ハラオウン家家族会議
2007.03.04 Sunday | category:投稿&頂き物SS
ユーノへ
−−逢いたい
キミの声無しの僕の生活など耐えられない
クロノより
平穏な夜。
「母さん、エイミィ、アルフ。話があるんだが」
週末を明日に控えた金曜の夜。クロノの声によって、それは終りを迎えた。
「なんだよ、豆坊主?」
フローリングにぐでーっと伸びていた子犬は、至福の時間を邪魔されたと、実に嫌そうに
「どうかしたの? クロノ君」
リンディに夕食に誘われ、食後のドラマに夢中だったエイミィはチラッと視線をよこし
「フェイトさんはいいのかしら?」
同じようにドラマを見ていたリンディは、隣に視線を移し呼ばれなかった娘のことを口にした。
「フェイトは」
ちらっとリンディの隣を見
「別に」
気まずそうに答える。
「なんだいなんだいなんだい! フェイトが居ちゃいけないってのかぃ?!」
フェイトを除け者にされると感じてアルフが唸り声を上げる。
「そーだよ、クロノ君。フェイトちゃんを呼ばないで私を呼ぶなんて、筋が違うっしょ?」
エイミィも同調する。
「居て困るのはキミ達だと思うんだが。じゃぁ、フェイトも聞くかい?」
クロノの不可解な発言に、なにそれ? とエイミィが零すのを聞きながら
「母さんや、エイミィ、アルフが良いなら、聞きたいです」
と控えめな答え。
「じゃぁ、ハラオウン家家族会議。と、いうことでテーブルに行きましょ?」
実は形から入りたがる傾向のあるハラオウン家の家長。
「…………ぃぁ、家族会議ってさらに場違いだと、エイミィさんは思わないといけないと思ったりするんですけど」
「いいじゃん別に」
そのタイトルに尻込みするフェイトの姉の足をポン、とアルフが叩きテーブルへと促す。
ちょっと待っててください、と一旦クロノが自室に戻る。
テーブルに椅子は全部で5脚。3脚ある側の中央に家長、その両脇を姉と使い魔が。そしてその向かいにフェイトが座った。
クロノが部屋から紙袋を持ってキッチンへと戻り、フィエトの隣に座ると
「で、話って何かしら、クロノ」
内心、息子からの滅多にない相談と喜んでいるリンディが話を促した。
「母さん、エイミィ、アルフ。この本に見覚えは?」
劇的。
緑色の所々に金の縁取りがされた本が紙袋から出されテーブルに置かれると、リンディは固まり、エイミィは身を乗り出し、アルフは明後日の方を見た。あまりの反応にフェイトが首を傾げる。
「母さん? エイミィもアルフもどうかしたの?」
それに答えたのはクロノ。
「やっぱり直接の関係は無かったか」
よかった、とポツリと漏らす。
−−えーっと、確かアレはシャマルさんが木を隠すには森の中って言って、書庫にしまったハズじゃぁ……。だとしたらなんでクロノがアレを? というかここはしらを切るしか
「クロノ、それは?」
しっかり固まっていたのに、今更な質問。
「僕とユーノの名誉を著しく傷つける本です。内容については」
そこで区切る
「母さんの方がよくご存知ですよね?」
有無を言わせぬ口調。そして背表紙を掴んだままの右手から、ミシリと音がした。それを聞きながら、クロノ君てば仕事のときの眼つきだ、と場違いなことをエイミィは感じた。併せて、自分達が容疑者として扱われているということも。
「エイミィさんが持っていた本だったかしら?」
あぁ、艦長ズルイ! と思わずエイミィが声を上げる。それに合わせてアルフが、もう諦めようよ、と呟きながらテーブルに突っ伏した。
それを見ての、クロノの最後通牒。
「背後関係については、現在はやてがシャマルを取り調べ中だから明日には分かりますよ」
無論ブラフだ。そんなものは後で遣れば辻褄は合う、とクロノは割り切っていた。この件については、悪魔にでもなってやる、と悲壮な覚悟を決めているのだ。幾らでもウソはつけた。
「そう」
その発言にリンディの顔が能面のように固まった。
「そう」
もう一度繰り返すと、テーブルの下で組んでいた両手を、改めてテーブルの上で組みなおし、俯いた。
事情が唯一分かっていないフェイトが、三人の様子があまりに変なのに耐えられず
「ねぇ、クロノ。その本何が書いてあるの?」
と事情を話してくれるようせがむ。
「それは……」
できれば聞かないで欲しいんだが、と言葉を濁すクロノ。突っ伏したアルフが答えを口にする。
「豆坊主とユーノの愛について」
あははははー、とエイミィは笑って誤魔化そうとし、アルフの完全自供に、リンディはがっくりと肩を落とした。
−−ほら、フェイト。フェイトも読んだんじゃない? クロノがユーノに書いたラブレター。アレってこの本の1頁なんだよ。
−−そうそう。その後から始まる一途にユーノ君を思うクロノ君の告白、そこから始まるめくるめく愛の物語。それが
アルフが話し出したのにつられてエイミィも嬉々として語りだすが
−−その本なんだ
クロノのあまりの形相に声が小さくなる。
「えーっと、じゃぁ」
暫く頭の中を整理していたフェイトが、意を決して兄に確認を取る。
「クロノはユーノの事が好きじゃないの?」
「フェイトの言っている好きが男女関係的な好きだとするなら、それは違う」
百歩譲ってもあのイタチモドキとは友人止まりでそれ以上は無い、と畳み掛ける。
「じゃぁ、この間私がみたのは……」
フェイトがアルフに確認するように視線を送る。
「ごめんね、フェイト」
「アレを見たフェイトちゃんがどんな反応をするか、ってついつい悪戯心が起きちゃいまして」
直にネタをばらすハズだったんだけどあんまりにも初々しい反応だったもんだからついつい言いそびれちゃって、と言い訳になってない言い訳をするエイミィ。
「そうなんだ」
−−そっか、好かった。ユーノとはなんでもないんだ。………………アレ? なんで私、好かったって思ったのかな?
フェイトの胸のうちを知る由も無いクロノは、ここ最近そのせいで避けてたろう? と問う。こくりと頷くフェイトに、結構寂しかったんだからな、と笑いかけた。
「ごめんなさい」
自分の誤解のせいでクロノが寂しい思いをした、と聞いてフェイトは本当にすまなそうに謝る。
「気にしなくていい。悪いのはそこの三人なんだから」
途中から、フェイトへの口調の柔らかさとは打って変わって、実に刺々しくなった。
その後、その棘で目を覚ましたのかリンディの無駄な抵抗が再度始まるものの、結局クロノの小言が小一時間ほど続き、家族会議はリンディの全面降伏で幕を閉じた。
母親らしいことが「もうしません」と謝ることだったかしら、とリンディは涙したが、それを知るのは売られかけた部下と子犬一匹だけだった。
後にリンディは同僚のレティにこう問うた。
−−フェイトとなのはさんなら良かったのかしら?
それを聞いて、世間で言われるハラオウン執務官朴念仁疑惑は血筋が原因だ、とレティが思ったのは別のお話。
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