東方野球in熱スタ2007異聞「伝えること届けること」
2011.01.23 Sunday | category:東方SS(東方野球)
修羅場モードなうで更新ネタも無いので過去作公開でお茶を濁す程度の能力。
異聞拾遺1巻のもう1本の書き下ろし。第12話(メディの話)の後日談、アリスと魔理沙とメディスンの話。
何故か動画にもなってます。
異聞拾遺1巻のもう1本の書き下ろし。第12話(メディの話)の後日談、アリスと魔理沙とメディスンの話。
何故か動画にもなってます。
6月9日(土)、対北海道日本ハムファイターズ4回戦(幻想郷スタジアム)。
「えへへ、アリス〜♪」
「……メディ、これから霊夢や阿求と話し合いがあるから、そろそろ離れてくれないかしら?」
「うん、解った」
アリスが困ったように声をかけると、楽しげにその腕にしがみついていたメディスンは、素直にぱっと離れる。……なんというか、懐かれるのは悪い気分ではないのだけれど。そんなことを思いつつ、アリスはメディスンの頭を撫でた。くすぐったそうにメディスンははにかむ。
前日の和解以来、概ねメディスンはこんな調子でアリスにまとわりついていた。その様子は、傍から見ればやや年の離れた姉妹のようでもある。
「よ、なんかすっかり懐かれちまってんな」
「魔理沙」
声に振り向けば、魔理沙がいつもの緊張感のない笑顔を浮かべている。
「あんた、今日先発なんだから、こんなところで油売ってないでブルペン行きなさいよ」
「これから向かうところだから睨むなよ」
肩を竦める魔理沙に、ひとつアリスは溜息。
「それより、今日の向こうの先発、あのイケメンの兄ちゃんだって?」
「たぶんね。相手はエースだそうだし、昨日も勝ったから今日は無理することもないかしら?」
「おお? そこの毒人形が二試合抑えた相手だろ、サクッと完封してやるぜ」
脳天気に豪語する魔理沙。アリスはやれやれと首を竦める。まあ、阪神戦の完投以来魔理沙は好調を維持しているし、今日も任せて大丈夫だろう。
「ふーん、じゃあ魔理沙、勝負しようよ」
「お?」
と、声をあげたのはメディスンだった。挑発するような笑みを浮かべて、ぴっと指を一本立てる。
「今日の試合の魔理沙の防御率が、私より良かったら魔理沙の勝ち」
「ほーう? いいぜ、その勝負乗った」
メディスンの言葉に、魔理沙は不敵に笑って頷いた。ちなみにメディスンの防御率は0.68、十三イニングと三分の一で一失点である。延長は十二回までだから、魔理沙がこの試合の防御率でメディスンを上回るには、一失点も許されないことになる。はてさて、魔理沙は解って言っているのかどうか。
「勝った方は、相手の言うことを何でもひとつ聞くこと、でどう?」
「OKだぜ。おーし、ちゃっちゃと完封してくるZE☆」
腕を回しながら、魔理沙はブルペンの方へと歩いていく。その背中を見送って、それからアリスはメディスンの方を見やる。「なぁに?」とこちらを見上げ、上目遣いで首を傾げるメディスンの様子は、つい今しがた魔理沙を半ば挑発するようなことを言ったようには見えない。
まあ、魔理沙の場合あんな感じで発破をかければ素直に燃えるタイプだから、手間が省けたといえばそうなのだけれども。
「……大丈夫なの? あんなこと言って」
「だいじょぶだいじょぶ。これでホントに魔理沙が完封したら儲けもの、でしょ?」
「まあ、それはそうだけど」
――もし魔理沙が勝ったら、メディに無茶なこと言わないよう釘を刺しておかないと。
楽しげに笑うメディスンの横で、新たな気がかりにアリスはこっそり溜息をついた。
◇
予想通り、相手の先発はエースのダルビッシュだった。相手は立ち上がりが苦手、というわけで野手には初回から積極的にと、被本塁打が多い魔理沙にはクリーンナップへの注意を促して、試合は始まる。打線はデーゲームでレミリアとフランが不在のため、3番ライト小町、4番サード妹紅、5番ファースト幽々子、6番セカンド妖夢。7番レフトにはリグルが入った。
