四つ葉のクローバーを、君に。
2007.03.30 Friday | category:投稿&頂き物SS
「んーっ、いい天気だねーっ」
「そうだね、なのは」
今日はわたしもフェイトちゃんも久々に休日が重なったので、アリサちゃんとすずかちゃんと一緒にピクニックへと来ていた。
朝早く起きて作ったお弁当を持って、海鳴公園へ。
とてもいい天気で、隣にはフェイトちゃんがいて。たったそれだけのことだけれど、わたしにとってはそれで十分過ぎるほど幸せだった。
「そうだフェイトちゃん、その、お弁当…」
「あ、うん。ちゃんと作ってきたよ。なのはのお弁当」
「えへへっ、ありがと、フェイトちゃん!」
わたしとフェイトちゃんは、実はある約束をしていた。
それは、お互いのお弁当をそれぞれ作ってくること。これのためにわたしは今日いつもよりもちょっと早起きして、一生懸命お弁当をつくった。
そのせいでちょっと眠いけれど、フェイトちゃんが喜んでくれる姿を考えるだけで嬉しくて。
「わたしも作ってきたからね。フェイトちゃんの!」
「…うん。ありがとう、なのは」
こうして実際に嬉しそうに微笑んでくれるだけで、頑張ってよかったなぁと思える。
それと同時に、わたしの中でのフェイトちゃんの存在の大きさを改めて認識した。
(あぁ、やっぱりわたし、フェイトちゃんのこと)
「はいはい、すとーっぷ!」
「ひゃっ!?」
「にゃっ!?」
そこへ聞こえてきたのは、アリサちゃんのちょっと怒ったような声。
慌てて声のした方へと目を向けると、そこには案の定目を吊り上げているアリサちゃんと、その隣にいるすずかちゃんがいた。
「まーったくもう、何二人の世界作ってるのよ」
「なのはちゃん、フェイトちゃんも。お昼ご飯の時間までまだ時間あるし、ちょっと遊んできたらどうかな?」
一人憤慨しているアリサちゃんの背を優しく撫でて宥めながら、すずかちゃんが提案してきてくれた。
とりあえず、ここはその提案にのらせてもらうとしよう。わたしも久々の休みだから、フェイトちゃんとゆっくりしたいとも思っていた。
それに、きっとすずかちゃんにも、わたしと同じ思いがあるのだと分かったから。
「ありがとう、すずかちゃん。…行こ、フェイトちゃん! それじゃ二人とも、ごゆっくりー!」
「なっ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! ごゆっくりって…!」
「…アリサちゃん、いや?」
「え、や、そ、そんなわけじゃなくって…!」
フェイトちゃんの手を引っ張って駆けていると、後ろから聞こえてくるのはそんなやり取り。
アリサちゃんも、素直になれればいいのにね。
そう思って隣のフェイトちゃんと苦笑い。
二人とも、お互いのことを想っているのは目に見えているのだから、大丈夫だと思えるのだけど。
でも、わたしもアリサちゃんのことなんて言えないかもしれない。
女の子同士なんて、おかしいから。
素直にこの想いを伝えるなんて出来ない。
怖いから。
もしも拒絶されたらって想像するだけで―ほら、こんなにも胸が痛い。
…だからわたしは想いを伝えることを先延ばしにし続けている。
たった一歩を、踏み出すことに戸惑って。
そうしてわたしとフェイトちゃんは近くの野原へと来た。
側にお弁当などが入っている荷物を置いて、二人して腰を下ろす。
どちらかが話すわけでもなく、流れるのは沈黙の時間。でも、決して気まずい雰囲気などではなかった。
「あ…これ」
「どうしたの、なのは?」
思わず声をあげてしまったけれど、ふと目に入ったのはシロツメクサ―いわゆるクローバーだった。
青々しくここら一帯に茂っているそれに触れて、フェイトちゃんに説明する。
「あのね、これはクローバーっていう植物なんだよ。最近見かけなかったから、ちょっとね」
「へえ…クローバーっていうんだ、この子」
わたしの言葉に、フェイトちゃんもクローバーに触れる。この子という言い方がフェイトちゃんらしくて、少し嬉しくなった。
そして、ふとクローバーに纏わる言い伝えを思い出す。
幸せにしてくれるという、四つ葉のクローバー。
今見えるのは三つ葉のそればかりだけれど、小さい頃はよく四つ葉を探したことを思い出して、知らず知らずのうちに微笑んでいた。
