名前を呼んだ日
2007.06.28 Thursday | category:投稿&頂き物SS
「寄り道しよっ!」
ある日の放課後、二人だけの帰り道、なのはが唐突に提案をした。
私からしては、アリサやすずかも加えた4人で時々、寄り道はしていたので、
「改まって、どうしたの?」
そんな、なのはの言葉が不思議だった。
(どうしても行きたいところでもあるのかな?)
そのとき、私はそのくらいの想像しか出来なかった。
「臨海公園…」
なのはとおしゃべりをしながらやってきたのは、海鳴臨海公園。
どうして、ここに・・・?
ここは休みの日にときどき遊びに行く場所だ。
(なのはが、口の周りについたホットドッグのケチャップをふき取ってくれたときは嬉しかったなぁ。なのはの手がハンカチ越しに私の唇に触れて・・・)
「フェイトちゃん。フェイトちゃん?」
「えっ?」
なのはに呼ばれて、現実に帰ってくる。
「どうしたの、何か考え事?」
「なんでもないよ。ところで、なんで公園に・・・?」
きわめて冷静に振舞い、自分の頭の中でゆらめいている甘い思い出をひとまず振り払う。
「それはね、こっちにくればわかるよ!」
なのはが私の手をぎゅっと握り、走り出す。
「わわっ!?な、なのは?」
バランスを崩しかけるも、体勢を立てなおし、なのはにひっぱられていく。
「到着!」
なのはが足を止める。急に止まったのでなのはの体にぶつかってしまう。
「きゃっ!」
「フェイトちゃん!?ご、ごめんね、急に止まっちゃって」
「ううん、大丈夫だから・・・、あっ・・・」
今、私の体はなのはの体に寄りかかっている。私の顔はなのは胸のあたりにあって・・・。
そして、なのはの手がゆっくりと私の背中に回ってくる。
「なのは・・・」
「少し、このままでいいかな?いやだったら離すけど・・・」
私は、そっと目をつぶり、
「いやなんかじゃない。私もしばらくこのままがいいな」
「うん、ありがと。フェイトちゃん」
「なのは、あったかい・・・」
「フェイトちゃんだって・・・」
「これが、温もり、なのかな」
私は思わず、顔をなのはの胸に擦りつける。
「きゃっ!フェイトちゃん、くすぐったいよ」
恥ずかしそうに、でも嬉しそうになのはが反応してくれる。
「えへへ・・・、ごめん」
と誤りつつも、再び頬を擦りつける。
「なのは、いいにおいがするよ…」
今度は鼻を胸に当てて、小犬のように優しく嗅ぎまわす。
「フェイト、あんまりふざけてると怒るわよっ!」
「・・・アリサの真似?」
不思議に思いつつも、なのはのちょっとしたお茶目さに心の中で笑い、
「似てないかな・・・?」
「うーん・・・、似てないよ」
なのはの問いに、少し冷たく答えてみた。
「にゃはは・・・。フェイトちゃん辛口だね」
「・・・ううん。なのはには、大甘、だよ」
私からは見えないが、なのはの顔は赤くなっていたと思う。そうだったらいいな。
「フェイトちゃん、さすがにそれは恥ずかしいよ・・・」
「うん、私もそう思った・・・」
恥ずかしさで真っ赤になった顔を見られないように、なのはの胸にあてるかたちで隠す。
しばらく、私となのはの静かな抱擁は続いた。それが、私には永遠に感じられて・・・。
「逆になっちゃったね」
「え?」
そんな、なのはの言葉に私は目を開ける。それとともに、なのはの手が少し緩んだ。私はそっとなのはから離れる。さっきまで永遠だと思っていた時間が一瞬に感じられた。
「もうちょっと、こうしてたかったけど、それはいつでも出来るから」
それは、今、この場でしか出来ないことがあるという意味。
「うん」
そういって、顔を上げる。そのとき、急に自分がしていたことが恥ずかしくなり、誰か見てなかったか辺りを見渡す。
「あ・・・」
わかった。
「今日だから・・・」
真横に広がる広大な海を見た後、なのはの顔を見る。
「確かに逆だったね。あの時と」
私となのはが立っているのは、臨海公園の海辺付近の一画。海からの風と潮の香りが宙を舞う、橋の上。
