魔法少女リリカルなのはFROZEN 予告編
2007.07.19 Thursday | category:投稿SS(FROZEN)
影ラボの沈月影さんから、BURNING三次創作、とゆーかBURNING11話から分岐したもうひとつの物語……の、予告編が届きましたよ!w これはなんというwktkモード……! 本気で読みたいので是非本編もよろしくお願いしますw
――――『………………けて』
歩いていた。闇の中を。
――――『たす……けて』
走っていた。光に向かって。
――――『だれか……たすけて……っ』
這いずっていた。声を頼りに。
――――『―の―……――ト……は――……っ』
じりじりと。動かない体で。
――――『たすけて…………、』
「行かなくちゃ」という観念だけで。
…………『――――助けて、ください』
「行きたい」という切望だけで。
…………『マスターを……――サ・―――グ―を、どうか――』
「行こう」という意思だけで。
――――『すず―っ――――……』
守られていた場所から、守ってくれていた人のところへ。
――――『……――――…………――』
わたしは、辿り着いた。
………………はずだった。
◇
運命は――わたしに、大切な人を守ることさえ、許してはくれなかった。
◇
――その日。わたしは目を覚ましたのは、全てが終わったあとだった。
瞬間、わたしの目に飛び込んできた風景は、
月の無い、重苦しいまでの闇に鎖された、深夜の黒。
新しい、静謐なまでの光に満ちた、早朝の白。
どちらでも在り、どちらでも無い、薄気味悪いほどの虚ろに侵された、黄昏の朱と蒼。
決して混ざり合うことのない、賛美と混沌と時と冒涜と秩序と清浄と時と汚濁と無と希望と時と絶望と有と限と死と命と生と時と時と時と時と時と時とが、パズルのように原子配列のように絵画のように数式のように人体模型のように地獄のようにソースのようにプログラムのように楽園のように混ざり合い混ざり合って、沈殿し乖離し融和し吸収し分離し隔絶し否定し同一化した、反転と流転と流動と移動と移転と繰り返す、プラスとマイナスとゼロがイコールの彩-イロ-と。
それら、ありとあらゆるあらざるとの中心に、絶対として孤立する、奇妙に螺旋狂-ネジクレ-た大樹だった。
――その日、わたしが目を覚ましたのは、真実、全てが終わってしまったあとだったのだ。
*
The after, and Reverse of the BURNING’s story......
*
――この世界は壊れてしまった。
それは、彼女という主観において間違いなく真実に近い解釈であり、
また客観的な見地においても厳然たる事実だった。
第97管理外世界……と、今となってはそう呼ぶことすら躊躇われるほどに崩壊し狂ってしまった世界。
全てはあの日――悲壮なまでに切実に、ただ大切な人を、温かだったあの頃を取り戻したいという一心で戦った真っ直ぐな少女の熱意と、結果として何処かで足を踏み間違えてしまった純粋な青年の苦悩とで始まった。
一片の悪意無き願望は、悲しいすれ違いの引鉄に。信念は理想を履き違え、過ちを育み。
世界の中心、地図上では「海鳴」と呼ばれていたその地は、“世界樹”の名を冠するたった一本の大樹の森へとその姿を変えた。葉は魔。魔は力。力は砂に宿り、時を示す砂時計は決壊し、世界に満ちた。
秩序無き時は混沌を織り成し、染み込んだ願望は歪曲の輪舞-ロンド-を奏でる。
歪んだ理想は夢幻。幻想は現実を侵し、虚と実は互いに存在を主張する誇張の胡蝶。
…………。
……。
…。
万物の流転の縮図たる、胚胎と退廃の坩堝。
そんな中、少女は一人、あるいは独り、遥かそびえる大樹を毅然とした瞳で見据えていた。が、射抜くような視線はその実、“世界樹”を見てはいない。
