願い事はひとつだけ
2006.07.10 Monday | category:なのはSS(フェイト×なのは)
なのはとフェイト、2人で過ごす七夕のお話。
明らかに微妙な出来なので、ホントは没のはずだったのですが、後輩のしぷたんがこのSSを元に浴衣フェイトさんを描いてくださったので、記念に公開。しぷたんには限りない感謝を。
明らかに微妙な出来なので、ホントは没のはずだったのですが、後輩のしぷたんがこのSSを元に浴衣フェイトさんを描いてくださったので、記念に公開。しぷたんには限りない感謝を。
「たなばた?」
7月6日の夕方。高町家の庭に、一本の竹が飾られていた。
「あ、そっか。フェイトちゃんは知らないんだね、織姫と彦星のお話」
そう言って、なのはが聞かせてくれたのは、アルタイルとベガ、2つの星にまつわるお話だった。
――天の神様の娘、織姫は、機織りが得意な働き者の娘でした。その織姫が恋をしたのは、夏彦星というこれまた働き者の、牛追いの青年でした。
しっかり者の2人に、天の神様もその結婚を認め、2人はめでたく夫婦となったのです。
ところが、結婚生活があまりに幸せで、働き者だったはずの2人は働かなくなってしまいました。
これに怒った天の神様は、2人を天の川で隔て、引き離してしまったのです。
ただし、一年に一度、7月7日だけは、2人は会うことを許されたのでした――
「ロマンチックな話だね」
「でしょ? それで、はい」
と、なのはが一枚の紙を差し出した。紐の通された、カラフルな細長い紙。
「短冊に願い事を書いて竹に飾ると、書いたことが叶うんだって」
「願い事……」
飾られた竹を見ると、既にいくつかの短冊が下がっていた。恭也さんや美由希さんのものなのだろうか。
「私も、書いていいの?」
「うん、一緒に飾ろっ」
ペンが渡される。なのはは早速、左手で何かを書き込み始めていた。
……願い事。思い浮かぶことは、たったひとつだけだ。
いや、本当はいくつでもある。だけど、一番に願いたいことは――
「フェイトちゃん、書けた?」
覗きこんできたなのはの目から、慌てて短冊を隠す。……見られるのは、ちょっと恥ずかしい。
「なんて書いたの?」
「……秘密」
見ないでね、と念を押して、短冊を笹にくくりつける。なのはは少し残念そうな顔をしながら、一緒に短冊を飾った。
「なのはは、なんて書いたの?」
覗きこもうとした私の視線から、なのはは短冊を隠して――悪戯っぽく笑って、答えた。
「わたしも、秘密」
◇
夜。時間はもうすぐ、日付が変わろうとしていた。
いつもならもう寝ている時間だけど……今日は、少し特別。
「わ、天の川だよ」
なのはの部屋のベランダ。夜空を見上げて、なのはは感嘆の声をあげる。
昼頃に降った雨のおかげか、空はとても澄んで、天の川が夜空に美しく瞬いていた。
「雨、降らなくて良かったね」
「うん」
雨が降ると、織姫と彦星は会えなくなってしまう。それはとても、悲しいことだ。
大好きな人に会えないというのは――本当に、寂しくて、悲しい。
「……フェイトちゃん?」
私はそっと、なのはの肩を抱き寄せた。触れあったところから伝わる温もりが、なのはがここにいることを教えてくれる。
「なのは……私、すごく幸せだよ」
いつでも、手を伸ばせばなのはがいる。大好きな人が、側にいてくれる。
会えなかった時間も、長かった。あの裁判中の半年間……。だからこそ今、隣にいられることが、本当に幸せで。
「うん、わたしも、フェイトちゃんがいるから……すごく、幸せ」
耳元で囁かれる、なのはの言葉。肩にかかる重みが、心地よい。
「あ……7日になったよ」
腕時計を見て、なのはが呟いた。今、天の川には橋がかかって、織姫と彦星は一年ぶりに再会しているのだろう。
そして、その幸せな恋人を、いくつの恋人たちが、こうして見上げているんだろう……。
「フェイトちゃん」
「なに?」
「……願い事、なに書いたのか、当ててみせよっか?」
言って、なのははくるりと、私の前に身体を躍らせた。
はにかんだ笑顔を、星の光が優しく照らして。
「私も、たぶんなのはが書いた願い事、当てられるよ」
――それはきっと、ふたりとも同じこと。
何よりも願うことは、私もなのはも、きっと変わらない、ただひとつのことだから。
答えは、口に出す必要はなかった。
どちらからともなく顔を近づけて――星空の下で、私たちはキスをする。
何度交わしても、一度のキスに込める想いは決して変わらない。
どれだけ時間が経っても、離れていても、大好きな気持ちが、決して変わらないように。
◇
柔らかな夜風が、笹の葉を揺らす。
飾られた短冊が、風にはためく。そこに記された、想いと一緒に。
『なのはと、ずっと一緒にいられますように』
『フェイトちゃんと、ずっと一緒にいられますように』
寄り添うように並んだ短冊を、アルタイルとベガが穏やかに、見下ろしていた。
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