おとぎ話は目覚めた後で
2007.04.05 Thursday | category:投稿&頂き物SS
「ねぇ、すずか……すずか?」
午後の穏やかな日が差し込む部屋。
お茶の時間を終え、なんとなく二人で読書をしていたら、不意にすずかのめくるページの音が途切れた。
視線を上げ呼んでみると、すずかはうとうとと、転寝に入っている。
「もう、しょうがないわねぇ」
椅子から落ちたりしたらことなので、私は起こそうと席を立つ。
「すずか、そんなところで寝たら危ないわよ」
「ん……」
軽く眉を寄せ小さく声を上げる様子に、私は一瞬どきりとする。
大好きな人の、無防備な姿。
それは、私の心をいとも簡単にさらっていってしまう。
「すずか……」
そっと前髪をなで上げ、そのきれいな横顔に見とれる。
……キス、しちゃおうか?
一瞬横切った考えをあわてて振り払う。
寝こみを襲うなんて、何考えてるのかしら、私。
よこしまな考えを振り払おうと、すずかの傍らにある読みかけの本に目を落とす。
古い、異国の童話の短編集。
開かれたページにあるのは、どこにでもある、けれどすずかがお気に入りな素敵な王子様とお姫様の話。
そんな退屈な話の感想を、すずかとはやてが目を輝かせながら語り合っていたのを思い出す。
「王子様、ね……」
私は短くため息をつくと、静かに本を閉じる。
確かにすずかのような可愛い子には、お姫様がお似合いかもしれない。……じゃあ、私は?
いまいち素直になれずに、いつもすずかにフォローされてばかり。
……はぁ、こんなかっこ悪い王子様なんて、見たことないわね。
けれど、すずかは迷わず私の手をとってくれる。一番の笑顔を私にくれる。
――ほかの誰でもない、私だけに。
それなら、私も二人きりのときくらい、素敵な王子様を目指してみよう。
そーっと、起こさないように、すずかのからだの下へ腕を差し入れる。
ゆっくりと持ち上げるその体は、想像よりもずっと軽くて。
起こさないよう静かに、ベッドへと歩を進める。
腕の中で眠るすずかは本当にお姫様みたいで、私の鼓動はこれ以上ないくらい早いリズムを刻む。
すぐにベッドの傍らへとたどり着いたけれど、この手から離してしまうのがもったいなくて、そのままそこに立ち尽くす。
ただ、その状態が長く続くはずも無く、腕にだるさを覚え抱きなおした瞬間、すずかがうっすらと目を開けた。
「あれ……アリサちゃん?」
不思議そうに見上げるすずかに、なんだかその場ですぐ下ろすわけにも行かず、私は不器用に視線をそらす。
私のその様子に、すずかは自分の状況を確かめると、一気に赤くなる。
「あの、あのっ、アリサちゃん、ごめんねっ」
「別に謝ることないでしょ。私が勝手にやったんだから」
「でもっ」
「こらっ、暴れないのっ。落ちたら大変でしょ」
降りようと体をよじるすずかに、私は腕のだるさも忘れてしっかり抱きなおす。
「お姫様はこれくらいされて当然なんだから、遠慮しないでもうしばらくじっとしてなさい」
「はい……」
真っ赤な顔で、でも嬉しそうに頷くすずか。そして、そっと私の首にその腕が絡められる。
私はうまく目をあわせられないで、微妙に視線をずらす。
「アリサちゃん」
「なに?」
「私、すごい嬉しいよ」
「……そう」
素直に喜ぶすずかにうまく返事が出来ず、ぶっきらぼうになってしまう。
ああもう、これじゃ王子様には程遠いわね。
たいした時間ではなかったけれど、それでも腕の限界まで頑張ったあと、ゆっくりすずかをベッドに下ろす。
けれど、すずかは首に絡めた腕を解いてくれない。
「……すずか、どうしたの?」
近づいたままの顔に自分の顔が赤くなっていくのを感じながらも、平静を装ってたずねる。
「アリサちゃん……お姫様の目覚めに、必要なものって知ってる?」
いたずらっぽく笑うすずか。けれどその腕は決して解かれない。
なぞかけの答えはもちろんわかっている。そして、その回答が言葉でないことも。
