アツい日は季節を越えて
2007.10.01 Monday | category:投稿&頂き物SS
――はやて――
ふわ〜っと、ええ匂いがしてきたよ。香ばしくていかにもおいしそうな、焼きイモ特有の秋の香りや。
秋はおいしいモンがいっぱい食べれて、ええ季節やね。
この『庭』は広い上に落ち葉に困らんから焚き火にはめっちゃ最適や。
「ねぇ、はやて。警察に通報するけど、覚悟はいい?」
さらーっと物騒なこと言われてしもた。
しゃがんだまま声のした方を向く。そこには苦笑しながらこっちを眺めるなのはちゃん、フェイトちゃん、すずかちゃん……と。
この素敵なお庭の所有者の、素敵なご令嬢。携帯電話を構えた、可愛い可愛い不動明王さまがいた。
「つーほー? って、誰を? すずかちゃんか?」
「あんたに決まってるでしょうが。どうしてすずかが出てくるの」
「『すずかは存在自体が罪なのよ! 罪なくらい可愛いのよっ!!』とかのろけるつもりやったんかなーと。そしたらわたしがこう、なんでやねん、と」
ビシッと空気に向かって突っ込んでみる。
「なんでやねん」
イタッ。
あかんよ、アリサちゃん。ホンマに突っ込んじゃ。
「おぉ、わたしの方が突っ込まれてしもた。さてはアリサちゃん、初めからわたしに突っ込みたくて話ふったんやな? なかなかやるやないか、こいつぅ」
うりうり、ひじで突いてみるも、さすが不動明王。憤怒のポーカーフェイスはくずれへん。
「はい、通報するから」
わ、ホンマに押したよ、携帯番号。
「ちょ、ちょちょちょ。何で? 何でわたしが通報されなあかんの」
慌てて携帯を奪い取って電源ボタンを押した。全く、しゃれになってへんから。
「とぼけるな。今まさにやってるじゃない、悪行を」
アリサちゃんが指し示す方を向いて、わたしはさわやかに笑い返した。
「これ? イモ焼いてるだけやんか」
「略すな。『他人の家の庭で勝手に焼きイモしてる』んでしょうが。し・か・も、あたしの家の庭で!!」
「ええやん。ヴィータがお年寄りからもろて来てくれたんよ? おすそわけや」
「焼きイモに文句つけてるんじゃないの。ここで焼くなって言ってるの」
自分の鼻をつまむ。
「ココワァ、アリーサチャンノウチジャナクテー、パパノーオウチデース」
アリサちゃんが、一層眉をひそめた。
「……誰よ、それ」
パパ言うてるやんか。
ま、解るわけあらへんよね。ぶっちゃけ適当やから。
「アリ〜サチャンノォ、パパデース」
「侮辱罪ってのも加えとくから」
携帯を奪い返されてしもた。わ、早うち。わたしは再び携帯を素早く奪い取った。
「ちょちょちょ、そこまで怒らんでええやん。ほんのベルカ式ジョークやから軽く突っ込んでくれればええんよ、アリサちゃ〜ん」
「何それ、あたしに魔法使いの常識は通用しないから」
「アリサ、魔法使いでも常識じゃないよ、それ」
唇を微妙に引くつかせて苦笑するフェイトちゃん。
「はやてちゃん、魔法使いのイメージダウンだよ、それ〜」
わたしに抗議の声を上げるなのはちゃん。
「あんたの友達から見ても見苦しいみたいよ? 残念ね、はやて」
ニヤリ顔のアリサちゃんに、わたしはにっこり微笑み返す。
「すずかちゃんにデレてるときのアリサちゃんほどやないよ」
――良い子は携帯の角で人どついちゃあかんよ? なぁ、マイフレンド。
――アリサ――
全く、付き合ってられない。
どうしてこう、突拍子もないことばかりやらかして困らせようとするのかしら。
素でやってるのか、確信犯なのか、さっぱり見当つかないからなおさらたちが悪い。
「まだ学校祭っちゅう大イベントが残ってるしなぁ。この焼きイモで英気を養っとかんと」
その問題児が焚き火の上に落ち葉をのっけて、再び喋りだした。
「うん。はやてちゃんは学校祭初めてだもんね。誰よりも楽しみなんじゃない?」
すずかが拾ってきた棒切れで焚き火の中を突きながらそれに応える。
「ホンマ、楽しみやねー。わたし学校祭でバンドやってみたいんやけど」
唐突。初耳。
「一応聞いといてあげるわ。誰があんたと一緒に演奏するわけ?」
はやてが「何言うてるの?」的な顔して見返してきた。
「決まっとるやん。この五人でバンド組むんよ」
予感していた通り。こめかみに手を当てて、
「突っ込み所有りすぎ」
