ユグドラシルの枝(1)
2007.09.07 Friday | category:投稿&頂き物SS
*注意*本作は「魔法少女リリカルなのはBURNING」の三次創作です。本編のネタバレを含むため、先に「なのはBURNING」を読まれることを推奨致します。
というわけで、てるさんからBURNING三次短編シリーズが来ましたよ! IFネタで、エディック&セレナのハッピーエンド編ですよ! エディ&セレナが好きな方は是非に!
第2弾以降もあるらしいのでwktkして待ちましょう(・∀・)
というわけで、てるさんからBURNING三次短編シリーズが来ましたよ! IFネタで、エディック&セレナのハッピーエンド編ですよ! エディ&セレナが好きな方は是非に!
第2弾以降もあるらしいのでwktkして待ちましょう(・∀・)
エディック・スコールは己が持てる体力のすべてをつぎ込んでコンクリートの欠片やガラスが散らばる駅の内部を走っていた。
駅の内部は爆発の影響で機関部が壊れた所為か、明かりがまったくといっていいほどない。せいぜい、外から差し込む少量の光だけが駅の内部をかろうじて分かる程度に照らしていた。
――――セレナ、セレナ、セレナ、セレナっ!!
だが、そんなことは関係ない。エディックはただただ心の中で一人の少女の名前を連呼しながらひたすらまっすぐに爆発の中心部でもある機関部を目指していた。
彼が心の中で連呼している少女の名は―――セレナ・オズワルド。彼の幼馴染で、一つ年上で、そして―――彼の最愛の女性でもある少女だ。
彼女が最後に向かった先は機関部。つまり爆発の中心だ。エディックには地上本部の司令室から待機を命令が出ていた。だが、愛しい少女が爆発の中心にいることを知っていて、ただ待つなんてことが出来るはずもなかった。
結局、その命令を無視してエディックは機関部へと向かって走っていた。
走りながらエディックのまだ冷静な部分が語りかけてくる。
無駄だ、と。
冷静な頭で考えてみれば、それは正論だ。駅内部の機関部を丸ごと吹き飛ばすほどの爆発。その中心地にいたのでは助かる確率などどれだけ計算してもゼロでしかない。
だが、だがしかし、何度計算して結果がすべてゼロだとしてもエディックは走る。その胸の内に淡い期待を抱えて。
もしかしたら、彼女は構内にはすでにいないかもしれない。
もしかしたら、彼女は爆発の瞬間に転移したかもしれない。
もしかしたら、彼女は防御結界を張ったかもしれない。
考えうるいくつもの可能性を列挙する。自分の心の安定のために。だが、再び心の冷静な部分が意思を持たないコンピュータのように絶望的な結果を突きつけてくる。
セレナが機関部の中心にいなかったなんてことは有り得ない。なぜなら、テロの犯人が宣言してきた爆弾は、たった一つで軽く駅を吹き飛ばせるほどの量だった。しかも、場所は機関部だ。誘爆を引き起こし駅どころか付近まで吹き飛んでいる可能性さえ出てくる。だが、実際はどうだ? 吹き飛んだのはロングアーチからの報告によれば、機関部とその上空のみ。それはつまり――――セレナが爆発を押さえ込んだ結果に他ならない。
彼女がいつでも口にしている『世界中のみんなが幸せでありますように』という言葉を実行するために。そのまま爆発したら、巻き込まれる人々のことを考えて。
彼女は身を挺して守るということを実行できる人間だ。それは一番近くで見ていたエディックが一番知っている。
理解している。知っている。
だが、それでも、それでも彼は走らないわけにはいかない。
―――セレナっ! 無事でいてください……
エディックは、最愛の女性の無事を祈りながら、今にも壊れそうな駅の構内を走り続けた。
◇
駅の案内図を彼のデバイスに投影させながら走った五分。
彼女の隣にいればすごく短い時間が、このときは一時間以上にも感じられた。
不安で押しつぶされそうになりながらも、エディックはようやく駅の機関部へと到着した。
よほどの全力疾走だったのか、呼吸は乱れ、肩で息をし、足もがくがく笑っているような気さえする。執務管志望で身体を鍛えているエディックがたった五分走っただけでこのざまなのだから、どれだけ本気で走ったかが容易に伺える。
そして、彼は今立っている。機関部の前に。
そこに機関部への扉はなかった。おそらく『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたはずの扉は内部からの爆発の衝撃でひしゃげ、蝶番が外れたのか吹き飛んで機関部の入り口前の廊下に転がっていた。
―――セレナっ!