私は軽く苦笑いした後、ゆっくりと、出来る限りやさしく、すずかの唇に自分のそれを重ねた。
「……うん、正解」
「なら、そろそろ離したら」
正解したはずなのに、いまだ捕らわれたままの私。
「やだ」
珍しく強情なすずか。けれど、このままだと正直、私の理性が……
「やだじゃないのっ」
少し強く言ってみるけれど、すずかは真っ直ぐ私を見つめたまま、その手を離さない。
「……襲うわよ?」
まったくもって王子様らしくない台詞。
「うん。アリサちゃんになら、襲われたい」
これまた、お姫様らしくない言葉。
「どこのお姫様が『襲って』なんていうのよ?」
「アリサちゃんのお姫様」
真顔で言われたその台詞に、私は思わす噴出す。
「そうね、すずかは私のお姫様だったわね」
そっとすずかの頬をなで上げる。
目を細めるその表情だけで、私は愛しさで胸がいっぱいになる。
「……だったら、お姫様の願いはかなえないとね」
その先の言葉は、私が許さなかった。
私の唇で、きつく塞いでしまったから。
童話の素敵な王子様には到底なれないけれど。
でも、すずかは格好のつかないこの私を望んでくれるから。
だから、私は私なりの物語を紡いであげる。
でも……私の物語は、キスの目覚めなんかじゃ終わらないわよ?
――そこから先こそ、誰にも読めない、二人だけの素敵なお話なんだから。
――終。
Comment
王子様とお姫様・・・素敵です。
お姫様の願いをかなえてくれるやさしいアリサ王子、王子様の前では少し駄々っ子になってしまうすずか姫。この2人の物語なら何度でも読みたくなります。なんだか引き込まれそうです。
お姫様の願いをかなえてくれるやさしいアリサ王子、王子様の前では少し駄々っ子になってしまうすずか姫。この2人の物語なら何度でも読みたくなります。なんだか引き込まれそうです。
Posted by: 鴇 |at: 2007/04/05 11:52 PM
某ノートみたいな大量殺人兵器と思うのは私だけですか?w
Posted by: PETER |at: 2007/04/05 11:58 PM
あ、公開されてるっw
アリサ×すずかは、これはこれでなのフェイとはまた違った甘さを出せるので書いてて楽しかったです。
しかし、危険物とか兵器とか、すごい扱いだなぁw
アリサ×すずかは、これはこれでなのフェイとはまた違った甘さを出せるので書いてて楽しかったです。
しかし、危険物とか兵器とか、すごい扱いだなぁw
Posted by: ぴーちゃん |at: 2007/04/06 9:18 AM
BURNING後の関係にも見えますねw
ホントに素敵なお話ですw
ホントに素敵なお話ですw
Posted by: mattio |at: 2007/04/06 12:57 PM
元あるみにうむです。
何このアリすず!?ごっつ上手くてええ話やないですか。
なんてエセ関西弁が飛び出るほどの破壊力を秘めていましたね。
設置していただいてありがとうございます。いいもの読まさせて頂きました^^
何このアリすず!?ごっつ上手くてええ話やないですか。
なんてエセ関西弁が飛び出るほどの破壊力を秘めていましたね。
設置していただいてありがとうございます。いいもの読まさせて頂きました^^
Posted by: 落葉 |at: 2007/04/06 2:16 PM
=□○_
あまりの凄まじさに悶え死にそうになりました。
つか、悶死寸前ですよ…
あー…特級の危険物です。
またアリすずにはまって行く自分が…
あまりの凄まじさに悶え死にそうになりました。
つか、悶死寸前ですよ…
あー…特級の危険物です。
またアリすずにはまって行く自分が…
Posted by: LNF |at: 2007/04/07 12:52 AM
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