苦言を呈する。
「何でや? もうバンド名まで決めてるんよ? 後は練習するだけや」
「勝手に決めないで。……ちなみに、そのバンド名とやらは?」
「ずばり! みんなの名前の頭文字とって『FLASH』でどや?」
フラッシュぅ? えっと、F……って。
「『N』はどこ行った、『N』は」
なのはが「あれ?」って自分の顔を指し示したのと同時に、あたしははやてにもっともかつ的確な突っ込みを入れた。
「そう、そ・こ・でや。なのはちゃんは芸名で出場ってことで」
「げ、芸名? それちょっと違う気が……」
ちょっとじゃなくて全然違うわよ、なのは。
「細かいこと気にしちゃあかんよ。『L』が必要やからリリカルとかでええんちゃう?」
うわ、超投げやり。
「ええ〜っ!? やだよ、そんなのー」
当然の反応。なのはがわめきだした。
「い〜や、Lylical・高町。これでいこ」
「ちょ、そんな勝手に……」
そんな発音良く呼ばれても、嬉しがるやつは普通いないでしょ。
「良かったわね、リリカル。素敵な名付け親に出会えて」
ごめんね、なのは。もうどうでも良くなってきた。さっさと切り上げたいのよ。
「リリカルちゃん、きっと学校中の人気者になっちゃうね」
笑い者、との間違いでしょ。
すずかまですっかりツボにはまっちゃってるし。さっきから含み笑いしっぱなし。
「え、えと……」
フェイト、必死でフォローする優しい言葉を探してるみたい。無理に取り繕おうとしなくていいのよ。
時には変なものをはっきり変て言い切る覚悟も必要だから。相手があんたの愛しのなのはでもね。
「か、可愛い名前だね、リリカル」
オイ。時間かけた返事がそれ? 声、裏返ってるし。
「うぅ……」
へこむ、なのは。それ見てさらに慌てるフェイト。何だか、もう。
「そもそもあたしとすずかはもう二人でヴァイオリンの演奏するって決めてるから、無理よ。今日はこれからその練習するんだから」
「聞いてへんよー、そんな話」
「してないもの、あんたには」
「じゃあミュージカルにしよ。わたしが二人をより際立たせる、名バックダンサーつとめるから」
そう言って、名バックダンサーを自称する気違いがその場で踊りだす。
はやてはびみょうなおどりをおどった!
なのはたちはあっけにとられている!
あたしは「にげる」を選択した。
「はい、ウソウソ。あんたのお笑いライブに成り果てるのが目に見えて解り切ってるっての。はやてはほっといてもう練習しよ、すずか」
風を切るように、あたしは家の中へと戻る。三人分の足音で、なのはたちがついてくるのが確認出来た。
「わたしは〜?」
「あんたはイモ係でしょ。火事なんか起こしたら承知しないからね」
「はいは〜い」
――フェイト――
室内が、時間が止まってしまったみたいに物音のしない空間に変わる。そうさせているのはきっと、目の前の二人だ。アリサとすずか。
ほぼ同時にヴァイオリンを左肩に置いて――この辺の仕草まで息がぴったりだ――とたん、アリサとすずかの表情が変わった。
目を閉じて、眉を寄せてるような、そうでないような、とにかく、真剣。
すごいの一言。まだ演奏が始まってもいないのに、わたしはすっかり呑まれてしまっている。
――左手。こぶしを作っていた左手に、温もりが重なった。
横を向く。なのはが微笑んでいる。
わたしも微笑み返して、視線を前に戻す。さっきと全く変わらない風景。
アリサもすずかもヴァイオリンを構えたまま、彫刻になってしまったかのように、動かない。集中、してるんだろう。
「わたしね、実はあんまり二人が演奏してるとこ、見たことないんだ」
なのはが、隣にいるわたしがようやく聞き取れそうなくらいの低い小声で囁いてきた。
「そう、なんだ」
意外だった。
「わたしは今日が初めてだから、すごく楽しみだよ」
「うん。わたしも楽しみっ」
その温もりをいったん離して、しっかり指を絡めて握り返した。
――アリサ――
胸の鼓動が落ち着くのを待つ。楽器が手になじんで、コンディションが最高だって思えるまであたしは決して弾こうとしない。
初めて試みる、ヴァイオリニストとしての、すずかとの共同作業。何度も何度も練習を重ねた末に創りあげた、二人のリズム。
一人で演奏するときとは違って、難しい。すごく難しい。