初回、魔理沙が田中賢介に四球、稲葉に安打を許すもセギノールを併殺に討ち取って無失点。するとその裏、先頭の射命丸がレフト線への安打を好走塁で二塁打にすると、咲夜のセカンドゴロの間に三塁に進み、小町のセンターフライで森本の強肩もものともせずホームに帰った。効率的な先制点だったが、逆に言えば畳みかけられなかったということでもある。
その後は肩の温まった魔理沙と、立ち直ったダルビッシュの投げ合いが続いた。魔理沙が6回を3安打無失点でねじ伏せれば、ダルビッシュも2回以降は1安打と完璧にシャットアウト。
0対1で膠着したままの試合が動いたのは、7回だった。
7回表、先頭は三番稲葉。3球目、やや内角高めに浮いたストレートを捉えてレフト前に運ぶ。魔理沙は続く4番セギノールをサードフライに打ち取るも、5番木元に初球を右中間に運ばれツーベース。小町の好返球で本塁突入は阻止したが、一死二、三塁とピンチが広がる。そして打席に入るのは6番高橋だ。
「インハイに1球、ぶつけるぐらいのつもりで頂戴。そしたらあとは全部アウトローでいいわ」
「相変わらずえげつない奴だぜ」
マウンドで輝夜とそんな会話を苦笑混じりに交わし、その通りにインハイのツーシームから入る。幻影も一応恐怖心はあるらしく、高橋は腰がひけたまま2球目のカーブを引っかけてセカンドゴロ。ランナー2人は塁に釘付けでツーアウトになった。
魔理沙はひとつ息をつく。次の打者は巧打者の7番坪井だ。前の打席で二塁打を打たれているだけに、嫌な相手ではある。
『どうする? 歩かせてもいいけど』
『馬鹿言うなよ、打ち取ってやるぜ』
『はいはい、そう言うと思ったわ』
サインでそんなやり取りを交わし、輝夜が指示したのはインローのカーブだった。ひとつ鼻を鳴らして、魔理沙はセットポジションから初球を投じ――
「っ、」
手元の感覚が狂ったのが、咄嗟に解った。ボールは高めに浮いて、ど真ん中に入っていく絶好球へと様変わりする。――そして相手はそれを見逃さない。振り抜かれるバットが、ボールを真芯で捉え、
――鋭いピッチャーライナーが、魔理沙の左肩を直撃する。
「!」
衝撃に倒れ込む魔理沙。高く跳ね上がったボールは、飛びついた妖夢の横を嘲笑うように抜けてセンター前へ転がる。三塁走者の稲葉が帰り、一瞬出遅れた二塁走者の木元が三塁を蹴るのと、快足を飛ばして捕球した射命丸が躊躇わずバックホームするのがほぼ同時。
ワンバウンドの好返球を輝夜はがっちりと受け止め、滑り込んでくる木元にタッチ。判定は――アウト。スリーアウトチェンジ。
そんな攻防に、悲鳴と歓声が入り乱れる中。
「……いってぇなぁ、ったく」
何事もなかったかのように、左肩をさすりながら魔理沙はむくりと起きあがった。
ベンチから身を乗り出していたアリスが、安堵の息を吐き出す。
――7回表終了。試合は1対1の振り出しに戻った。
「ちょっと魔理沙、大丈夫なの?」
ベンチに戻ってきた魔理沙は平然としたものだったが、アリスは駆け寄り声をかけた。打球は鋭かったし、全くの無傷というのも考えにくい。
「ああ、この通りピンピンしてるZE☆」
ぐっと親指を立てて、魔理沙は笑う。
アリスは無言で、その左肩をぽんと叩いた。
「……痛くないぜ?」
「馬鹿言ってないで永琳のところ行ってきなさい! 後はミスティアに準備させておくから」
全く、顔をしかめながら言われても説得力などあるはずもない。
「馬鹿はそっちだ、私はまだまだ投げられるぜ!?」
「監督の言う通りだ。いいから大人しく医務室に行くぞ」
食ってかかる魔理沙を、妹紅に引きずって行ってもらう。やれやれと肩を竦めて、アリスはブルペンの霊夢へ電話をかけた。返事は『もう準備させてるから大丈夫よ』。向こうも打球直撃の時点でこの展開は予想していたらしい。
「いつもながら、お守りは大変ねぇ」
ニヤニヤと笑いながら言うレミリアに、アリスはただ深々と溜息を吐き出したのだった。