名前を心の中で叫んで、エディックは機関部だった場所へと突入した。
中の様子は外からすぐに分かった。爆発の衝撃で開いた天井。そこから煌々と降り注ぐ太陽の光は、まるで神聖な場所のように機関部を照らし。舞う砂埃は太陽の光を乱反射させる。
見方によっては一枚の絵画に載せられる風景のように思わせる光景が広がっている。
だが、そんなことはエディックには関係なかった。彼が探しているのはたった一人の姿。
最後の爆弾を探すといって、一人の少年をエディックに預けたまま機関部へと向かった少女の姿だけである。
「セレナっ!!」
初めてエディックがセレナの名前を声に出して呼んだ。
誰かの姿を探す分には天井から差し込む光でまったく問題はないはずだ。それでもエディックが名前を呼んだ理由は一つしかない。
――――セレナの姿がまったくそこに見られないという理由に他ならない。
走り出す前に考えた嫌な想像がエディックの頭を掠める。先ほどはすぐさま一蹴し、駆け出すことで誤魔化したが、今度は誤魔化すことは出来ない。
しかも、来る前は想像でしかなかった現地の様子を見てさらに一蹴できない状況となっていた。
機関部という場所はすでにその名の通りの場所ではなかった。機関部と呼ばれるからには存在したであろう動力炉の姿はどこにもなく、そうであったであろうと推測される残骸がそこら辺の床に転がっているだけだ。さらに地面はコンクリートが剥がれ、地面が見えている。しかも、その地面もまるで高温に焼かれたように黒く変色していた。
そこから推測される爆発は半端なものではない。いや、威力だけ鑑みれば、犯人が予告していた通りたった一つで駅を吹き飛ばせるほどだったのだろう。
もちろん、そんな爆発に人間が巻き込まれて無事であるはずがない。
走り出す前に考えていた予測がいよいよ現実味を帯びてきた。
背中と額から流れる汗が止まらない。それは、決して今まで走った所為で出てきたものではない。考えうる最悪の状況がエディックの脳裏をよぎったからだ。
「セレナっ! どこですかっ!? セレナっ!!」
だが、その最悪の状況を振り払うようにエディックはただ彼女の名前を呼ぶ。
床に散らばる残骸を踏みながら、後で鑑識の人間に怒られるかもしれないということをまったく考慮せずに、エデックは機関部だった場所を丹念に調べる。彼女の姿を探して。
そして―――機関部の一番奥ばった場所でエディックは、誰かがいるような気配を感じた。そこは天井から差す光がなく、影になるような場所だった。
「セレナっ!!」
ここが先ほどまで事件の現場だったことを考えれば、ここにいる人物は彼の探し人以外には考えられない。
よかった。きっと防御結界が間に合ったんですね。
自分の嫌な予感をすべて打ち消してくれた事実にエディックは、ほっ、と安堵する息を吐いた。たぶん、もう少し近づけば、「遅いわよ、エディック」なんていいながら怪我をしたセレナが少しつらい笑顔で迎えてくれると、エディックは想像した。
さすがに防御結界を張っていたとしても怪我は逃れられないはずだ。
いつもいじめられる意趣返しが出来るかもしれませんね。
そんな暢気なことを考えながらエディックはゆっくりと近づいていく。
「セレナ、大丈夫だったんですね」
一歩、一歩、影の向こうにある気配へと近づき、ついにエディックは光が差す場所から、影の場所へと足を踏み入れた。入った瞬間は目が慣れていないのか、視界が一気に暗くなる。だが、それも一瞬。すぐに慣れてくる。
すると、光が差す場所では見えなかったセレナの輪郭がはっきりと見えてくる。
確かに、気配を感じたその場所には人型のものがあった。まるで壁に背中を預けて座るような格好でセレナと思しき人物はそこにいた。
「セレナ?」
だが、様子がおかしい。エディックが来たというのにセレナはピクリとも動こうとしないのだ。
もしかして、爆発の衝撃で気を失ったのだろうか。だったら早く。
今までの歩みよりも若干足を早くしてエディックは近づいていく。そして、近づくにつれてだんだんと輪郭どころか、セレナの姿がはっきりとしてくる。
ある一定の距離を近づいたところでエディックは、影の向こうにいる輪郭がセレナだと確信した。
ショートカットの髪にメガネをかけ、ピクリとも動かない手に持つのはエディックがつい最近整備した珍しい書籍型のデバイスであるH2Uで間違いはない。そして、エディックの中でそんな人物は一人しかない。
セレナ・オズワルドだ。
影の輪郭がセレナだと確信して、エディックはさらに歩く速度を速める。そして―――
「え?」
思わず足が止まる。
「……セレナ?」
目もなれて、暗闇の中でもはっきりと見えるようになったエディックが捕らえたのは――
「あ……あ……あ……」
壁に背を預け、四肢を投げ出し、右腕と左足が決して曲がらない方向に曲がり、頭から流れる血でバリアジャケットを朱に染める―――