すずかが相手でなきゃ、まず固く拒んだと思う。ま、すずかの提案とあっては、おめおめと断るわけにはいかない。やってやろうじゃないのってことで。
お〜きく深呼吸。フー、と口で息を吐き出し終えて。――よし、いくか。
目を少しずつ開く。視線を右へとずらして、流し目でパートナーにアイコンタクトを求める。
実はこの瞬間も心を落ち着けるために重要な要素だったりする。そこにすずかがいること。今日のすずかを見て思うこと。
白い、姫ワンピ。いかにもすずかが好んで着そうな格好。
――いい。やらしいオジサンみたいな感想だけど、すごくいい。
そのパートナーはまだ目を閉じている。今日はいつもより時間がかかってるわね。
……なのはとフェイトの前だから、かしら。気持ちは解るけど。すずかはこう見えて情にはひときわ厚い。
友達の前だからこそ、よりいい演奏がしたいと思うに違いない。
心の中で苦笑する。
すずか、これじゃ本番より気合い入っちゃうかも。……あたしも、ね。
すずかの目が開いた。首が動いて、あたしと目が合う。
ラベンダーの、薄紫。一瞬、見とれてしまう。
心の中でかぶりを振って、キッ、とその瞳を見つめ返す。
こっちは、大丈夫。
すずかが軽く頷いて弓を構える。
弾き始めるのはあたしが先。再び目を閉じて、腕の動くままに、気持ちの流れるままに弓を動かす。
さっきまで痛いくらい静かだった部屋に、あたしのヴァイオリンが放つ音響が満ち溢れる。
と、直後、そのメロディーに厚みが増した。
すずかのヴァイオリンの旋律が、あたしのとツイストするように絡み合い、シンクロする。
……出だしは、好調かな――
*
……おすまし顔のすずか。相変わらずその艶のある音色に乱れがない。安心する。
すずかはいつだって集中することには事欠かないし、あたしに欠けている部分を無言でとがめられている気がして、ちょっとだけ悔しいような、羨ましい。
ちょっと、いたずらしてみようか。ホントは、本番にやってやるつもりだったんだけど。
演奏中にこんなことを考える余裕があるのも集中出来ないわけじゃなく、状態が限りなくベストである証拠。楽しんでいる証拠。
マルチタスク、発動。ヴァイオリンに神経を注ぎつつ、視線はすずかの様子をマークする。
すずかがちらっとあたしを見た。今だ――
「っ」
ウインク。そして――大成功。すずかのほっぺに薄く赤みがさしたのを、あたしは見逃さなかった。
けれどすずかの演奏は途切れたりしない。ま、そうでなきゃいたずらなんてしないけど。信頼よ、信頼。
実はこのウインク、出来るようになるまで結構な特訓をしてたりする。もちろん、誰にも内緒。
知られたら、バカみたいじゃない。これのためだけに毎日ずーっと鏡の中の自分と見つめ合ってた、なんて。
さ、この調子でラストまで突っ走るわよ。ノッてきたっ――!
――すずか――
もぉ、アリサちゃんは……。これだから油断ならない。
心臓が跳ねたせいで一瞬微妙に自分の中でのテンポが狂ってしまった。慌てて修正したけれど。
ちらりとアリサちゃんを見やって目と唇のジェスチャーでとがめてみるものの、その「ふふっ。してやったり!」な、お茶目さん顔をされてはそっぽを向いて演奏に集中する以外に反抗の余地がない。
――アリサちゃんの奏でる旋律が次第に流麗なものからアップテンポな演奏へと変わっていく。スピード感溢れる、さながらロック・テイストなナンバー。アリサちゃんの一番の見せ所。
それに合わせて、わたしも少しずつメロディーに変化を加えていく。徐々に装飾的な音も織り込んで、聴く人に力強さも感じさせようとする構成。
アリサちゃんの額から落ちる汗が時折光の粒となって舞い散る。
アリサちゃんの演奏スタイルは、独特だ。きっとアリサちゃんは意識してないんだろうけど、クールに見えて過激っていうか、心をわしづかみにするようなアクション。
演奏者というより指揮者のような手の動き。惹きつけられて手がおろそかになってしまいそうなくらい、かっこいい。
そんなアリサちゃんを誰よりもそばで見て、聴いて、感じることが出来るのだから、わたしは誰よりも幸せな観客だ。アリサちゃんとまた目が合った。かすかにその唇の端が持ち上がった気がする。
――うん。今日はくずれる気がしない。失敗する気が、全くしない――!
