踏み損ねた。バランスを崩してたたらを踏み、そのまま通りがかった誰かにぶつかってしまう。
「す、すみませ……」
「いえ、大丈夫です……って、シスター・セリカ?」
聞こえたのは、聞き覚えのある声。顔を上げれば、アメリアが苦笑していた。
「あ、アメリアさん。あれ、第三ドームの方に行ったって……」
「ああ、うん、それはこれからなんですけど」
と、アメリアは階段と、セリカの手にしたトレイを見比べて、意味深に笑った。
「……なんですか? アメリアさん」
「いえ。――アプローチミッションは不発だったのかなーと」
「っ!?」
思いがけない言葉に、反射的に顔が熱くなる。その反応に、アメリアは噴き出すように笑った。「いや、そんな解りやすい反応されるとは」と口元を押さえながら言うアメリアに、セリカは顔を伏せる。そんなことで、赤らんだ頬は誤魔化せなかったけれど。
「……ええと、バレバレでしたか? 私」
「ええ、まぁ。見てれば自然と視線がそっち向いてましたから……」
んー、と言葉を途切れさせ、アメリアはひとつ首を捻る。
「うーん、何か堅苦しいなぁ。――今はちょろっとプライベートタイムということで、セリカちゃん、って呼んでもOK?」
「あ……はいっ」
アメリアの言葉に、セリカは笑って頷く。アメリアは基本的にいつも敬語なので、敬語抜きの言葉は新鮮だった。――それ以上に、プライベートで談笑したい相手とアメリアに認識されたことが、セリカには嬉しかったのだけれども。
「アメリアさんは、これからは?」
「第三ドームへの転送ポートに向かうところだけど――」
「あ、じゃあ……途中までご一緒しても?」
「うん、OK」
転送ポートなら、医療隊へ戻るのと途中まで一緒だった。歩きながら話の続きも出来る。事件が動いて、クライドらはこれから忙しくなりそうだから、こんな時間は貴重と言えた。
それじゃあ、と歩き出すアメリアの背中を、小走りにセリカは追いかける。空のカップがトレイの上で小さく跳ねて、固い音を響かせた。
◇
案の定、ビュートは派手に口の中を火傷した。
熱い紅茶を一気飲みしたのだから、当たり前と言えば当たり前の話だ。
「…………はぁ」
とはいえ、溜息の理由は、ひりつく口内の状態だけではない。――全くもって、どうしようもない自分に関してのことである。
目を通していたのは、教会の把握している古代ベルカ式の使い手のリストだったのだが、モニターに映し出された文字と映像の意味が、頭に入ってこない。こんな私事で仕事を滞らせるわけにもいかないというのに――。
ビュートにとって不幸中の幸いは、この場に自分ひとりだということだ。彼女のことでは、既にクライドやアメリアの前でも醜態を晒してしまっているけれど――それでも、見られないに越したことはない。
――ああ、全く、情けない。
22にもなって、十代の子供のように、恋心に――彼女に振り回されている自分。いつまでこんなことを続ける気なのだろう、と真剣に悩んでしまう。
解っている。現実ぐらいは。――さっさと諦めるべきなのだ。
彼女の方にその気が無いことぐらい、解っているつもりだ。彼女は別に、自分に会いに来ているわけではない。昔なじみのヴォルツに懐いているから、ヴォルツとよく一緒にいる自分とも親しくしてくれている。――それだけなのだ。
だいいち、彼女の前では挙動不審ばかりの自分に対して、彼女が好意を寄せてくれる方がおかしいではないか。変な人、ぐらいにしか見られていないに決まっている。
「はぁ……」
どこまでも、漏れるのは溜息ばかり。おまけに口の中も痛い。――冷たい飲み物でも買って来ようかと、ビュートは立ち上がり、
突然、ドアがノックもなく開かれた。
「?」
振り返れば、入ってきたのは小さな子供だった。5歳ぐらいの男の子。鮮やかな翠緑の髪と整った顔立ちは、既に美少年と呼ぶに差し支えないものだったが――ところどころ泥で汚れた服と、外の雨で濡れたのか水を吸った服が、いかんせんその見た目を台無しにしていた。
その少年は、用心深げに部屋の中を見回すと、「そこのにいちゃん、ちょっとかくまって!」と叫ぶ。そしてビュートが返事をする間もなく、水滴を床にこぼしながら奥の書棚の影へと隠れてしまった。……かくれんぼでもしているのだろうか?