「う、うそ……ですよ、ね」
セレナ・オズワルドの姿だったのだから。
◇
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
喉の奥から搾り出すような声を出して、エディック・スコールは目を覚まし、眠っていたベットから上体を起こした。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
あの悪夢の所為かエディックの息は荒く、全身の震えが止まらない。そして、何より――心にぽっかり穴が空いたような喪失感を感じる。
その喪失感を少しでも埋めるように。また、震える自分の身体を押さえるようにエディックは自分の両腕で自分をきつく抱きしめる。
その瞳には恐怖しか写っていなかった。
ガクガクガクと震え続ける体。虚ろな瞳は何を写しているのかわからない。デバイス工学の分野では天才と称される脳でさえも今は、すべての回路が停止したように動いてはいなかった。
「……エディ?」
そんな彼の隣から聞こえる優しい声。エディックもよく知る声が隣から聞こえてきた。
忘れない。忘れられるわけがない。愛しい彼女の声が、彼の愛称と共に彼の耳に響いた。
恐る恐る、声がした隣に視線を向けてみる。
そこには―――
「エディ?」
混乱の色を強く表情に表している最愛の女性―――セレナ・オズワルドが確かにいた。
彼の記憶の中よりも僅かに大人びた顔と若干長くなった髪。だが、確実にエディックは隣でエデックと同じように上体を起こして、疑問の表情を浮かべている女性をセレナだと認識した。
「セレナっ!!」
名前を呼びながらエディックは彼女の胸の中へと飛び込む。まるで飼い主に長い間離れていた子犬のように。そして、すぐさま自分を抱いていた両腕をセレナの背中に回す。もう二度と話さないと主張するかのように。
「セレナ……」
子供のようにセレナの胸に飛び込んだエディックはただセレナの胸に顔をうずめた。エディックの耳にセレナのトクン、トクンと心臓が脈打つ音が、確かにセレナがそこにあると証明してくれる音が聞こえる。
「……エディ、大丈夫。私は、ここにいるよ」
母親のように抱擁力に満ちた声が、エデックの頭上から降り注ぎ、同時に優しく髪の毛を手櫛で梳かれる。子供をあやすように。
それが、さらにエディックを安心させた。あの悪夢が夢であったと認識させてくれた。セレナは……エディックの愛おしい彼女は確かに彼の隣にいるのだと安堵させてくれた。
セレナ……よかった。……大好き、です。
最後の想いは言葉にならず、安心したエディックの心は彼を再び夢の世界へと誘うのだ。今度は悪夢ではない、セレナがよく口にする『幸せ』な夢へと。
◇
彼女―――セレナ・オズワルドは、手櫛で弟のような、それでいて大好きな唯一の異性であるエディックが、すやすやと安らかな表情で眠りについたのを見て、ふぅ、と呆れたような安堵したような息を吐いた。
似たようなことが数回あったので、大体の事情は把握している。
おそらく、彼はまた見たのだ。あの夢を。彼が悪夢と称する三年前の駅でのテロ事件での出来事を。
実は、彼の見ている夢の大半は事実だ。
あの機関室でセレナが血まみれで倒れていたのは事実だし、右腕と左足を骨折していたのは間違いない。右手にH2Uを握っていたことも確かだ。
ただ一つ違うのは、夢の中でエディックはセレナが死んだと思っているが、こうしてエディックの隣にいて、生きているという点だけだ。
セレナが、あの爆発を押さえ込みながらも生き残ったのは運がよかっただけだ。
生き残れた要因は、彼女が持つデバイスがH2Uだったという点とH2Uを整備していたのが彼女の胸の中で寝息を立てているエディックだったという点である。
デバイスの整備に関してはすべては製作者であるエディックに任せている。もちろん、自分でやったほうが手になじむという人もいるだろうが、そこは幼馴染兼恋人なのだ。当然、彼女の癖も分かっているし、どんな風に整備したら使いやすいかよく知っている。
現に、エディックが整備したH2Uは使用効率が自分でやるよりも一割はアップしているし、手に馴染むような使い心地だ。彼女としても文句の言いようもない。
しかし、それがセレナが助かった直接の原因ではない。直接の原因はエディックが心配してつけた緊急用の防御結界展開回路であった。もちろん、セレナには内緒で。
普通、そんなものをつければデバイスに違和感を感じるものなのだが、そこはデバイスの天才であるエディック・スコールだ。回路を上手い具合にデバイス元来の回路に埋没させ、完璧に隠蔽した。
その回路が爆発時に発動し、セレナは何とか九死に一生を得たらしいのだ。
もっとも、これはセレナが事件の後に調べた報告でしかない。