そういえば、探し出したそれをお母さんにあげたりしたなぁ。
お母さんに『幸せ』をあげたくて。自分の大切な人に、幸せになって欲しくて。
―今、わたしの大切で、特別なひとは。
傍らのフェイトちゃんに視線を移す。するとフェイトちゃんもこちらを見ていたらしく、目が合った。
なんとなく今考えていることを悟られてしまいそうで、恥ずかしくて慌てて目を逸らす。
そのまま逸らした視線で、四つ葉を探し始める。
喜んで欲しいと、『幸せ』をあげたいと思ったから。他の誰でもないフェイトちゃんに。
何にも出来ないけれど、日常の中のちょっとした『幸せ』くらいは、わたしが彼女にあげたかった。
「…? なのは、これ」
「どうしたの、フェイトちゃん」
突然フェイトちゃんがわたしの側の地面へと手を伸ばす。
その時、いつもよりも近い距離に少しだけどきりとしたのは秘密だ。
「ほら、他のは三つ葉なのに、これだけ四つ葉だ」
小さくごめんね、と言って手折られたそのクローバーは、確かに四枚の葉を持っていた。
「…すごいよ、フェイトちゃん!」
「え?」
先程までこっそりわたしが探していたはずのそれは、いとも簡単に目の前の少女に見つけられてしまったことになるのだけど、悔しいとは思わなかった。
ただ、わたしがフェイトちゃんにあげたかった『幸せ』を彼女が自分で手に入れてしまったことに、少しだけ切なさを覚えたりはしたけれど。
「四つ葉は珍しいんだよ。だからね…四つ葉のクローバーは、幸せにしてくれるっていう言い伝えがあるの。花言葉も『幸福』なんだって」
「…そう、なんだ」
けれど、フェイトちゃんは特にたいした感銘を受けたわけではないようだった。
それどころか、その手に持ったクローバーをこちらに差し出してくる。
「これは、なのはにあげるよ」
「えっ!?」
突然のフェイトちゃんの言葉に驚いた。
だってそれは、まさしくわたしがフェイトちゃんにしてあげたかったこと、そのものだったから。
「い、いいよ! だってそれはフェイトちゃんが見つけたんだし」
「ううん、他でもない、なのはにもらって欲しいんだ」
慌ててその申し出を断ろうとしたわたしは、その言葉に止まる。
それだけではない。そこには優しい目でこちらを見てくる、フェイトちゃんがいて。
「なのはに、幸せになって欲しいから」
(…反則だよ、それは)
顔が赤くなっているのが、自分でも分かる。
おまけにさっきから心臓がうるさい。
そんなわたしに気がついているのかいないのか、フェイトちゃんはわたしの手に、そのクローバーをそっと握らせる。
「そうだ。この間テレビで見たんだけど、この子には他にも花言葉があるらしいよ」
「え? そ、それってなに?」
丁度良い話題転換になると思ったわたしは、その言葉に即座に反応した。
けれど、次の瞬間にはわたしは、フェイトちゃんの腕の中にいて。
「―え?」
「『私を、思って』」
耳元で囁かれたその言葉に、くらりとする。
いつもと同じ静かな声。だけど、どこか違う。
咄嗟にどうしたらいいのか分からなかった。でも、何か言わなければならないような気がして。
自分でも何を言おうとしているのか分からないままに、言葉を紡ごうとした、そのとき。
「なのはー? フェイトー?」
「そろそろお昼ご飯にしないーっ?」
聞こえてきたのは、アリサちゃんとすずかちゃんの声。
そう理解したときには、フェイトちゃんはすでにわたしから離れて、側に置いていたわたしとフェイトちゃんの荷物を拾い上げているところだった。
その振る舞いは、あまりにも自然で。
―まるで、さっき何も起こっていなかったのように。
「……ほら、行こう、なのは」
そう言って、フェイトちゃんは声のした方へと向かって行ってしまった。
そしてわたし一人が、その場に残される。
―さっきのは、本当にあったことなのだろうか?
でも、身体が覚えているフェイトちゃんの温もりと、手の中のクローバーがそれは真実であることを物語っている。
けれど、でも。…あの言葉は。
「…わたしを、思って」
その言葉を、口に出してみる。
言葉というよりは願いに似たその響きは、誰にも聞かれること無く、晴れた空に溶けていって。
ねぇ、それはただの、花言葉だったの?