◇
「軽い打撲ね。2、3日で治るわ」
「だから大丈夫だって言ってんのに、アリスの奴が大げさなんだぜ」
「はいはい、動かないの」
鈴仙に湿布を貼ってもらいながら、魔理沙は悔しげに舌打ちする。完投する気満々だったというのに、テンションの行き場が見当たらないではないか。
「軽傷だからこそ無理して長引かせないのが得策。大人しくしてれば来週の試合もちゃんと投げられるわよ」
永琳はそう言うが、日ハムとの試合はこれが最後。順位的にここから日本シリーズに出てくることは無いだろうから、あの投手と投げ合う機会はもう来ないのだ。
幻影だとは解っているが、打のチームとして鳴らすタートルズ相手に堂々と投げ込むダルビッシュの投球は、敵ながら天晴れと言えた。だからこそ、最後まで投げきって決着をつけたかったところだった。
「まあ、裏で勝ち越せば私の勝ちだな」
「残念、三者凡退みたいよ」
「ち」
医務室に設置されたテレビが、幽々子の三振を映し出していた。『先ほど打球の直撃を受けた魔理沙の状態が気になるところですが……ああ、どうやら交替のようです』と実況の天狗の声が聞こえる。アリスの言った通り、マウンドに向かうのはミスティアらしい。同点だし、延長も見据えての起用だろう。
「魔理沙、いる?」
と、医務室のドアが開いた。肩を冷やしていた魔理沙は振り向き、「……あー、そういやそうだったな」と苦笑する。――現れたのはメディスンだった。
「よ、毒人形。どうした?」
「ふっふー、どうしたもこうしたも、私の勝ちだもんね」
得意げな顔でメディスンは笑う。やれやれと魔理沙は肩を竦めた。まあ、勝負を受けたのは自分だし、打たれたのも自分だ。今回の負けは素直に認めておく他ない。
「で? 私に何をやらせようってんだ?」
毒の被検体は勘弁してほしいぜ、と思いつつ、魔理沙は首を傾げる。
「んー、別に大したことじゃないよ。あのね――」
と、何やら含み笑いをしながら、メディスンはそっと魔理沙に耳打ちした。
◇
一方、試合の方はというと。
8回表、先頭の金子誠がツーベースで出塁。ダルビッシュに代打グリーンが起用されるが、ミスティアが後続を断つ。日ハムの投手は武田久に代わり、タートルズは8回裏も三者凡退。9回表、2イニング目のミスティアがセギノールにソロホームランを浴びて2対1。9回裏、抑えのマイケルが登場するが、先頭に代打で登場したレミリアがツーベースを放つと、射命丸がレフト前に運んで繋ぎ、咲夜のスクイズで同点に追いつく。なおも一死二塁とサヨナラのチャンスが続くが、小町の打球は不運なセカンドライナー併殺となって試合は延長に突入した。
その後は日ハムが立石、タートルズがルナサで互いに2イニングをしのぎ、最終回は建山と穣子がそれぞれ走者を1人ずつ出すも得点には至らず。2対2のまま、延長12回引き分けで試合終了となった。
「みんな、ご苦労様。明日も試合だから、今晩はゆっくり休んでね」
途中まではテンポの早い試合だったが、終わってみれば4時間以上の長い試合になっていた。特にフル出場した面々はさすがに疲れ気味である。まあ、明日の試合が16時試合開始と、いつものデーゲームより開始が遅いのは幸いと言えるか。
引き上げていくチームの面々を見送って、アリス自身も疲れた息を吐き出した。まあ、試合は負けなかったし、魔理沙が軽傷だというのも幸い。パ最下位の日ハムに3勝1分なら充分だろう。問題は明日からの、パの首位楽天との2連戦だ。CS圏内すら厳しい戦力だったはずだが、いったいどうなっているのやら。
「そういえば、魔理沙は?」
「先に帰ったみたいだけど」
それじゃお疲れ、と手を振りつつ阿求が答える。御機嫌よう、と振り返してアリスは肩を竦めた。全く勝手なものだ。
と、そこでふと思い出す。試合前の魔理沙とメディスンのやり取りのことを。
勝負は7回1失点の魔理沙の負けのはずだ。先に帰ったのはそのせいだろうか?