力強さの中に、ほんの僅かの寂しさと何より大きな愛しさを覗かせて、少女はぐっと拳を握り締めた。
――その手に握られていたのは、薄氷を纏った白刃。
――身に着けた、光の中に在って尚眩い、いと白き朝色の外套をはためかせ。
――背には流水にも似た清らかさでもって風を孕む、仄青い氷の翼。
――腰まで届く長い髪は、融け出した霜に煌めく紫苑。
そして――身に纏う清廉を研ぎ澄ませたがごとく、白銀に凍てつくその瞳。
在りし日の平穏、自ら“幸福”と呼んだかつての温かさ全てをひた隠し、涙さえも凍てつかせたその姿。
少女は一人、あるいは独り、そびえ立つ大樹――その先の愛しい“彼女”に想いを馳せ……、
――その唇で、そっと言葉を紡ぐ。
「今度は、わたしが、きっと……救ってみせるから」
決意の言葉と共に風に乗るは、何よりも大切な、その名前。
「――――アリサちゃん」
希望は捨てよ。理想は捨てよ。此処は真実地獄なれば。
覚悟で示せ。力で示せ。絶望を払うは、唯一確固たる信念のみ。
少女よ。汝、己が命に代えてでも叶えたい願いがあるのならば。
虚と実の境界を失ったこの世界で、己の存在を示せ。
その名――月村すずかの、名の下に。
『魔法少女リリカルなのはFROZEN』
――はじめよう。たった一つの、ハッピーエンドのためだけに。
◇
「わたしは……」
自分の名を告げようとして、彼女は口を噤んだ。
『本名は口にするな。虚実入り混じったこの世界は、情報が形を得た瞬間別の物に変わっちまう。《自分》を象徴する《名前》の本質が変われば、存在の概念そのものが乱れる。この世界で自分を保つためには、表向きの自分を偽るための偽名がいる。覚えときな』
つい先ほど耳にした彼の言葉が真実だとすれば、安易に名を名乗るだけで何が起こるかわからない。
「…………」
ならば、と考える。自分がどう名乗るべきかを。今の自分を、どう表すかを。
「――あ」
その瞬間、脳裏を駆け巡るものがあった。
それは自分であって自分でない、けれども同じ道を歩まんとした、ある少女の名。かつて存在し、今は亡く、またこれから存在したかも知れない可能性としての、彼女。その名。
気付けば唇は、その名を紡ぎ出していた。
「スズカ……」
それは自分であって自分でない。けれども同じ道を歩まんとした、彼女の名。同じ人を愛し、そのためだけに生きようと誓った、自分と同じ、その名前。
「……スズカ・トワイライト。それが今の、わたしの名前なんだと思います」
――「月村すずか」
「……地獄?」
すずかが何気無く使ったその単語に、クーは怪訝な顔をした。
「地獄、地獄ねぇ……?」
さも可笑しげに、反芻するように“地獄”という言葉を舌先で転がしながら、クーはくつくつと笑う。
「――何か、言いたいことでもあるんですか」
心外だ。何気無く口走った言葉とはいえ、すずかにとってそれは真に的を射ている喩えだと言うのに。
「いやなに、お前の目にはこの世界が“地獄”に映るのかと思ってな」
「…………」
憮然とするすずかに、クーは続ける。
「思うのさ、俺は。『一切の希望が無い』ってのが“地獄”の在るべき姿、その定義だってな。だったら、お前にとってこの世界は違うだろう? 唯一残った希望に縋ってんだからな。その希望があるから、他の幾多の絶望にも立ち向かっていけてる。だったら、もっといい喩えがあるじゃねぇか」
込み上げる笑いを御しきれぬかのように、クーは高らかに告げた。
「――『パンドラの箱』って、よ」
――クー・カイン
『魔法少女リリカルなのはFROZEN』
第1話 「流転 –Returning End-」
こんなになってしまった世界でも、あなたの命を確かに感じるから。
わたしは全てを諦めることなく、こうして血を流すことを厭わずにいられるのです。
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