「かくまってって……少年、床が濡れてるからバレバレじゃないかい?」
「!」
ビュートの言葉に、少年は慌てたように書棚の影から顔を出す。そして周囲を見回すと、掃除用具入れからモップを取り出して、床の痕跡を消しにかかった。……しかし、拭くそばから新しい痕跡が、その髪から滴り落ちていることには気付いていない。
やれやれ、と肩を竦め、ビュートはハンカチを取り出すと少年に歩み寄りる。「な、なんだよ」と警戒心を露わにする少年に構わずその髪を拭いてやると、そこで自分が痕跡を消せていないことに気付いたか、少年は慌ててビュートからハンカチを奪い取ると髪を拭き、それから改めて痕跡を消しにかかった。
「にいちゃん、サンキュ!」
一通り床の水滴を拭き終え、少年はぐっと親指を立てて再び書棚の影に隠れた。
――しかし、室内の痕跡を消しても、廊下の痕跡は残っているだろうに。
そう思ったが、口に出す間もなく、今度はドアがノックされた。書棚の方を見やるが、少年は隠れたままだ。千客万来だなぁ、などと思いつつ「開いてますよ」と返事をする。ドアを開けて姿を現したのは――クライドだった。
「クライド提督? どうなさいました?」
「いや、いくつか気になったことがあったから調べようと思ったら、資料がここにしかないと言われてな」
「そうですか」
別に、あの少年を追いかけてきたわけではないらしい。
「そういえば、廊下が何か濡れていたが――」
「ああ……何かちょっと、変な来客がありまして」
「変な来客?」
ビュートが書棚の方を振り返ると、ちょうど少年が書棚の影から顔を出していたところだった。視線が合い、少年はまた影に隠れてしまう。
「おーい少年、君の追っ手はまだ来てないよ?」
「……ホントか?」
「本当だよ」
半信半疑という表情のまま、少年は再び顔を出す。そしてビュートとクライドの顔を確かめると、溜息をひとつ漏らしてまた隠れてしまった。……出てくる気は無いらしい。
「あの少年は?」
「さあ……突然やってきて、かくまってくれ、なんて言うんですけど」
と、またしてもノックの音が響く。本当に千客万来である。
「開いてますよ?」
ビュートが答えると、ドアがゆっくり開かれ――今度は小さな女の子が顔を出した。
陽光のような金色の髪と、利発そうな顔立ちをした少女だった。さっきの少年と同い年ぐらいだろう。その胸元に刺繍された紋章に見覚えがあり、ビュートは目を細める。あの飛竜の紋章は――
「すみません、ここに男の子が来ませんでしたか? 緑の髪の」
少女は視線を彷徨わせ、困ったように眉尻を下げた。ビュートとクライドは顔を見合わせ、――それからビュートは首を横に振った。匿うのを承諾したつもりはないが、ここで少年を裏切るのもいささか忍びない。
「そうですか、失礼しました。――ここだと思ったのに、ロッサったらどこ行ったのかしら……」
礼儀正しくぺこりと頭を下げて、少女は何か呟きながら退出する。……ほどなくして、おそるおそるといった様子で少年が顔を出した。――追っ手はあの少女で間違いなかったらしい。やはりかくれんぼでもしているのか。
「全く、しつこいなぁカリムは……」
まだ生乾きの髪をぐしぐしと掻き回しつつ、ロッサと呼ばれていた少年は呟く。
「……で、少年。そろそろ事情を聞かせてもらっていいかな?」
ビュートが尋ねると、む、と唸って少年はひとつ息をついた。
「とりあえず、君の名前は?」
「……ヴェロッサ。ヴェロッサ・アコース」
「それでロッサか。じゃあロッサ、君はどうして追われてるんだい?」
「――――」
言いたくないのか、ロッサはふて腐れたように口をつぐんだ。
さてどうしたものか、とビュートとクライドは再び顔を見合わせる――と。
「あーっ! 見つけた!」
再びドアの開く音。そしてさっきの少女が顔を出し、ロッサの姿を認めて叫んだ。
