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ストラトスフィアの少女(1)
 カッとなって書き始めてしまいました。なのは&フェイトvs初音ミク、成層圏の空中大決戦です。全3回予定?

 ↑元ネタとなった楽曲はこちら(ニコニコ見られない方はこっち)。うたたPと米職人たちに限りなくリスペクトを。












 蒼、だった。
 風の鳴り止んだ静寂の中、ただ世界は永遠の蒼に閉ざされていた。
 どこまでも続く、どこにも届かない蒼。
 距離など、そこに何の意味があるだろう。
 時間など、そこに何の価値があるだろう。
 全てはただ、有限の無限。果てはあり、そして無い。
 ――そんな世界に、彼女はいた。
 蒼く染められた虚空に、ただひとりで歌っていた。

 ただ高く高く、蒼の中に墜ちていく。
 螺旋を描いて、蒼の中に消えていく。
 彼女の姿を、認識する者は無い。
 ならば、彼女は本当にそこに在るのだろうか。

 答えなど無くても、ただ彼女は蒼の中で歌っていた。
 歌うことしか出来ないから。
 呼びかけることしか、出来ないから。

《Ласточка...》

 彼女は永遠に、歌い続けている。
 終わることのない、蒼の中で。


     ◇


「歌、姫?」
「そう。《蒼穹の歌姫》と呼ばれる、古代の機械人形。今回の任務はその回収、不可能なら破壊、ね」
 首を傾げたなのはに、エイミィは頷いた。
 モニターに映し出されているのは、ミッドチルダ上空に出現したロストロギアのデータである。碧色の髪をした、冷たい瞳の少女。第二級捜索指定古代遺物、正式名称《Mic-39》、通称《蒼穹の歌姫》。
「最初に反応が確認されたのは、エルセア上空高度7000メートルの地点。対象はそこから中央部上空へと高度を上げながら移動中。現在は高度15000メートルにいるみたい」
「エイミィ、高度15000メートルって……魔導師の単独飛行空域の遥か上だよ?」
 眉を寄せるフェイトに、「そうなんだけどね」と困ったようにエイミィは肩を竦める。
「地上本部から航空部隊が出たんだけど、1万メートルを超えて成層圏に突入した途端、全機の計器に原因不明の異常が出て、引き返さざるを得なくなったんだって」
「だからって――」
「対象が小さすぎて遠距離からの撃墜もほぼ不可能。そうなると、高々度戦の可能なエースが出撃して、直接墜とすしかない――ってわけ」
 あたしだって無茶な任務だと思うよ、とエイミィが溜息混じりに言うので、フェイトも言葉を飲みこんだ。
 酸素濃度の薄く、気温も低い成層圏においても、バリアと酸素圧縮魔法を駆使することで、生身で活動することも確かに可能だ。しかし、ただでさえ魔力消費の激しい空中戦をそれらと同時にこなすとなれば、魔導師本人にかかる負担は相当のものになる。
「えっと……その歌姫さんを放っておくと、どんな危険があるのか、聞いてもいいですか」
 なのはが手を挙げ、エイミィが頷く。
「航空部隊の計器に原因不明の異常が出た、ってのはさっき言ったけど。――その直前に、パイロットたちが歌声を聴いてるの」
「歌声?」
「そう。まるで計器が、その歌声に狂わされたみたいに異常を起こしたって。――歌姫っていう通称からしても、その歌声には何らかの力があると見ていいと思う。例えばそれが、機械を狂わせる類のものだったとして――そんな歌声が、地上に降り注いだら」
「……大混乱に、なる」
「そゆこと」
 それは所詮、推定による危険予測に過ぎない。――とはいえ、相手はロストロギアだ。第二級指定ならば、それなりの危険性を想定して然るべきである。
「……解りました。やります」
 レイジングハートを手に、なのはは力強く頷く。
「なのは」
「大丈夫。空なら、わたしの領域だし。――わたししか出来ないお仕事なら、頑張らないと」
 心配げに見つめるフェイトに、笑って返すなのは。
「で、なのはちゃんひとりに任せるわけにもいかないから。――フェイトちゃんも、お願いできる?」
「あ……うんっ」
 エイミィの言葉に、フェイトも頷いた。


     ◆


 昔々、あるところに。
 世界にひとりきりの少女がいました。
 その世界には、少女以外の誰もいませんでした。
 少女という存在以外には、何も無い世界でした。
 ただ、果てのない蒼だけが続いている。
 そんな世界で、少女はひとりぼっちでした。

 けれど、少女はちっとも寂しくありませんでした。
 ――何故なら、寂しいという感情を、少女は知らなかったのです。生まれたときからひとりぼっちの彼女には、孤独という概念は、理解できなかったのです。