――フェイト――
部屋全体に響くような、高らかなハーモニー。
二人の繊細さが伝わってくる、滑らかで流れるようなメロディー。
気力を沸き起こすような、二人の様子。
思わず体全体でリズムを取ってしまいそうだ。惹きこまれる。
負けてられない。そんな気持ちになった。それが何に対してなのか、口では言い表せないけれど。
つぶやかずには、いられなかった。
「…………すごいね、二人とも」
なのはは、無言で聴き入ってるみたいだ。――……
わたしも、楽器をやってみようかな。なんて、軽はずみな考えが頭をよぎってしまった。
でも、でももしわたしが楽器を弾けたとしたら、なのは、聴いてくれるかな。喜んでくれるかな。
それはきっと、幸せな光景だと思う。
目を閉じて、そうすると楽器の綺麗な音色がたちまちわたしをその光景へといざなう。
――アルトセイムだ。わたしの、育った場所。見渡す限りの、青と緑。
そこにいるのは、なのはとわたしの二人だけ。身なりは決して良いとは言えない、肌触りの優しい素朴な手織り服。街中を堂々と歩けるようなものじゃない。だけどなのはとおそろいだから、全然嫌じゃない。
野原に座り込んで、身を寄せ合って。わたしが使いこまれたギターを弾きながら、歌うんだ。自分に出来得る限りの甘い歌声を空に向かって響かせて。もちろん歌う曲は、なのはのために作った世界にたった一つしかない、特別な歌。
なのははそんなわたしを照れながら、はにかみながら、じ〜っと見つめてくれて。歌が終わると、その、えと、……あぅ。
そんな時間を、ずっと過ごす。
なんて素敵なんだろう。現実じゃないって解っていても、振り切るのがためらわれてしまう。
あの闇の書に吸収されたとき、もしプレシア母さんたちとの夢が選ばれなかったら、もしかしたらこの願望が選ばれていたかもしれない。
……脱出するのは、より難しかったかも――
「ん……」
「? なの、は?」
急に自分の左肩に何かがのしかかってきて、我に返った。
なのは? なのはが頭を寄せてきていた。その顔を覗いてみる。……寝て、る。
どうしたらいいのか迷ってるうちに。二人の演奏が、終わった――
――すずか――
演奏、終了。と同時に、アリサちゃんに近寄って――
「ふぅ……。お疲れ、すず――ッ」
不意をつく、甘噛み。
顔を離して、固まってるアリサちゃんに向かって、
「お返し。演奏中にいたずらはダメだよ? アリサちゃん」
左目をパチッと閉じてみせた。つまりウインク。
「…………」
アリサちゃんが何も言わずにテーブルに向かい、用意されていたティーポットからカップにお茶を注ぎだした。すねちゃった、かな?
――むすっとした顔で戻ってきて、
「ごめん」
おわび? アリサちゃんが腕を伸ばして、カップを差し出してきた。
「うん」
わたしはにこっと笑いかけて、早速すする。
熱い。
ふぅふぅ、息を吹きかけてから、改めてすすってみる。
――うん、熱いけど、おいしいよ。――と、
「あっ」
「んっ。――っ。……ふぅ」
カップを奪い取られて、アリサちゃんがぐいっと飲み干してしまった。
ふうっと大きく息を吐いたアリサちゃんがわたしに向きなおって、勝ち誇ったように笑う。
――あ、間接――――……。
ふふ。アリサちゃんの、ばか……
「もぉ……熱くなかった?」
色々な意味をこめて。
「別に」
うそ。顔をプルプルされたまま言われても信じられるわけがない。そんなアリサちゃんが可愛くて、思わず顔がへにゃ〜っととろけてしまいそうだ。
これ以上は見てられない。ほっぺをさすって気持ちを引き締め直して、お客さんに挨拶……と、思ったら。
「あれ……なのは、ちゃん?」
可愛いお客さんの片割れが、目を閉じて横になってた。
「うん。寝ちゃったみたい」
フェイトちゃんが申し訳なさそうに苦笑する。
「寝ちゃったって、演奏で? 全く子供みたい……って、子供か」
顔を手で仰ぎながらアリサちゃんが呆れたようにつぶやいた。
「なのは、最近特に頑張ってるから。疲れてたんだよ」
フェイトちゃんがそのなのはちゃんの頭をなでる。
「ふふ。起こさない方がいいよね。……そうだ、アリサちゃん」
アリサちゃんを手招きする。
「何?」
「あのね……」
アリサちゃんの耳に顔を寄せて、浮かんだ名案を伝達。
「ん? …………本気?」
あからさまに困惑した様子のアリサちゃん。