「げっ、カリム!」
慌てて逃げ出そうとするが、もともとここはただの書庫である。唯一の出入口から侵入してきた追っ手から逃げ切れるはずもなく、ほどなく少年は少女に組み伏せられる。
「つかまえたっ。もー、戻ったらシャッハにお説教してもらうからね!」
「い、痛い痛いカリム! 耳、ちぎれるって!」
「すみません、お騒がせしました。それでは」
少年の涙目の抗議はさらりとスルーして、カリムと呼ばれた少女はロッサの耳を引っぱって部屋を出て行く。その姿をビュートとクライドはぽかんと見送っていた。
「……何だったんだ?」
「さあ……」
というか、あの飛竜の紋章。あれはグラシア家の家紋である。そういえばミッドに住んでいるクオリス卿の息子がこっちに帰省しているという話はどこかで耳にした記憶があるが、だとしたらさっきの少女はクオリス卿の孫だろうか。
「まあ、子供たちが平和でいられているのは良いことか」
「――何か上手いことまとめましたね、提督。同意しますけれど」
逆に言えば、自分たちはそうそう平和でも居られない立場なのである。それを思い出して、ふたりとも慌ててそれぞれの仕事に戻った。
◇
並んで歩いてみるとよく解るが、アメリアは女性にしては背が高い。一方セリカはといえば、実年齢より相当下に見間違えられるあたりからお察しください、な体格である。
そんなわけで、普通に歩くとどうしてもセリカの方が早足気味にならざるを得ないのだが、歩幅の違いを察したか、今は少しアメリアが歩くスピードを緩めていた。……こういう細かい気配りが出来るところに、セリカとしては憧れる。
「で、えーと、セリカちゃん」
「はい」
「どうして騎士ビュートなのか、聞いてもいい?」
いきなり核心である。ぁぅ、と小さく唸って、セリカは俯いた。
――結論から言えば、セリカ・ヘンリットは恋する乙女である。21歳という年齢で乙女も無いかもしれないが、少なくとも外見的には皆納得するだろう。
「ええと……その。どうして、と言われると難しいんですけど」
「じゃあ、どこに惚れたの? 見た目? 性格? それとももっと別の何か?」
そう改めて聞かれても、なかなかに困るものがある。
セリカはビュートのことが好きだ。そのことは、それだけで完結している事象であって、そこには理由も原因も大した意味を為さない。のだけれど。
「――うー、すごくありきたりなんですけど……敢えて言えば」
「言えば?」
「優しいところ……です」
自分で口にしてみて、その答えのあまりの陳腐さに泣きたくなった。
けれどもアメリアは、笑うでもなく、ふぅん、ともうひとつ首を捻る。
「それは、誰に対して? ――セリカちゃんに? それとももっと他の誰か?」
その問いかけに、セリカは俯いた。照れではなく、少しの憂鬱を込めて。
「……私に対して、じゃないのは確かです。私、たぶんビュートさんには、苦手に思われてますから」
「ほへ?」
返ってきたのは、何故か素っ頓狂な声だった。セリカが振り返ると、アメリアはどこか頭痛を堪えるような様子で額を押さえ、「……あー、なるほどね、了解」と何かを納得したように頷いた。そんな反応に、セリカは首を傾げる。
――ビュートに苦手に思われているのは事実のはずだった。ヴォルツによく振り回されてはいるけれど、基本的には冷静で知的で落ち着いた雰囲気の彼が、自分といる時はどこかぎこちなく、落ち着かない様子でいることが多い。さっきだって、ふたりきりで非常に居心地が悪そうだった。突っ返された空のカップは、「さっさと出ていってほしい」という意思表示に他ならない。
自分が何かと口うるさいのは自覚しているし、三卿の娘のくせに騎士団入りしてウロウロしているお嬢様なんて、真面目なビュートには頭痛の種でしかないのだと思う。――それならそれで、諦めて距離を置けばいいのに、さっきのように彼にちょっかいをかけては困らせるようなことを繰り返しているのだから、自分でもどうしようもないと思う。
