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届け、あなたがくれた空に。
 クリスマスSS2発目。八神家です。こっちはシリアス。何しろ八神家にとってクリスマスはかなり特別な日ですからね。……そして似たような話をきっと誰かが書いている。ほぼ間違いなく(ぇー)。まあ気にせずいきます。
 ちゃんと12/25の午前6時に更新されているとイイナ!






 ――12月25日 AM6:00 海鳴市郊外



 静かに、粉雪が舞い降りていた。
 ゆっくりと雪を踏みしめる音が、静まりかえったその場所に響く。
 ざく、ざく、ざく。重なり合って響く足音は、全部で5つ。
 そのペースは、歩く道が雪の積もった上り坂であることを差し引いても、ひどく遅い。
 ゆっくりと、ゆっくりと。
 一歩一歩、冷たい雪を踏みしめて――その少女は、坂道を上っていく。
「あっ――」
 不意に、少女の足がもつれた。雪の上に倒れ込みそうになった少女を、咄嗟に傍らの人影が支える。
「大丈夫ですか、主はやて」
「……ん、平気や。ありがとな、シグナム」
 シグナムの手に支えられ、少女――八神はやては、もう一度、足元の感触を確かめるように、その場に立つ。
「はやて……」
「はやてちゃん、やっぱり私が――」
 傍らからかけられるのは、ヴィータとシャマルの心配げな声。ザフィーラはただ、傍らで沈黙。
「だから、それじゃあかんって」
 シャマルの言葉に首を振って、はやては自分の太股を叩く。
 その足は、微かに震えている。震えの理由は、決して寒さではなかった。
「あそこへは――あたしが、自分の足で、行かなあかん」
 白い吐息とともに吐き出されるのは、まっすぐな決意を秘めた言葉。
 その視線が見据える場所は……ただ、一点。

 それは、1年前の今日。
 あの、悲しく儚い聖夜を経て。
 ――彼女が、消えた場所。

「ちゃんとな――あの子に、見せてあげな」
 震える足をゆっくりと持ち上げて――また、一歩。
 はやては再び歩き出す。
 自らの足で、一歩。……一歩。
 それは、本当にゆっくりとした歩みだ。
 けれど――確かに、その場所へは近づいている。
「1年も経って……まだみんなに甘えとったら、あの子が心配してまうから」
 一歩。また一歩。純白の結晶に足跡を残して、はやては行く。
 ――完治はした。けれどそれは、リハビリの終了を意味するわけではない。
 走り回ったり、長い坂道を上ったりするには、彼女の足は麻痺の期間が長すぎた。
 失っていた感覚を、少しずつ取り戻していく途中。
 だから、本当はこんな、長い雪道を歩くなんて無茶なのだ。
 ――だけど。
 この日だけは。
「だから……ちゃんと、自分の足で、あそこに行くんや」
 あの日、あの場所で、たくさんの涙を流した。
 だけど彼女は――笑って旅立ったのだ。
 自分たちが、幸せであれるように。
 ただ、そのために。
「それで……あの子に、大丈夫やって。あたしは大丈夫やって。心配せんでも、大丈夫やって――」
 ずるりと、足元の雪が滑る。
 崩れるバランス。伸ばされる手は間に合わない。
 粉雪を巻き上げて、はやての身体は雪の中に倒れ込む。
「はやて!」「はやてちゃん!」「主はやて!」
 駆け寄る守護騎士たち。差し出される手。――だけど、はやては、首を振る。
 冷たい雪にその手をついて。震える足を必死に持ち上げて。
 ――自分の力で、立ち上がろうとする。
「あは……失敗や」
 笑ってみせるけれど、覗きこんでくる家族の顔はどうしようもなく心配げで。
 ――本当は、どうしようもなく苦しくて。
 車椅子に乗っていた頃は、動かせないのが当たり前だったから、感じたこともなかった。
 少しずつ歩けるようになって――初めて解った。
 思い描く通りに、自分の身体が動かない苦しさが。もどかしさが。
「大丈夫……大丈夫」
 自らに言い聞かせるように、はやては呟く。
 ――ああ、どうしてこんな辛いことを自分はしているんだろう?
 ふっと思考の片隅をよぎる、そんな思い。
 ――楽をしてもいいじゃないか。
 ――たくさんの辛い思いをしてきたのだから。
 ――少しぐらい甘えたって、誰もそれを責めたりしない。
 それは、甘言。ひどく甘い囁き。
 求めれば、傍らの守護騎士たちは応えてくれるだろう。
 自分の身体を支え、抱きかかえ、その場所まで連れて行ってくれるだろう。