「本気。ダメ?」
断られる可能性を全く視野に入れずにこんな聞き方をしてしまうわたしは、ずるいかも。
「別に、いいけど。ちゃんと弾けるか、分からないわよ? あたしそれ弾いたことないし」
「大丈夫。わたしもないから」
アリサちゃんが肩をすくめて、ため息。
「だから余計不安なんでしょ。ま、練習だと思えば、いっか。……フェイト」
「え?」
きょとん、と目をまん丸にしたフェイトちゃん。
「あたしたちが演奏したげるから、なのはに歌ってあげたら? 歌」
「う、歌……?」
「フェイトちゃん歌上手いから、なのはちゃん、聴いたらもっと気持ち良く眠れるんじゃないかな」
戸惑うフェイトちゃんに、微笑みかける。
「で、でもわたし、歌って言っても、ひとつだけしか」
「そ、それのことよ。お花見のときに歌ったあの曲よ。即興であたしたちが弾いてあげるから。特別に」
「え……」
「アフターサービスよ。お客さんへの」
ピッ、とアリサちゃんが弓の先をフェイトちゃんたちに向けた。そして、ニッと笑う。
「どうかな? フェイトちゃん」
「う……うんっ」
フェイトちゃんたちに向かって、恭しく一礼。
わたしとアリサちゃんは頷き合って、再びヴァイオリンを構えた。
――なのは――
――――歌だ。
襲い来る睡魔と激しい戦いを繰り広げていたわたしに、突如穏やかな歌が聴こえてきた。
聴き覚えのある、旋律。聴き覚えのある、歌。
澄んだ音色がわたしを深い、深〜い眠りに誘う。
ふかふかの雲の上に寝転んでるみたい。
しっとりとしてて、心にしみるようなその甘い声に、ついに睡魔に敗れ去ってしまった。
一気に、脱力。
なんだか懐かしくて、なんだか甘いような、いいにおいがする。
ん……うにゅ……ねむ、い――……
……このうた、すごくやさしくて、どんどん、ねむくなっちゃう、よ……
…………あれ?
うたが、きこえなくなっちゃった。もう、おわり? もっとききたかったのに。
――――あ。
ほっぺを、おされた。おされたっていうか、さわられてる。
おきろって、ことかな。まだねむくてしかたないのに。
ほっぺをおしてるなにかがわたしのほっぺをなぞってる。ふふ。やわらかい。くすぐったい。
――ふぇ? そのさきって。そのさきって、――あ。
あぁ…………おされ、ちゃった。
おきようかとおもったけど、もう、いいや。――ごめんね。
ふぇいと、ちゃ――――……
――はやて――
焼イモ完成を知らせに来るなり、部屋にいたみんなに合図された。シーって。
一体、なんや?
扉を閉めて、みんなの側まで来てようやく納得。
「へぇ……。なのはちゃんもこんな顔するんやね」
驚いた。とてもあの凛々しい砲撃魔導師の顔とも、明朗快活な小学四年生の顔とも違った顔しとったから。
「口づけでも起きないなんて、割と図太いお姫さまね。ま、なのはらしいけど」
「あ、アリサっ」
「なに焦ってるの、フェイト。自分から勝手にしといて」
それ聞いてなるほど、と笑う。
「ほー。フェイトちゃん、奪ってしもたんか」
「あ、あぅ……」
なのはちゃんを抱きかかえていて両手がふさがってるから、その顔色は隠しようがない。
酔っぱらいもびっくりな、乙女の赤。
「にしても、ホント気持ち良さそうに寝てるわね」
テーブルにほおづえついたアリサちゃんがしみじみつぶやいた。
「アリサちゃん。浮気はダメだよ?」
「す、するわけないでしょっ」
半分冗談、半分本気、てとこやろか。そのすずかちゃんの声色は。
「あはは、確かにこの寝顔見てたらすずかちゃんも気が気じゃないかもなぁ」
フェイトちゃんに抱き支えられたなのはちゃんはまるで、ゆりかごの中でまどろむ――
「みんな。シー」
フェイトちゃんにたしなめられた。
「おぉ、ごめんごめん」
のどかな風景って、こんなんを言うんやろなぁ、と思う。
一枚の絵画がそのまま現実になったみたいや。
普段のつり目をこれでもかってくらい垂れ下げたアリサちゃんと、いつもより深い笑顔なすずかちゃんと。
「なのはちゃん、赤ちゃんみたいやね」
チークでものせたんか? と思ってしまうような、天使の寝顔をしたなのはちゃんと、
「うん」
お母さんみたいな、柔らかい微笑をした、フェイトちゃん。
――続いていけたら、ええな。こんなアツアツな日が。
こんな、わたしらが。
Comment
ちくしょう!!お前ら甘すぎだよ!!