そう。ここは、思い出の場所。
「あれからね。ちょうど一年経つんだよ」
なのはと最初で最後の別れの日を向かえた場所。
「そういえば・・・、そうだったね」
なのはと再会の約束をした場所。
「忘れてたの?」
なのはとリボンを交換した場所。
「ごめん・・・」
なのはと一緒に涙を流した場所。
「もー。・・・でも、あの時のことは覚えてるよね?」
「忘れるわけ無いよ。私にとって、大事な大事な日だから」
「『私となのは』だよ」
「そうだね」
あの日、なのはと「友だち」になった場所。
「フェイトちゃん、リボン、はずして」
なのはの要望に、私は答える。なのはも髪に結わえられている黒いリボンをはずす。
解き放たれた二人の髪が、爽やかな潮風に揺れる。
「まずは、リボン返還」
なのはが黒のリボンを乗せた右手を差し出す。
私もピンクのリボンを乗せた右手を差し出す。
「どうぞ」
なのはが左手を私の右手の上に優しく乗せる。
私も左手をなのはの右手の上に優しく乗せる。
「つけて」
なのはの左手が私のリボンを取り、それを髪の毛につける。
私も左手でなのはのリボンを取り、それを髪の毛につける。
「久しぶり、私とフェイトちゃんのリボン」
なのはは自分の髪にかわいくつけられたピンクのリボンに話しかける。
「お帰り、私となのはのリボン」
私も1年ぶりに戻ってきた黒いリボンに話しかける。
「フェイトちゃんの香りがするよ」
「私も。なのはの香りがする」
二人で目をつぶって、リボンから流れるお互いの香りを感じる。
「1年経ったから、消えちゃったんじゃないかなって」
「消えないよ。リボンについたなのはの香りも、リボンに込められたなのはとの思い出も」
「うん!じゃあ、もっともっと私の香りをつけなくちゃ」
なのはがリボンを取り、自分の胸に抱きしめる
それに合わせて、私もリボンを取り、胸に抱きしめる。
「私の香りと、私の温もりを、あなたに・・・」
なのはがそっと呟く。
「届いて・・・。そして、いつまでもあなたの心にあり続けて」
私もそっと囁く。
「はい!フェイトちゃん」
再び、リボンを乗せた右手を差し出す。
「はい!なのは」
私もリボンの乗せた右手を差し出す。
お互いにそれを受け取り、髪につける。
「フェイトちゃんの温もりで温かいよ、リボン」
「うん!なのは。とっても、とっても、あったかいよ・・・」
「最後に・・・」
「うん・・・」
言わなくてもわかる。あの時の思い出を、一生の思い出を永遠の思い出に変えるために。
「今度は私が呼んでもいいかな?」
なのはが少し照れながら、ちょっと恥ずかしそうに問いかける。
「うん」
だから、私は紡ぎだす。きっかけの言葉を、始まりの言葉を・・・
「なまえをよんで」
「フェイトちゃん」
「うん」
「フェイトちゃん!」
「うん!」
「ずっと一緒だよ。これからも、ずっと一緒だよ」
「うん、もちろんだよ、なのは」
涙をこらえて、泣きそうな顔を笑顔で必死に保って、なのはが誓う。
「私からもいいかな」
呼びたい。1年、短いかもしれないけど、私たちにとって、長く、大きな、この1年と、いつまでも続くだろうこれからの、大事な「友だち」を・・・。
「なのは」
「うん」
「今は、会いたいから呼ぶんじゃない。一緒にいたいから、なのはの名前を呼ぶよ」
「うん!」
私は涙を我慢なんてしなかった。涙なんて、流れようとしなかったから。
「なのは、手を出して」
私はすっと、右手を出す。
「ちょっと待ってて・・・」
なのはは、左手で目のあたりを一度覆って、さっと左手をはらい、笑顔で右手を出す。
私はなのはの右手を握った。
なのはも私の右手を握った。
「君の手はあたたかいね、なのは」
あの時と同じくらい、いや、それ以上に今のなのはの手はあたたかい。
「フェイトちゃんだって・・・、私に負けないくらいあたたかいよ」
「そうなのかな・・・」
「そうだよ」
あのときの私だったら、まだ、あたたかさが足りなかったのかもしれない。