あの事件で爆発の後からセレナにある記憶は、真っ白な天井とベットの横で涙を流しながら手を握るエディックの姿しかないのだから。
事件での怪我は結局、全身打撲と右腕、左足の骨折、さらに頭を切った。全治半年の重傷だ。当然、その間に訓練なんか出来るはずもなく、前と同じだけの実力を有し、復帰するまでに三年かかった。
復帰は、明日からだ。
そこまで考えてセレナは、ふとエディックに視線を落とした。
事故の後、セレナが目覚めてからエディックはまさしく文字通り彼女にべったりだった。
決して色のある話ではない。ただ、専属の介護師のように面会時間の始まりから終わりまでずっとセレナの傍にいたのだ。
目覚めたての頃はまだよかった。まかりなきにも死にかけたのだ。その恐怖はまだ心に残っている。そんなときに彼がいつでも傍にいるということは彼女にとっても非常にありがたかった。
だが、一週間を超えればさすがに落ち着く。目が覚めた以上は大丈夫だと医者も太鼓判を押してくれた。
だというのに、エディックはまだ傍にいた。四六時中。
仕事はどうしたのよ? と聞いて「有給使ってますから大丈夫です」とにこやかに答えられたときは、つい傍にあったお見舞い用のリンゴを腑抜けた恋人の顔面に叩きつけてしまった。
彼の心情はよくわかる。いつも隣にいて当然の自分が、死に掛けたのだ。失いたくないのだろう。だが、それではダメだった。セレナ自身が動けないからこそ、エディックには自分の代わりに働いて欲しいのだ。
『みんなを幸せにするため』に。
もちろん、その内容を伝えたところ彼は当然のように首を横に振って、傍にいますと答えた。
初めて見た強情なエディック。いつも彼女の言うことには盲目的にしたがっていた彼が初めて反発したのだ。その決心は決して安いものではない。
だから、セレナは最後の説得にでることにした。
「エディは、私の理想に届いてくれるのよね?」
コクリとエディックはうなずく。
「だったら、こんなところで油売ってないの。私の理想は、みんなを幸せに出来る人で、私のことも蔑ろにしない人なんだから」
――――少しでも近づきなさい。
そう言ってやった。
少しの間、エディックは虚を突かれたようにぼうっとしていたが、やがて何かを決心したのか、瞳に強い意志を見せて「わかりました」と、身を翻してセレナの病室から出て行こうとした。
どうやら、セレナの想いは、エディックに届いたようだ。
それが嬉しくて、またいつもの調子に戻るのが嬉しくて、だからだろう、ついからかうように出て行くエディックの背中にとんでもない言葉を投げかけたのは。
――――私が復帰するまでにランクを追い抜いたら結婚してあげる。
冗談のつもりだった。
エディックのランクはセレナと同じAAAランクだ。つまり、追い抜くということはランクSになるということだ。
セレナが所属する時空管理局でも一握りの存在。そこに登るためにはいかようの努力が必要なのかわからない。
彼女が退院し、復帰するまで多く見積もっても四年。二十歳前までにランクSになる。不可能でないとは思う。だが、相当な努力が必要だ。しかも、それは皮肉なことにセレナの治りが早ければ早いほどに短くなるのだ。
―――その約束、忘れないでくださいよ。
その思いがけない言葉に驚いたのか、一瞬行動が止まったエディックだったが、最後には微笑を共にその言葉を残して出て行った。
その結果は今、彼女の薬指に納まっている。
約束は約束だし、そのことを想像しなかったわけではないのだからこの結果には十二分に満足なのだが、セレナの親友に知られたらまた恨まれるのだろうな、と思った。
なにせ似たような立場なのに方や告白され、方や未だに擬似姉弟を続けている。そして、今度はさらに一歩進んだ結果だ。
……やめた。考えても仕方ないわね。
次に会って薬指に気づかれるのは怖いが、二人とも忙しいからまだ大丈夫だろう。
セレナの親友に対してはそう考えて、すっきりしたところで再びセレナにも眠気が襲ってきた。胸の中で眠るエディックは安らかに眠ったままだ。だが、その割には手から力が抜けることはない。まるで、もう二度と離さないとも言わんばかりに。
眠るときに邪魔になりそうなものだが、セレナはこの腕を離すことを諦めていた。最初のときから、こうなのだから。朝、起きるまではずっとこのまま。エディックはずっとしがみついたままだ。しかも、セレナはこの状況を思ったよりも好意的に受け止めている。誰かの温もりを直に感じられるのは好きだ。死を身近に感じたならなおのこと。
そんなことを考えながら、しがみついたエディックごとセレナはベットに再び横になる。手櫛でエディックの髪の毛を梳くこと続けながら。
しかし―――
横になったセレナは再び眠りそうな頭の隅で思考を少しだけ回した。それは、この状況になっていつも考えてしまうこと。
―――もしも、自分が死んだらエディはどうするつもりだったのだろう?