なんなんだよ!このバカップルぶりは! フェイトとなのははともかく、アリサとすずかもついにバカップル入りとは・・・・・。
・・・・・・アレ? はやては・・・?
まあいいか・・・。
まあ最初のほうは甘さレベル大、終盤はなごみレベル大ってところですね。
十分和ませてもらいましたよ。
なんなんだよ!このバカップルぶりは! フェイトとなのははともかく、アリサとすずかもついにバカップル入りとは・・・・・。
・・・・・・アレ? はやては・・・?
まあいいか・・・。
まあ最初のほうは甘さレベル大、終盤はなごみレベル大ってところですね。
十分和ませてもらいましたよ。
Posted by: 吉 |at: 2007/10/02 12:20 AM
最初こそ甘さ控えめかと思いきや、いやもう(笑)最強はすずかでしょうか(笑)
にしても、さぞやあどけない寝顔なんでしょうねぇ、なのはさん。そして、捨て身のギャグをかます師匠、最高です!
にしても、さぞやあどけない寝顔なんでしょうねぇ、なのはさん。そして、捨て身のギャグをかます師匠、最高です!
Posted by: 通りすがりのF |at: 2007/10/02 3:25 AM
フェイトが唄った歌ってのはなんなんだ?気になる。
Posted by: ユイ |at: 2007/10/02 12:36 PM
なのはっ!!!
なんっすか!!!みんな甘々じゃないっすか!!!
なんかもう、あざっす!!!!!!
なんっすか!!!みんな甘々じゃないっすか!!!
なんかもう、あざっす!!!!!!
Posted by: kanya |at: 2007/10/02 12:43 PM
あ〜つ〜い〜!!!
マジ熱い!さっきまで寒いぐらいだったのに何だこの気温の急上昇わ!
バカップル過ぎて突っ込みもできんと読み終わってしまった
例によってまたSSの中にダイブしてアリサとすずかのウインクがダメージでかいし
しまいに死ぬかも、次もっと熱いの期待してます
マジ熱い!さっきまで寒いぐらいだったのに何だこの気温の急上昇わ!
バカップル過ぎて突っ込みもできんと読み終わってしまった
例によってまたSSの中にダイブしてアリサとすずかのウインクがダメージでかいし
しまいに死ぬかも、次もっと熱いの期待してます
Posted by: ブラスト |at: 2007/10/02 3:11 PM
久々に来ましたね。
バカップルが2組もいるのに、ほのぼの感がある。
やっぱりなのはは最高の作品ですね。
日本が同姓婚OKなら、即入籍してそう。
バカップルが2組もいるのに、ほのぼの感がある。
やっぱりなのはは最高の作品ですね。
日本が同姓婚OKなら、即入籍してそう。
Posted by: ユリかもめ |at: 2007/10/02 4:14 PM
はやての自由人っぷりに笑い、アリすずのラブラブっぷりに悶え、なのフェイの和みっぷりに癒されました(´ω`)
フェイトが歌うシーンでは思わずあの歌をかけてしまったw
バイオリンアレンジであの歌を聴かされたら、確かによく眠れそうですねww
フェイトが歌うシーンでは思わずあの歌をかけてしまったw
バイオリンアレンジであの歌を聴かされたら、確かによく眠れそうですねww
Posted by: LEO |at: 2007/10/02 9:07 PM
mattioさん何時も楽しみにしてます。
何時も思うのですがmattioさんすごいですよ。完全に時を忘れ、なのフェイの世界はいってしまう。
現実の不安とか嫌なこととか全部忘れて、やわらかな、なのフェイの世界に浸ってしまう。そしてまた頑張ってみるかって思ってしまう。
mattioさんの、なのフェイをこれからも楽しみたいです!よろしくお願いします≧≦>
なのフェイは絶対的正義!!
何時も思うのですがmattioさんすごいですよ。完全に時を忘れ、なのフェイの世界はいってしまう。
現実の不安とか嫌なこととか全部忘れて、やわらかな、なのフェイの世界に浸ってしまう。そしてまた頑張ってみるかって思ってしまう。
mattioさんの、なのフェイをこれからも楽しみたいです!よろしくお願いします≧≦>
なのフェイは絶対的正義!!