 そんなひとりぼっちの世界で、少女は歌っていました。
 誰に聞かせるわけでもなく、ただ歌い続けていました。
 理由もなく、意味もなく。
 歌うためだけに、彼女は――生み出されたのです。
 だからただ、歌い続けていました。
 理由も知らず、意味も知らず。
 誰のためでもない歌を、歌い続けていたのです。


     ◇


「現在、高度9000メートル。気温はマイナス55度です。――ここが限界高度ですので、ここから先はおふたりとも、地力で飛んでいただくことになりますが」
 操縦士の言葉に、なのはとフェイトは頷いた。
 ヘリの窓から見えるのは、遥か眼下に流れる雲と、永遠のように思える蒼。地上は遠く遠く、蒼の中に霞んでもう見えない。
『対象は現在、高度15000メートルで滞空してる。再上昇を始める前に追いついておきたいね。軌道上に出られたら、流石に厄介だし』
 エイミィからの通信を聞きながら、なのはは沈黙。
「なのは、どうかした?」
「ん、別に。――行こう、フェイトちゃん」
 覗きこむフェイトに、なのははいつも通りに笑って返す。
「レイジングハート」
《Alright, Standby Ready, Set Up》
 レイジングハートが起動し、なのはの身体を白いバリアジャケットに包む。それを見つめて、フェイトもバルディッシュを起動した。
「健闘を、祈ります」
 操縦士の言葉に、ふたりは敬礼で返し。
 そして、開いたハッチから、桜色と金色の閃光が飛び立つ。遥か上空、高度15000メートル。歌姫の待つ、成層圏を目指して――二条の光芒が、舞い上がっていく。

《間もなく、高度1万メートルを突破します》
 レイジングハートの言葉に、なのはは頷く。
 強風の中を突っ切るように、なのはとフェイトはただ上へ、上へと飛んでいた。凍てつく大気からは、バリアジャケットと魔力障壁が身を守ってくれる。バリアの内部に満たした圧縮酸素の残量は、通常飛行でおよそ1時間分。この高々度での空中戦ということになれば、保って40分といったところだろうか。
 見上げれば、視界に入るのはどこまでも、蒼一色。蒼穹、蒼天、全てが蒼に埋没する世界。
 ――自分は上昇しているのだろうか、それとも落ちているのだろうか。そんなことも解らなくなってしまいそうなほどに、世界は同じ色に埋め尽くされていて。
『フェイトちゃん』
 そんな錯覚を振り払おうとするように、なのはは思念通話で、共に飛ぶ親友に呼びかける。
『なに? なのは』
『――歌姫さんは、どうしてこんな空高くで、ひとりきりで歌っているんだろうね……?』
 それはフェイトに向けた問いかけだったのか、それともただの独り言なのか。判断しかねたように、フェイトは小さく唸り。なのははただ、上空の蒼に目を細める。
 碧色の髪をなびかせ、彼女はそこで歌っているのだろうか。たったひとりで。この全てが蒼に閉ざされた世界で。――いったい、何のために? 誰のために?
《9970、9985――1万メートル、突破します》
 静かに高度をカウントしていたレイジングハートが、何事も無かったかのようにその事実を告げる。高度1万メートル。――成層圏、突入。

 刹那、その歌声が――微かに、耳に届いた。

「――――っ」
 それは異国の言語のように、不確かな響き。音の輪郭さえも朧な、旋律の欠片。――けれども確かに、その音色はなのはの耳に届いていて。
『フェイトちゃん』
『うん、聞こえてる。――歌、だ』
 思念通話に、フェイトが応えた。錯覚ではない。フェイトも聴いている。この歌声を。
『まるで……誰かを、呼んでるみたいだ』
 呟くような、フェイトの言葉。
 蒼に包まれた世界の中で、その歌声はまるで反響するように、成層圏を侵蝕していた。
 それは――どこにいるかも解らない《誰か》を、必死に探し求めているかのような。そんな、歌声。
《――ス、ター》
 不意に、ひどくノイズの混じった声をレイジングハートがあげて、なのははハッと手の中の愛杖を見下ろす。
《こ、――た、ごえ……、ステ、ム――い、入、》
 音の飛んだレコードのように、不鮮明なレイジングハートの言葉。――そして、レイジングハートはそのまま沈黙した。
「レイジングハート!?」
 呼びかけても、いつもすぐに応えてくれるはずの愛杖は、ただ沈黙したまま。
『なのはっ、バルディッシュが――』
 そこに、慌てたようなフェイトからの思念通話。
『うん、こっちも、レイジングハートが』
 互いに小さく唸り、そしてなのはは上空を見上げた。ここからさらに高度を上げた、15000メートル地点。そこに、歌姫がいる。
 計器を狂わせたという歌声。今も微かに聞こえてくるこの歌声がそれだというならば――レイジングハートとバルディッシュの沈黙も、それに起因するものだろうか。
「――レイジングハート」
 目を閉じ、なのはは愛杖に呼びかける。常に傍らにあり、自らを支えてくれた不屈の魂。それを信じて、名前を呼ぶ。
《――――、ト》
 Alright、と答えようとしたのか。微かに、愛杖の答えが聞こえた気がした。
『行こう、フェイトちゃん。――歌姫さんのところに』
『――うん』
 頷き合い、そしてふたりは上昇を再開する。響き続ける歌声の中、沈黙したままの愛杖を手に、ふたりは真っ直ぐに蒼の中を翔け――、