あの時、セレナはどのタイミングが遅れても死んでいた。
もしも、爆発を上空に逃がそうとしなかったら。
もしも、エディックが防御結界展開回路を積んでいなかったら。
もしも、エディックが命令を遵守して機関部に来なかったら。
たぶん、どれが遅れてもこの場にセレナはいなかっただろう。
そして、それが現実になったとき、エディックは一体どんな行動に出るだろう。
嘆き悲しんで後を追う? 飄々と日々を過ごす? 悲しみを乗り越えて強くなる? あるいは……荒唐無稽な御伽噺にすがる?
その答えをセレナが知るはずもない。彼女は今、生きているのだから。
だが、もし、もしも、セレナが死んでいたとしたら、そう仮定したなら、エディックには強く生きて欲しいと思う。自分の思いを継いで一人でも多くの人を幸せにして欲しいと思う。
彼女が持つデバイスH2U――― Hope & Happyness to you の名の示すとおりに。
どうやら限界が来たようだ。
頭の隅で回っていた思考回路も眠りに向けて着々とその回転を緩めていた。その緩くなった思考回路でセレナは明日の朝の情景を想像した。
きっと、エディックは頭を低くしてこのことを謝るだろう。そして、自分は意地悪く彼を許さないのだ。さらに謝るエディック。最後には伝家の宝刀を抜くことになる。「なんでもしますから」と、いつもの最後の彼の言葉。
さて、今度は何をしてもらおう。ああ、そうだ。今度の休みに一日中付き合ってもらおう。そもそも、彼は研究室に篭りすぎなのだ。もう少し外に出かけなければ。
これでまた休みに楽しみが一つだけ増えた。
くすくす、とエディックが起きないように気をつけながらセレナは笑い、ついに最後の思考回路さえも停止しようとしていた。
セレナもエディックと同じように、彼の温もりを直に感じながら再び眠ろうと瞳を閉じる。
そして、最後の最後、停止直前で最後に考えたことは―――
しかし、この状況って普通、逆じゃないかしら?
その思考を最後にセレナは微笑みながら、眠りにつく。
後に残されたのは幸せそうな表情で抱き合いながら眠るセレナ・オズワルドとエディック・スコールだけであった。
Comment
感想を書かせてもらいますね。
本編を全て読んでいるので、こういったてん会の話は、すごく面白いです。
ちょっとしたファクターがないだけで、本編のようにすれ違い?がおこってしまい、道を間違えてしまう。
この物語のように、人生ってそこかしこにたくさんの分岐点があるんですよね。ともすれば、現実にこんなことが起こるかもしれない、みたいなことを思ったり…(汗)
しかし、エディックがなんかヘタレ・・・じゃなくて、盲目な子供?みたいな感じがしてなりませんね、なぜか(汗)
セレナも、「ああ、こんなキャラなのか。そりゃエイミィともいい友達なわけだ」などと思ったり(おい
まだ、あるそうでwktkして待ってますね!
本編を全て読んでいるので、こういったてん会の話は、すごく面白いです。
ちょっとしたファクターがないだけで、本編のようにすれ違い?がおこってしまい、道を間違えてしまう。
この物語のように、人生ってそこかしこにたくさんの分岐点があるんですよね。ともすれば、現実にこんなことが起こるかもしれない、みたいなことを思ったり…(汗)
しかし、エディックがなんかヘタレ・・・じゃなくて、盲目な子供?みたいな感じがしてなりませんね、なぜか(汗)
セレナも、「ああ、こんなキャラなのか。そりゃエイミィともいい友達なわけだ」などと思ったり(おい
まだ、あるそうでwktkして待ってますね!
Posted by: 吉 |at: 2007/09/07 11:01 PM
感無量です。これしか言い表せない・・・。
Posted by: ぎりゅう |at: 2007/09/08 12:13 AM
ありえたかもしれないIF・・・こうだったらよかったなあ。でもそうするとアリサの方は進展なしですが(笑)
二人の未来に幸あれ
二人の未来に幸あれ
Posted by: ミヅキ |at: 2007/09/11 7:08 PM
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