Posted by: とうぅふ |at: 2007/10/04 12:59 AM
mattioです。コメント下さった方も、ここまで読んで下さった方もありがとうございます。
とても恥ずかしいミスをやってしまったことは本人重々反省しております、すみませんorz
やっぱり見直しは大事ですね、以後気をつけます(ボソリ
はぁ……(凹
>吉さん
あー、ごめんなさい。最初のギャグをやらせたいがためにその後の流れではやてには蚊帳の外にいてもらうことに(涙
ほら、イモをほったらかしにするとたちまち火事になってはやては本当に通報されて連行されてしm(ry
今回はストーリーの流れをギャグ→甘→ほのぼのを意識して書いてみましたので、そう言って頂けてとても嬉しいです。
>通りすがりのFさん
最初から飛ばしては面白くないってことで、まずはギャグから攻めました(笑
ウチの師匠はいつだって体張ってます、将来芸人へと転身するためn(オイ
>ユイさん
妄想中のフェイトさんが歌っているのは私の脳内最強のなのフェイソングですー。
某ゲームの主題歌なのですがバラード調でギターもまた素敵なのですよ。
お花見のときの歌はA’sSS03をどうぞー。
>kanyaさん
たくさんの感嘆符をあざーっす(笑
もはや出来上がっている2カプにほろ苦さは特にいらんかなあなんて(オイ
こういう内容にしたのは多分本編の影響、というか反動でしょうねきっと(苦笑
>ブラストさん
その期待は全力でクロニクルへ回しましょう(笑
見ての通り私ゃ期待に応えられる器じゃありませんよーw
>ユリかもめさん
こういうのが書いてる私としては気分良くすいすい書けるのですよ。
小学生verではどちらかというと甘いのよかほのぼのを重視したいという気持ちがあります。
あの頃にはもう戻らないのかなあ(ry
>即入籍
私の脳内ではもう何度もしてますがw(ヲイ
>LEOさん
その三系統をお楽しみ頂けたのは感無量ですw このシフトがやっぱり一番好きなんですよねー。
最近師匠のネタから書き出すのがすっかり主流になってて複雑ですが(苦笑
>バイオリンアレンジであの歌
ですよねですよね(ry 早速聴いて頂けたようで、ありがとうございます!
>とぅうふさん
あやー……、あの、そこまで言って頂いてしまうと照れを通り越して申し訳ない気がしてならないのですが(汗
本人は今はホントにマイペースでして、ホントに気が向いたときにしか書かないスタイルで作品出してますので……(苦笑
世間様が許して下さる限り、私は作品出し続けますよー。
なのフェイへの、というかあの5人への愛は当分消える気配がありませんので(笑
こちらこそこうしてお言葉頂けると本当に元気でます。ありがとうございます。
とても恥ずかしいミスをやってしまったことは本人重々反省しております、すみませんorz
やっぱり見直しは大事ですね、以後気をつけます(ボソリ
はぁ……(凹
>吉さん
あー、ごめんなさい。最初のギャグをやらせたいがためにその後の流れではやてには蚊帳の外にいてもらうことに(涙
ほら、イモをほったらかしにするとたちまち火事になってはやては本当に通報されて連行されてしm(ry
今回はストーリーの流れをギャグ→甘→ほのぼのを意識して書いてみましたので、そう言って頂けてとても嬉しいです。
>通りすがりのFさん
最初から飛ばしては面白くないってことで、まずはギャグから攻めました(笑
ウチの師匠はいつだって体張ってます、将来芸人へと転身するためn(オイ
>ユイさん
妄想中のフェイトさんが歌っているのは私の脳内最強のなのフェイソングですー。
某ゲームの主題歌なのですがバラード調でギターもまた素敵なのですよ。
お花見のときの歌はA’sSS03をどうぞー。
>kanyaさん
たくさんの感嘆符をあざーっす(笑
もはや出来上がっている2カプにほろ苦さは特にいらんかなあなんて(オイ
こういう内容にしたのは多分本編の影響、というか反動でしょうねきっと(苦笑
>ブラストさん
その期待は全力でクロニクルへ回しましょう(笑
見ての通り私ゃ期待に応えられる器じゃありませんよーw
>ユリかもめさん
こういうのが書いてる私としては気分良くすいすい書けるのですよ。
小学生verではどちらかというと甘いのよかほのぼのを重視したいという気持ちがあります。
あの頃にはもう戻らないのかなあ(ry
>即入籍
私の脳内ではもう何度もしてますがw(ヲイ
>LEOさん
その三系統をお楽しみ頂けたのは感無量ですw このシフトがやっぱり一番好きなんですよねー。
最近師匠のネタから書き出すのがすっかり主流になってて複雑ですが(苦笑
>バイオリンアレンジであの歌
ですよねですよね(ry 早速聴いて頂けたようで、ありがとうございます!