 ――けど、それじゃあかんねん。

 膝を曲げる。足の裏を、地面につける。ぐっと力を込める。――滑る。
 再び崩れるバランス。だけど、両手で踏ん張って。歯を食いしばって、――もう一度。
 足を、しっかりと地面につけて。
 ぐっと、大地を踏みしめて。
 この足で。
 ――あの子がくれた、この足で。
「ほら……大丈夫」
 立ち上がる。
 がくがくと震える足だけど。
 思い通りに動かない足だけど。
 ――立ち上がることが、できる。
 歩くことが、できる。
 だからこそ。
 ――だからこそ。
「行こ、みんな。……もうちょっとや」
 そして、また一歩。
 ただ、はやては前だけを見つめて。
 あの場所だけを――見つめて。
 一歩。……また一歩。
 ゆっくりと……ゆっくりと。
 ただ――坂道を上っていく。



 ……そして。



 その場所は――まるで、あの日と変わらぬままに、そこにあった。
 旅立ちの場所。別れの場所。……終わりと、始まりの場所。
 そこに、はやては、倒れ込むようにして辿り着く。
 ――自らの足で。
 震えっぱなしの、今にも崩れ落ちそうな、弱々しい足で。
 だけど、確かに。
 自分の足だけで――辿り着いた。

「……久しぶりやな」

 呼びかける、声。
 応える声は、あるはずもないけれど。
 ――必ず、この声は届いている。

「ほら……見とった?」

 その胸に下げた、剣十字のペンダントを握りしめて。
 粉雪の舞う空を、真っ白な空を見上げて。

「あたし……歩けるようになったんよ」

 ――声が震えるのも。鼻の奥がつんとするのも。
 寒さのせいなんかじゃなくて。

「ちゃんと……自分の足で、ここまで来れたんよ」

 だけど、だけど。
 ――泣いちゃだめだ。
 泣いたら、あの子がまた心配するから。
 あの子が安心して、旅を続けることが出来ないから。

「――せやから、あたしはもう、大丈夫や」

 笑おう。
 あの悲しい聖夜の終わりは、新しい全ての始まりだったから。
 始まりには、笑顔で。
 ――ずっとずっと、笑顔のままで。

「大丈夫やよ」

 はやての言葉だけが、静かに、雪に吸い込まれるように、その場所に響く。
 後ろに控える守護騎士たちは、それぞれどんな想いでその言葉を聞いているのか。
 ――ただ、ひとつだけ確かなのは。

 誰もが、願うこと。
 どうか、幸せに。
 幸せでありますように。

「――リインフォース」

 あなたがくれた空を見上げて。
 あなたが見守ってくれる空に、この言葉がどうか届きますように。


 ――不意に、光が差し込んだ。


「あ……」

 雲の切れ間から、差し込む微かな光。
 その先に見えた――蒼。
 それは、蒼天の輝き。

 ただそれを、しばらく静かに見つめて。
 そして、はやては振り向いた。
 ずっと傍らで、ゆっくりとした自分のペースに合わせて歩いてくれた、家族を。
 そばにいてくれる、あたたかな温もりを。

「……帰ろか」
「はい、主はやて」
「うん」
「はいっ」
 そして、はやてたちはその場所に背を向けて。
「……シグナム。帰りは、手……繋いでもええ?」
「もちろんです」
「はやて、アタシもっ」
「……あ、あれ? 私だけ仲間外れですかっ!?」
「………………(やれやれ)」
 またゆっくりと、歩き出す。
 ――今度は、あたたかな我が家へと続く家路を。
 その手を繋いで。その足で、また大地を踏みしめて。


「……あ、そや。今決めたんやけどな?」
 ふと、思いついたように、はやてが口にした言葉。
 それは。

「新しいデバイスの、ストレージの名前な――」



 言葉よ。願いよ。たくさんの想いよ。
 届け、あなたがくれた空へ。
 あなたが見守る、輝ける蒼天へ。

 祝福の風が、吹き抜ける天空へ――
| 浅木原忍 | 06:00 | comments(4) | trackbacks(0) |
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Comment
浅木原さんども〜、ご無沙汰ですよ。
いやはや日記からSSまで1週間以上の量を見るのはちょっと疲れましたw
ですが、とても面白かったですよ。
色々とここを訪れる人も増えたみたいで、嬉しい限りですよね。
フェイなのの相変わらず甘〜〜い関係は、永遠に続くと私は信じていますw
リィンフォースが消えた空に、はやての想いが届く。蒼い天(そら)は優しく5人を見守り続け、そして新たな命に優しく微笑みかけるのでしょうね。
そして第8話のアリサの言葉とすずかの悲痛なまでの想い。二人に舞い降りるのは祝福の光なのか、それとも悲しみの雨なのか。
最後まで期待しています。
最終話が書き終わりましたら、BURNINGを基にした詩を書いてみようかななどと言ってみる。