 蒼穹に舞い踊る、燕の姿を見た。

 いや、それは錯覚だ。燕ではない。碧の髪をなびかせ、風を切り、踊るように中空を翔けるその姿は、鳥ではなく、ヒトのカタチ。
 歌声が、はっきりと聞こえるほどに大きくなる。奏でる旋律は、まるで壊れたレコーダーのように、同じフレーズの繰り返しだった。
《Ласточка... Ласточка...》
 愛おしむように、囁くように、響く歌声。
 それを紡ぐのは、彼女の唇。

「あれが……歌、姫」
 なのはもフェイトも、ただ息を飲んで、その姿を見つめた。蒼い風を切って舞う、少女の姿を。

《Ласточка...》

 蒼天の下に踊る、少女のカタチ。――《蒼穹の歌姫》。
 髪と同じ、碧に透き通るその瞳は、何処を見つめているのか。――答えなど、あるはずもなかった。



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| 浅木原忍 | 23:23 | comments(9) | trackbacks(0) |
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Comment
はやっ!! なんというかまずそのバイタリティというかなんと言うか凄まじい速さで連載開始する気概に感服です。
しかしまぁ、ハナッから全力全快ですなぁ、ストラトスフィアBGMにしてなのはVS初音ミク楽しみにさせていただきますよー
Posted by: 緑平和 |at: 2007/12/13 11:35 PM
 うわー動画見てから読んだんですが、既に号泣フラグが。
 うp主さんと動画のコメ職人さんたちに敬意と賛辞を。
Posted by: チャティ |at: 2007/12/14 12:11 AM
そこは高度1万m、成層圏の歌姫との邂逅──────、

なんだかわくわくしますw
真っ青な空っていいですよね、眺めてると気持ちが昂るのと落ち着くのが、同時に起きる感じで。

自分は動画見てないので、某戦闘機ゲームのBGMのイメージで読んでます、
なのはとフェイトは、ミク相手にどう向かっていくのか?いつもとは、また違った戦闘(?)になるのかがとても楽しみです。       
Posted by: JollyRoger |at: 2007/12/14 1:35 AM
ザ・サードのしずくを思い出した件。
on 授業中、体調最悪
Posted by: 木村 |at: 2007/12/14 10:24 AM
動画の曲を聞きながら読むと作中の雰囲気が伝わってくる様です。
限定された条件下というのも面白いですね。
Posted by: T |at: 2007/12/14 7:17 PM
>緑平和さん
 個人的にはもっと速度を上げていきたいんですけどね(苦笑
 とゆーかクロニクルが実質一ヶ月近くほぼ止まってる件。あああ(ry

>チャティさん
 動画の下の紫コメは神だと思います。本作も動画のストーリーにある程度準拠する予定ですがとりあえずお楽しみにー。

>JollyRogerさん
 ACとストラトスフィアのシンクロ率は(ry
 なのはさんにとっての「空」みたいな話になるのかもしれません。まだ書き終わってないので解りませんが(ぇ

>キム
 BB×しずくだけはガチ。

>Tさん
 ストラトスフィア聞きながら続き書いてます。戦闘に関しては普通の撃ち合いとはちょっと違う感じになると思いますのでとりあえずお楽しみに。
Posted by: 浅木原忍 |at: 2007/12/14 11:34 PM
ストラトスフィアで検索して来ました。
あまりに綺麗な文章に、思わず書き込んでしまいました。

――自分は上昇しているのだろうか、それとも落ちているのだろうか。そんなことも解らなくなってしまいそうなほどに、世界は同じ色に埋め尽くされていて。

この文章が特に好きです。
他のも全部読もうと思います。
Posted by: 蒼色 |at: 2007/12/18 11:54 PM
>蒼色さん
 はじめましてー。お楽しみいただけましたなら何より。
 本作は原曲と米職人の生み出した物語に支えられておりますので俺の力なぞは大したものではありませぬが。ともかく、続きも頑張って書いてますのでどうぞよろしくですー。
Posted by: 浅木原忍 |at: 2007/12/22 10:30 PM
歌を聴きながら読んでたらぞくってなりましたw
続きがんばってください^^
Posted by: 時祭 |at: 2008/01/17 3:56 PM








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