―それとも。
その疑問には、誰も答えてなどくれなかった。
青い空も、緑の野も、誰かを幸せにするはずの、四つ葉のクローバーも。
まるで夢の中にいるようなそんな不確かな感覚に浸り、アリサちゃんに再び呼ばれるまで、わたしはそこに一人佇んでいた。
そのとき唯一明確に分かったのは、高鳴り続ける自分の鼓動。それだけだった。
Comment
隅田さんの作品はサイトやしんしぃさんのサイトで読まさせていただきました。またこうして隅田さんの作品が読めて感激です。
『幸福』本当にこの2人には幸せになってもらいたいです。フェイトの言葉、この疑問の答えはなのはが持っているのでしょう、後は気付くだけ。その答えに間違いはないから
なのフェイSSごちそうさまでした。
『幸福』本当にこの2人には幸せになってもらいたいです。フェイトの言葉、この疑問の答えはなのはが持っているのでしょう、後は気付くだけ。その答えに間違いはないから
なのフェイSSごちそうさまでした。
Posted by: 鴇 |at: 2007/03/30 3:08 PM
フェイトちゃん,天然やなー。さてさて,すみっこのほうでWeb漫画もよませてもらいましたけど,こんなかんじで静かに想う乙女なのはさんもいいですよね。隅田さんありがとうございました。
Posted by: mayu |at: 2007/03/30 3:27 PM
こういう雰囲気、いいですね。
暖かい雰囲気の中にある、ちょっとした緊張感。
片思いの雰囲気ってなんだかいいですよね。
こういう甘酸っぱいSS、大好きです。
素敵な作品、ご馳走様です。
暖かい雰囲気の中にある、ちょっとした緊張感。
片思いの雰囲気ってなんだかいいですよね。
こういう甘酸っぱいSS、大好きです。
素敵な作品、ご馳走様です。
Posted by: ぴーちゃん |at: 2007/03/30 4:30 PM
うわうわうわわ〜〜っ!
ゾクゾク来たゾクゾク来たゾクゾク来たぁ〜〜っ!
凄いよこれ、もう悶えることすら出来なかった…
ああ…自分じゃ絶対出来ないSSだ…
ゴチソウサマデシタ。もう素晴らしすぎて泣けてきそうです
ゾクゾク来たゾクゾク来たゾクゾク来たぁ〜〜っ!
凄いよこれ、もう悶えることすら出来なかった…
ああ…自分じゃ絶対出来ないSSだ…
ゴチソウサマデシタ。もう素晴らしすぎて泣けてきそうです
Posted by: LNF |at: 2007/03/30 9:51 PM
皆さんご感想、ありがとうございます m(_ _)m
<鴇さん
そんな前から読んで頂いていたのですね…。ありがとうございます!
一人が一歩を踏み出せなくても、二人共が半歩でも踏み出せたなら、それはお互いにとっての一歩になるはず。
二人とも優しくて真っ直ぐですし、二人の周りには、立ち止まってしまったときに背中を押してくれる人たちがたくさんいますから。絶対に幸せになれると思います。
<mayuさん
フェイトさん、もしかしたら天然じゃなくて狙ってやってるのかもしれません(笑)…と、そんな恋の駆け引きも面白いと思います。
実際どっちなのかは読んでくださる方々の判断で。
ちなみに私、恥ずかしがっている女の子が大好物です(ぇ)そのせいでサイトの方のなのはさんは乙女なんですよ。つまるところ私の好みw
<ぴーちゃんさん
甘々な雰囲気も大好きですが、こんな切ない片想いっぽい雰囲気も大好きです。まぁこのSSではお互い無自覚な両想いっぽいんですけれど(笑)
恋をして経験するのは、甘くて嬉しいことばかりじゃなくて。こういった切なさや悲しみ、辛いこともあって。でも、それはとても愛しいものでもあると思います。
それが書けていれば幸いです。
<LNFさん
そこまで言ってもらえるとSS書きとして冥利に尽きます…!(照)
この『四つ葉のクローバーを、君に。』は結構な難産でしたが、その分お気に入りなので、そう感じてくださって嬉しいです。
元々四つ葉のクローバーは私が一番好きな花(草)なんですよ。
花言葉が『幸福』。大切な人のそれを願っていても、それは同時に『私を思って』という見返りも求めてるんです。
大切な人への思いが友情であれ愛情であれ―恋情であれ、自分が相手を思う分、相手にも自分を思って欲しい。そんなところがとても『人』らしくて大好きなんです。
と、まぁ思い入れがあるSSなので。話が逸れましたが(汗)ご感想、ありがとうございました。
<鴇さん
そんな前から読んで頂いていたのですね…。ありがとうございます!