はぁ、と溜息が漏れた。医療隊では「いつも明るいマスコット」的な扱いを受けているけれど、自分だって憂鬱になることぐらいあるのだ。
「まぁ、それはともかく。――じゃあ、セリカちゃんの好きな『優しい騎士ビュート』は、どんなときに見られるの?」
途切れかけた話を、アメリアが繋ぎ直す。セリカもひとつ首を振って、まとわりつく憂鬱な思考を一度振り払った。
「えと、そうですね。……ビュートさん、子供好きなんですよ」
「へぇ、それは初耳」
「隊長のこと、親バカとか言ってますけど。小さい子の相手してるときのビュートさんって、すごく優しい顔するんです。……ビュートさん、子供の頃は色々辛かったらしくて。だからきっとビュートさんも、隊長みたいな親バカになると思います」
それは近いかもしれない未来の光景。ヴォルツだけじゃなく、自分の子供にも振り回されて、ぼやきながらも楽しそうに笑っているビュートの姿が見える気がする。
「――で、その子供の母親が自分だったらいいなー、と?」
「そっ、そそそ、そんなことはっ」
からかうようなアメリアの言葉に、セリカは真っ赤になって首をぶんぶん振った。
――正直に言うと、ちょっと想像した。ああもう、ダメだ自分。
「いやー、いいじゃない青春。あたしはセリカちゃんの歳でもう子供生んでたもんなー。我ながらちょっと早まったかも」
アメリアは後頭部で手を組んで、楽しげに呵々と笑う。
「あの……アメリアさんの旦那さんって、どんな方なんですか?」
「ん、ウチのダンナ? ――そりゃあ、頭脳明晰で魔力も抜群、世渡り上手で優しくて、男前であたしのこと一番に愛してくれる完璧超人――なんかじゃ、全然無くて。見た目も頭も並だし、魔力資質も無いし、やたらと心配性だし、脳天気でどっか抜けてるし、20年付き合ってるけど未だにときどき何考えてるかわかんないし」
やーもう、人様に自慢できるよーな亭主じゃありませんって、とアメリアは苦笑。
けれどその口調はとても幸せそうで、だからセリカもつられて笑った。
「20年、ってことは、幼なじみなんですか?」
「うん、そう。子供の頃からの腐れ縁。――何だか気が付いたら同じような進路選んでて、気が付いたら結婚してた感じかなー。もうひとり、もっと将来有望な幼なじみが居たとゆーのに、我ながら惜しいことをしたもんよね」
「でもアメリアさん、旦那さんのこと愛してるんですよね」
「――――ま、ね」
セリカから思いがけず直球が飛んできたのに驚いたか、アメリアは軽く目を見開き、それから少し照れたように頬を掻いた。
「何だかんだ言ってもね。あいつの隣があたしの定位置で、あいつが居ない生活ってのは考えられなかったのよね。なんかもう、最初っから既定路線みたいで面白味の無い選択だったけどさ。――もうね、それが運命だったんだと思うわけ」
「ふふ、そうですよね。20年も離れないで隣に居続けるなんて、それこそ運命じゃないですか。ドラマチックなばかりが運命的なものじゃないと思いますよ」
「お、セリカちゃん、いいこと言うじゃない。――結婚は人生の墓場なんて言うけど、あたしとあいつの場合最初から結婚してたようなもんだし。だったら墓場ライフを全力で満喫するのも悪くないでしょ、ってことで」
墓場ライフってなんですか、とセリカは噴き出す。そして、隣のアメリアの微笑に目を細めた。その視線に、隠しきれない羨望を乗せて。
「そういえば、隊長の奥さんも、隊長の幼なじみだったんですよ」
「――へぇ。どんな人だったの?」
だった、という過去形をアメリアが使ったことに、セリカは小さく息を飲んだ。セリカの微妙な言い回しから、ヴォルツの妻がもういないことを悟ったのか。それとも既に知っていたのか、それはセリカには解らないけれど。