>とぅうふさん
あやー……、あの、そこまで言って頂いてしまうと照れを通り越して申し訳ない気がしてならないのですが(汗
本人は今はホントにマイペースでして、ホントに気が向いたときにしか書かないスタイルで作品出してますので……(苦笑
世間様が許して下さる限り、私は作品出し続けますよー。
なのフェイへの、というかあの5人への愛は当分消える気配がありませんので(笑
こちらこそこうしてお言葉頂けると本当に元気でます。ありがとうございます。
Posted by: mattio |at: 2007/10/04 8:47 AM
季節が変わろうとも、その温度を微塵にも変えようとしない2カップルに果てしない幸福と祝福を。
そして、そのような灼熱「BA」カップルを見てもその本性を保ち続けられる偉大なるはやて師匠に最大限の敬意を。
はぁ…癒されます…
そして、そのような灼熱「BA」カップルを見てもその本性を保ち続けられる偉大なるはやて師匠に最大限の敬意を。
はぁ…癒されます…
Posted by: LNF |at: 2007/10/04 11:28 PM
>LNFさん
「BA」の意味に一瞬気づきませんでした(笑
たとえ季節が夏から外れようともあの5人にはそんなのカンケーn(ry
そしてはやてはそんな2カプの幸せをふざけているようで実は海よりも深く、微笑ましく見守っているんです……。とか綺麗にまとめちゃダメですか?(笑
「BA」の意味に一瞬気づきませんでした(笑
たとえ季節が夏から外れようともあの5人にはそんなのカンケーn(ry
そしてはやてはそんな2カプの幸せをふざけているようで実は海よりも深く、微笑ましく見守っているんです……。とか綺麗にまとめちゃダメですか?(笑
Posted by: mattio |at: 2007/10/05 1:15 PM
ああ、甘い。どこまでも甘いです(もっとやれって思うくらい甘い)。どうして貴方はこんなに甘い幸せな小説を書けるんですか。
ウインクでちょっと意地悪ネタもいいですけど、なのはさんと2人っきりも(なんか昔の映画みたいでいいです、ほのぼので)脱出は難しいかもしれませんが、個人的に家族団欒なプレシア達の夢になのはさんが一緒にいれば、フェイトさん、あのままでしたね絶対(じゃあ、あのまま現実のなのはさん、敗北・・・?)。
はやてさんのイモネタ及びアリサの対応には爆笑してもらいました。mattioさんの小説には確実にはやて師匠が不可欠です。
ウインクでちょっと意地悪ネタもいいですけど、なのはさんと2人っきりも(なんか昔の映画みたいでいいです、ほのぼので)脱出は難しいかもしれませんが、個人的に家族団欒なプレシア達の夢になのはさんが一緒にいれば、フェイトさん、あのままでしたね絶対(じゃあ、あのまま現実のなのはさん、敗北・・・?)。
はやてさんのイモネタ及びアリサの対応には爆笑してもらいました。mattioさんの小説には確実にはやて師匠が不可欠です。
Posted by: マルダユキ |at: 2007/10/07 11:33 AM
>マルダユキさん
それはきっとあの頃の幼き彼女たちへの愛が、日が遠くなるにつれさらに強まっているからではないでしょうか、複雑です。
「貧しくても幸せに二人で暮らす」という萌えシチュをどうしても実行したかったのでフェイトたんに妄想させてみました。背景描写のイメージ的には某アルプスなアニメっぽく(オイ
なんかアリすずはオーケーとして、なのフェイ絶対主義の私にとってストーリーの進行役程度にしか考えてなかった師匠がこういう形ですっかりレギュラーに定着してしまいました、まあいいか(苦笑
それはきっとあの頃の幼き彼女たちへの愛が、日が遠くなるにつれさらに強まっているからではないでしょうか、複雑です。
「貧しくても幸せに二人で暮らす」という萌えシチュをどうしても実行したかったのでフェイトたんに妄想させてみました。背景描写のイメージ的には某アルプスなアニメっぽく(オイ
なんかアリすずはオーケーとして、なのフェイ絶対主義の私にとってストーリーの進行役程度にしか考えてなかった師匠がこういう形ですっかりレギュラーに定着してしまいました、まあいいか(苦笑
Posted by: mattio |at: 2007/10/07 4:40 PM
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