でも、今は言える。そう言えないと、目の前の友だちに顔なんて向けられないから。
「そうだね」
目の前の一番大切な友だちに微笑みかける。
なのはは朝日のようにまぶしく、夕陽のようにきれいな笑顔で笑ってくれていた。
「少し、わかったことがあるんだ」
なのはの笑顔を見つめて、私は言う。
「友だちが笑っていると、同じように自分も嬉しいんだ」
「フェイトちゃん・・・」
「なのはは嬉しい?」
「うん、私も嬉しいよ。だって、フェイトちゃんが笑顔だから!」
握り合うお互いの手に、左手を重ね、一層強く握手をした。
抱きしめあうよりも、些細な触れ合いだけど、想いはたくさん伝わった。
「この後は翠屋でパーティにしよっ!お母さんに特製スイーツを作ってもらう約束したから」
「うん!楽しみだね」
「今日は記念日だから、ずーっと一緒だよ!」
「ううん。記念日じゃなくても、私たちはずっと一緒だよ」
「うん!そうだね」
私となのはは、手を繋いで公園を去って行く。でも、来年も再来年もそれから先も・・・。
きっと、ここで誓い続けるだろう。友達であることを…
これからも私たちは名前を呼び合っていく
いつまでも、友だちであるために
Comment
なんと微笑ましい。
リボンの下りが変態っぽく見えるのは、多分気のせい。
リボンの下りが変態っぽく見えるのは、多分気のせい。
Posted by: tukai |at: 2007/06/29 2:09 AM
イイですね〜
ほのぼのですね〜
こういうのは好きです。
ほのぼのですね〜
こういうのは好きです。
Posted by: ほわとと |at: 2007/06/29 7:34 AM
StSの2人もいいけど、この頃の2人は和みます。
読んでると落ち着きます。
読んでると落ち着きます。
Posted by: ユリかもめ |at: 2007/06/29 3:19 PM
tukai様
とらえ方は千差万別。きっと気のせいじゃないはずですよ(笑)
ほわとと様
ありがとうございます。
甘々でちょっと刺激的な要素が少なかったですが、そう言ってもらえると嬉しいです。
ユリかもめ様
幼い頃の二人、かわいいですよね。和みますよね。
>読んでると落ち着きます。
ありがとうございます。
浅木原様
日々お忙しいかと思われます。
そんな中、私のような者の小説を浅木原様のサイトに載せていただいたこと、本当に感謝しています。
今まで自己満足だったものが、こうやって多数の方の目に触れられ、さらに感想までいただいて・・・、書くことの楽しさと喜びを感じました。
今度は、浅木原様や他の皆様のような甘々な作品を書いてみよう、なんて思ってます。
また御厄介になるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします。
とらえ方は千差万別。きっと気のせいじゃないはずですよ(笑)
ほわとと様
ありがとうございます。
甘々でちょっと刺激的な要素が少なかったですが、そう言ってもらえると嬉しいです。
ユリかもめ様
幼い頃の二人、かわいいですよね。和みますよね。
>読んでると落ち着きます。
ありがとうございます。
浅木原様
日々お忙しいかと思われます。
そんな中、私のような者の小説を浅木原様のサイトに載せていただいたこと、本当に感謝しています。
今まで自己満足だったものが、こうやって多数の方の目に触れられ、さらに感想までいただいて・・・、書くことの楽しさと喜びを感じました。
今度は、浅木原様や他の皆様のような甘々な作品を書いてみよう、なんて思ってます。
また御厄介になるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします。
Posted by: tukasa |at: 2007/06/29 10:25 PM
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