ではでは「なでなで、にぱ〜☆」
Posted by: 神野 黎伯 |at: 2006/12/25 7:13 PM
>神野黎伯さん
 どうも、お久しぶりです神野さん。いっぺんに感想ありがとうございましたー。お楽しみいただけましたなら何よりです〜。
 BURNINGは現在第8話を鋭意執筆中! ……本編中最大のどん底展開なので書いていてなかなかしんどいものがありますが(苦笑)。
 しかしBURNINGを元にした詩って……いやはや、どんなものですやら。その前に後半の展開がご期待に添えるものであることを祈りつつ、なるべく早くお届けしますので、しばしお待ちをー。

 アクセス数も増え、拍手やコメントも増え、そのひとつひとつに励まされておりますよ。自分は全力で皆様にお楽しみいただける作品を仕上げるのみです! がんばりますよっ! 「ふぁいと、おー!」なのですよっ!w

 ではではー。
Posted by: 浅木原忍@実は圭一×魅音派 |at: 2006/12/25 7:30 PM
ああ、待ち遠しかった。朝六時公開って、おれそんなヒマねえし!!と胸の裡で大絶叫したクリューゲル=ストランザーです。半日は長かった……。うん。今日ほど適当に理由を付けて仕事休みたかった日は無いですね。
さてさて。今回の舞台は海鳴市某所のあの高台。自分はあそこが大好きです。モデルになった場所があるなら行きたいです。
そして、やっぱりはやては強い子だ。今回はこれに尽きます。両親を亡くし、脚の自由を奪われ、新しい家族との別れ。他にも描かれていない場面では何かと辛い思いをしてきたでしょう。それでも今日、彼女は頑張った。今は遠くを旅する彼女を安心させる為に。読んでて涙腺が緩んできました。
よし、今こそ言おう!はやて、おれと付きうわあああああ!?頭上に巨大な金槌があああああああ!?
Posted by: クリューゲル=ストランザー |at: 2006/12/25 8:39 PM
>クリューゲルさん
 どうも〜。……実は自分がJUGEMの仕様を勘違いしていて、日付が変わった時点でもう更新されていた罠でしたごめんなさいorz
 今回の話はだいぶ前から頭の中にあったんですが、クリスマスに合わせるためにずっと取っておいたものでした。……でも卒論終了からクリスマスまであまり時間がなくて、じっくり書けなかったのが無惨というか無念orz
 BURNING書いてても思うのですが、はやて師匠は本当に強いです。根っこの強さでは登場人物中一番じゃないかしら。そんな子だからこそ、うちのSSではシグナムさんやシャマルさんに甘えさせてあげたくなるんですけどね。

 ってギガント直撃ー!? 大丈夫ですかーっ!?
 ……へんじがない、ただのしかb(ry
Posted by: 浅木原忍 |at: 2006/12/25 9:15 PM








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意見感想ツッコミなどありましたら
こちらかコメント欄にてー。

現在のお礼SS(1/3更新)
ルナ姉と大ちゃんの日常的風景

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【妖夢×鈴仙】
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 第1話「半人半霊、半熟者」
 第2話「あの月のこちらがわ」
 第3話「今夜月の見える庭で」
 第4話「儚い月の残照」
 第5話「君に降る雨」
 第6話「月からきたもの」
 第7話「月下白刃」
 第8話「永遠エスケープ」
 第9話「黄昏と月の迷路」
 第10話「穢れ」
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【お燐×おくう】
りん×くう!(完結)
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 3 / 火焔猫燐
 4 / 霊烏路空
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 6 / 火焔猫燐
 7 / 霊烏路空
 8 / 火焔猫燐
 9 / 古明地さとり
 10 / 霊烏路空
 11 / 火焔猫燐
 12 / 古明地さとり
 13 / 霊烏路空
 14 / 火焔猫燐
 15 / 古明地さとり
 16 / 霊烏路空
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 31 / 「水橋パルスィの戸惑」
 32 / 「黒谷ヤマメの嫉妬」
 33 / 「古明地さとりの思惟」
 34 / 「キスメの献身」
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 37 / 「火焔猫燐の懸案」
 38 / 「星熊勇儀の失態」
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 41 / 「水橋パルスィの幸福」
 42 / 「星熊勇儀の願い」
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【沈月 影さん】(影ラボ
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