「そうですね――」
だからセリカは、笑ったままで、顎に人差し指を当てて少し考える仕草をし。
「アメリアさんみたいな、素敵な女性でした」
とっておきの言葉を告げるみたいに、そう答えた。
「……いや、それはどうかな。騎士ヴォルツの奥さんはともかく、あたしはそんな大したもんじゃないよ?」
アメリアは頭を掻いて、たはは、と苦笑する。
「そんなこと無いですよ。私が保証します」
「んー、そりゃ無碍にも出来ないなぁ。参ったね、はは」
――と、そんな会話をしているところで、医療隊宿舎へと通じる分かれ道にさしかかる。
「じゃあ、このあたりで。――ありがとうございました、アメリアさん」
ぺこりとひとつ頭を下げて、セリカは踵を返す。と、「あ、セリカちゃん」と背後から声が掛かる。振り向くと、アメリアがどこか楽しげに微笑していた。
「あたしからも、ひとつセリカちゃんに保証しておこうかと」
「保証?」
「そ。――セリカちゃんは可愛い。きっと、騎士ビュートにとっても、ね」
「――――っ」
アメリアの言葉に、セリカは息を飲む。また、顔が熱くなるのを感じた。
「そ、そんなこと、私……」
「もっと自信持っていいと思うよ、セリカちゃんは。ま、あたしから言えるのはこのぐらいかなー。馬に蹴られて死にたくはないしね」
それじゃね、と片手を振って、アメリアは歩き出す。「あ、」とセリカが呼び止めようとしたときには、もうその背中は遠ざかって――セリカはただ、深く溜息をついた。
――もっと自信持っていいと思うよ。それは、何に対して?
「私、可愛くなんてないんですよ……?」
それは結局、小動物みたいな愛でられ方をしているだけで。
内心はいつもぐるぐるで、臆病で、利己的で……全然、可愛くなんてないのだ。
「――綺麗な人に、なりたいんだけどなぁ」
それは見た目も、心の中も。全くもって高望みだけれど。
頭上を見上げても、そこには天井しかない。外に出たって、結局見上げているのはドームの天井だ。同じ場所をぐるぐる回り続けるみたいに、世界はドームの中で循環していて、自分の気持ちもぐるぐるぐるぐる、同じところで空回り続けるばかり。
「……あーあ」
もう溜息をつくのにも疲れて、セリカはただ、そのまましばらく天井を見上げていた。
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Comment
スーパーラブコメタイム。そしてデラ可愛いセリカさん。さすがロリ担当だぜ!!(ロリ担当違う)
もうくっついちゃえよおまえらー、な感じのビュートとセリカ。はてさてそろそろカウントダウンが始まった昨今その恋路はどうなることやら……あれ? まてよ……失踪した騎士と修道女? いやいや深読み禁止と言うことで
もうくっついちゃえよおまえらー、な感じのビュートとセリカ。はてさてそろそろカウントダウンが始まった昨今その恋路はどうなることやら……あれ? まてよ……失踪した騎士と修道女? いやいや深読み禁止と言うことで
Posted by: 緑平和 |at: 2008/01/14 10:39 PM
…もうYOU達結婚しちゃいなYO! という野暮なツッコミは置いといて。
カリムとロッサは事件に巻き込まれるんでしょうか? カリムが巻き込まれた日には私首吊りますぜ?(大嘘
カリムとロッサは事件に巻き込まれるんでしょうか? カリムが巻き込まれた日には私首吊りますぜ?(大嘘
Posted by: T |at: 2008/01/15 3:03 AM
冒頭のじゃないけど、ホッと一息ティータイム。
カリムとロッサはまだ子供だし、ビュートとセリカはラブコメしてるし。
トドメにアメリアは惚気てるし。