一人が一歩を踏み出せなくても、二人共が半歩でも踏み出せたなら、それはお互いにとっての一歩になるはず。
二人とも優しくて真っ直ぐですし、二人の周りには、立ち止まってしまったときに背中を押してくれる人たちがたくさんいますから。絶対に幸せになれると思います。
<mayuさん
フェイトさん、もしかしたら天然じゃなくて狙ってやってるのかもしれません(笑)…と、そんな恋の駆け引きも面白いと思います。
実際どっちなのかは読んでくださる方々の判断で。
ちなみに私、恥ずかしがっている女の子が大好物です(ぇ)そのせいでサイトの方のなのはさんは乙女なんですよ。つまるところ私の好みw
<ぴーちゃんさん
甘々な雰囲気も大好きですが、こんな切ない片想いっぽい雰囲気も大好きです。まぁこのSSではお互い無自覚な両想いっぽいんですけれど(笑)
恋をして経験するのは、甘くて嬉しいことばかりじゃなくて。こういった切なさや悲しみ、辛いこともあって。でも、それはとても愛しいものでもあると思います。
それが書けていれば幸いです。
<LNFさん
そこまで言ってもらえるとSS書きとして冥利に尽きます…!(照)
この『四つ葉のクローバーを、君に。』は結構な難産でしたが、その分お気に入りなので、そう感じてくださって嬉しいです。
元々四つ葉のクローバーは私が一番好きな花(草)なんですよ。
花言葉が『幸福』。大切な人のそれを願っていても、それは同時に『私を思って』という見返りも求めてるんです。
大切な人への思いが友情であれ愛情であれ―恋情であれ、自分が相手を思う分、相手にも自分を思って欲しい。そんなところがとても『人』らしくて大好きなんです。
と、まぁ思い入れがあるSSなので。話が逸れましたが(汗)ご感想、ありがとうございました。
Posted by: 隅田 |at: 2007/03/30 11:16 PM
いやぁ〜なのフェイって本当にいいですよね〜
隅田さんの作品もまた独特な良さが良いですね〜はまってしまいました≧≦
隅田さんのなのはもっと読みたいです
き、期待しています///
隅田さんの作品もまた独特な良さが良いですね〜はまってしまいました≧≦
隅田さんのなのはもっと読みたいです
き、期待しています///
Posted by: とぅうふ |at: 2007/03/30 11:54 PM
<とぅうふさん
そうですよね、なのフェイいいですよね!!
独特…といいますか、甘々ななのフェイは他の皆さんが書いて下さっているので、ちょっと毛色の異なるSSを書いてみたいなぁと思って今回のSSが出来ました(笑)
そのように言って下さると嬉しいですね。これからも頑張ってなのフェイで書いていきたいと思います。
ご感想ありがとうございました!
そうですよね、なのフェイいいですよね!!
独特…といいますか、甘々ななのフェイは他の皆さんが書いて下さっているので、ちょっと毛色の異なるSSを書いてみたいなぁと思って今回のSSが出来ました(笑)
そのように言って下さると嬉しいですね。これからも頑張ってなのフェイで書いていきたいと思います。
ご感想ありがとうございました!
Posted by: 隅田 |at: 2007/04/01 12:38 AM
SS楽しませて頂きました。隅田さんの書くなのフェイは暖かくて、なのはもフェイトも相手の事が好き!って感じがよく表現されていて、読んでいてうにうにと転がります(^^)
執筆活動がんばってください。今後の他作品期待しております。
執筆活動がんばってください。今後の他作品期待しております。
Posted by: knf |at: 2007/04/25 9:13 AM
<knfさん
初めましてー。ご感想ありがとうございますっ!
なのフェイは私に二次創作意欲を再燃させた素敵カップルですので、全力全開で二人の好き!という気持ちを表現しようと努めておりますー。なのでうにうに転がって頂けると嬉しいです(笑)
これからもなのフェイで書いていきたいと思っておりますので、生暖かく見守ってやって下さいませw
初めましてー。ご感想ありがとうございますっ!
なのフェイは私に二次創作意欲を再燃させた素敵カップルですので、全力全開で二人の好き!という気持ちを表現しようと努めておりますー。なのでうにうに転がって頂けると嬉しいです(笑)
これからもなのフェイで書いていきたいと思っておりますので、生暖かく見守ってやって下さいませw
Posted by: 隅田 |at: 2007/04/30 2:09 PM
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