――メディスンもメディスンで、何を企んでいるのやら。
妙なことにならないといいんだけど、と思いつつ、アリスも家路についた。
で。
「よ、お邪魔してるぜ」
「居直り強盗かアンタはっ!」
その魔理沙は、堂々とマーガトロイド邸の居間でクッキーを囓っていた。どこからどう見ても居直り強盗そのものである。
「大丈夫、今日は何も盗ってないZE☆」
「いやもうどこから突っ込んでいいのか」
頭痛を覚えて、アリスはソファーに腰を下ろす。というか、7回を投げて負傷退場した後に、その元気はいったいどこから出てくるのか。その無駄な体力を少し分けてほしい。
「何だ、顔色悪いぜ?」
「そりゃ、頭痛の種が目の前にいればね……」
「疲れてるんならさっさと横になった方がいいぜ、ほら」
「え?」
顔をあげようとしたところで、とん、と魔理沙の手がアリスの肩を押した。「きゃ」と小さく悲鳴をあげて、アリスはそのままソファーに倒れ込む。
横になったアリスを見下ろして、にやりと魔理沙は笑った。
「ちょ、ちょっと、何するのよ!?」
「いやまぁ、ちょいとお疲れの監督を労ってやろうと」
「そ、その手つきは何よー!?」
「ほれ、大人しく私に任せろ」
「ば、馬鹿、止め――、ん、ぅ」
「お、なんだ、急に大人しくなったな?」
「……馬鹿」
「優しくするから、もう少し力抜けよ」
「……解ったわよ、もう……ん、ふ」
「ほれほれ、このへんか?」
「ひゃっ、ぁ、うぅ……」
「お、ここか。うりうり」
「や、ゃぁ、止めなさ……ぁ、ぅ、はふぅ」
「そんな声で言われても説得力無いぜ。……あー、こんなに固くしちまって」
「ぁぅっ、」
「おいおい、そんなに敏感に反応されるともっといじめたくなっちまうぜ?」
「馬鹿なこと言ってんじゃ――ん、ふぅっ、は、ぁ」
「こっちはどうだ?」
「なっ、ど、どこ触って、」
「ダメか?」
「……ダメじゃ、ない、けど」
「だから任せろって。……このへんだろ?」
「ひゃ、ぁぅ、ん」
――以上、うつぶせたアリスとマッサージする魔理沙の間に交わされた会話である。背中を押す魔理沙の指に、アリスは深く息を吐き出してソファーに突っ伏した。
「それにしても張ってんなぁ」
「どっかの誰かさんのせいで気苦労が絶えないのよ、監督は」
「ちゃんと勝ってるのに文句言われる筋合いはないぜ」
「それ以外のところでよっ」
例えば、勝手に家に上がり込んだり、メディスンと妙な賭けをしたり。
「……そういえば、メディとの勝負はどうなったの?」
「あー」
アリスが尋ねると、魔理沙は困ったようにひとつ頬を掻いた。
「……もう少しアリスを労ってやれ、だとよ」
「メディが?」
「まあ、そういうことだぜ」
それでマッサージなのか。――それならそう言えばいいものを。
そもそもメディスンも気を利かせたつもりなのか。……全く、もう。
「……ふぁ」
気が抜けたら睡魔が襲ってきて、アリスは小さく欠伸をした。
「眠いなら寝てもいいぜ?」
「……馬鹿、居直り強盗の前で寝られるわけないでしょ」
寝てる隙に何を持って行かれるか解ったものではない。
――だいいち、薬も飲まずに寝るわけにはいかないのだ。
「ち」
舌打ちが聞こえた。全く、油断も隙もない。
「もういいわ、ありがとう」
魔理沙の手を除けて、アリスは身体を起こす。マッサージ自体はまあ、そう下手なものでもなかったので、とりあえず感謝だけはしておこう、うん。
「もう夕方ね。……晩ご飯、食べていく?」
「お、いいのか?」
「今日もよく投げてくれたもの。そのことには感謝してるわよ」
「それなら遠慮なくいただいていくぜ」
脳天気に笑う魔理沙に、アリスはひとつ息を吐き出してキッチンへと向かう。
そこに、上海がどこか心配げに飛んできた。
「大丈夫よ」
小さく笑いかけて、アリスは思った。――そう、まだ、大丈夫だ。
魔理沙にもメディスンにも見抜かれてはいない。自分の個人的な事情で、好調なチームに水を差すわけにはいかない。――あの球場を消し去るためにも、それが一番の近道なのだ。
まだシーズンは1/3。これからも長い戦いが続く。
――今日は少し、スタミナのつくような料理にしよう。アリスはそう思った。
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