カリムとロッサはまだ子供だし、ビュートとセリカはラブコメしてるし。
トドメにアメリアは惚気てるし。
Posted by: ユリかもめ |at: 2008/01/15 3:48 PM
>緑平和さん
うふふふふふふふふ(笑)。
>Tさん
カリムとロッサがここで登場した意味は、のちのち明らかになると思いますのでどうぞお楽しみにw 本作はほぼ全ての場面が伏線です。うふふふふふ(笑)
>ユリかもめさん
相変わらず危機感の足りないとゆーかわりと平和な面々なのでした。
でも物語もいい加減折り返しなのでそろそろ、ね?(謎
うふふふふふふふふ(笑)。
>Tさん
カリムとロッサがここで登場した意味は、のちのち明らかになると思いますのでどうぞお楽しみにw 本作はほぼ全ての場面が伏線です。うふふふふふ(笑)
>ユリかもめさん
相変わらず危機感の足りないとゆーかわりと平和な面々なのでした。
でも物語もいい加減折り返しなのでそろそろ、ね?(謎
Posted by: 浅木原忍 |at: 2008/01/15 11:38 PM
こんなに和やかな雰囲気なのに準死亡フラグに読めてしまう俺なんて、後のちびだぬきさんに撃墜されればいいんだ・・・・・・。
Posted by: JollyRoger |at: 2008/01/16 6:24 PM
>JollyRogerさん
うふふふふふふ(笑)。
いや、ある意味この作品は全てが死亡フラ(ry
うふふふふふふ(笑)。
いや、ある意味この作品は全てが死亡フラ(ry
Posted by: 浅木原忍 |at: 2008/01/16 9:27 PM
早まったかも?とか思ってましたが、プライベートのアメリアさんも、想像通りで安心しました。
もう無さそうですが、男性キャラとプライベートなお話してる様子も見てみたいですね。
お話の本筋のほうも…このインターミッション後の展開を楽しみにしてます。
もう無さそうですが、男性キャラとプライベートなお話してる様子も見てみたいですね。
お話の本筋のほうも…このインターミッション後の展開を楽しみにしてます。
Posted by: izm |at: 2008/01/17 4:46 PM
初めまして、咲耶といいます。どこに書いていいのか分からなかったのですが、どうしても我慢できなかったので書き込みました。自分は最近なのはを見てここのSSはすごいと友達に紹介されたのですが感動しました。アリサが主役のBURNINGを読んだのですけど、自分はバンドを組んでいるんですが正直曲を作ってしまいたいくらい感情移入しました。なんか長文になってしまいましたがCHRONICLE頑張ってください!楽しみにしてます!失礼しました。
Posted by: 咲耶 |at: 2008/01/18 7:35 AM
>izmさん
エイミィさんは母親似のようですw
既に300枚ほど書いてるとゆーのに、いい加減まったり展開が続きすぎてる気もしますが、もう少しで色々急転しますのでどうぞお楽しみにー。……たぶん(ぇー
>咲耶さん
はじめまして、コメントありがとうございました〜。
BURNING、お楽しみ頂けましたなら何よりです。CHRONICLEも頑張りますー。
エイミィさんは母親似のようですw
既に300枚ほど書いてるとゆーのに、いい加減まったり展開が続きすぎてる気もしますが、もう少しで色々急転しますのでどうぞお楽しみにー。……たぶん(ぇー
>咲耶さん
はじめまして、コメントありがとうございました〜。
BURNING、お楽しみ頂けましたなら何よりです。CHRONICLEも頑張りますー。
Posted by: 浅木原忍 |at: 2008/01/18 5:15 PM
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